REVIEW
ハローイッツミー
西村中毒バンド
MUSIC 2021.05.27 Written By マーガレット 安井

越境する力を持った優しい歌

渚のベートーベンズのコンポーザーであり、ラッキーオールドサンのサポートドラマーも務める、京都拠点の宅録音楽家・西村中毒。彼を中心に麻生達也(Ba / Cho)と元シェムリアップの神田慧(Dr / Cho)から成る、西村中毒バンドが1stアルバム『ハローイッツミー』をリリースした。ソロ名義であった2019年の『DEMO TRACK』以来、3年ぶりにリリースされた本作はギリシャラブの取坂直人が参加。最新楽曲だけでなく、数年前にSoundCloudに投稿された“停滞前線”や、“何の変哲も無い”のアップデート・バージョンも収録されており、まさに西村中毒という音楽家の今に触れられる内容となっている。そして西村中毒という人間は多彩なジャンルをひょいと越境しながらも、煩雑にならずに素直で優しい歌がうたえるソングライターだと気づかされる。

本作ではオルタナティブ、ポストロック、フォーク、ソフトロックなど、さまざまなジャンルの楽曲が詰め込まれている。しかしどんなジャンルであろうと彼の歌は違和感なく楽曲にマッチする。その理由は彼の歌がアルバムの軸になっているからだ。西村の歌はたとえ歌声にエフェクトがかかっていても優しさが零れ落ちるし、歌声がジャンルごと包み込み自身のサウンドへと変えてしまう。

 

なぜ彼はさまざまな歌を越境できる歌を歌えるのか。彼を語る上で渚のベートーベンズの活動は欠かせない。渚のベートーベンズは全員コンポーザーであり、作曲を担当した人間がボーカルになるという形式をとるバンドだ。つまりこのバンドは思想を1つにまとめるのではなく、プラットホーム的に四者四様の価値観をバンド内で見せていた。そしてその考えは本作の楽曲にも活かされていると感じる。

 

例えば“naginohi”。シンプルなオルタナティブロックに見えて、展開部位を何か所も作り階段的に推進力をあたえる楽曲構造は江添恵介のスマートに見えて楽曲のフックとなる部分を幾重にも作る部分と重なる。またおのしほうの楽曲で見られる音数の少ないながらも、それを感じさせないくらいにポップなサウンドを作り上げる姿勢は“停滞前線“”何の変哲も無い”などでも感じられる。つまり渚のベートーベンズでの活動で得られたそれぞれエッセンスが西村に蓄積し、元来の彼が持っていた優しい歌声と科学変化を起こしてできたのが本作である。

 

多種多様なジャンルの音楽を遊泳する西村中毒。『ハローイッツミー』は彼の力を証明するのに、過不足ない作品だ。

ハローイッツミー

 

アーティスト:西村中毒バンド

仕様:デジタル / CD

発売:2021年4月28日

価格:\2,200

 

収録曲

01.ハローイッツミー

02.犬

03.naginohi

04.春のような冬の日に

05.停滞前線

06.newtown

07.何の変哲も無い

08.Direction

09.瞳の奥にブルー

西村中毒バンド

 

渚のベートーベンズのコンポーザー、ラッキーオールドサンらのサポート・ドラマー、宅録音楽家として知られる西村中毒 (Gt / Vo)を中心に元シェムリアップの神田慧(Dr / cho)、麻生達也(Ba / cho)から成る京都を拠点に活動するバンド。

 

