REVIEW
アルバム第二集
台風クラブ
MUSIC 2023.03.15 Written By マーガレット 安井

逃避から対峙へ、孤独と絶望を抱えながらも前進するロックンロール

台風クラブの音楽は孤独である。こんなに明朗で、人なつっこいロックンロールを鳴らしているのに、一人の男が特に何をするわけでもなく、淡い希望を抱きながら生きている。もちろんその傍らには寂しさや悲しみはあるが、男はそれに見向きもせず、いや気づかないフリをしているだけなのかもしれないが、今という時間を楽しんでいるように思える。

〈誰も居ない シーンとしてる/いつも通りの夜道に/たったひとり 期待してる/自分勝手な幽霊が/ほんの少し甘い夜を食んでいる〉“まつりのあと”

1stフルアルバム『初期の台風クラブ』(2017年)発表当時はそんな「孤独なれど、今を楽しむ」という部分に、当時孤独であった私はおもしろみを感じていた。だが時間というのは残酷で、コロナ禍になり、自身のライフステージも変わった。毎日これまでとは違った不安を感じながら、汗水たらし働いていると、「孤独なれど、今を楽しむ」よりも、その傍らにある「寂しさ」「悲しみ」のほうに目が行ってしまう。むしろ台風クラブの音楽は「寂しさ」「悲しさ」に向き合うことができず、ただ現実逃避しているように聴こえてしまっていた。もちろん現実逃避をする音楽が悪いわけではない。だが「台風クラブは自分自身と向き合えているのか?」という疑念が浮かび、次第に彼らの音楽を聴かなくなっていった。

 

季節が過ぎて2023年。2ndフルアルバム『アルバム 第二集』がリリースされたので、久しぶりに彼らの音楽を聴いた。“へきれき”、“抗い”、“道草”の3曲以外は過去にシングルやライブ特典音源として発表されているが、再ミックスが施されている。すでにリリースしてきたものを中心にアルバムをまとめていくスタイルは『初期の台風クラブ』と同じスタンスである。またサウンドに関してもいなたいギターの音色と乾いたビートで、2トーン、パワーポップ、ロカビリー、R&B……などあらゆるロックスタイルを吸収。前作の“まつりのあと”でみせた山下達郎オマージュのごとく、本作でもドイツの作曲家であるメンデルスゾーンの“結婚行進曲”を”とんがりブーツ”で堂々と使うあたりなど、前作と変わらぬよさがある。

だが例えばベースやドラムの音がクリアになり、主張がはっきりとした音作りや、サウンドに埋もれずボーカルが聴き取りやすくなっている点は大きな変化だといえる。そしてなにより、最大の変化は歌詞だ。前作に感じられた「逃避」ではなく「自己との対峙」に比重が置かれている。1曲目の“野良よ!”はラウドで性急なポップパンクナンバーだが、その歌に以前の浮ついた姿はみじんもない。あるのは喪失とわだかまりを持ちながらも、あがいていく男のポートレートだ。

〈うるさい馬鹿笑いで/青い鳥逃げちまった/手をかざして目を凝らして/生かされるままのザマをみる〉 “野良よ!”

また〈やぶれかぶれでここに生きている/その場しのぎのその日暮らし/期待外れのおれの景色にも/ちょっとばかりの夕日が射せば〉と歌われる“日暮し”の歌詞からわかるように本作には石塚淳(Vo / Gt)の失意とジレンマがにじみ出ている。前作から5年半の歳月で、石塚の身に何があったのかわからないが、確実に言えることは今まで目を背けていた孤独や絶望に、誠心誠意に向き合い、あがきながらロックンロールを制作した結果が、刻み込まれている。

 

だが同時に〈線路の下で夏を待つ/じっと生き延びる〉(“旅情”)や〈いつか来た道はつづいて/春になれば花散らして/まだここで生きていく〉(“なななのか”)のような歌詞からは、絶望や葛藤を抱きながらも、あきらめずに前に進もうとする姿勢は読み取れる。それはラストに“火の玉ロック”をもってきたことからもわかる。

いつのライブだったか、この曲を演奏する前に石塚は「もう解散してしまったバンドと、いつか解散してしまう俺たちに送ります」と言っていた。〈奴らがともした赤い火が/夕暮れに追い越してゆく〉と歌っている通り、自分たちと同じ土俵で時に戦い、時に励ましあったバンドたちの魂が次々と自分たちをを追い越していく。だが台風クラブはその肉体をもって、じっと待つ一本道にアクセルを突っ込んでいく。俺たちはまだ続けていけると信じながら。

