変わらずに歌い続けた空想の世界
「あ、くつしただ」
本作を最初に聴いた印象はこれであった。京都を拠点に活動する3人組バンド、くつしたが6年ぶりに最新アルバム『コズミックディスク』をリリースした。結成当初は“RAMONESとPUFFYの間をめざす”と公言し、1stアルバム『WAO!!!』(2015年)では無骨ながらも切れ味のいいギターサウンドとMIO(Gt / Vo)のシンプルだがよく通る歌声によって、重機が岩山を切り開くかのような勢いで押し切る楽曲群が魅力的であった。そこから次作の『きのうみたゆめ』(2016年)はニューウェーブ、ロックンロール、フォークといったジャンルも吸収しながら、勢いを残しつつも時にチェンジアップを投げるかのごとく、緩急を上手く操る作品となった。
そして本作においては決して勢いだけで押し切るようなことはせず、例えば“日なたの毛なみ”、“sides story”などでは、ローファイながら落ち着きと豊かさを感じさせる。そのサウンドには重機で岩山を切り開いていたあの頃のくつしたではない。また楽器のバランスも調整されており、『WAO!!!』の頃の無骨さが洗練されて、もはや勢いで突き進むのではなく、自身をコントロールさせながら一つの作品を作り上げようとしている。だが当然、変わらない部分もある。そしてそれこそが私の感じた「くつしたらしさ」なのだ。
くつしたは夢とか希望を語らない。語るのは自身の想像である。『WAO!!!』だと高校球児のような青春時代を夢想した“八月のうた”や、想像上のイスタンブールを歌う“イスタンブールMANBO”。『きのうみたゆめ』だと表題曲である“きのうみたゆめ”も最後に〈全部ウソだった〉と歌い、全て空想の話であると独白する。それは本作でもそうだ。スマホの画面越しに以前行った台湾旅行を思い出す“再見”や、まるで1950年~60年ごろにRoger Corman(ロジャー・コーマン)が制作した映画を脳内で作り出したかのような“たのしくない”など、想像の話を変わらず歌にしている。
空想を歌い続けるくつした。そして彼・彼女たちの空想は創作のモチベーションとイコールで繋げられる。同封されたライナーノートを読むと“たのしくない”はMIOの職場での経験にメルヘンを足して、想像の話に落とし込んだと語っている。また台湾での思い出を歌にした“再見”も、この後コロナ禍となり海外旅行が困難になったことから考えると、画面越しに思いをはせる行為は「行きたくても行けない」という状態からくるものだともわかる。くつしたは現実の苦境を空想という形で昇華し、歌にする。そういう意味では辛さの度合いは違えど、どんなに苦しい状況でも空想の世界でミュージカル・スターとなり自己を救済しようとした『Dancer in the Dark』(2000年)でBjörk(ビョーク)が演じたセルマに似ているような気がする。サウンドは変化しても、歌う内容は今も、昔も、変わらず。空想こそ、くつしたの「らしさ」なのだ。
コズミックディスク
アーティスト:くつした
発売:2022年11月11日
価格:¥1,500(税込)
フォーマット:CD
収録曲
1.AYARAGIビーチ
2.Bモンブラン
3.再見
4.Rside story
5.日なたの毛なみ
6.たのしくない
7.コズミックスペース
販売
https://soxband.base.shop/items/68811437
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WRITER
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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