COLUMN

文化の入口はどこだ? – 海外文化を感じるカフェ編–

FOOD 2020.11.15 Written By 肥川 紫乃

「文化の入口はどこだ?」とは?

カフェでコーヒーを飲んでふぅっと肩の力を抜くひと時、ついつい人は店内に佇む本棚や装飾に目を向けてしまうもの。本から新しい知識を身につけたり、装飾品から違う国の文化を感じ取ったり……気付かないうちに様々なカルチャーに触れている。カフェはそんなカルチャーとの「入口」をつくってくれるものだ。

 

海外の文化を体験すると、風習や習慣の違いに気付き、自分の中の常識をアップデートしてくれる。そうして得た新しい価値観は、自分の人生をより豊かなものにしてくれるだろう。ふと、京都の街の中でも、視点を変えれば新しいカルチャーに出会うことができるのではないだろうか、と考えた。そこで京都の「海外文化を感じるカフェ」にインタビューを行い、カフェを入口に「どんなカルチャーに触れ、何を受け取るのか」について模索した。まだまだ遠くに行くことが難しい状況の中だからこそ、「京都にいながら世界を旅する」そんな視点で、自分の身の回りを見てみよう。

訪れたのは、河原町丸太町に2017年に渋谷区神山町から移転オープンした、ポートランド流の朝食を味わえるカフェ〈MEMEME COFFEE HOUSE〉と、1930年の創業以来、当時のパリのカフェのようなコーヒーとフランスパンを学生に提供する〈進々堂 京大北門前店〉。一見、特性の違う二つのお店だが、その共通点は店主が影響を受けた海外文化がルーツになっていることにある。それはお店の外観や店内の雑貨などのハード面だけではなく、店主のマインドや接客サービスなどのソフト面もだ。

 

私が1,2年前に旅行した時、ポートランドのカフェでスタッフが楽しそうに働いていた姿が印象に残っている。お店に通う近隣の人も含めてお店が好きな様子が伝わってきて、居心地のいい空間だった。私のような旅行客にも変わらず接してくれて、ポートランドという街のあたたかさをカフェを通じて感じられた気がした。パリでは、テーブル担当のスタッフが接客を卒なくこなしてくれ、必要以上に気を遣われず自由に過ごすことができた。ポートランドとパリでは家で朝食を食べる代わりだったり夕食後の腹ごなしの一杯を楽しむ場所として、カフェが日常の一部に溶け込んでいることが私にとっても発見であった。そんな日常のそばにある海外カフェ文化をぜひ京都の街中で体験してみてほしい。

MEMEME COFFEE HOUSE

住所

京都市上京区上生洲町210番地

営業時間

8:30〜15:00

お問い合わせ

TEL:075-211-5880

Instagram

https://www.instagram.com/mememecoffeehouse/

店主の晴航平(はれる こうへい)さんは学生時代にポートランドへ留学経験があり、〈Ace Hotel〉や〈Sweedeedee〉で受けた最高のサービス体験がお店の原点だ。特に「等身大の自分で、楽しく働く」というポートランダーから教わったマインドは、今もお店を営むうえで大切な指針となっている。以前、渋谷区神山町に自分の好きを詰め込んだカフェ&バー〈MEMEME〉をオープンさせた時は、自分にもお店にも、そしてお客さんにも完璧を求めてしまい、好きではじめたはずのカフェの仕事を楽しめなくなっていったと言う。人に任せる部分を作った結果、自分が好きなことだけに集中できるようになり、等身大の自分で楽しく働くことができるようになった。人の手が入ることで予定調和ではない新たな発見があることも楽しんでいるそうで、「いつまでも新鮮に感じるし、他のカフェが閉まってたら自分のお店に来ちゃいますね」と、3年経つ今もこの場所が一番好きなお店であることは変わらないのだという。

