COLUMN

【ブンガクの小窓】第一章:不条理

OTHER 2016.09.14 Written By ケガニ

旧友の”ケガニ”から「寄稿したい」と連絡をもらった時に、とても嬉しかったのと同時に大変緊張した。

「僕に彼の文章が編集できるんだろうか」

それもそのはず、彼は現在進行形でフランス哲学を研究している言葉や、思想のエキスパート。

僕にそんな素養はない。

それでもお茶をしながら、彼の哲学や文学をもっと広げたいという思いに触れると僕自身興味がわいてきた。

それならやってもらおうじゃないかと、本コラムはスタートしました。

“言葉”はコミュニケーションや、表現とはきってはきれないもの。

普段何気なく使っているものだからこそ、改めて立ち止まり考えるきっかけになればと思っています。

また個人的には現在フランスにいる彼の、フランスインディーカルチャー情報なんかも楽しみに待っていたりする。

 
編集長 堤

初めまして、ケガニです。

今回からアンテナで毎月コラムを書かせていただくことになりました。

 

テーマは「ブンガク」。

 

各回に副題を設けて、難解そうに見える「ブンガク語」を解説していきます。

また、その言葉に関する本も紹介しようと思います。

語はそれぞれの歴史と意味とを持っています。

辞書を引いただけではわからないようなこともたくさん書きます。

普段本を読まないけれど、歌詞やブログを書いたりする、そういう人たちにとって何かのヒントになればと思います。

 

記念すべき第一回の副題は、聞いたことあるけどよくわからない言葉、「不条理」(ふじょうり)です。

 

セミの声すらぼやけて聞こえるような、暑い暑い京都の夏。

熱をはらんだアスファルトは、はげしい夕立もすぐ乾かしてしまう。

外を歩けば3分で汗まみれになり、洗いたてのTシャツに染みができる。

気温と湿気は不快指数のピークを示している。

にもかかわらず、僕たちは外へ出たい。

野外フェス、BBQ、海、山。夏のレジャーはアウトドアばかり。

暑いのは不快だけれど、不快なことをしたい、という欲求が生まれる。

説明がつかない!

 

「説明がつかないこと」をブンガク語で「不条理」と言う。

「条理」という言葉が「世の中の道理、すじみち」を意味するので、道理に合わないことを「不」「条理」と呼ぶのだ。

よく似た言葉に、矛盾とか、ナンセンスとか、アンビバレンスとか、シュールとかいったものがあるけれど、不条理は特に、人間の根本的なありかたを示すときに用いられる。

 

さっき挙げたの例のように、理屈に合わないような欲求を、人間はありとあらゆる場面で抱えている。

カロリーを気にしているのに深夜のラーメンを食べたくなったり、かなわぬ恋とわかっていながらも相手を想い続けたり。

こうした感情は、読者のみなさんにもいくつも思い当たるのではないだろうか。

そして、人間が不条理なのはそうした場面だけではない。

 

「なんとなく今日は映画を見たい」

「なんとなくあのバンドが嫌いだ」

「なんとなくもやもやしている」

 

こうした「なんとなく」という説明のつかない状態があるのは、人間が根本的に「不条理」な存在だからだ、というわけだ。

どういうことだろうか。

 

考えてみれば、そもそも「条理」を作り出しているのは人間である。

法律、論理、常識、伝統、暗黙の了解などなど、人間は物事のすじみちを立てることで、考えたり、人とコミュニケーションしたりできる。

しかし、このすじみちで全てが説明できてしまうわけではない。

はたして、なんとなくもやもやしている、という状態を説明できるだろうか。

たとえいろんな理由を挙げて説明されたとして、脳科学や心理学などの学問によって説明されたとして、それは「なんとなくもやもやしている」という状態に加えられた、後付けの説明にすぎない。

「もやもやしている」のは、やっぱり「なんとなく」なのだ。

そうしてみれば、様々な条理があったとしても、人間が感情をもって、何かを考えたり考えなかったりしながら、ふらふらと生きていること自体は説明を受け入れないのではないか。

条理を積み重ねたところで、いまここで生きていること、それ自体には説明がつかないのではないか!

深夜のラーメンは食べたい!

さて、こうした「不条理」を描いた代表的な小説が、カミュの『異邦人』である。

『異邦人』

『異邦人』の主人公ムルソーは、ふとしたことで殺人を犯してしまう。

裁判で動機を問い詰められた彼は、「太陽がまぶしかったから」と説明する。

本来ならば、ここで求められている説明とは、金銭を強奪するためであったとか、殺した相手に憎しみを抱いていたとか、そうした条理に合うもののはずである。

だが、その意味では彼の殺人には説明がつかない。

なぜ、という問いが宙に浮いたままになってしまう。

 

「ムルソーに罪悪感はあるのだろうか」

「ムルソーの殺人は裁判によって裁かれるべきなのだろうか」

「わたしはムルソーではない、と言えるのか」

 

こうした問いを残したまま、小説はエンディングを迎える。

 

この著者のアルベール・カミュ(1913-1960)は、このようにして人間とは何かを問い続けたノーベル賞作家である。そして、同時に激動のフランスにおいて社会運動を展開したジャーナリストでもあったのだが、これはまた別の話。

 

残暑がまだまだ厳しい京都。

でも、頭の回らぬまま、汗だくで外へ出て、音楽、映画、読書なんていかがだろう。

理由なんて、なんとなく、でかまわない。

人間なんてそもそも、「不条理」なのだから。

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