【川端安里人のシネマジプシー】vol.12 ドニー・イェン
いやぁ、早いもんで、2016年もあと一ヶ月を切りました。今年も有名無名に関わらず色々な映画がありましたが、今年の締めにふさわしい大作映画はやっぱり『ローグ・ワン / スター・ウォーズ・ストーリー』じゃないでしょうか。名前から分かる通りスターウォーズの外伝的な映画なんですけど、正直なことを言うと自分はそこまで熱心なスターウォーズファンではありません。それでも自分はこの映画が楽しみで仕方ないんですよ。それはなぜかと言うとドニー・イェンと言う香港の俳優さんがメインキャラクターで出演してるからなんですね。
もちろん、全世界にコアなファンを持つスターウォーズシリーズの主要キャラにアジア人として初めてキャスティングされているという時点で要注目なんですが、それを演じるのがドニー・イェン!“宇宙最強”、“俺たちの兄貴”、“カンフーナルシスト”のあのドニー・イェン!かれこれ15年以上ドニー・イェン!ドニー・イェン!と熱狂し続けている自分にとっては彼がスターウォーズの仲間入りというのはとてつもない大事件なわけです。というわけで香港映画、アクション映画のファンにはおなじみドニー・イェンという映画人を紹介したいと思います。
ドニー・イェンの魅力とは?
なぜ、俳優でなく映画人という書き方をしたかというと、この人、俳優としてだけでなくアクションの振付師としての才能がずば抜けてすごいからです。『るろうに剣心』の実写映画がありましたが、あのすごいアクションの振付師である谷垣健治さんはこのドニー・イェンの右腕として長らく香港で鍛えられていた人です。つまり、ドニー・イェンがいなければ『るろうに剣心』実写版は成功しなかった可能性もあるということです。
まだ中学生の頃、手当たり次第になんでも映画を観ていた自分は『ドラゴン危機一髪’97』という映画を観ました。タイトルからも分かる通りブルース・リーのエピゴーネン的な映画かと思いきや、その映画は自分の想像を超えるとてつもない映画だったわけです。その映画内で繰り広げられるバトルは今まで見てきたジャッキー・チェンのコミカルなカンフーとも、ジェット・リーのワイヤーを駆使した華麗なカンフーとも全く違う、ガチのカンフー、打撃一発一発が重く、見てるこっちが痛くなりそうな凄まじいものでした。
それもただリアル志向なのではなく、バグナクとかいう暗器使いとの闘い、拳銃対投げナイフなどなど映画的なフレッシュさ、面白みに満ち溢れたサプライズな一本だったんです。
『このすごい映画を作ったのは誰だ!?』『監督・脚本・主演:ドニー・イェン』それがドニー・イェンとの出会いでした。
この人の映画は公開されれば映画館にかけつけていたので、そのほかにもドニー・イェンに関する思い出はたくさんあります。例えば彼のハリウッドでアクションを振付た『ブレイド2』なんかは確か学校をサボって見に行ったっていうボンクラな思い出もあります。そう、ドニー・イェンは一度ハリウッドに進出しているんですね、ところが正直なところガチファイト志向のドニーに2000年初頭のワイヤーアクションすげーとなっていた当時のハリウッドは合わなかったわけで、結果的に香港に帰ることになります。
でも、それで良かった。香港に帰ってからのドニー作品群、特にウィルソン・イップ監督と組んでのリアル志向作品群は珠玉の傑作揃いです。その口火を切ったのが2005年の『SPL/狼よ静かに死ね』です。今でこそ2000年以降の香港映画の名バトル映画になっていますが、当時特に前情報を仕入れずに劇場に行った自分は大熱狂でした。
ジェット・リーの弟弟子に当たるウー・ジンとの警棒対ナイフの長時間にわたるバイオレントな戦闘シーン、そしてサモ・ハン・キンポーとの投げ技、絞め技を駆使したこれまたバイオレントな激戦、映画的ケレン味を残しつつのリアルで暴力的、そしてスピーディーなその戦闘シーンが暗黒街を舞台にしたノワールの雰囲気と融合してたまらない魅力を放ちます。この映画がまさに下積み時代の長かったドニー・イェンを世界レベルに押し上げたと言ってもいいでしょう。
