COLUMN

【川端安里人のシネマジプシー】vol.3 誘拐犯

MOVIE 2016.02.19 Written By 川端 安里人
今回紹介するのはクリストファー・マッカリー監督のデビュー作である「誘拐犯」という映画で す。最近のクリストファー・マッカリー監督の作品と言えば、トム・クルーズが実際に飛び立つ飛 行機に張り付くというジャッキー・チェン張りのスタントを見せた「ミッションインポッシブル ローグネイション」や、同じくトム・クルーズが人気ハードボイルド小説“ジャック・リーチャー シリーズ”を映画化した「アウトロー」がありますね。この辺はさすがに超メジャータイトルなので結構見ている人も多いんじゃないでしょうか。前回、前々回と連続で80年代の映画を紹介したので、さすがにちょっと最近の映画を紹介しないとなということで2000年の作品です。最近でしょ?最近ですよね?16年前?嘘でしょ?

誘拐犯

 

2000年周辺にヒットしたアクション映画というのをちょっと思い出して欲しいんですが、「チャーリーズエンジェル」やら続編が完成した「グリーンディスティニー」とかですね。この「誘拐犯」という映画は99年の「マトリックス」大ヒット以降、CGとワイヤーを多用した過剰 演出なアクション映画が大ブームになっていた時期 (もちろんこれは香港映画の監督や技術がハリウッドに急接近、影響を与えた時期とも言えますね) に公開され、そしてコケました。それはひ とえにこのマッカリーという監督の (地味と思われがちな) リアル路線のアクション演出が時代と合わなかっただけだと自分は思っています。なので今回「ローグネイション」とかの高評価に便乗して、制作から16年経った今改めて観直してもらって再評価したいなというわけで紹介します。
 

そろそろざっと「誘拐犯」のあらすじを説明したいと思います。この映画はその日暮らしの二人 組アウトロー、“ロングボー”と“パーカー”がとある金持ちの子を妊娠している出産間近の代理母を 誘拐して身代金をせしめようとすることから物語は始まります。しかしその金持ち、チダックは裏社会と通じており、代理母のボディガードやチダックが雇った“掃除人”たちに追跡されることになるという話です。

 

この「誘拐犯」という映画はハードボイルドや (現代版) 西部劇といったジャンル映画なんです。 自分は常々ジャンル映画というものはお約束を守り (そのジャンルへの愛情表現だと思います) つつも、いかにその枠内でフレッシュな事をするかが大事だと思っているんですが、この映画はそのフレッシュさにおいても素晴らしいと思います。
 
例えば前半、妊婦の誘拐に成功した “ロングボー” & “パーカー” 対ボディガードたちのカーチェイスシーン。カーチェイスといえば相手を振り切るために猛スピードで加速して関係ないパトカーが横転やクラッシュして…なんて事を想像しがちですが、「誘拐犯」では違います。裏路地に入って車を乗り降りしながら銃で牽制し合いつつ距離を引き離すという、なんと歩くよりも遅いカーチェイスが続くんです。

カーチェイスなのに足をついてるのわかりますかね?

こんなカーチェイスはこの映画でしか見られません。終盤の銃撃戦でも “掃除人” たち、特にリーダーであるジェームズ・カーン (「ザ・クラッカー」などの70、80年代に彼が演じたアウトローたちのその後を感じさせる演技が素晴らしい!) の射撃位置の取り方やら、お互いのリロードのタイ ミングに援護し合う主人公二人やら、身代金が置いてある噴水には〇〇〇が……などなど。過剰演出してナンボみたいだった00年代初頭に (00年にNo1大ヒットした「ミッションインポッシブル 2」の演出過剰なアクションシーンと見比べてみてください) よくもまぁここまで悪くいうと地味な、良く言うとガチな犯罪映画を作ったなと本当に見直すたびに驚くわけです。

そもそも二人組のアウトロー “ロングボー” と “パーカー” という名前自体が曲者で、この二人の名は アメリカンニューシネマの傑作「明日に向かって撃て」の主人公二人 ”ブッチ・キャシディ” と ”サ ンダンス・キッド” (二人とも実在のアウトロー) の本名です。その時点からしてこの映画が60年 代後半以降のバイオレンス映画のオマージュ、もしくはパスティーシュであるのは一目瞭然なわけです。実際にDVDなどの音声解説を聞くと、終盤にある娼館での銃撃戦のシーンなどで「ここはサム・ペキンパーを意識したよ」などと監督が解説しています。
  

