
音楽が好きな人の気持ちを後押しする 町の小さなレコード屋〈cuune〉
福井県にあるレコード、CD、カセット、古着を取り扱うセレクトショップ〈cuune〉。住宅地にひっそりとたたずむこの店には、日本・海外の新譜レコードや北陸出身バンドの音源などが並ぶ。
デジタル配信が主流となり、実店舗が減少する今、大谷さんはなぜこの地でショップを運営するのか。そこには音楽との偶然の出会いを大切にし、福井の地で新たなシーンを育てたいという思いがあった。誰かの心を動かし文化をつなぐ場、〈cuune〉が果たす役割を探る。
同店はANTENNA / PORTLA編集部が事務所をかまえる〈A HAMLET〉(京都・亀岡)で3月1日(土)、2日(日)に開催される『次の電車がくるまで』に出店が予定。気になった方は、ぜひチェックしてみてほしい。
cuune
住所 | 〒910-0018 |
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取扱商品 | レコード・CD・カセットテープ・古着 |
月・水・金 19:00~21:00 |
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SNS | Instagram:@cuune_fukui |
金沢の大学で・大学院でプラスチックなどの高分子材料の研究を行っていた大谷さん。「当時は研究者としての道に進みたかった」と語っていた彼が、音楽と関わることになるターニングポイントは大学院一年生の時だった。
「大学院一年の時、はじめて行ったライブイベントに平賀さち枝さんやHomecomings、地元のnoidややまもといったバンドが出演していました。そこで『インディーという音楽がある』『地元にもこんな良いバンドがいるんだ』ということに衝撃を受けて。その日、ライブ会場でCDを買って聴き始めると、もう止まらなくなっちゃって」
「そこからライブに通うようになりました。ある時にライブを観るために名古屋まで足を伸ばしていて。その時に出演していたラッキーオールドサンの篠原(良彰)さんに自分が金沢から来たことを伝えたら、『〈メロメロポッチ〉(※以下、メロポチ)※でライブしてみたいんだよね』と相談されたんです。金沢に戻って、そのことをはじめて行ったライブイベント「day to day」主催の浦山さんに話すと『それなら大谷くんが〈メロポチ〉でイベントやりなよ』と言われて。音楽に触れるようになって1年くらいで自主イベントを開催するにようになりました」
※メロメロポッチ:金沢市にあるライブ喫茶。もともとは 近江町市場にあったのだが、2020年へ古府町へ移転。

こうしてイベントを開催した大谷さん。その後、大学院を卒業し、東京へ就職。毎週末、ライブハウスに通う日々を送っていたが、2年ほどで地元・福井県に戻ることに。
「ライブに行くと、バンドマンの方々から『北陸でライブしたいが、誰にお願いしていいのかが分からない』という話を聞くことが多くなりました。だから半年に1回くらいのペースで、東京に住みながら〈メロポチ〉でイベントをしたんです。それをやるうちに『仲間たちと一緒に関わりながらイベントやっていきたい』という思いがどんどん強くなってきて。
それに北陸ではnoidや〈メロポチ〉の周りには自分が好きなインディーのシーンみたいなものがありました。でも地元の福井にはTago&Magosやvivid branchはいたものの、そう呼べるほどのバンドは少ない印象でした。だから自分がイベントをやれば、何かシーンみたいなものを起こせるかもしれない。そういう考えもあって、仕事を辞めて福井に帰ってきました」
新しい“何か”が生まれる場所としてのレコード店になりたい
こうして地元の福井に戻ってきた大谷さん。福井に帰ってくると「気が合うと思うよ」と知り合いから紹介されたのが、編集・企画・出版までの業務も行う福井の本屋〈HOSHIDO〉だった。
「元々福井に戻ってもお店をやるつもりはなくて、音楽イベントだけをやろうと思っていました。そんな時に〈HOSHIDO〉の店主さんに『店でCDコーナーを持ってみないか?』とお誘いを受けたのがCD屋をはじめたきっかけです。イベントはできても半年に一度ぐらいで、場所を持っている方が自分の好きな音楽をもっと届けられるかもしれないと思ったんですよね」
その後、JR福井駅から徒歩約20分ほどの田原町で2022年8月に〈cuune〉をスタートさせた。福井県にはタワーレコードのような全国チェーンのCDショップはなく、音楽に触れられる場所も限られているそうだ。そんな町にある〈cuune〉には普段どんな人が来るのか聞いてみた。
「普段来店されるのは、ほぼ20代の方ですね。近くに福井大学があるのですが、学生でも軽音部をやってないけど音楽が好き、という子たちが来ている印象です。この前は高校生がお年玉でAcetone(アセトン)のレコードを買ってくれたんですよ。その子はお母さんと来てくれていたし、赤ちゃん連れのご家族なんかの来店もあります」
店内を見渡すとBelle and Sebastian(ベル・アンド・セバスチャン)、Snail Mail(スネイル・メイル)などの海外アーティストから、Homecomingsやはっぴいえんど、幽体コミュニケーションズなどの邦楽アーティストのレコードまで、新旧問わず並んでいる。またCDの棚を見るとCISSEやnoidなど北陸を拠点にするアーティストの作品も散見された。
「商品を仕入れる基準は、『自分がときめくかどうか』ですね。例えばインディーポップやオルタナティヴのCD・レコードが多いです。あとアンビエント・フォークっぽいものもあったりします。値段が付いていないものは私物なのですが、僕のルーツをわかるような作品を置いています」

