INTERVIEW

きょう、つくる人第6回 – thread jewelry Ricca・志知希美

今日もどこかで、誰かがつくっている。『きょう、つくる人』は関西を中心にものづくりを生業にする人にフォーカスをあて、作品やものづくりの魅力を伝える連載企画です。 “つくる” の裏側を覗いて見ると、作品がもっと愛おしくなったり、誰かに伝えたくなったりと、ものの捉え方が変わっていきます。この毎日何かを消費し続けている時代だからこそ、消費に終わらないものとの向き合い方を探してみてはいかがでしょうか。

OTHER 2021.03.08 Written By 出原 真子

ころんと手のひらにおさまる輪っか型に、色鮮やかな絹糸で緻密な模様が施された加賀ゆびぬき。なんて愛らしいんだろうと、色んな角度から眺めてしまう。

 

加賀ゆびぬきとは手芸道具の一つ。手縫いをするときに指を保護し、針を押すサポートをしてくれるもので、かつて金沢の城下町で働くお針子※が仕事の中で残った糸や布を集めて、お正月休みにつくっていたものがそのはじまりといわれている。時代の変化により失われかけた時期もあったものの、現代では実用性と美しさを兼ね揃えた手工芸として発展。さまざまな模様が生み出され、全国の作り手による公募展が21世紀美術館で開催されるなど、その輪を広げている。

 

そんな加賀ゆびぬきをメインに、作家・デザイナーとして関西を中心に活動するthread jewelry Ricca 志知希美さん。季節の花をモチーフにした可憐なゆびぬきや、昆虫図鑑に着想を得て “矢羽根” という伝統的な模様を虫の羽に見立てた『insectシリーズ』などを手がけている。彼女の作品一つひとつにみられる独自の表現は、昔の人と自分の感性を融合させることで生まれるという。「今の人と昔の人の気持ちが結びつくと、なんだかほっとするんですよ」と語る彼女の眼差しからは、いつの時代も変わらない “人間らしさ” を愛おしむ気持ちが感じられた。

 

今回はそんな志知さんの作品やその魅力を紐解きつつ、ものづくりのルーツや作家に至るまでの道のり、今後の展望を聞いた。

※お針子:仕立屋などで雇われて裁縫の仕事をする女性を指す言葉として使われる。

thread jewelry Ricca  志知希美

 

志知さん

 

奈良県生まれ。金沢、京都の大学でデザインと染織を学んだのち、手芸道具メーカーに就職。2016年、工芸品のような美しさと道具としての実用性を兼ね揃えた加賀ゆびぬきに出会い、仕事の休憩時間や休日を使って作品づくりをするようになる。

 

2019年に作家として独立。「加賀ゆびぬき」や絹素材をメインに、手芸や工芸のテクニックをベースとした thread jewelry = 宝石のような糸のアクセサリーを制作している。

 

Webサイト:https://threadjewelry-ricca.com/

Instagram:https://www.instagram.com/threadjewelry_ricca/

“不易” と “流行” が結びついた時に、新しい模様が生まれる

志知希美さん(以下、志知)

まずは実際にお見せしますね。指輪のような丸い形に、針で絹糸を刺して模様をつけたものが加賀ゆびぬき(以下、ゆびぬき)の特徴です。 thread jewelry Ricca(以下、Ricca)では、小さくころんとした可愛さは残しつつ、ゆびぬきの新しい切り口として三角形や四角形の作品やピンクッションなどもつくっています。

──

わぁ、素敵!ゆびぬきのデザインはどのように考えていますか?

志知

自分のフィルターを通して「いいな」と思ったものを取り入れるようにしています。「ゆびぬきとはこうだ」と伝統的な模様にこだわらず、その時自分が「あっいいな、つくりたい」と思った時が旬で、一番良いものができると思っていて。『insectシリーズ』も、矢羽根模様から虫の羽を表現するのではなく、昆虫図鑑に惹かれて、それをゆびぬきに落とし込もうと考えて矢羽根模様を取り入れることにしました。他にもぴかっと光ってアクセントになるので、ラメ糸や蛍光色の糸を使うこともあります。

──

絹糸の中にラメ糸が一本入るだけでも表情が変わりますね!新しいデザインを考える中でどんなことを大切にされていますか?

