
模写を通じて味わう現代の歌詞-第2回 お題:ゴリラ祭ーズ “めくるめく師走”
音楽をより深く楽しむために、歌詞を模写している人がいます(私、ANTENNAメンバー飯澤です)。「歌詞は曲を通して聴くもの」であることが前提ですが、模写を通してどのような体験を味わっているのでしょうか?音楽の聴き方を振り返りたくなるような、勉強とは違った模写の楽しみ方をみなさんにお届けする連載、早くも第2回目です!
京都を中心に活動している滋賀県発の3人組バンド・ゴリラ祭ーズの、12月3日に発売されたばかりの新アルバム『The Drifter』にも収録されている、年末をテーマにした楽曲“めくるめく師走”が今回のお題。第1回に引き続き、MVを鑑賞後、歌詞を読み、模写をしていきます。工程を経るごとに、見える世界が濃くなっていくプロセスがたまりません。個人的には好きではない年末年始。年末年始ってなんなんだ?を解きほぐしてくれる時間となりました。
アイキャッチデザイン:おっぺけりょう子
今回模写する曲:ゴリラ祭ーズ “めくるめく師走”
ゴリラ祭ーズ
滋賀のバンド。メンバーは古賀礼人(Vo / Gt)、平野駿(リコーダー / Tp)、舩越悠生(Key)。2017年に高校の吹奏楽部内にて結成、2020年より本格的に活動を開始。アルバムリリースやライブ活動の他、ニッポン放送へのラジオジングル提供や映画主題歌・劇中音楽の制作など、幅広い分野で活動している。今回の課題曲である“めくるめく師走”は2024年12月に配信リリースされ、3rdアルバム『The Drifter』にも7曲目に収録。
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年末年始アレルギーに模写を処方する
物心つく頃から年末年始が苦手です。元々は暦の上での大事なイベントだったかもしれませんが、商業的な煽りを受けて、世の中の空気がどんどん変わっていく様に苦しさを覚えてしまうからです。12月31日と1月1日は1日しか違わないのに、元旦に扉を開けた瞬間、大晦日とは違う空気が存在しています。それに毎年してやられた気持ちになるんです。
そんな気持ちも予定もせわしなくソワソワしてしまうときだからこそ、模写をして曲の世界に浸りたくなるもの。音楽は一瞬で簡単に頭をトリップさせられるし、模写をすることで自然と気持ちも落ち着いていきます。深い世界を味わう楽しさが、現実と良い距離を取ってくれます。
今回は、YouTubeにMVがあったため、公式の視覚情報とともにご対面。
急に思い立って夜の0時過ぎに見始める。気がついたらドラムに合わせてリズムを取っている自分に気がつく。あれ?どうしてこんなにノリノリになったのかな?割とじっとMVを見るタイプだと思っていたのにな。ゴリラ祭ーズそのものも初見なのに、映像が懐かしくて、学生時代の記憶がリフレイン。踊りながら、歌えそうなところだけ口ずさんで、ひとり大盛り上がりな夜となった(部屋にカメラがついていたら、私の盛り上がりっぷりが見れて面白かっただろうな)。
MVの冒頭でカメラのフレームが縦に揺れるから自然とリズムを取ったのだと思っていたが、その後に音源だけを聴いても同じく取ってしまうリズム。お会いしたことがないのに、音楽に触れただけで、勝手に仲良くなった気がしてしまう。この感じは何がそうさせているのか。音の展開(特にAメロの1回目と2回目)も、歌やギター、キーボードやトランペット、トロンボーンの混ざり方も楽しく、あっという間に聴き終わった。
蓋を開けたら出てきた、生きている人間の姿
歌詞を見ると、こんなに文字が少なかったんだ!と驚いた。2分51秒の曲だから、言葉が多くはないだろうけど、もっと歌っているかと思った。
模写をしながら、ひとつひとつの言葉を見ていく。曲だけを聴いたときはすごいノリノリだったのに、冒頭から死の話が出ていることに「あれ、こんな曲だったんだ!」と驚きつつ、死と隣り合わせで生きていることが当たり前のように綴られている心地良さを味わった。生きているとはそういうことだ。当たり前を、当たり前に見つめる。それを淡々と、この勝手に身体が動いてしまう音の中でお届けされていることが尊く感じられて、なんだかすごく切ない。楽しい曲なのに短く感じられる事実が「生きるってあっという間だよね」と、言われている気もしてしまう。歌詞を模写して、もっとこの曲が好きになった。
最初の歌詞<今年死んだ人の数を数える さびしいけど私はまだ生きてる>とは、登場人物の周囲の身近な人の死を数えてさびしさを味わっているのか、世の中で亡くなったたくさんの方に想いを馳せて、その中でも自分はまだ生きている事実を味わってさびしくなったのか、どちらなのだろうと思った。どちらにせよ、この歌詞を書かれた方の世界は、自分だけがいるのではなく、他者と構成されているんだなと感じた。いろんな人と会ったなぁ、あの時の会話は腹が立ったななどと思い出した後に、お正月どうしようかなぁと太る可能性を受け入れるという、急に目の前の俗っぽい話になって、生きているような人間臭さがある。年末年始アレルギーの私からすると、上手に俗世を楽しめているように見えて、世渡り上手だなと思った。
サビの<言いかけたことが本当になりそう>というフレーズが、私にとっては目新しく感じた。紙に書いたら願う、言葉にすると実現する、は聞いたことがあるが、発音してもいないことが本当にそうなりそうなのは「え、嘘でしょ?!」というニュアンスがあるからだ。なにを言いかけたんだろう?気になって、この主人公について知りたい気持ちが高まる。後半に入って、より一層前のめりで歌詞を追いかける。今年を振り返り、まだ見えない来年にふわふわした気持ちになりながら、手がつながれるような、何かが生まれる希望を思いながら、曲は締めくくられる。
品行方正な師走なんてない
「めくるめく」は語感だけだと次々とやってくるポップな感じがする。しかし辞書に載っている意味としては「目がくらむ」「目まぐるしく展開する」と可愛げのない言葉である。気がついたら陽気に身体が動いてしまうリズムや音の一方で、歌詞は地に足がついていて、他人と一緒に生きていくこと、世の中のリズムに合わせて生きていくこと、頭に思い描いたものをドキドキしながら実現させることを受け入れている。そんな現実の中で器用にバランスをとっている印象を受けるが、タイトルは“めくるめく師走”。本音としては、目まぐるしくて目がくらむくらいの刺激なのだろうか。模写を通してみると、楽しいのか、ヒリヒリするのか、ドキドキするのか、むしろわからなくなってきたが、師走のカオスをカオスとしてそのまま受け取っていいのだ、とは思えた。何かが生まれる未来を頭の片隅におきながら、世の中と自分との距離を測って、今年も年末年始を乗り越えていく。
後日談
毎回解釈の作業が終わると、同じアーティストのライブ映像や他の楽曲を検索して楽しんでいます。今回は、ゴリラ祭ーズのPodcast『ゴリラ祭ーズのラジオ祭ーズ』で、ご本人たちの“めくるめく師走”の解説を発見しました。
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WRITER

- ライター
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東京出身・在住。身体と音と言葉に夢中なまま大人になりました。感覚の言語化にこだわりがあります。
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普段は「空ルート」という整体と、AIの対話体験開発をしています。趣味は音楽活動やご飯イベントの開催です。