ネットで音楽に出会えて、そのまま購入できる時代。限られたラインナップのみが並ぶレコードショップは、決して便利とは言えないだろう。しかし丁寧に書かれたポップは「偶然の出会い」を生んでくれるし、偶発的な出会いが自分の聞く音楽の幅をぐっと広げてくれるはずだ。だからこそレコード屋は魅力的で高い価値があるのだと筆者は思う。ストリーミング全盛のこの時代にお店を続ける魅力と、その理由を伺った。
「お店に来てくれた方とはお話しをすることが多くて、2時間くらい話すことも多いです。話の中から好きなものを見つけたり、ここで知った音楽に感化されて何かが芽生えて、新しいことを始めてみよう、と思ってもらえたらいいなとよく思っています。自分がHomecomingsのライブに衝撃を受けた時のようなことを、お店でも、イベントでも感じてもらえたらという気持ちが強いですね。
特に北陸ではカルチャーにまつわるお店がまだまだ少ない状況なので、レコード屋に限らないんですが、そういうお店が一つでも、二つでも増えてくれたら良いなと。それぞれのお店にファンがついて、それぞれのお店に通い合うような状況が生まれるのが理想です。カルチャーを好きな人の母数が増える、ということじゃないですか。増えた母数の友達同士がそれぞれのジャンルのものに興味を持つことで、全体で盛り上がっていく。そんなことが北陸で起こる火種として、このお店は続けていきたいです」
「〈cuune〉は自分の好きなことをやるためのお店です。人が来なくて、心が折れそうになる時ももちろんあります。それでも続けられるのは、新しいお客さんとの出会いや、音楽の話で盛り上がる楽しい瞬間がたくさんあるからなんです」
自分がハブとなり人と音楽を結びつけていく大谷さん。誰かと楽しみを分かち合うだけでなく、自分の力で誰かの気持ちを動かすことにも生き甲斐を感じているように思えた。そしてそれこそが〈cuune〉を続ける原動力であるようにも感じた。
〈cuune〉は〈A HAMLET〉(京都・亀岡)で3月1日(土)、2日(日)に開催される『次の電車がくるまで』に出店が予定されている。最後にどんな商品を持っていくのかを教えてもらった。
北陸のバンド、例えばCISSE、やまも、noid、Tago&Magos、April After All、GeGeGeなどの作品を持っていこうと思っています。

次の電車がくるまで Vol.4
日時 | 2025年3月1日(土)、3月2日(日) |
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場所 | A HAMLET |
出店 | 【レコードショップ】 Staghorn Records(仙台) @staghorn_records cuune(福井) @cuune_fukui
【書店】 ANTENNA / PORTLA編集部 @antenna__mag Sands
【フード】 VINOGRAD(ナチュラルワイン / 亀岡)※3/1のみ @vinogradjp comenaka haus(「循環」をテーマにしたオーガニックレストラン / 亀岡) ※3/1のみ @comenaka_haus Camphora (自家培養天然酵母(サワドー)のみで発酵させたパンと厳選された材料で作られた焼き菓子 / 京都)※3/1のみ @camphora_kitchen パルメラ(酒に寄り添う料理と菓子 / 京都)※3/2のみ @palmela_kyoto フレく(カクテルバー / 京都)※3/2のみ @cocktail_stand_furek 星の球 (羊肉や羊乳テーズを使ったおつまみ)※3/2のみ mucho coffee (コーヒー / 京都)※3/2のみ
【アパレル】 SOME(古着 / 名古屋) @some_nagoya
【音楽】 🎧両日 丹波音響(DJ / 亀岡) @tamba_audio 🎤3/1出演 いちやなぎ @ichiyanagi_info 地球から2ミリ浮いてる人たち @from2earth 🎤3/2出演 高山燦基 @cha_cha_819 中村響太郎(モラトリアム) @kyotarock @moratorium_band 船木翔(ロブスター) @lobster0725 北里有(Akane Streaking Crowd) @tyhfbv @streakingcrowd
【映画】 unknown cinema ※3/1のみ @unknowncinema_kyotobase
【その他】 民具BANK(民具の展示やワークショップ / 亀岡)※3/1のみ @mingu.bank MISENOMA(ヴィンテージインテリア雑貨や民窯の器 / 亀岡) @misenoma にしだ道具展(竹細工 / 亀岡) @nishidadouguten 小西景子(シルクルクシーン / 亀岡) @konishi_keiko ALICE OZAWA (.A) (似顔絵・ZINE / 亀岡) @dot_a_art リバー!リバー!リバー! souvenirs & BnB(街案内 / 亀岡)※3/2のみ @rrr_souvenirs_bnb
【A HAMLET振興会】 |
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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