
集まって、手作業するから個性がにじむ – 株式会社/出版社さりげなくの製本ワークショップレポート
2025年4月26日(土)に、株式会社/出版社さりげなくのわかめかのこさんによる製本のワークショップが開催されました。「一度、自分の手で本を作ってみたい」ということで、普段は編集や出版の仕事をしている参加者が6名ほど集まった当日の様子をレポート。
一日中パソコンに向きあうような仕事も増え、実際に手を動かして実体の「もの」を作るという行為は、どんどんと身近なものではなくなってきています。だからこそ、誰しもが手に取ったことのある「本」を形にしてみることには、まだまだ知らないおもしろさがそこにありました。
製本ワークショップの講師は、株式会社/出版社さりげなくのわかめかのこさん(以下、かのこさん)が務めてくれました。かのこさんは、3年前から村上製本の村上亜沙美さんのもとで製本を学び、そして定期的に自身でもワークショップを開いています。
わかめかのこ
製本家見習い。
村上製本の村上亜沙美さんに師事。
庭師見習い。畑修業中。山好き。
株式会社/出版社さりげなくを仲間たちともに。(企画/編集/執筆)
かのこさんは製本について「手を動かして順々に本の形にしていく、その過程に飛ばしていい行為などひとつもなく、ひとつずつあゆみを進めていく先に形があります。製本は難しいイメージがあるとよく言われますが、とても大らかに私たちの動きを受けとめてくれるようです。また、小学生や大学生、社会人、いろんな人と製本をすると、同じ動作を積み重ねているはずなのに、その人らしさがにじみでてくるのが製本の面白いところ」と、ワークショップを開催するにあたって言葉を寄せてくれました。
「製本」と聞くと、一人で黙々と向き合うような作業を思い浮かべますが、それを誰かと一緒に行うことで見えてくるおもしろさがありました。一人では得られない視点や感覚が制作の過程に垣間見えてくるのです。「自分らしさ」や「他者との違い」を言葉ではなく所作の中に感じること。これこそ、実際に手を動かしているからこそわかってくることでもあります。
午前のワーク「三つ目綴じ」
今回のワークショップは、午前と午後の2部制。
「三つ目綴じ」と呼ばれる綴じ方を使っての製本ワークが、午前中のワークになります。「三つ目綴じ」とは、3点の穴を開けて紐で綴じる、シンプルな構造が特徴の製本方法です。初心者でも取り組みやすく、基本を学ぶのに適しています。
このワークでは定規を使わずに手のひら、腕、ゆび、足、身体のサイズでざっくりと制作するということが特徴。参加者はそれぞれ持参したポスターやチラシを表紙に使用し、独自の本づくりに挑戦していきます。
「ざっくり作る」という前提があったからこそ、ルールに縛られることなく、参加者全員がさまざまな発想を繰り広げていきます。例えば、「三つ目」ではなく四つ目や五つ目、六つ目で綴じてみる参加者や、表紙を斜めに配置したり、複数のチラシを重ねて使ったりといった工夫が随所に見られました。中には、綴じる際に使用する紐をかぎ針で編んで作るという工夫を凝らす参加者も。一冊では飽き足らず、二冊、三冊、四冊と、手を動かし続けること自体を楽しんでいる様子が印象的でした。
「三つ目綴じ」は、とてもシンプルな綴じ方だからこそ、アイデアを考える余白が生まれます。その余白に、参加者それぞれの本との向き合い方や、物事への興味の方向性、捉え方などの違いが入り込むことで、創造の自由さと完成した本の多様性が生まれていくことを実感しました。
また、余白の生まれ方や使い方からはそれぞれの人間性が垣間見え、製本という行為が作り手の個性や感性を自然と反映するものであることを感じさせられる時間となりました。
午後のワーク「上製本」
午後のプログラムでは、「並製本」のノートを「上製本」に仕立てるワークを行いました。
パッと言われて、その違いをすぐに説明できる人はそんなに多くないんじゃないでしょうか?「並製本」とは、接着剤や針金、糸、リングなどで簡易に綴じられた冊子のこと。それに対し「上製本」とは、本でいえば読むページ、ノートでいえば何かを書き込む本文をそれより一回り大きな板紙の表紙(いわゆるハードカバー)でくるむ製本方法のことです。書店に並ぶハードカバーの書籍をイメージするとわかりやすいかもしれません。
今回のワークでは、既製の並製ノートを使い、それぞれが持参した布やトートバッグの生地を表紙素材として用い、板紙に貼りつけることで「上製本」を仕上げました。午前に行った「三つ目綴じ」に比べて、上製本は工程も多く、求められる精度も高くなります。ズレが大きいとうまく仕上がらないため、定規を使ってある程度正確に測りながら作業を進める必要がありました。
まず、ノートのサイズを測り、それに合わせた板紙の大きさを割り出し、板紙を切り出すところからスタート。この作業には午前中のような気楽な「余白」がほとんどなく、段取りと集中力が求められます。とはいえ、参加者の間に個性の違いが生まれてくるのが製本のおもしろいところ。計測をきっちりと行う参加者もいれば、ある程度感覚を交えながら進める参加者もいて、それぞれの手の動きに個性がにじんできます。
こうして切り出した板紙に、今度は持ってきた布やトートバッグを貼り付けていきます。「上製本」の接着には基本、少しの水で薄めたボンドを使用しますが、このボンド水のボンドと水の割合が仕上がりに影響してくると、かのこさんは言います。水が少なすぎると、広範囲に塗布するのが大変になってしまい、逆に多すぎると完成した時にその面が水分でぶよぶよになってしまいます。ボンドが足りなくなって何度も作り足しているうちに、目分量でも手際よくボンドの濃さがちょうどよいものとして仕上がっていきます。
そうして、できたパーツをつなぎ合わせ、最後にぱたんと表紙を閉じ、本が完成です。完成した本はしっかりと接着させ、重しをのせて乾燥させるところまでがセット。どうしても仕上がりがぶよぶよしてしまうところも出てきていましたが、トレーシングペーパーを挟んで余分な水分を吸収させることで、より納得のいく仕上がりに近づけることができました。時間をかけて慎重に丁寧に制作するため、より愛着が湧く一冊ができあがるワークとなりました。
午前のワークでの「余白があるからこそ出てくる個性」は存在を大きく感じましたが、午後のワークでは「余白が少ない中でも自然ににじみ出る個性」がささやかに感じられました。明らかな余白があるときと、余白が存在しないように見えるとき。風が少しの隙間を縫って通り抜けていくように、個性も常にどこかに余白を探していて、だからこそ存在が強い強風の個性も、存在がささやかなすきま風の個性も、感じることができたのだと思います。その余白の中での個性の対比がとても興味深く感じられました。
普段は液晶に向かい、リアルに存在している「もの」と向き合うことが少ない日々を過ごしている昨今の編集者にとって、目の前に存在するものとじっくり向き合う時間はかけがえがないもので、ずっと目がキラキラ輝いていました。実際に手を動かして何かを生み出すという、ものづくりの原点とも言える楽しさや喜びを自分の手で実感することができ、物事を見るときの新しい視点が一つ増えたような実感があります。
同じ時間を過ごす中で、全く同じ説明を聞いて、全く同じ行動をしていても、その隙間隙間に「個人」が存在し、無意識のレベルで「個性」が溢れ出る。個性が大事、個性が必要とよく言われますが、無理に探さなくても作らなくても無意識のうちに感じさせられるそれこそが、「個性」であり、それを大切に思うことが必要なのではないでしょうか。
WRITER

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2003年京都生まれ、京都と滋賀の境目育ち、滋賀在住。
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