頂(いただき)から望む、次の一手とは
2017年元日よりそのキャリアをスタートさせ、2018年4月29日にはLOSTAGEとAmia Calvaとの3マン企画がソールドアウトになったことも記憶に新しい、奈良のnihon alps。そんな精力的な活動を続けている彼らから、待望の1st mini albumがリリースされた。その名も『not the nihon alps』。
フロントマンの小泉(通称:こいちゃん)を中心に、近畿圏や東京でのライブ活動を盛んに行っている4人組エモ/ハードコア/オルタナバンドのnihon alps。ご存知の方も多いかもしれないが、彼はミラーマンの元メンバーであり、現在はnihon alpsの他にもPost Modern Team.のサポートメンバーとしても活動している。はたまた大阪・梅田のライブハウス「HARD RAIN」にてライブハウススタッフとしても活躍しているという顔の広さを持つ、おなじみのナイスガイだ。相当な機材オタクとしても知られており、大学卒業後に音楽の専門学校へと通い、奈良の某楽器店にて勤務していたという経緯も持つほどに、音楽・楽器に人生を捧げてきた男である。昨今、大阪インディー界隈で彼を知らない人はいないのではないかというくらい、”なにわのキーパーソン”になりつつある存在だ。
メンバーチェンジはあったものの、2本のギターによる緻密な掛け合いと、パワーとテクニックを兼ね備えたリズム隊によるシンプルな編成はそのままに、前作”homebrew soundmusic EP”から一段とパワーアップしてリリースされた今作。前作と比較して、よりクリアでハイファイな音質を得たことにより、ヒリついた焦燥感や作品の陰影にあたる緊張感がより一層浮き彫りになっていることは、一聴しただけでも伺えるだろう。音質的なパワーアップを実現したのみに留まらず、前作からの流れも受け継がれており、いわゆる作品単位で音楽性やコンセプトをガラリと入れ替え、安易に幅を持たせるような手法は取らずに、前作の物語の続きを聴いているような、そんな感覚に陥るストイックな作品スタンスにも好感が持てる。ボーカルを取る小泉のハイトーンなシャウトも健在で、その叫びに秘められている衝動性や絶望感が、楽曲に拍車を掛け、より引き締まった様相を呈する度に、聴く者の琴線をぐわんぐわんに揺さぶりまくってくるあたりに中毒性を禁じ得ない仕上がりだ。
M1の”地下鉄を降りて”からnihon alpsのエモ節が全開で幕開けする。始まった途端に胸を締め付けるような、タイトなリズムパターンで始まり、小泉の甲高いボーカルが物語を繰り広げていく。”君”と”僕”の間で起きる、もう戻ることの出来ない未練を、”地下鉄”を通して描いている。いつまでも下車することが出来ず、地下鉄に閉じ込められて次へと進めない”僕”は、さながら鳥籠に監禁されてしまった小鳥の如く窮屈な心情に他ならない。
“地下鉄を降りてしまえば いっそ飛び込んでしまえれば
いつまで乗っていればいいの”
次へと進めたら、もしくはいっそ消えてしまえればどれだけ楽だろう、と言わんばかりのリリックだが、なぜ”僕”が次へと進めないかを考えるに、地下鉄を降りてしまえばそれこそ”君”との接点も完全に失ってしまい、二度と関わることが無くなってしまうからだろう。進みたい気持ちと、留まっていたいアンビバレンツな感情の狭間で葛藤し、苦しんでいる男の描写は、共感するところがある人も多いのではないだろうか。曲の終わりは電車の「ガタンゴトン」という無機質な擬音が、ディレイによって漠然としていく様で締め括られる。
聴かせる一曲目から打って変わってM2の”草迷宮”は、ライブ映えしそうなアップテンポな曲だ。性急な変拍子・シャウト・早い・短いという、激情バンドとしてあるべき姿を体現している。また、5拍子、6拍子、7拍子といった変拍子を激しい楽曲に組み込む手法は、ハードコアではよくあることだが、複雑な拍子の移り変わりや勢いを損なわせないリズム隊の功績が光る一曲だと言えるだろう。そして本来そんな複雑で「ノリにくい」曲調を聴きやすく仕上げてしまうあたりにバンドとしてのセンスも感じられる。
M3”vege”ではゆったりとしたテンポ設定でnihon alpsの武器でもある2本のギターワークが堪能できる。不協和音を違和感なく楽曲に落とし込む技術もまた、さすがと言ったところ。5拍子のリフもドッシリとキマっており、メロも全体を通して堂々と聴かせる作りになっている。また、リリックについては今作で唯一対話形式の構成が一部採用されていたりと、繰り返し反駁したくなる病みつきな内容になっている。一枚のアルバム内では相対的に「抜け感」のある渋い一曲だ。