ここでちょっとマッカリー監督の最近の二本の映画のアクションシーンも思い出してみましょう。ただ闇雲に逃走しているように見えた道筋が実は逆転勝利への軌跡そのものだった、という近年稀に見るほどの痛快な幕引きを見せた「ミッションインポッシブル ローグネイション」。五人のチンピラを相手に「三人倒せば残り二人は逃げるから実質戦うのは三人だけ」と宣言しその通りになる「アウトロー」。マッカリー監督のアクション演出というのは脚本家出身なだけあって極めてロジカルに構築されたシークエンスであり、この2シーンからもわかるようにその (説明的ではない) ロジカルでフレッシュなアクション演出が遺憾なく発揮されているのが「誘拐犯」だと思うんです。
  

ちなみにですね、徹底的にリアルでロジカルなアクションシーンだけが良いわけではもちろんな くて、この映画実は結構キャラクターの相関図が複雑な映画なんです。登場人物自体は決して多くないんですが、実はこいつとこいつが親子でとか、不倫関係でとか裏の人間関係がよく見ると わかるようになっています (決して説明的ではなくさらっと描かれてます) 。そういう人間関係がわかった上で見直すとより深みが出るというスルメ作品なんで、「観たことあるよ」という人もぜひアクション映画がリアル志向に戻りつつある今もう一度観直して欲しい一本です。

WRITER

RECENT POST

COLUMN
【シネマジプシー特別編】アンテナ川端、みなみ会館館長吉田の2017年映画ベスト
COLUMN
川端安里人のシネマジプシー vol.17 ナイト・オブ・ザ・リビングデッド
COLUMN
【川端安里人のシネマジプシー】vol.16 プリズナーズ
COLUMN
【川端安里人のシネマジプシー】vol.15 ジョニー・トーの食卓
COLUMN
【川端安里人のシネマジプシー】vol.14 モーターウェイ
COLUMN
【川端安里人のシネマジプシー】vol.13 ハイ・フィデリティ
COLUMN
みなみ会館館長・吉田由利香と、シネマジプシー・川端安里人の2016年映画ベスト5
COLUMN
【川端安里人のシネマジプシー】vol.12 ドニー・イェン
COLUMN
【川端安里人のシネマジプシー】vol.11 永遠のオリヴェイラ
COLUMN
川端安里人のシネマジプシー vol.10 ハリーとトント
COLUMN
【川端安里人のシネマジプシー】vol.9 座頭市
COLUMN
【川端安里人のシネマジプシー】vol.7 エクソシスト3
COLUMN
【川端安里人のシネマジプシー】vol.6 『ハンガー / 静かなる抵抗』
COLUMN
【川端安里人のシネマジプシー】vol.4 孤独な天使たち
COLUMN
【川端安里人のシネマジプシー】vol.2 オペラ座 血の喝采
COLUMN
川端安里人の2015年映画ベスト10+α
COLUMN
【川端安里人のシネマジプシー】vol.1 ゼイリブ

LATEST POSTS

COLUMN
【2024年11月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…

REPORT
『京都音楽博覧会』を糧に、可視化された京都のサーキュラーエコノミー-資源が“くるり”プロジェクトレポート

思わぬものが‟くるり”と変わる。それがこのプロジェクトの面白さ …

INTERVIEW
あの頃、下北沢Zemでリトル・ウォルターを聴いていた ー武田信輝、永田純、岡地曙裕が語る、1975年のブルース

吾妻光良& The Swinging BoppersをはじめブレイクダウンやBO GUMBOS、ペン…

COLUMN
【2024年11月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「東京のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」京都、大阪の音楽シーンを追っ…

REPORT
これまでの軌跡をつなぎ、次なる序曲へ – 『京都音楽博覧会2024』Day2ライブレポート

晴天の霹靂とはこのことだろう。オープニングのアナウンスで『京都音博』の司会を務めるFM COCOLO…