【川端安里人のシネマジプシー】vol.3 誘拐犯
誘拐犯
2000年周辺にヒットしたアクション映画というのをちょっと思い出して欲しいんですが、「チャーリーズエンジェル」やら続編が完成した「グリーンディスティニー」とかですね。この「誘拐犯」という映画は99年の「マトリックス」大ヒット以降、CGとワイヤーを多用した過剰 演出なアクション映画が大ブームになっていた時期 (もちろんこれは香港映画の監督や技術がハリウッドに急接近、影響を与えた時期とも言えますね) に公開され、そしてコケました。それはひ とえにこのマッカリーという監督の (地味と思われがちな) リアル路線のアクション演出が時代と合わなかっただけだと自分は思っています。なので今回「ローグネイション」とかの高評価に便乗して、制作から16年経った今改めて観直してもらって再評価したいなというわけで紹介します。
そろそろざっと「誘拐犯」のあらすじを説明したいと思います。この映画はその日暮らしの二人 組アウトロー、“ロングボー”と“パーカー”がとある金持ちの子を妊娠している出産間近の代理母を 誘拐して身代金をせしめようとすることから物語は始まります。しかしその金持ち、チダックは裏社会と通じており、代理母のボディガードやチダックが雇った“掃除人”たちに追跡されることになるという話です。
この「誘拐犯」という映画はハードボイルドや (現代版) 西部劇といったジャンル映画なんです。 自分は常々ジャンル映画というものはお約束を守り (そのジャンルへの愛情表現だと思います) つつも、いかにその枠内でフレッシュな事をするかが大事だと思っているんですが、この映画はそのフレッシュさにおいても素晴らしいと思います。
例えば前半、妊婦の誘拐に成功した “ロングボー” & “パーカー” 対ボディガードたちのカーチェイスシーン。カーチェイスといえば相手を振り切るために猛スピードで加速して関係ないパトカーが横転やクラッシュして…なんて事を想像しがちですが、「誘拐犯」では違います。裏路地に入って車を乗り降りしながら銃で牽制し合いつつ距離を引き離すという、なんと歩くよりも遅いカーチェイスが続くんです。
カーチェイスなのに足をついてるのわかりますかね?
こんなカーチェイスはこの映画でしか見られません。終盤の銃撃戦でも “掃除人” たち、特にリーダーであるジェームズ・カーン (「ザ・クラッカー」などの70、80年代に彼が演じたアウトローたちのその後を感じさせる演技が素晴らしい!) の射撃位置の取り方やら、お互いのリロードのタイ ミングに援護し合う主人公二人やら、身代金が置いてある噴水には〇〇〇が……などなど。過剰演出してナンボみたいだった00年代初頭に (00年にNo1大ヒットした「ミッションインポッシブル 2」の演出過剰なアクションシーンと見比べてみてください) よくもまぁここまで悪くいうと地味な、良く言うとガチな犯罪映画を作ったなと本当に見直すたびに驚くわけです。
そもそも二人組のアウトロー “ロングボー” と “パーカー” という名前自体が曲者で、この二人の名は アメリカンニューシネマの傑作「明日に向かって撃て」の主人公二人 ”ブッチ・キャシディ” と ”サ ンダンス・キッド” (二人とも実在のアウトロー) の本名です。その時点からしてこの映画が60年 代後半以降のバイオレンス映画のオマージュ、もしくはパスティーシュであるのは一目瞭然なわけです。実際にDVDなどの音声解説を聞くと、終盤にある娼館での銃撃戦のシーンなどで「ここはサム・ペキンパーを意識したよ」などと監督が解説しています。
ここでちょっとマッカリー監督の最近の二本の映画のアクションシーンも思い出してみましょう。ただ闇雲に逃走しているように見えた道筋が実は逆転勝利への軌跡そのものだった、という近年稀に見るほどの痛快な幕引きを見せた「ミッションインポッシブル ローグネイション」。五人のチンピラを相手に「三人倒せば残り二人は逃げるから実質戦うのは三人だけ」と宣言しその通りになる「アウトロー」。マッカリー監督のアクション演出というのは脚本家出身なだけあって極めてロジカルに構築されたシークエンスであり、この2シーンからもわかるようにその (説明的ではない) ロジカルでフレッシュなアクション演出が遺憾なく発揮されているのが「誘拐犯」だと思うんです。
ちなみにですね、徹底的にリアルでロジカルなアクションシーンだけが良いわけではもちろんな くて、この映画実は結構キャラクターの相関図が複雑な映画なんです。登場人物自体は決して多くないんですが、実はこいつとこいつが親子でとか、不倫関係でとか裏の人間関係がよく見ると わかるようになっています (決して説明的ではなくさらっと描かれてます) 。そういう人間関係がわかった上で見直すとより深みが出るというスルメ作品なんで、「観たことあるよ」という人もぜひアクション映画がリアル志向に戻りつつある今もう一度観直して欲しい一本です。
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1988年京都生まれ
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小学校の頃、家から歩いて1分の所にレンタルビデオ屋がオープンしたのがきっかけでどっぷり映画にはまり、以降青春時代の全てを映画鑑賞に捧げる。2010年京都造形芸術大学映像コース卒業。
在学中、今まで見た映画の数が一万本を超えたのを期に数えるのをやめる。以降良い映画と映画の知識を発散できる場所を求め映画ジプシーとなる。