感情が技術を上回る日 – 『“ステエションズ ” 2nd Album “ST-2” Release Party』ライブレポート
時に音源とライブでその印象がガラッと変わるバンドがいる。僕はそういう経験をもう何度もしているが、今回のステエションズのライブはその印象が特に強かった。感情が技術を上回る、そんな光景を目の当たりにしたのだから……。
5月17日に大阪・梅田のライブハウス〈シャングリラ〉で開催された『“ステエションズ ” 2nd Album “ST-2” Release Party』。出演したのはmonomouth、um-hum、ペペッターズ、そしてステエションズ。詳しくは私のレビューを読んでほしいが、『ST-2』は変拍子や転調等、技巧的な要素を詰め込みながらも、それをリスナーに気がつかせないポップな仕上がりの作品であった。それもあってかステエションズが対バンに選んだ3組はどれも技巧派でありながら、それを感じさせないバンドばかりであった。
技術を熱量へ変換するバンドmonomouth
Sakata Yoshihiro (@yoshrum)
この日、トップバッターを務めたのは大阪を拠点に活動する4人組バンドmonomouth。今回が彼らにとって2回目のライブであるとのことのだが、ライブ冒頭でいきなりジャムセッションを披露し、セッション力の高さを観客に見せつける。その後、“無色透明”、“OSC”などまだ出来たての状態でありながら、すでにその楽曲の見せ方を熟知してるかのように、ドライとエモーショナルを使い分け、ライブハウスを盛り上げる。
サックスとキーボードを中心としたサウンドに変幻自在なリズムアンサンブルや転調への対応など、どれだけ難しくてもサラッとこなしていく彼ら。しかし演奏技術だけでなく、その技術を自身の熱量として変換していくのも彼らの特徴だ。ラストを飾った細かいパッセージが連なるスピード感溢れる“unreal”では、充実したテクニックを見せつけながら終盤にはエモーショナルに高めていき会場を圧倒。関西にまた一つ面白いバンドが出てきたな、そう思わせるライブであった。
圧倒的なテクニックで自由を生み出すバンドum-hum
Photo:キッシー(@kissy4242)
次に登場したのは、結成1年足らずで関西最大級の音楽コンテスト『eo Music Try 19/20』にてグランプリを獲得した、大阪発プログレッシブR&Bバンドum-hum。ヒップホップやソウル、ジャズ、オルタナティブロックなどをミクスチャーさせたサウンドと同バンドのアイコン的存在である小田乃愛(Vo)の低音から高音まで自由自在に操るボーカリングとダンス等を組み合わせた身体表現が魅力的なバンドだ。この日は“Plastic L”、“Dachs hund”と、まだ音源未発表である2曲を立て続けに披露。的確にコントロールされたサウンドと小田のサウンドが作り出す波を遊泳するかのような身体表現が見事にマッチし、会場を踊らせていく。
このバンド、小田もステージングも素晴らしいが、わきを固めるドラム、ギター、ベースの個々の技術力の高さが異常だ。変拍子を入り混ぜたフレーズでもさらっと何事もなく演奏していくだけでなく、ボーカルのこまやかな動きにも臨機応変に対応する。だからこそ、小田は自由にum-humの音楽を表現できるのだ。その関係性はジャンル的には全く違うのだが、トリプルファイヤーにも近い印象を受けた。終盤にはこの日デジタルリリースされたばかりの“U-MOON”も披露。確かな技術力とそれを信頼するボーカル。それがum-humの魅力であると感じた。
変革の兆しを感じさせるペペッターズ
Photo:原田昴(@shohnophoto)
トリ前を飾ったのは神戸出身の3ピースバンド、ペペッターズだ。ANNTENAでもかつて取り上げたことのあるバンドだが、彼らもまたステエションズ同様で複雑さをもちながらも、それを感じさせない音作りが特徴的だ。例えばこの日のライブでも演奏された“Mirabel”ではボーカルが4ビート、演奏が8ビートで進行し、“jezero”ではビートが違うフレーズをパッチワークのように当てはめる。しかし異なったビートが並走したり、コロコロと変ったりしても、絶妙なテンポキープと広村康平(Vo / Gt)のナチュラルかつスムーズなボーカリングにより、スルっと耳なじみのいい楽曲になるのだ。
