REPORT

京音 -KYOTO- vol.13 ライブレポート

MUSIC PR 2020.03.15 Written By マーガレット 安井

京都には面白いライブハウスやインディーレーベルがたくさんある。レーベルだと、Second Royal Recordsやbud music、ライブハウスだと京都nano、KYOTO MUSE、京都METROなど。そんなライブハウス、レーベルがタッグを組み「新しい音楽との出会い」を提供する音楽プロジェクトが『京音-KYOTO-』である。

 

今年で5周年を迎えた同イベントは新しい音楽を求めるリスナーに対して、常に出会いを演出してきた。アンテナでは今回、KYOTO MUSEで行われた『京音 -KYOTO- vol.13』の内容をレポートする。出演バンドはThe Fax、the McFaddin、YUNOWA、nimの4組。筆者はこの4組のライブを観るのは初めてだが、「まだまだ関西にはこんなに面白いバンドがいる」と胸をときめせ、同時に「ミクスチャー」という言葉の意味を考えるイベントとなった。

YUNOWA

まだ会場内では観客の話声や、笑い声などの喧噪が残るなかYUNOWAがステージに登場する。1曲目に披露されたのは“張り子”。重く厚みのあるビートと艶のある歌声がKYOTO MUSEをゆっくりと侵食していく。続いての“痒み”ではベース、ドラムのリズム隊がビートを刻み、中間部ではディストーションのかかったギターがうねりを起こし、会場を揺さぶる。

 

YUNOWAはジャズ、R&B、ダブ、インダストリアルやポストロックなどの音楽ジャンルを飲み込んだサウンドで、熱量高いなかにも、適度な余白が入りまじる。それはまるでZAZEN BOYSのようなエモーショナルと、スリルの間を渡り歩くバンドといってもいい。しかしラストに演奏された“騒ぎ”ではルーパーでコーラスを多重録音して使用するなど、技巧派な側面もみせる。様々な音楽を横断し、確かな技術でパフォーマティブなライブを披露したYUNOWA。トップバッターながら会場を盛り上げた。

 

YUNOWAは1つのジャンルに固執するのではなく、様々なジャンルをミクスチャーして音楽を作り上げる。「ロックンロール」という言葉が生まれて、半世紀以上が経つ。その間に技術の発展やアーティストの才能、そして既存の音楽ジャンルをミックスさせて、様々な音楽が生まれた。2組目に登場した京都発のエモ・ロック・バンド、nimもまたミクスチャーという言葉を考えるバンドだ。

nim

昨年リリースされたシングル“Dreamy”からライブをスタートさせたnim。バンドの紅一点であるHisana(Gt / Vo)の凛とした歌声と、嵐の前の静けさを演出するボトムを効かせたベースの刻み。そして終盤からは吹き荒れる嵐のごとく、轟音が会場を揺らす。そして立て続けに“No.6”が演奏される。Koichi Kato(Vo / Gt)の力強い歌声とシューゲイズ、エモ、ラウドなどをミクスチャーさせたサウンドと、鉄壁のアンサンブルが会場を席巻。圧倒的なサウンドスケープで観客へと対峙する。

 

終盤では新曲の“TEXOPAM”を披露する。この曲はエモーショナルな音像ながら、整理整頓されたポップネスなメロディーが気持ちのいい1曲だ。そのサウンドの中で颯爽とギターを鳴らしながら歌うKoichi Katoは暗く先の見えない未来に一筋の光を射すかのようであった。

 

2組が終わり、ミクスチャーな音楽が育った理由を考える。その1つは間違いなく、誰でも簡単に音楽を聴ける土壌が整い始めたからだろう。Spotifyなどのサブスクリプションサービスが出始めて、時代を問わず、世界各国の音楽がスマートフォン1台あれば聴ける。その影響か、自分たちが生まれる前の音楽を参照するバンドと遭遇する。The Faxもまさに、そのようなバンドだ。

The Fax

京都発の3ピースバンドであるThe Faxが京音のステージに立つ。最初に演奏されたナンバーは昨年リリースされたアルバム『GOLD MATE』の冒頭を飾る“Cool Me”だ。ローファイなギターと硬派なビートが溶け込むサウンドと、キュートなkanio(Vo / Gt / Syn)の歌声がKYOTO MUSEいっぱいに広がった。以降、“Key hole”や“Nice Machine”といった新アルバムからのナンバーが次々と演奏される。

 

彼女たちはグランジやローファイなどの90年代オルタナティヴ・ロックを軸にし、骨太なアンサンブルながら、ふわりと可愛らしい歌声が魅力的だ。言うなれば「愛らしく、ファニーなDinosaur Jr.」と言うべきか。世代的に90年代にオルタナティブ・ロックを聴いていないだろうが、耳なじみの良いメロディーと、ざらついたサウンドは当時のオルタナティブを体現しているようだ。ラストは“Sun Beam”という疾走感のあるナンバーを投下。ノイジーなギターと、熱量高く鳴らされたサウンドに観客も熱狂。演奏後、彼女たちを称える拍手はしばらく鳴りやまなかった。

 

The Faxが終わり、ふと思った。それは今まで観てきたバンドは過去に参照点を置いているということだ。これだけ、ありとあらゆる音楽が溢れているのに、クラブミュージックやヒップホップといった2010年代に発達した音楽を参照にするバンドがいてもいいはずだ。そんなことを思っている中で、登場したのがthe McFaddinである。

the McFaddin

本日のラストに登場したのは、関西を中心に活動しているロックバンド、the McFaddinだ。ギターのカッティングから、抜けのいいロックナンバー“Go”でライブはスタートする。ryosei yamada(Vo / Gt)の優しく明るい歌声と、熱量の高いアンサンブル。そしてVJが流す、曲に合わせた映像が、観客を盛り上げていく。以降は昨年に出したアルバム『Rosy』から“Blue tank”や“N.E.O.N”をプレイする。

 

彼らのサウンドは過去と現在を行き来する。“Blue tank”は、90年代のオルタナティブ・ロックやシンセ・ポップなどのエッセンスを入れ、“N.E.O.N”は2010年代の流行りであるトラップ・ビートの要素を組み込む。時代も、ジャンルも関係ない。自分たちが好きな音楽をミクスチャーし、the McFaddinは過去と今を行き来する音楽性を作り出す。そんな彼らの音楽に会場の観客も楽しんでいた。

 

改めて、今回出演した4組を振り返ると、1つのジャンルを縛られず、様々な音楽をミクスチャーするバンドばかりだ。音楽ということだ。ロックンロールというジャンルが誕生し、時が経つにつれて様々なジャンルの音楽が生まれ、それらをミクスチャーして音楽は刷新されてきた。ジャンルの坩堝と化した今、この4組のみならず、ライブハウスでは常に新しい音楽が誕生している。新しい音楽に出会いたい、そんな時はライブハウスに行ってほしい。しかし時間やお金に余裕がない方は『京音 -KYOTO-』を活用してはどうだろうか。新しい音楽との出会いが京音にはある。

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