【川端安里人のシネマジプシー】vol.9 座頭市
京都の太秦にある大映通り商店街はご存知でしょうか。この辺りにもともと大映京都撮影所という、今はもうない映画会社のスタジオがあったんです。今回はその大映京都撮影所で撮られ、1作目の制作から半世紀以上経った今でも世界中で愛されているヒーロー、座頭市について書きます。
座頭市は00年代になってからリメイクや舞台化したり、はたまた人気漫画のワンピースにそっくりのキャラクターが登場して話題になったり、盲目のアメコミヒーロー『デアデビル』がアメコミ座頭市って呼ばれたりしているんで、シリーズを見ていなくても名前を聞いたことがある人も少なくないのでは?自分はこのシリーズ本当に本当に大好きで、みなさんにもぜひオリジナルの勝新太郎主演による座頭市 (映画26本、ドラマシリーズ100話) を1本くらいは見て欲しいんですよね。国宝級の娯楽映画なんで。
座頭市のひととなり
座頭市を知らないという方のために、まずはその魅力を人物という視点から説明しましょう。
まず彼は目が見えません。そして居合斬りの達人です。悪人を始め、落ちてきた硬貨から柱まで仕込み杖でなんでも斬ります。しかし職業は按摩さんで関東を中心に全国フラフラしながら宿なんかでマッサージをして着の身着のまま生活を送っています。さらに彼は無類の博打好きで、「サイコロには目がねぇもんで」「お前もともと見えねぇじゃねぇか」なんてやりとりはもはやお約束。イカサマも上等で、夜な夜な賭場に出かけてはヤクザのイカサマを見破ったり、逆に稼いだりと楽しんでいます。そしてなんと凶状持ち、今でいう指名手配犯で、賞金欲しさに襲われるのは日常茶飯事……もちろん居合切りで返り討ちにするんですが。
ここまでは座頭市の外見のお話。座頭市の内面の話に移ると、彼は元々居合を目あきにバカにされないようにというコンプレックスから修行を積んでいます。しかし居合の天賦の才ゆえにシリーズ最初の4本において親友、兄、師匠を斬るはめになり、最愛の人おたねさんと悲劇的な別れを経験。その結果、「俺は人を不幸にする、俺みたいなヤクザ者は幸せになってはいけない」という悲観的な考えを持つことに。でもだからこそ、虐げられ苦しんでいる人には人一倍優しく親身に協力するし、非道な行いをする者、仁義に反するやつは絶対許せない。そんな本心をニコニコフェイスで隠しながらあてもなくさまよっている男が座頭市なんです。
座頭市オススメの一本
もちろん、シリーズ1作目の大傑作『座頭市物語』から順を追って見てもらうのがいいんですが、とりあえず何か1本だけという人にオススメなのはシリーズ12作目『座頭市 地獄旅』がオススメです。
船から落ちかけたところを助けてもらったのがきっかけで十文字という名の浪人と知り合い、ともに旅することになった座頭市が旅先で喧嘩に巻き込まれて破傷風にかかってしまった少女、そして親の仇を探して旅を続ける兄妹を助けるために奮闘する。
そんな話なんですが第二次大戦前の日本映画黎明期から活躍していた伊藤大輔が脚本を書いているからか、これぞ日本映画!と言いたくなるような魅力がぎっしり詰まっています。
居合切りで敵を返り討ちにすることは容易くても、すぐそばに落ちている大切な薬箱をなかなか見つけることができないシーンなどにハンディキャップを持った座頭市というキャラクターでしか描けない緊張感、哀愁が見て取れるはずです。
また、成田三樹夫さん (あの松田優作が敬愛した俳優) 演じる剣の腕は超一流だけど将棋大好きで異様に勝ち負けにこだわるちょっとサイコな浪人、十文字糺を始め登場人物も皆魅力的ですし、「ありがとう」というシンプルな言葉がここまで美しく感動的に響くものなのかと見返すたびに泣きそうになるシーンもあり、見返すたびに興奮と感動、そしてユーモアのつるべ打ちの1本になっています。
We love Zatoichi!
もともとは『ふところ手帖』という本の中に書かれた20ページにも満たない短編が元になっているんですが、ドスを仕込み杖に変えたり、座頭市独特の逆手斬りといった、キャラクターの肉付けに関しては全て主演の勝新太郎によるものです。合気道の開祖、植芝盛平に享受してもらって目をつぶった状態での殺陣をマスターしたという有名な逸話もあります。その辺りの勝新伝説を詳しく知りたかったら『天才 勝新太郎』や『カツシン』という漫画にもなっているので読んでみるのも良いかもしれません。
さて、そんな座頭市シリーズ。世界中にファンを持つシリーズでして、有名どころだとキューバのカストロ議長が大ファンだとか。他にもブルース・リーがリメイクを切望したとか、ジャッキー・チェンが映画内でモノマネしたり、実はアメリカでリメイクされています。イタリアのメタルバンドに至っては曲を作っちゃうなど「Zatoichi」はもはや世界共通語な訳です。
「時代劇はオヤジ臭そうで見たことない」、「何から見たらいいのかわからない」、と少し敬遠がちな人も多いはず。以上のことから自分はその入門編として座頭市をおすすめします。座頭市特有の愛嬌と哀愁に、弱きを助け強きを挫くという永遠のヒーロー性にきっとあなたもハマるはずです。
WRITER
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1988年京都生まれ
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小学校の頃、家から歩いて1分の所にレンタルビデオ屋がオープンしたのがきっかけでどっぷり映画にはまり、以降青春時代の全てを映画鑑賞に捧げる。2010年京都造形芸術大学映像コース卒業。
在学中、今まで見た映画の数が一万本を超えたのを期に数えるのをやめる。以降良い映画と映画の知識を発散できる場所を求め映画ジプシーとなる。