WEBサイト:https://nisyyn.wixsite.com/nishimurachudoku

Twitter:https://twitter.com/nisyyn

SOUNDCLOUD:https://soundcloud.com/nishimurachudo

WRITER

RECENT POST

INTERVIEW
移民ラッパー Moment Joon の愚直な肖像 – 絶望でも言葉の力を信じ続ける理由
INTERVIEW
「逃れられない」をいかに楽しむか – 京都ドーナッツクラブ野村雅夫が考える翻訳
COLUMN
“水星”が更新される日~ニュータウンの音楽~|テーマで読み解く現代の歌詞
INTERVIEW
批評誌『痙攣』が伝える「ないものを探す」という批評の在り方
REVIEW
Nagakumo – PLAN e.p.
SPOT
HOOK UP RECORDS
COLUMN
『永遠のなつやすみ』からの卒業 - バレーボウイズ解散によせて
REVIEW
EGO-WRAPPIN’ – 満ち汐のロマンス
REVIEW
ローザ・ルクセンブルグ – ぷりぷり
REVIEW
(夜と)SAMPO – 夜と散歩
REVIEW
羅針盤 – らご
REVIEW
竹村延和 – こどもと魔法
COLUMN
Dig!Dug!Asia! Vol.4 イ・ラン
SPOT
ライブバー ファンダンゴ
SPOT
扇町para-dice
SPOT
寺田町Fireloop
REVIEW
MASS OF THE FERMENTING DREGS – You / うたを歌えば
REVIEW
FALL ASLEEP – Various Artists
REVIEW
ニーハオ!!!! – FOUR!!!!
INTERVIEW
ネガティブが生んだポジティブなマインド – ゆ~すほすてるが語る僕らの音楽
REVIEW
大槻美奈 – BIRD
REVIEW
YMB-ラララ
REPORT
京音 -KYOTO- vol.13 ライブレポート
SPOT
鑪ら場
INTERVIEW
感情という名の歌。鈴木実貴子ズが歌う、あなたに向けられていない音楽
SPOT
□□□ん家(ダレカンチ)
INTERVIEW
こだわりと他者性を遊泳するバンド - ペペッターズ『KUCD』リリースインタビュー
REPORT
ネクスト・ステージに向かうための集大成 Easycome初のワンマンライブでみせた圧倒的なホーム感
INTERVIEW
更なる深みを目指してーザ・リラクシンズ『morning call from THE RELAXINʼ…
INTERVIEW
忖度されたハッピーエンドより変わらぬ絶望。葉山久瑠実が出す空白の結論
REPORT
マーガレット安井が見たボロフェスタ2019 3日目
REPORT
マーガレット安井が見たボロフェスタ2019 2日目
REVIEW
ベルマインツ – 透明の花ep
REPORT
集大成という名のスタートライン-ナードマグネット主催フェス『ULTRA SOULMATE 2019』…
INTERVIEW
僕のEasycomeから、僕らのEasycomeへ – 無理をせず、楽しみ作った最新アル…
INTERVIEW
永遠の夏休みの終わりと始まり – バレーボウイズが語る自身の成長と自主企画『ブルーハワイ…
INTERVIEW
時代の変革が生んだ「愛」と「憂い」の音楽、ナードマグネット須田亮太が語る『透明になったあなたへ』
INTERVIEW
your choiceコーナー仕掛け人に聴く、今だからこそ出来る面白いこと~タワーレコード梅田大阪マ…
REPORT
マーガレット安井が見た第2回うたのゆくえ
INTERVIEW
やるなら、より面白い方へ。おとぼけビ~バ~が語る、いままでの私たちと、そこから始まるシーズン2。
REVIEW
花柄ランタン『まっくらくらね、とってもきれいね。』
REVIEW
ペペッターズ『materia=material』
INTERVIEW
捻くれたポップネスと気の抜けたマッドネスが生み出した珠玉のポップソング。YMBが語る、僕らの音楽。
INTERVIEW
挫折と葛藤の中で生まれた、愛と開き直りの音楽 - Superfriends塩原×ナードマグネット須田…
REVIEW
Homecomings – WHALE LIVING
REPORT
【マーガレット安井の見たボロフェスタ2018 / Day1】ナードマグネット / King gnu …
INTERVIEW
私たちがバンドを続ける理由。シゼンカイノオキテが語る、15年間と今について。
REVIEW
Easycome – お天気でした
REVIEW
相米慎二 – 台風クラブ
COLUMN
脚本の妙から先へと向かう傑作 今こそ『カメラを止めるな!』を観なければならない理由
REVIEW
CAMERA TALK – FLIPPER’S GUITAR
REVIEW
Guppy – Charly Bliss
REVIEW
Down To Earth Soundtrack (SNOOP DOGG「Gin and juice…

LATEST POSTS

COLUMN
【2021年10月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…

REVIEW
折坂悠太 – 心理

月の初めにお届けする、編集部によるクロスレビュー。今月の作品は折坂悠太3枚目のアルバム『心理』です。…

REVIEW
ズカイ – たくさん願い溢れて

大阪の5人組バンド・ズカイについて、筆者は前作ミニアルバム『毎日が長すぎて』のレビューで「ニヒルなピ…

INTERVIEW
鈴木青が放つ、目の前の影を柔らげる光の歌

平成生まれのシンガーソングライター・鈴木青(すずきじょう)。2018年から年に1作のペースで作品を作…

COLUMN
【2021年9月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「大阪のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シーンを追…