【作家センセーショナル】第1回:micro空洞
こんにちは、アンテナ編集長の堤です。
前回の山本アキヒサさんに上杉創平君という人物を紹介いただき、彼にもアンテナでコラムを書いてもらうことになりました。山本さんともまた違った視点でこれからどのようなアーティストを紹介いただけるのかこちらもとても楽しみです。
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僕は自慢じゃありませんがひとりじゃ何もできません。誰かの何かを感じることができて、ようやくそこに僕ができます。僕の1を、10にも100にもしてくれる、そんな人たちのお話ができればと思います。
micro空洞
「ドキッ、きゅん、ゾッ、をいっぺんに。」をテーマに、主に歯をモチーフに医療イメージを取り入れながらアクセサリーを制作している。
[2013.09] SQUAT 梅小路公園
[2013.11] webショップオープン
[2014.03] 前衛派珈琲処 マッチングモヲル(東京)と路地裏3坪雑貨店(きょうと)で委託販売開始
[2014.06] 暗黒少女展vol.3 出展
[2014.08] 大阪眼帯アリス 出店
[2014.09] アーティズムマーケット出店予定
[2014.11] けやき100選マルシェ 京都
[2014.11] Tezukuri Ichiba期間限定ショップ 梅田OPA
[2015.03] アーティズムマーケット東京都立産業貿易センター
■official HP
何故micro空洞を取り上げるのか、級友として作家として、僕たちの年代ではずば抜けて気になる人がいる。彼女は確実に、他とは違う。でもその繊細さは特別であると同時に誰もが持ち得る。そんな彼女の魅力を知ってほしい。
micro空洞が販売を開始したのは2013年9月7日~8日に梅小路公園で開催された京都市立芸術大学芸術祭展示企画SQUATの物販である。元々彼女はmicro空洞のアイコンとも呼べる「歯」での制作を同時期に始めている。
「歯」に彼女が興味をもつに至る一つに、食への執着がある。食べることがストレス発散といわんばかりによく食べる。食堂のふわふわオムライスと王将のチャーハンとサーモンとチーズが彼女の好物だ。大学に入学してからの制作は食事にまつわる物が多い。
樹脂で作られたオムライス。エイリアンのチェストバスターのような、人間の口内をそのまま取り出した見た目のパペットでは、咀嚼音という歯から生まれる生の音の表現を。制作展では100を超える数のカップケーキ模型を……これがまたリアルに表現した口元がそれぞれについており、ひとつひとつ煙草をくわえたりニキビがあったり、歯の刺さった歯茎のカップケーキもいた。micro空洞はその製作を経て、初めは無意識であったが徐々に「歯」というアイコンに向き合うようになったのである。それは愛着、にも近いものであったかもしれない。
歯と彼女の付き合いは歯の根のように意外と深い。幼い頃の歯の矯正に始まり、親知らずを含めて5本も抜歯経験がある。歯は抜いたり生えたり、生え替わる唯一の骨だ。髪や爪は身体から離れてしまえばゴミになってしまうが、歯はさっきまで自分の一部だったのである。知人の親知らずを貰うこともあった。持ち帰って、商品の型として実際に使用する。ここに身体をまるで切り売りしているような、そんな倒錯感を感じる。
micro空洞の飽くなき発信力は、自分の一部だった物をそっと渡してゆくような、ある種の自己犠牲、奉仕精神ではなのではないだろうか。サービス精神はショップとしての最低限条件だ、と彼女は語る。商品を作品としてみせる演出や、学生の個人販売を超えた丁寧な梱包の付加価値。そうして見えない物を見せることも彼女の作品性に含まれるだろう。
彼女の話を聞いていて気になったことがある。「有名になりたかった。」という言葉だ。Twitter上で1000人以上のフォロワーを持つ個人アカウントは全体の20%以下だと言われており、彼女は今年の6月末にはそれを達成している。以降も順調にフォロワーの推移は上がっており、もうまもなく1300を超えるところである。
第一印象でグロい、怖いで終わらせてしまうより、作品としての門を広く構え、多くの人に中まで入ってきてもらいたいという願いがそこにはあった。販売イベントでのリアルな反応として、シンプルな歯のアクセサリーばかり売れることに悔しさを覚えていた。見た目で終わってしまい、中まで見てもらえない悔しさ。よりわかりやすく、外だけで終わらないものをつくりたい。そうしてそれはmicro空洞の原動力になっていく。
それに対してオンライン通販上のmicro空洞の客層は意外と偏りがない。RTプレゼント企画のフォローアカウントを辿ってみると、アングラにも振りきらず、ハンドメイドブーム層に寄るわけでもない。彼女とまた同じように歯を近いものだとシンパシーを抱く人が多いのだ。
誰にでもあるような普遍的サイクルである歯。一見すると個人的にみえるそれも個人的ではない誰にでも起こりえる心理だということを気付いてもらいたい、というのがmicro空洞の思いだ。有名になりたいという気持ちが付きまとうのは誰しもそうであるが、彼女はその承認欲求の上をいき、他人からの評価を大切にし、それを踏まえた上で「歯」というアイテムのポジティブキャンペーンに努めているのである。
micro空洞にとって歯というものはグロテスクであるというバイアスは初めからなかった。奇をてらった世界観が好きなわけではない。その作品性は歯が内に秘めるエレガントさを引き出すことに努めていて、むしろ彼女的には「グロかわ」という言葉ではサブカルの中では普遍的過ぎて発展がないと話す。物作りをする上でのサブカル層女子の流行に興味をもち、マーケティングも測っている。micro空洞が目指す地点へゆく過程で集まるその要素たち。束ねられた先、ここから何が拝めるのだろうか。
WRITER
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京都市立芸大総合芸術学科総合芸術学科二回生。いまを生きております。
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人を繋げるものに興味をもって、研究をし、たまに文と絵をかき、遊んでもらってます。