堤、モロッコへ行く Day7

堤、モロッコへ行く Day7

堤、モロッコへ行く Day7

7月4日続き

陽が落ちるのを待っている間にたまに起きるムバラクと色んな話をした。彼は実に優しい男で、僕の拙い英語をきちんと理解しようとしてくれる。早くメロンが食べたい、とか日本の免許証はどんなんだ?みたいなしょうもない話から、毎日欧米諸国やアジアから多くの観光客が来るなど仕事の話もした。1番印象的だったのは、僕がどこか行ってみたい場所はあるかと聞いたところ、「出国するのに観光ビザが高いから、モロッコから出たことがない。だから行きたい場所のイメージもしたことがない」と言われたことだった。彼にはラクダ使いとしての人生があり、砂漠で生まれて砂漠で死ぬ。でもそんな彼はアラビア語、ベルベル語、フランス語、英語が話せ、なんとラクダまで使える。自分と比べてなんと有能なことか。

 

暑い中をなんとかやり過ごしようやく夕方になる。18時をすぎれば暑さもだいぶましだ。なにもないだだっ広い空間、本当になにもなかった。

バギーも走る
羊がいたのに気がつかなかった

地平線へは手が届きそうなくらいで、遮蔽物が何もないのでなかなか太陽が沈まない。だいぶ涼しくなってきたからか、人がゾロゾロと家から出てくる。外に簡単な絨毯を敷き、テーブルを置いてみんなで食事をする。絨毯は厚く思ってた以上に居心地はいい。ただ食事はクスクスで、砂混じりでじゃりじゃりしてあまり美味しくなかった。この時恐らく自分がクスクスをあまり好きでないなと改めて感じた。食感がモソモソしていてだめなのだ。真っ暗闇で食事をしたのと、大皿で分け合って食べるスタイルなので写真を撮れなかった。

常日本で夜空を見ようとすると視線を上に向けないと見ることができない。しかし360℃遮るもののないブラックデザートでは座ったまま目の前の高さに星が見える。そのためかなりたくさんの星が見え、晩御飯を食べた後そのまま絨毯で寝転がりながら星を眺める、その時間は実に贅沢な時間だった。また遠く東の空からのっそりと現れる蜂蜜色の月はとても不気味で魅力的だった。隣に異性がいればそれだけで良いムードになると思うので、片想いの人は意中のあの人と今すぐにでもモロッコへ行ったほうがいい。

 

星を見ながらうつらうつらとしていると、ムバラクに「明日は日が昇る前にメルズーガへ戻ろうと思うけどいいか?」と聞かれたので問題ないと答えた。涼しい時間に戻ろうと言うことだ。「寝るならあっちに布団敷いてあるから、そこで寝な」と言われたので、行ってみると外にドサッと敷き布団だけ置いてある。疲れていたし、もうこのスタイルにも慣れてしまってすぐに眠りについた。もう髪の毛とか汗とか気にならない。

 

日付が変わり0230頃、砂が気管に入り咳き込みながら目を覚ます。かなり苦しいが水を飲んでなんとか誤魔化す。口の中が気持ち悪い。そろそろ歯も磨きたいがそんな水はない。あと少しの辛抱と諦める。シャワーも着替えもないので起きてからの準備がめちゃくちゃ早い。忘れ物だけないか確認して、予定の3時より早く出発する。気温は涼しく、長袖でちょうどいいくらいだった。

 

昼間見た砂漠には動物の足跡が大量にあった。そこら中と言って差し支えなく、この過酷な地にこんなにも生き物が生きているのかと驚いた。なので帰りはそれが見られるかと楽しみにしていたのだが、ついぞ一匹も見かけることはできなかった。確かに鳴き声や、ガサガサという音は聞こえるのだが、肝心の姿はチラリとも見えず残念。動物は涼しい冬場の方が多いらしく、夏場はあまりいないらしい。

たぶん蛇
これがよくわからない

砂丘を越える時は坂道を避け、遠回りしながらゆっくりと越えて行くので時間がかかる。急な坂は人間もラクダも登れない。砂丘自体もどんどんと姿を変えるため、同じルートというものが存在しないので、その都度ルートを探す。ラクダ使いは経験が大切なのらしい。なので到着時間はアバウトな時間になるようだ。この日は大体4.5時間と聞いていたのだが、なんと3時間半でメルズーガへ到着した。途中日の出を見たり、ムバラクが排便の大きい方をしたりと結構寄り道していたのに。

帰る
朝日に包まれるサハラ

無事にメルズーガへ着くとすぐにシャワーを借りて歯を磨き、洗濯をする。ぐっしょぐしょの洗濯物たちは1時間足らずで乾いた。本当にこれは素晴らしい。宿のお母さんが「飯は食べたか?」としきりに聞いてくるので、ありがたくいただくことにした。ここで気付いたんだけど、朝食は基本的にどこも一緒なんだよね。パンとジャムとチーズ。食べやすくて美味しいから好きだけどね。