 

アルバムを聴き終えて、自分でも驚きだったが「まだまだ頑張らないと」という気持ちに掻き立てられた。泥臭く、だけど前へと進むその姿勢は、成果はでなくとも社会であがく自分と重ねることができたからだ。もう一度、再生ボタンを押して “野良よ!”を聴きながら、私は根本 敬『因果鉄道の旅』のあの言葉を思い出していた。私たちが愛したあの言葉こそ、今の彼らには一番お似合いだ。

 

「でも やるんだよっ」

アルバム第二集

 

アーティスト:台風クラブ

仕様:CD / デジタル

価格:2,750円(税込)

発売:2023年2月22日(水)

 

収録曲

01. 野良よ!

02. へきれき

03. 下宿屋ゆうれい

04. 旅情

05. 日暮し

06. 道草

07. とんがりブーツ

08. 抗い

09. なななのか

10. 火の玉ロック

台風クラブ

 

京都発、”日本語ロックの西日”。 石塚淳(Vo / Gt)、山本啓太(Ba)、伊奈昌宏(Dr)の3人組。2013年に結成、2014年より現在のメンバーで本格的に活動を開始し、2017年に1stアルバム『初期の台風クラブ』をリリース。その後、 2018年7インチシングル『火の玉ロック』、2019年7インチシングル『日暮し』、2020年7インチシングル『下宿屋ゆうれい』、2022年7インチシングル『野良よ!』 と4枚の私家盤シングルをリリースし、2023年にはセカンドアルバム『アルバム第二集』をリリース。

 