ただ彼らにとって「この複雑さを平易にみせる」ということはもはや軸ではなく、特徴の一つになったのかなとライブを見て感じた。昨年リリースされた“furniture”が音源での複雑さを削ぎ取り、とてもシンプルなアレンジがなされており、今までのペペッターズとは違う側面も見せてくれたからだ。それは、もしかしたら今までとは違った彼らの姿が観れる日も来るのではと予感させてくれる演奏であった。
と、全てのバンドに共通し、高度な技術を持ちながらそれを楽曲・パフォーマンスへ昇華し自らの色にしているバンドばかりであった。当然、ステエションズに関してもそのことは当てはまる。当てはまるのだが、今回のステエションズはそれだけでは収まらなかったのだ。
卓越した技術を上回る感情で会場をくぎ付けにするステエションズ
Photo:キッシー(@kissy4242)
円陣を組み、気合をいれてからのライブスタート。“LOVE”からはじまり、“OX”、“YOUTH”など2ndアルバム『ST‐2』のナンバーを披露していく。虎太朗(Dr / Cho)の変拍子にも難なく対応する切れ味のあるプレイ、 繊細ながらもさまざまなパッセージを弾きこなすGAL(Key / Cho)、そして力強くボトムを支えるCHARLIE(Ba / Cho)。メンバーそれぞれの技術が秀でていることは言うまでもないが、その技術を凌駕するくらいCHAN(Vo / Gt)の歌は圧倒的すぎる。 彼女の歌は表情を持っている。音源でも気づいていたがライブになると、より彼女の歌声の解像度が上がり、喜怒哀楽すべての感情を声でもってダイレクトに観客へと伝えてくる。
“YOUTH”では喜びを全面に出しながら、“SCHOOL”ではダウナーながらも優しくすべてを包み込み、ラストに披露した“SEPARATE”では哀しさと怒りの感情を内包させながら歌い上げていく。さらにCHANの書いた詩を自身で朗読する場面では、感情を込めながら哀しさと優しさを交互に紡ぎ、まるで劇のワンシーンを観ているようなそんな印象すらあった。同時にこのCHANの感情を上手く引き出し、増幅させて観客に届けるため虎太朗、GAL、CHARLIEは必要不可欠な存在であるように思う。アンコールで披露された“LUCK”では、特にそのことを強く印象付けた。終盤にかけてCHANの歌声がどんどん激しさを帯びていき、それにつられてバンドの演奏もエモーショナルに加速。会場にいた観客が徐々に彼・彼女たちのステージからくぎ付けになっていく場面はまさにこのライブの白眉であると感じた。
「夢だったんです、この光景で歌うことが」
この日、CHANが〈シャングリラ〉の観客に向かいこのようなことを語った。ステエションズは常にライブで確かな技術と圧倒的なエモーショナルを叩きつけ、観客の心を鷲づかみにしてきた。だからこそ、大勢の観客の前で今日という1日を迎えられた。だが、このライブを観て、私は近々ステエションズはさらに大きな舞台で歌うと確信した。確かにそう断言するのは早計かもしれないが、この日のステエションズは無敵以外の何者でもなかった。2023年5月17日は夢のような1日であったかもしれないが、今後も今日以上の夢のような日々が彼、彼女たちには続いていきそうだ。
ST-2
アーティスト:ステエションズ
発売:2023年5月10日
価格:¥2,500(税込)
フォーマット:CD / デジタル
収録曲
1.YOUTH
2.SEPARATE
3.MINUS
4.OX
5.LOVE
6.PHEW
7.QUPE
8.LUCK
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WRITER
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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