志知

既成概念や古典的な型に囚われすぎず、自分の今の感性(フィルター)も大切にしています。言葉で表現すると “不易流行” 、でしょうか。昔から変わらないものが “不易” で、変わりゆく新しいものが “流行” で、その両方を一緒に並べてどちらも同じく大事なものという意味がしっくりきていて、新しい模様も私の中で “不易” と “流行” が結びついた時に生まれる気がします。

──

元々、ゆびぬきはお針子が糸を集めてつくっていたそうで。当時のお針子の感性から生まれて伝わってきた模様、つまり “不易” に、志知さんの感性が刺激された “流行” が結びついて新しい表現が生まれていると。

志知

そうです。あと、ゆびぬきの面白いところは絹糸でぐるぐる巻いて仕上げてもいいのに、お針子さんの「自分が使う道具を可愛くしたい」「沢山並べたい」という個人的な気持ちから色んな模様が生まれて発展していったところだと思います。そこにはとても純粋で本質的な気持ちがあり、それが私たちの心を動かしていると思うと面白いですね。そして、今の人と昔の人の気持ちが結びつくと、なんだかほっとするんですよ。

──

ほっとする、とは……。

志知

今は情報も流動的に変わっていくし、コロナ禍のようなことがあると暮らしも人の気持ちも驚くくらい変わってしまって落ち着かないですよね。その中でも美しい・可愛いという気持ちが変わらないことに気づくとほっとするんです。このままタイムスリップをして、昔のお針子さんとゆびぬきを見せあいっこしても、きっとお互いに「素敵!」と盛り上がれると思います(笑)。だから新しい表現を生む場合でも、何かに心惹かれた自分の感性や、美しいな、素敵だなと思う気持ちを削ぎ落とさずに尊重したいんです。

──

なるほど。色んなものが移り変わっていくからこそ、志知さんがおっしゃるとおり自分の中でどんなものが “不易” で、どんなものが “流行” なのか把握し続けることも難しくなっているのかなと思います。

志知

大学生の時からスクラップブックをつくっていますが、自分のフィルターがどのように移り変わっているのか分かるのでおすすめですよ。大学2回生の時はうさぎの写真など分かりやすく “可愛いもの” を貼っていましたが、今では古布や着物の写真を貼ったりと、好みの変化がすぐにわかる。中でもずっと居座っている写真たちは、それこそ不易みたいなもので自分の核なんですよ。スクラップブッキングは手間のかかる作業ですが、これからも大切にしたいですね。

原点はさくらももこさん。紆余曲折の中で打ってきた点が今につながっていた。

──

スクラップブックにどんな写真を貼り続けていますか?

志知

さくらももこさんの絵と、彼女が憧れていた絵本作家・エロール・ル・カインの絵です。小学生の時から『ちびまるこちゃん』の表紙絵のようにカラフルで、装飾的で、幾何学模様で、縁取りのある絵がめちゃくちゃ好きで、それらの真似をした絵を描いていました。
特に、さくらももこさんがエロール・ル・カインを訪ねる旅を描いた『憧れの魔法使い』という本にとても惹かれて、はじめて自分の意志で本を買いましたね。そこからエロール・ル・カインの画集やさくらももこさんの画集を買って食い入るように見たり、親に頼み込んで原画展を見に行ったりしていました。それがものづくりの原点でもあります。

──

志知さんのルーツがさくらももこさんとエロール・ル・カインにあって、現在のゆびぬきにもつながっていると思うと興味深いです。大学ではデザインを学ばれたそうで……。

志知

金沢美大でデザインを学び、京都市立芸大の大学院で染色を学びしました。その時から作家になりたいという気持ちはありましたが、自分に適した技術が見つからずにもやもやしたまま、手芸道具メーカーに就職して……『Cohana』という手芸道具と各地の工芸をコラボレーションさせて可愛い手芸道具をつくるというブランドの企画を担当しました。仕事のアイデアが欲しくて、第二の故郷に久しぶりに行きたい気持ちもあって金沢に旅した際、ゆびぬきに出会ったという流れです。

──

初めてゆびぬきに出会った時の印象はいかがでしたか?