〈MEMEME COFFEE HOUSE〉のオープン時間は8:30〜15:00と朝が中心だ。ポートランドでは一日を気持ちよくはじめるために朝の時間を大切にしていて、朝食をカフェでゆっくり食べて過ごすこともカルチャーになっている。メニューは、近隣のお店から仕入れたソーセージやバゲットを使った特製のプレートとサンドウィッチに、お気に入りの豆で淹れるコーヒー。またコーヒーは、11:00までは好きなマグカップを選んでおかわりすることもできる。日本にもコーヒー一杯の値段でトーストとゆで卵が付いてくる喫茶店のモーニング文化があるが、出勤前の慌ただしい中の一コマであり、コーヒーをおかわりしてゆったりと好きなことをして過ごす豊かな時間とは縁遠いと感じる。

京町家を改修した店内には、アメリカで買い付けたビンテージ雑貨や京都の蚤の市で購入したちょうちんや鯉のぼりなどが出自を問わず並び、カウンター横にはポートランドに関する雑誌や、自身で制作したZINEなども置かれている。店内にあるものはすべて晴さんのブレない「好き」のもとに選ばれていて、その一点一点にこだわりが感じられる。訪れた際は、店内にあるものの中からご自身の興味に引っかかるものを見つけ、新しいカルチャーと出会うきっかけにしてみてほしい。

進々堂 京大北門前店

住所

京都府京都市左京区北白川追分町88

営業時間

10:00~18:00
※新型コロナウイルス感染対策のため、オープン時間を変更して営業しています。

定休日

火曜日

お問い合わせ

TEL:075-701-4121

1930年に京都で初めての本格的フランス風カフェとして開業し、今も当時の姿を残したまま営業を続ける〈進々堂 京大北門前店〉。創業者の続木斉(つづき ひとし)さんがパンの修行のためにパリへ留学した際、カルチェ・ラタンのカフェで学生と教授が自由に議論を交わし、生き生きと勉学に励む姿に感銘を受け、日本の学生のためにと京都にそのカフェを再現したと言われている。西洋建築の影響を感じるタイル造りの外観や中庭はそのためだ。現在はひ孫で4代目の川口聡さん夫妻が受け継いで営んでいるが、「できるだけ昔のまま変えないこと」がこだわりなのだという。

進々堂の看板メニューは、フランスパンにサンドイッチにコーヒー。当時コーヒーは珍しく、飲みやすいようにとミルクを入れて出していたことから、今でもミルク入りコーヒーとブラックコーヒーを楽しめる。定番メニューになっているカレーは30年前、ボリュームの多いものがほしいという学生の声に答えて登場したのだそう。学生の希望で少しずつ新しいメニューを増やしながらも、勉強中でも食べやすいという学生への配慮は変わらない。

店内の家具は学生が勉強をしやすいように、その配置や高さなどが工夫されている。特筆すべきは木工・漆芸家で人間国宝の黒田辰秋氏が楢の木で制作した長テーブルとベンチのセットだろう。200年は持つと言われていて、長テーブルの理由はゼミの教授と生徒がこの場所を囲んで講義をできるようにと考えられたもの。特にフランスから輸入した大きな窓から注ぐ日差しが気持ち良さそうな入り口横の席は、テーブルをぐるっと囲うようにベンチが置かれていて、何十年という間、この場所で教授と学生たちが時間を共有してきた姿が想像できる。

また、勉強に集中しやすいようにBGMが流れておらず、本のページをめくる音や食器の音、ほどよく聞こえる会話など環境音がBGM代わりだ。勉強に集中しやすい環境は人それぞれだけど、無音でもなくうるさくもなく、周りを見渡せば同じように勉強に励む学生もいて、まさに図書館のような理想の空間だなと思った。図書館といえば、お店の中央にある本棚の選書について川口さんに聞いたところ「いつの間にか知らない本が入っていたりするんです。学生たちが作った詩集も置いてあったりしますよ」とのことで、喫茶店の本棚が共用本棚になっているそう。誰かの入れた本を別の誰かが手に取って、思わず知らないカルチャーに触れることがあるかもしれない。

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