Webサイト:https://taifuclub.com/

Twitter:https://twitter.com/taifuclub

WRITER

RECENT POST

INTERVIEW
全員が「ヤバい」と思える音楽に向かって – 愛はズボーンが語る、理想とパーソナルがにじみ…
REVIEW
THE HAMIDA SHE’S『純情讃歌』 – 京都の新星が放つ、荒々しい…
REVIEW
大槻美奈『LAND』-愛で自身の問いに終止符を打つ、集大成としての『LAND』
INTERVIEW
今はまだ夢の途中 – AIRCRAFTが語る『MY FLIGHT』までの轍
COLUMN
編集部員が選ぶ2023年ベスト記事
REVIEW
Qoodow『水槽から』 – 「複雑さ」すらも味にする、やりたいを貫くオルタナティヴな作…
REVIEW
The Slumbers『黄金のまどろみ』 – 先人たちのエッセンスを今へと引き継ぐ、昭…
COLUMN
サステナブルな理想を追い求めるバンド – (夜と)SAMPOが会社員でありながらバンドを…
REPORT
ボロフェスタ2023 Day2(11/4)- タコツボを壊して坩堝へ。ボロフェスタが創造するカオス
REPORT
ボロフェスタ2023 Day1(11/3) – 蓄積で形成される狂気と奇跡の音楽祭
INTERVIEW
物語が生み出すブッキング – 夜の本気ダンス×『ボロフェスタ』主宰・土龍が語る音楽フェス…
INTERVIEW
自発性とカオスが育む祭 – 22年続く音楽フェス『ボロフェスタ』の独自性とは?
REVIEW
てら『太陽は昼寝』 – 人間の内面を描く、陽だまりのような初バンド編成アルバム
REPORT
ナノボロ2023 Day2(8/27)‐ コロナからの呪縛から解放され、あるべき姿に戻ったナノボロ…
REVIEW
鈴木実貴子ズ『ファッキンミュージック』- 自分ではなく、好きになってくれたあなたに向けられた音楽
REVIEW
オートコード『京都』 – “東京”に対する敬愛が生んだ25年目のオマージュ
INTERVIEW
Nagakumoがポップスを作る理由 – 実験精神を貫き、大衆性にこだわった最新作『JU…
INTERVIEW
町のみんなと共生しながら独自性を紡ぐ。支配人なきシアター、元町映画館が考える固定観念の崩し方
INTERVIEW
つながりと問題のなかで灯を守り続ける – シネ・ヌーヴォの2023年
INTERVIEW
壁を壊して、枠組みを広げる映画館 – あなたの身近なテーマパーク〈塚口サンサン劇場〉とは…
REVIEW
ここで生きてるず“彗星ミサイル” – 愚直ながらも、手法を変えて人生を肯定し続けるバンド…
REPORT
坩堝ではなく、共生する園苑(そのその) – 『KOBE SONO SONO’23』ライブ…
INTERVIEW
僕らがフリージアンになるまで – リスペクトと遠回りの末に生まれたバンドの軌跡
REVIEW
パンクを手放し、自己をさらけ出すことで手にした 成長の証 – ムノーノモーゼス『ハイパー…
REPORT
感情が技術を上回る日 – 『“ステエションズ ” 2nd Album “ST-2” Re…
REVIEW
oOo『New Jeans』- 陰と陽が織りなすイノセントなセカイ
REVIEW
ステエションズ『ST‐2』 - 千変万化でありながら、それを感じさせない強靭なポップネス
REVIEW
揺らぎ『Here I Stand』- 型にはまらない姿勢を貫く、どこにも属さない揺らぎの一作目
REVIEW
くつした『コズミックディスク』 - 変わらずに歌い続けた空想の世界
INTERVIEW
経験の蓄積から生まれた理想郷 ー ASR RECORDS 野津知宏の半生と〈D×Q〉のこれから
REPORT
ボロフェスタ2022 Day3(11/5)-積み重ねが具現化した、“生き様”という名のライブ
REVIEW
ベルマインツ『風を頼りに』- 成長を形に変える、新しい起点としての1枚
REVIEW
ズカイ『ちゃちな夢中をくぐるのさ』 – ネガティブなあまのじゃくが歌う「今日を生きて」
REVIEW
帝国喫茶『帝国喫茶』 – 三者三様の作家性が融合した、帝国喫茶の青春
REVIEW
糞八『らくご』 – 後ろ向きな私に寄り添う、あるがままを認める音楽
REPORT
マーガレット安井の見たナノボロ2022 day2
INTERVIEW
おとぼけビ〜バ〜 × 奥羽自慢 - 日本酒の固定観念を崩す男が生み出した純米大吟醸『おとぼけビ〜バ〜…
INTERVIEW
僕の音楽から誰かのための音楽へ – YMBが語る最新作『Tender』とバンドとしての成…
INTERVIEW
失意の底から「最高の人生にしようぜ」と言えるまで – ナードマグネット須田亮太インタビュー
REVIEW
Noranekoguts『wander packs』シリーズ – 向き合うことで拡張していく音楽
REVIEW
真舟とわ『ルルルのその先』 – 曖昧の先にある、誰かとのつながり
REVIEW
ナードマグネット/Subway Daydream『Re:ACTION』 – 青春と青春が交わった交差…
REVIEW
AIRCRAFT『MAGNOLIA』 – 何者でもなれる可能性を体現した、青春の音楽
REVIEW
Nagakumo – EXPO
REVIEW
水平線 – stove
INTERVIEW
(夜と)SAMPOの生き様。理想と挫折から生まれた『はだかの世界』
INTERVIEW
自然体と無意識が生み出した、表出する音楽 – 猫戦インタビュー
REVIEW
藤山拓 – girl
REPORT
マーガレット安井が見たボロフェスタ2021Day4 – 2021.11.5
INTERVIEW
地球から2ミリ浮いてる人たちが語る、点を見つめ直してできた私たちの形
REVIEW
西村中毒バンド – ハローイッツミー
INTERVIEW
移民ラッパー Moment Joon の愚直な肖像 – 絶望でも言葉の力を信じ続ける理由