M4”check!!”はファストパンクとも解釈できる1分22秒のテンションが高い曲だ。曲を通してシンコペーションが多用され、前のめりな2ビートで駆け抜ける。こちらもM2の”草迷宮”同様にライブで重宝されそうな一曲だ。この曲に限らずだが、小泉のリリックは字余り気味に言葉が詰め込まれ、シャウトされることが散見される為、初見ではなかなかメッセージを理解しにくい面があるかもしれない。しかし歌詞カードを読んでみると、深い意味合いや言葉遊びが散りばめられていたりして、楽曲がより一層心に響いてくることもまた事実だ。聴く度に新しい発見があったりと、何度もおいしさを味あわせてくれる。
M5の”ダブルスチール”は、このアルバム内で最も異質な曲であると同時に、nihon alpsの新たな可能性や今後の広がりを期待させる一曲に仕上がっている。7拍子のミドルテンポで絡み合うギターワーク、そして耽美なコーラスワークから曲が始まり、ポストロック寄りの要素が強く反映されているような美エモだ。少し話題は逸れるが、彼らのとあるライヴのリハーサル時にAmerican FootballのNever Meantを演奏していたところを聴いたことがある。かなり高次元で再現がされており、フェイバリットの一つであろうことは想像に難くないが、質感として楽曲に消化させつつも、あくまでジャパニーズ・オルタナらしさを損なわないオリジナリティを感じさせる融合加減が心地良い。また、サビのメロディーがしっかりと拍に乗って変拍子の帳尻に帰着する部分も、細かなテクニックとして有効に機能している。
この作品の最後を飾るM6”海と毒薬”では、聴き手の不安を煽るような不協和音のリフから曲が始まる。序盤のギロッとしたギターサウンドからはポストパンク的なサウンドメイクも感じるが、バンドアンサンブルに移るとやはりハードコアな曲に落とし込まれている。他の曲と異なる点として、緻密なギターワークと切迫した不協和音によって、ジリついた焦燥感や緊張感をより一層漂わせている点だろう。
“丸まっても 転がっても もう前に進みたい 丸まっても 転がっても
丸まっても 転がっても もう痛くない 痛くないから”
M1”地下鉄を降りて”の歌詞ともリンクしてくるが、まだ途方に暮れていた一曲目のリリック内容に対して、”海と毒薬”でははっきり「進みたい」と断言している部分も興味深い。最終的な決意と共に締め括られる、非常に後ろ向きではあるかもしれないが、希望的観測も含めた楽曲になっている。
nihon alpsを聴いていて一番最初に感じたことは、”北の大地の音がする”ということだ。eastern youthをはじめ、bloodthirsty butchersやCOWPERS、キウイロール等といった、いわゆる”ジャパニーズ・エモ”の礎を築いてきたバンドたちの音、ないしはそうした札幌のバンドに影響を受けたNUMBER GIRL等のオルタナティブ性を帯びていて、率直な継承性を感じられる。
音楽の多様性や細分化が日に日に進んでいく現代で、これだけのルーツが色濃く反映されているバンドは、昨今少ないのではないか。それもそのはずで、多様な音楽の享受が浸透する中で、わざわざ特定の音楽ジャンルを深掘りせずともカッコいい音楽が溢れかえっているからだろう。ルーツに向き合う以前に、手近にあるエッセンスばかりを抽出して自分なりのオリジナリティを表現する方が、実は容易だったりするのが事実だ。しかしある意味で時にそれは手厳しいリスナーにとっては無責任な印象を与え兼ねない。一方でnihon alpsは清々しいくらいにジャパニーズ・エモの系譜を継いでいて、王道である硬派なサウンドを鳴らしている。エモに向き合いまくっている。真正面からルーツと対峙する難しさを、体現しようとしている。そうしたストイックな表現活動そのものにまた、尊い価値が発生しているのではないか。そんな”正統派”な彼らの新作を聴かずして、ジャパニーズ・エモの未来は語れない一作だろう。
※ライブ会場、及び梅田・HARD RAIN店頭にて購入可能。順次通販・流通追加予定
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パラメヒコというバンドのギターボーカル担当、The Tigersのギター担当。西宮市出身、
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立命館大学卒、大阪在住の「三都物語」達成者。幼少期からのジュビロ磐田サポーター。隠れ帰国子女にして、元ミランジュニアの右サイドバッカーでもある。