その後もリアル路線系だけでなく、『捜査官X』や『孫文の義士団』という映画では武侠映画 (時代劇) にパルクールを融合させる、初めて全編英語で撮られた香港人によるNetflix限定武侠映画『ソード・オブ・デスティニー』などの実験的な試みをしつつ、ブルース・リーの師匠である詠春拳の達人イップ・マンを演じた『イップ・マン 序章』と『イップ・マン』において俳優として名実共に大大大ブレイクしたドニー・イェン。正直今の日本映画界は香港映画は原価が高い割に儲からないと中々新作が公開されないのですが、今回の『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』で日本でもドニー・イェンの大ブレイクが起こればと願うばかりです。
ドニー・イェン入門映画
そんなドニー・イェンの映画を見たことがない人のためにオススメする映画は2本あります。
『ワンス、アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝/アイアンモンキー』と『FLASH POINT 導火線』です。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝 / アイアンモンキー』これはウォン・フェイフォンという実在の武術家にして漢方医の冒険と旅を描いた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズというのがありまして、ジェット・リーが主人公を演じているのが有名なんですが、この『アイアンモンキー』はその外伝です。
フェイフォンの子供時代の物語で、ドニーさんは父親役。『酔拳』の監督や『マトリックス』シリーズのアクション振り付けで有名なユエン・ウーピンが監督をしている映画なんですが、これがもう王道中の王道をゆく勧善懲悪モノ、ウォン親子が義賊アイアンモンキーと手を組んで悪代官をやっつけるただそれだけの話なんですが、出てくる人全員カンフーの使い手。美味しいキャラ、全く無駄のないスピーディーな展開にラスト炎上する丸太の上でのワイヤーアクションバトルと、120%娯楽に振り切った映画です。クエンティン・タランティーノが惚れ込んで配給した結果アメリカでも大ヒットした、万国共通老若男女誰でも楽しめること間違いなしの映画です。
『FLASH POINT 導火線』は先ほどから何度か書いているドニーさんによるガチ系アクションの最高峰の1本でして、暴力刑事に扮したドニーさんが吠える吠える、暴れる暴れる、しかも上映時間が90分に満たないという超濃密な映画なんですが、総合格闘技的な絞め技や打撃を本当に当ててる凄まじいアクション演出のせいで『マトリックス』のセラフ役で知られるコリン・チョウが『もう香港映画はきつすぎるから出たくない』と弱音を吐いた本当にハードな映画です。香港だけでなく世界中でアクション映画賞を受賞した映画で、それ以降のアクション映画、つまり現在のアクション映画における振り付けに影響を与えているとんでもない1本です。
『燃えよドラゴン』が公開された時の男子諸君は『あぁ〜、ブルース・リーと同じ時代に生まれて良かった』と思ったでしょうし、『プロジェクトA』や『ポリスストーリー』を映画館で見た人たちは『ジャッキーと同じ時代に生まれて良かった』と思ったでしょう。それと同じように自分は胸を張って言いたいし、そう思ってほしい『あぁ、ドニーと同じ時代に生まれて良かった』と。
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1988年京都生まれ
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小学校の頃、家から歩いて1分の所にレンタルビデオ屋がオープンしたのがきっかけでどっぷり映画にはまり、以降青春時代の全てを映画鑑賞に捧げる。2010年京都造形芸術大学映像コース卒業。
在学中、今まで見た映画の数が一万本を超えたのを期に数えるのをやめる。以降良い映画と映画の知識を発散できる場所を求め映画ジプシーとなる。