洗濯場所。オケで洗う
朝食。もちろんオレンジジュースは常温だ

今回の旅の1番の目的を無事に終え、ホッとしたのかソファで爆睡。次は今後のことを決めねばならぬ。モロッコへ来たのならやってみたいことがもうひとつある。ジブラルタル海峡を船で渡ることだ。ジブラルタル海峡は地中海にあり、ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸が最も近付いている場所で、天気が良ければ反対側が見えるらしい。40分程度で渡れてしまうどうということのない海峡らしいが、大陸間を自分の足で渡ることはそうそうない。このまま飛行機でこの国を去るのも味気ないので、船で海峡を渡ることにした。あと帰国の飛行機はいくつかの候補地から悩んだすえに1番安かったヴェネチア発の飛行機を購入。スペインは一度行ったことがあるので、折角ならスペイン以外の国にも少しでも足を踏み入れたい。海を渡りスペインへ入り、イタリアを目指す。そのためにまずはモロッコ最北端の港町タンジェへ夜行バスで向かう。

 

次にやることを決め、最終目的地をヴェニスに決めたことで少し気が楽になった。アテがない旅ってめっちゃしんどい、バックパッカーってすげぇ。ギリギリまでメルズーガの砂漠の案内人の家で充電をする。夜行バスで移動、その後も移動なので、ここでiPhoneがきれると死ぬ。17:00にメルズーガを出た。タンジェ行きのバスがある隣町まで30分、夜行バスの出発は18:00だ。

 

隣町までは砂漠の案内人の友人が車に乗せてくれることになった。ドライバーは気を使って色々話しかけてくれたが、おそらくお互い頭の中には疑問符も多いような会話だったと思う。多分ろくに噛み合っていない。それでも僕はこのドライバーが一発で好きになった。アイアンメイデンのバンドTシャツを着ていたからだ。

おわかりいただけるだろうか

そんな彼と30分ドライブをして無事にバス乗り場に到着。ドライバーがタンジェ行きのバスを確認してくれ、180DH支払い無事にバスに乗り込むことができた。メルズーガに来る時はスプラトゥールという国営バスで、かなりきれいだったのだが、今回は民間バスであまりきれいではなかった。その上クーラーが効いていなくてかなり暑い。スプラトゥールはクーラーがきちんと効いており、それを見越して今回も寒さ対策にターバンを持ってきていたのだが逆効果だった。そう言えばモロッコのバスで面白いのは、バスが運送屋の代わりを果たしているところだ。荷物だけ預け自身は乗らないというのを何度か見かけた。

天井を開けて外気をいれる

ここから約15時間バスに乗らなければならない。だがわりと長時間の移動には慣れてきたので、体力的にはそんなに心配をしていなかった。一番心配なのはトイレである。僕は腹が弱い。なので夏場でも腹巻きをしていて、今回も持ってきている。幸いまだ腹は壊していないので問題は起こっていないが、便意というものを侮ってはいけない。この27年間で幾度も煮え湯を飲まされているので、用心に用心を重ねるに越したことはないと思う。もちろんモロッコの高速バスでも何度かトイレ休憩を挟んでくれる。だが何より気をつけなければいけないのは休憩時間を知らされたりはしないことで、下手をしたら置いていかれる。荷物も預けているし、そうなったら終わりだ。その可能性を少しでも減らすためにもトイレに行く回数は減らしたい。

 

そう思って水分の摂取を減らしていたのだが、なにせ暑い。クーラーがない、窓も開かない、それでも気温は40℃近くある。やむを得ずフトールでバスが止まったタイミングでスプライトを購入。珍しく冷えていて死ぬほど美味しかった。晩飯も食べていなかったので、一緒に買ったパンをバスで食べた。一口めはすごく美味しく感じたのだが、後半は油がきつかった。多分本来はなにかにつけて食べるものだと思う。

10DH
5DH

その後はターバンをまくら代わりにして眠りについた。完全に邪魔な荷物になったと思っていたターバンは、まくら兼アイマスク兼シーツになりとても便利だった。愛してるぜターバン。バスは何度も止まる。その度に多くの人間が乗り込んでくる。それに紛れて乞食も入ってきて金をせびられる。老婆から女の子、いろいろだ。乞食は無視をするに限る。いつしかバスは満員になっており、僕の横にもいつの間にかおっさんが座っていた。もうとにかく眠たかったので窓ガラスに寄りかかって眠った。

パーキングみたいな街の一角。25時くらいなのに賑わっていた

たまに目を覚ますもその都度すぐに眠りに落ちた。何度か繰り返しているうちに、無事にバスはタンジェに到着。予定していた06:00から2時間遅れの08:00。あんまり早いと移動も不便なので、逆に好都合だった。タンジェに来るならアシラという街に寄りたかった。

 

アシラはタンジェからバスで1時間ほどの小さな港町なのだが、アシラアートフェスティバルというものを毎年開催している。アシラのメディナの家壁は真っ白で、そこに1年に一度世界中のアーティストが集まって片っ端から絵を描いていく。それが1年間そのまま展示され、またアートフェスティバルの月に塗り替えられるというもの。折角なので見ていきたい。バスはわりと大きなバス乗り場へ止まったので、そのままアシラ行きのバスを探しに向かう。

バス乗り場建物内

続く

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