
文化センターに灯る熱のありか-円盤 Peninsula企画『in the offing』ライブレポート
2026年1月12日(月・祝)に栃木県小山市の〈小山市立文化センター小ホール〉にて、小山市唯一の中古レコード屋である〈円盤 Peninsula(ディスク ペニンシュラ)〉主催のライブイベント『in the offing』が開催された。全国ツアーでバンドが立ち寄るような会場が少ない小山市で、DIYな体制で繰り広げられたライブの模様を小山市出身在住のANTENNA編集部 青木がレポートする。
ロックバンドのイメージとは程遠い文化施設
怒涛の勢いで数曲披露し終えると、天国注射の池澤健(Vo)が「景色がきれい」と発した瞬間があった。この日は快晴。しかも会場の裏手では、雪化粧した日光連山が遠くに見える。冬の澄んだ空気に包まれ、いつもと違う土地、ライブハウスとは異なる環境でのライブにきっと高揚したのだろう。
そんな一幕があったのは、1月12日(月・祝)に栃木県小山市の〈小山市立文化センター小ホール〉で開催された『in the offing』でのこと。市内唯一の中古レコード屋〈円盤 Peninsula〉の店主である岡凜朗が企画したライブイベントだ。小山市には全国ツアーを巡るバンドが立ち寄るような会場は少ない。それなら自分でバンドを呼ぼう。音楽が好きな人たちと出会いたいという岡の思いから、昨年この場所で初開催。今回は2回目となる。
前回は〈円盤~〉でも新譜を取り扱っているmoreruをメインアクトに据え、DJを配置したフロアライブだったが、今回も全編フロアライブで行われた。出演者はバンドが天国注射とPereiraの二組、DJはpnnikin、Sofar、岡の別名義であるstandingpissisleagalという顔ぶれ。天国注射も〈円盤~〉で新譜や旧作が取り扱われておりお店との縁は深い。加えてPereiraはメンバーのirna(Gt)が前回DJで参加しており、つながりを意識しつつ、前回を上回る衝撃を与えてくれそうなロックバンド、かつ岡が心から良いと思う人たちに声をかけたことが窺えるラインナップだ。
舞台となる〈小山市立文化センター〉は1978年に開館した、小山市民にとっては馴染み深い場所。小山出身の筆者も、幼い頃から発表会などでたびたび利用してきた。この日少し早めに会場内に入ると、年季の入った建物のどこかから合唱団の練習が聴こえてくる。懐かしい童謡が響き渡り「本当にここでライブが行われるのか?」という気持ちになるほど、ロックバンドのイメージとは程遠い由緒ある市民のための文化施設なのだ。ライブが行われる小ホールは地下2階。といっても地上に面しており、すぐ外に出ることもできるため閉塞感はそこまでない。
開演時間ギリギリまでリハ-サルが入念に行われ、standingpissisleagalのDJからイベントがスタート。Bass Patrol の“Let Me Get A Bass Check”が轟く中、〈円盤~〉の常連客と思わしき観客がちらほら。しかし普段からライブハウスに通っている、とも少し異なる客層だ。ホール内はわかりやすいステージがなく、緑のシートが床に敷かれた演奏ゾーン、その左手にドンと置かれたDJブースという極めてシンプルな配置。かつ電気もついたままのライブ会場らしからぬ雰囲気も、だからこそ抵抗なく受け入れている様子だ。
ここ最近は、シニア向けの運動教室や時にはプロレスの会場などで利用される小ホール。音楽イベントとはあまりにもかけ離れた空間で、DJはSofarへとバトンタッチ。序盤は残響のような質感で魅せる。かと思いきや徐々にビートが脈打つストイックな構成でたっぷり1時間、ベースミュージックを中心に安定感のある選曲で会場を温めた。
どこまでもストイックに突き詰めるPereira
そして1組目のバンドであるPereiraが登場。最新EPの表題曲“chef”でライブがスタートした。irna(Gt )、平(Ba)、奈良(Dr)がそれぞれ鳴らす単音は途切れ途切れに響き、唐突に英語のSEも流れ始める。余白が多くミステリアスな雰囲気すら漂う中、同じEPに収録の“node”に差し掛かると力強いドラムが先行し、そこにノイズのようなベースとグシャッとしたギターも重なり、強靭かつアグレッシブなアンサンブルでフロアを覆いつくした。ポストパンクの鋭さと展開が読めないノーウェイブ的な実験性を帯びたサウンドは、何かを訴えたり求めることもない。どこまでもストイックに音を突き詰めるさまはまるで無口な職人のよう。なのにロックバンドらしい衝動性も内包している点が魅力だと感じた。