志知

「これ作れるんや」とびっくりしましたね。金沢の大学に通っていた時には忙しすぎて見えていなかったけれど、こんなに素晴らしい手工芸があったことに改めて気づかされて。そこからワークショップを受けてさらに心に刺さるものがあって、会社でランチを食べ終わった後の15分間などを使ってゆびぬきを作り始めました。

──

その時からゆびぬきを生業にしようと思われていたのでしょうか。

志知

大学院の時に作家になりたかったので、「いつかつながるかも」という思いはありました。でも、やっぱり会社員として働いていると時間が限られていて……。ランチの15分間や家に帰ってからの1時間などを使ってゆびぬきをつくっていたので、生業というより趣味の一部でしたね。

──

では、ゆびぬきをつくり始めてから独立に至るまでに、どんなきっかけがあったのでしょうか。

志知

京都アートフリーマーケット※というイベントに出店して、チャレンジがてら作品を売ってみたんです。そこで、たくさんの方が喜んでくださって……。手ごたえを得られたので先生を探してさらにのめり込んでいきました。

※京都アートフリーマーケット:現 京都アート・クラフトマーケット。毎年3月に京都文化博物館で開催されているイベント。

──

先生と出会ってからどんな変化がありましたか。

志知

それまで基本的な模様しかつくれませんでしたが、新しい先生と出会ってから技術や表現の幅が広がりましたね。そこから2019年に独立をして、さらに色んな作品をつくるようになりました。デザインや染色を学んだり、会社員として働いたりと紆余曲折があったけれど、最近になって「あれっ、つながっている」と気づいて。ここを狙ってきたわけではありませんが、さくらももこさんの絵や染色がゆびぬきの色使いに活きていたり、デザインがフライヤーの制作に活きていたりして、自分でも不思議ですね。

──

気づかないうちにつながっていたのですね。

志知

スティーブ・ジョブズが「Connecting the dots(点をつなげる)」という名言を残しています。彼が学生時代にカリグラフィー※を学んだ経験からMacに美しいタイポグラフィを採用したというお話で、彼もカリグラフィーを学んでいた時に、その知識がパソコンにつながるとは思わなかったでしょうし、まさに私もそうでした。人は気づかないうちに点を打っていて、後になって「はっ!」と気づくことがあるんじゃないかなって。

──

確かに自分は過去にどんな点を打っていて、それらがどのようにつながっているかを考えると、無駄な経験はないと思えますね。

※カリグラフィー:古代ヨーロッパで発祥した、文字を美しく見せるための手法。

教室を通じて素材と道具を次の世代につなぎたい。そして人々が立ち寄って心が穏やかになれる場所をつくりたい。

──

今後、Riccaとして目指していることはありますか?

志知

一つは素材と道具を次の世代に残すことです。手芸道具メーカーに勤めていた時に業界が下火になっていく状況を見て、このまま人口が減少したり高齢化したりしていくと、将来的には絹糸がなくなって、私の絵具が減ってしまうかもしれないことに気づきました。そうならないためにも、今の人たちに「良い」と思ってもらえる作品を世の中に出して、さらに「面白い」と思った人が次の作り手さんになってくれたら素材や道具を守ることができる。また微力でも、支えてもらった業界に恩返しができれば、という思いもあってゆびぬきの教室を開催しています。

──

2020年からはオンライン教室を開始されたそうで。

志知

元々、オンライン教室の構想はありましたが、コロナ禍があって前倒しで開始しました。しかし工房の準備のために2021年2月から一旦お休みをして、夏からは対面教室を、秋からはオンライン教室を再開する予定です。

──

しばらくお休みに入るのですね。これまで教室にはどんな方が参加されていますか。

志知

前からゆびぬきが気になっていた人や、おうち時間で何かやってみたいという人が参加しています。主婦や会社員が半々くらいで、中には男性もいらっしゃいます。ゆびぬきは忙しい人にこそおすすめしたい手工芸で、(鞄から取り出して)道具セットはこれだけでいけるんですよ。

ボタンの形をしたピンク色の物体は「Cohana」の信楽焼のマグネットで、針休めとして使っているのだとか
──

化粧ポーチにすっぽり入りそうなサイズですね!