INTERVIEW
「逃れられない」をいかに楽しむか – 京都ドーナッツクラブ野村雅夫が考える翻訳
COLUMN
“水星”が更新される日~ニュータウンの音楽~|テーマで読み解く現代の歌詞
INTERVIEW
批評誌『痙攣』が伝える「ないものを探す」という批評の在り方
REVIEW
Nagakumo – PLAN e.p.
INTERVIEW
HOOK UP RECORDS
COLUMN
『永遠のなつやすみ』からの卒業 - バレーボウイズ解散によせて
REVIEW
EGO-WRAPPIN’ – 満ち汐のロマンス
REVIEW
ローザ・ルクセンブルグ – ぷりぷり
REVIEW
(夜と)SAMPO – 夜と散歩
REVIEW
羅針盤 – らご
REVIEW
竹村延和 – こどもと魔法
COLUMN
Dig!Dug!Asia! Vol.4 イ・ラン
INTERVIEW
Live Bar FANDANGO
INTERVIEW
扇町para-dice
INTERVIEW
寺田町Fireloop
REVIEW
MASS OF THE FERMENTING DREGS – You / うたを歌えば
REVIEW
FALL ASLEEP 全曲レビュー
REVIEW
ニーハオ!!!! – FOUR!!!!
INTERVIEW
ネガティブが生んだポジティブなマインド – ゆ~すほすてるが語る僕らの音楽
REVIEW
大槻美奈 – BIRD
REVIEW
YMB-ラララ
REPORT
京音 -KYOTO- vol.13 ライブレポート
INTERVIEW
感情という名の歌。鈴木実貴子ズが歌う、あなたに向けられていない音楽
INTERVIEW
□□□ん家(ダレカンチ)
INTERVIEW
こだわりと他者性を遊泳するバンド - ペペッターズ『KUCD』リリースインタビュー
REPORT
ネクスト・ステージに向かうための集大成 Easycome初のワンマンライブでみせた圧倒的なホーム感
INTERVIEW
更なる深みを目指してーザ・リラクシンズ『morning call from THE RELAXINʼ…
INTERVIEW
忖度されたハッピーエンドより変わらぬ絶望。葉山久瑠実が出す空白の結論
REPORT
マーガレット安井が見たボロフェスタ2019 3日目
REPORT
マーガレット安井が見たボロフェスタ2019 2日目
REVIEW
ベルマインツ – 透明の花ep
REPORT
集大成という名のスタートライン-ナードマグネット主催フェス『ULTRA SOULMATE 2019』…
INTERVIEW
僕のEasycomeから、僕らのEasycomeへ – 無理をせず、楽しみ作った最新アル…
INTERVIEW
永遠の夏休みの終わりと始まり – バレーボウイズが語る自身の成長と自主企画『ブルーハワイ…
INTERVIEW
時代の変革が生んだ「愛」と「憂い」の音楽、ナードマグネット須田亮太が語る『透明になったあなたへ』
INTERVIEW
your choiceコーナー仕掛け人に聴く、今だからこそ出来る面白いこと~タワーレコード梅田大阪マ…
REPORT
マーガレット安井が見た第2回うたのゆくえ
INTERVIEW
やるなら、より面白い方へ。おとぼけビ~バ~が語る、いままでの私たちと、そこから始まるシーズン2。
REVIEW
花柄ランタン『まっくらくらね、とってもきれいね。』
REVIEW
ペペッターズ『materia=material』
INTERVIEW
捻くれたポップネスと気の抜けたマッドネスが生み出した珠玉のポップソング。YMBが語る、僕らの音楽。
INTERVIEW
挫折と葛藤の中で生まれた、愛と開き直りの音楽 - Superfriends塩原×ナードマグネット須田…
REVIEW
Homecomings – WHALE LIVING
REPORT
【マーガレット安井の見たボロフェスタ2018 / Day1】ナードマグネット / King gnu …
INTERVIEW
私たちがバンドを続ける理由。シゼンカイノオキテが語る、15年間と今について。
REVIEW
Easycome – お天気でした
REVIEW
相米慎二 – 台風クラブ
COLUMN
脚本の妙から先へと向かう傑作 今こそ『カメラを止めるな!』を観なければならない理由
REVIEW
CAMERA TALK – FLIPPER’S GUITAR
REVIEW
Guppy – Charly Bliss
REVIEW
Down To Earth Soundtrack (SNOOP DOGG「Gin and juice…

LATEST POSTS

COLUMN
【2024年4月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「大阪のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シーンを追…

REVIEW
aieum『sangatsu』―絶えず姿形を変え動き続ける、その音の正体は果たして

沖縄出身の4人組バンド、aieumが初となるEP『sangatsu』を2024年3月20日にリリース…

INTERVIEW
新たな名曲がベランダを繋ぎとめた。 新作『Spirit』に至る6年間の紆余曲折を辿る

京都で結成されたバンド、ベランダが3rdアルバム『Spirit』を2024年4月17日にリリースした…

COLUMN
【2024年4月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「東京のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」京都、大阪の音楽シーンを追っ…

COLUMN
【2024年4月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…