越境する力を持った優しい歌
渚のベートーベンズのコンポーザーであり、ラッキーオールドサンのサポートドラマーも務める、京都拠点の宅録音楽家・西村中毒。彼を中心に麻生達也(Ba / Cho)と元シェムリアップの神田慧(Dr / Cho)から成る、西村中毒バンドが1stアルバム『ハローイッツミー』をリリースした。ソロ名義であった2019年の『DEMO TRACK』以来、3年ぶりにリリースされた本作はギリシャラブの取坂直人が参加。最新楽曲だけでなく、数年前にSoundCloudに投稿された“停滞前線”や、“何の変哲も無い”のアップデート・バージョンも収録されており、まさに西村中毒という音楽家の今に触れられる内容となっている。そして西村中毒という人間は多彩なジャンルをひょいと越境しながらも、煩雑にならずに素直で優しい歌がうたえるソングライターだと気づかされる。
本作ではオルタナティブ、ポストロック、フォーク、ソフトロックなど、さまざまなジャンルの楽曲が詰め込まれている。しかしどんなジャンルであろうと彼の歌は違和感なく楽曲にマッチする。その理由は彼の歌がアルバムの軸になっているからだ。西村の歌はたとえ歌声にエフェクトがかかっていても優しさが零れ落ちるし、歌声がジャンルごと包み込み自身のサウンドへと変えてしまう。
なぜ彼はさまざまな歌を越境できる歌を歌えるのか。彼を語る上で渚のベートーベンズの活動は欠かせない。渚のベートーベンズは全員コンポーザーであり、作曲を担当した人間がボーカルになるという形式をとるバンドだ。つまりこのバンドは思想を1つにまとめるのではなく、プラットホーム的に四者四様の価値観をバンド内で見せていた。そしてその考えは本作の楽曲にも活かされていると感じる。
例えば“naginohi”。シンプルなオルタナティブロックに見えて、展開部位を何か所も作り階段的に推進力をあたえる楽曲構造は江添恵介のスマートに見えて楽曲のフックとなる部分を幾重にも作る部分と重なる。またおのしほうの楽曲で見られる音数の少ないながらも、それを感じさせないくらいにポップなサウンドを作り上げる姿勢は“停滞前線“”何の変哲も無い”などでも感じられる。つまり渚のベートーベンズでの活動で得られたそれぞれエッセンスが西村に蓄積し、元来の彼が持っていた優しい歌声と科学変化を起こしてできたのが本作である。
多種多様なジャンルの音楽を遊泳する西村中毒。『ハローイッツミー』は彼の力を証明するのに、過不足ない作品だ。
ハローイッツミー
アーティスト:西村中毒バンド
仕様:デジタル / CD
発売:2021年4月28日
価格:\2,200
収録曲
01.ハローイッツミー
02.犬
03.naginohi
04.春のような冬の日に
05.停滞前線
06.newtown
07.何の変哲も無い
08.Direction
09.瞳の奥にブルー
西村中毒バンド
渚のベートーベンズのコンポーザー、ラッキーオールドサンらのサポート・ドラマー、宅録音楽家として知られる西村中毒 (Gt / Vo)を中心に元シェムリアップの神田慧(Dr / cho)、麻生達也(Ba / cho)から成る京都を拠点に活動するバンド。
WEBサイト:https://nisyyn.wixsite.com/nishimurachudoku
Twitter:https://twitter.com/nisyyn
SOUNDCLOUD:https://soundcloud.com/nishimurachudo
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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