志知

そうなんです。鞄の中に入れて持ち運べるし、編み物みたいに少しずつ大きくなることもない。地道な作業のくり返しですが小さなゴールがたくさんあって、15分、15分、時間を区切って進めることができます。今は触れる情報や考えないといけないことがたくさんあるし、5分でも時間ができたらスマートフォンを見てしまいますよね。それらをちょっと遮断して黙々と没頭できる時間を待てるのはとても贅沢だと思います。

──

確かに小さなゴールがたくさんあると励みになりますね。しかもちょっとした時間の中で無心になれるのは、座禅や瞑想に近いのかも。

志知

自分が会社員として少しずつ時間を見つけてつくっていたこともありますが、忙しかったり、仕事がうまくいかなくても、糸をかがって小さなゴールを積み重ねることができたら小さな肯定感、達成感が得られるかもしれません。私はゆびぬきをそういう人たちに教えたいし、工房も気軽に立ち寄って心が穏やかになれる場所にしたいと思っています。

──

工房には教室に参加している人が集まって、お話ができるようなスペースなども設けられるのでしょうか。

志知

工房の2階に屋根裏部屋みたいなスペースがあって教室生に開放する予定です。そこでゆびぬきをつくったりおしゃべりをしたりと、ゆっくり過ごしてもらえたらと。教室生同士の交流が生まれる可能性もあるし、好みが似ている人も多いのでおしゃべりも盛り上がるはず(笑)。特にオンライン教室をやるようになってより一層考えるようになったのですが、そこに行けば先生や仲間がいて話せるような、心の拠り所をつくりたいなと。

──

なるほど。先日、『現代手芸考 ものづくりの意味を問い直す』という本を読んで、手芸という行為は無言で誰かと一緒にいることを可能にして、そこから少しずつコミュニケーションの機会をつくってくれるという点が印象的でした。まさに志知さんの工房のお話ともつながると思います。

志知

本当にそう思います。私が1階で教えている間に2階でコミュニケーションが生まれていたらいいですよね。黙々と作業をするもよし、おしゃべりするもよし、同じ場所でゆるやかな横のつながりができたらと。

──

私も楽しみになってきました!他にも挑戦してみたいことはありますか?

志知

企業さんや作家さんとのコラボレーションなどを考えていて、特にファッションや呉服業界とつながっていきたいです。例えば、着物のデザインをゆびぬきに転用して新しい柄を考えてみたり、呉服屋の帯のデザインとゆびぬきを組み合わせたり、色んなことに挑戦していきたいですね。

取材後記

取材を終えて京都市内に2021年夏頃オープン予定の工房を見せていただくことに。今は京都に居を構えていないというが、凛とした姿勢で歩く志知さんはこのエリアにすっかり溶け込んでいるように見えた。

改装前の建物を収めた写真。3枚目は犬の足跡が残っていた床で、コンクリートを固めている間についてしまったと思われる。(写真:志知さん)

工房は木工職人が住んでいた町屋を改装して、これからステンドガラスやオリジナルデザインのタイルをはめるなどアレンジを加えていくそうだ。「前に住んでいた方が木工作品をつくる過程で書いたであろう計算式が柱に残ってたんです。でもよくみると、その計算がちょっと間違っていたりして人間味が感じられますよね」と工事前の写真を見せながら、知り合いのお茶目なエピソードのように教えてくれた。建物の歴史を伝えられるように、壁の一部をあえて見せるようなかたちでリフォームをしているという。

 

工房をぐるりと見渡しながら、志知さんは “人間らしさ” をとても愛していることに気づいた。インタビュー中に “結ぶ” や “つなぐ” といった言葉を度々用いていたが、昔の人の思いも、今の人の思いも愛おしみながら絹糸で優しくつないできたのかもしれない。私が今日、ここにやってきたのも彼女の糸に導かれたからなのか……とはちょっと考えすぎだろうか。

 

これからどんな人々や点をつなぎながら、新しい模様を紡いでいくのだろう。新しい木の香りが漂う空間で、私はまだ見ぬ模様に胸をときめかせた。

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