Pereiraのあとの強ばったフロアを、DJのpnnikinが解きほぐしていく。とがったエレクトロを流したあとに、これまでの流れにはなかったストリングスや歌が主体の選曲をするなど、肩の力を抜いた自然体なプレイは、彼女の素をそのまま投影しているよう。そんな空気につられてなのか、会場は次第に和やかな空気となり、気づけば思い思いに談笑したり自由に過ごす観客が多かった。
また県外(主に都心近郊)から来たと思われる、DJ陣の友人知人や、バンド目的にわざわざ来訪したであろう観客も、序盤に比べてぐっと増えたことも印象的である。岡によると、前回も文化センターという環境が、県外から訪れた観客から評判だったとのこと。今回もそういった場所で行われる物珍しさ、面白さ、いつものライブとは違う非日常性に惹かれる観客は数多かったのではないだろうか。
内なる衝動を解放した、圧巻の天国注射
いよいよ本日のトリである天国注射にバトンが渡されると、リラックスしたムードは一瞬で消え去り、嵐のように激しい池澤(Vo)のシャウトが広がっていく。勢いのよいバンドサウンドとともに弾ける“越冬闘争”でライブの火蓋を切った。
彼らは昨年2ndアルバム『struggle』をリリース。作品の取り扱いを通じて〈円盤~〉との縁はあるものの、大阪を拠点にしているこのバンドにとって今回が栃木での初ライブだ。加えて照明や過剰な演出は一切ない、見知らぬ土地でのフロアライブでもある。薄暗い地下ではなく、冒頭でも触れた静かで美しい自然に囲まれた環境が刺激となったのだろう。むき出しの熱量で咆哮し、日々の鬱憤ややり場のない気持ちを歌に乗せて観客にぶつける池澤の姿は、並々ならぬ気合が入っている。今という瞬間に全てを懸けると言わんばかりに自由に動き回る池澤の後ろでは、橋口晟太(Gt)によるエッジの効いたギター、安定感のあるプレイで支える山野敬晃(Ba)、タイトなリズムを刻む有馬於音(Dr)が盤石のグルーヴを形成していた。終盤では、踊り狂う観客が出てくるほど、観ている側の内なる衝動までも解放した彼ら。エネルギッシュかつ圧巻のステージでフロアを揺らし、この日の演目は全て終了したのだった。
やりたい、という真っ直ぐな思いを灯し続けた先に
ライブの余韻が冷めやらぬ中、フロアでは来場者や出演者に声をかける岡の姿があった。その充実した表情からは企画の手ごたえを感じているように見える。今回、出演者のブッキングから会場やPAの手配まで岡が自ら行っているが、加えて出演者へのインタビューやコラムなどをまとめた本格的なZINEも作り、イベントの宣伝まで行っている。何から何まで自分で手間暇かける原動力はどこにあるのか。そう思った時、岡に以前インタビューした際に出てきた「自分がやりたいと思うことしかできない」という言葉が浮かんできた。思えば今回の出演者たちもやりたいことをやる姿勢を貫いている人たちばかりだ。レコード屋とバンド、DJ。形は違えど、岡の真っ直ぐな気持ちに共鳴し似たような思いを持った者が一堂に会したからこそ、熱量あふれるイベントを作り上げることができたに違いない。
ちなみに〈小山市立文化センター〉は、取り壊しと移転の噂が立っている。すでに文化センターの隣には5年前に建て替えられた市役所が鎮座し、さらにはJR小山駅前の商業ビルも取り壊しが決定しているなど小山市は過渡期の真っただ中にある。街の変化も踏まえて岡にイベントとして今後の展望を聞くと、実に軽やかな返事が返ってきた。
「(文化センターが移転しても)新しい場所でやりたいですね。年に1回とかできればいいなと思っています」
小山市は他の地域と比べると文化的な土壌は薄いかもしれない。だが、自分が好きな音楽を誰かと共有するのはどんな土地でもやろうと思えばできる。特別なことはいらない。好きだからやりたい。その気持ちを軸に自分が行動を起こせばカタチにできる。そのことを今回の『in the offing』を通じて改めて実感させられた。この「やりたい」という真っ直ぐな思いが灯り続けることで、自然と同士が集い、次第に新たな聖地になる可能性も十分考えられるだろう。未来への淡い期待を抱きながら、次回の開催を気長に待ちたい。
写真:広瀬正道
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WRITER

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1997年生まれ。栃木県小山市出身・在住。
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20代前半は東京で月刊「音楽と人」編集部に約5年所属。退職を機に栃木へ戻り早3年が経ちました。ライターや編集の経験を別の形で生かし、地域に貢献していくことが今後の目標。
