REVIEW
透明の花ep
ベルマインツ
MUSIC 2019.10.22 Written By マーガレット 安井

ベルマインツの“流星タクシー”を聴いたとき、私は「何となく」このバンドにはフリッパーズ・ギターやキリンジに近いものがあると感じた。しかし『透明の花ep』を聴いて「何となく」といった曖昧な感情が「間違いなく」に変化した。私は確信する。ベルマインツはフリッパーズ・ギター~キリンジに引き継ぐ、2人の作家が価値観を共有し、華麗なポップサウンドを演奏するバンドの最先端にいると。

 

ベルマインツといえば神戸・大阪を中心に活動するインディーズバンドである。2012年秋に盆丸一生(Vo / Gt)と小柳大介(Vo / Gt)の2人のシンガーソングライターによりベルマインツの前進にあたるポップス・ユニット、ミートボールズを結成。その後2018年にベルマインツに改名し、2019年には前田祥吾(Ba)が加入。同年にはシングル『流星タクシー / ケセラセラ』をリリースし、ポップネスでキラキラとしたサウンドとボーカル2人のクリアで華やかなコーラス・ワークが活かされた作品を提示。そして2019年10月にリリースされる彼ら初のEP作品『透明の花ep』でも、そのコーラスワーク、キラキラとしたポップサウンドがいかんなく発揮されている。

 

表題曲“透明の花”(M1)はギターのクリーン・トーンにフリー・ソウルのエッセスを凝縮。一抹の寂しさを感じさせる歌詞で発揮されるコーラス・ワークは清々しい一陣の風を私たちに届ける。

同じく盆丸が作曲した“Compete”(M2)ではThe Libertinesのような胸躍るようなロックンロールに乗せて、好きだった人と見た星空を、床に散らばった金平糖に見立てて、淡い思い出をカラフルに演出する。本作のラストを飾るのは”夜霧のしわざ”(M4)。歌詞はベルマインツのもう一人のソングライター小柳が担当。夜霧に包まれた彼女と僕のドラマティックな情景を90年代のオルタナティブ・ロックのような重みのあるギターにのせ、少しぶっきら棒でがなりながら歌う盆丸が印象的な曲だ。

 

こうやって楽曲を聴いていくと、ベルマインツは1つのジャンルを突き詰めるのではなく、シティ・ポップも、ロックンロール・リバイバルも、オルタナティブも、J-ROCKも、J-POPも、枠組みを関係なく摂取しては自身のサウンド作りに活かしていることがわかる。そして小柳、盆丸の歌声が楽曲に乗ると、ジャンルの壁関係なくベルマインツの音楽になる。また歌詞に関しては分業ながらも「君と僕」の恋の物語という点で共通しており、歌詞のリアリティー・ラインもどちらか一方が強いアクを出すことなく、両者が歌詞のリアリティをベルマインツとして共有しているところからも、バンドとしての理念を持って活動しているということがわかる。同じ価値観を共有する小柳と盆丸、多分どちらか一人が欠けてもベルマインツにはならない。そういう意味ではこのバンドは2010年代のフリッパーズ・ギターまたは兄弟でやっていた頃のキリンジの再来といっても過言ではないだろうか。

作品情報

 

 

アーティスト:ベルマインツ
タイトル:透明の花
発売日:2019年10月23日
価格:¥1,000 (税抜き)

 

収録曲

 

01.透明の花

02.Compete

03. あぶくだま

04. 夜霧のしわざ

WRITER

RECENT POST

REVIEW
台風クラブ『アルバム第二集』 - 逃避から対峙へ、孤独と絶望を抱えながらも前進するロックンロール
INTERVIEW
経験の蓄積から生まれた理想郷 ー ASR RECORDS 野津知宏の半生と〈D×Q〉のこれから
REPORT
ボロフェスタ2022 Day3(11/5)-積み重ねが具現化した、“生き様”という名のライブ
REVIEW
ベルマインツ『風を頼りに』- 成長を形に変える、新しい起点としての1枚
REVIEW
ズカイ『ちゃちな夢中をくぐるのさ』 – ネガティブなあまのじゃくが歌う「今日を生きて」
REVIEW
帝国喫茶『帝国喫茶』 – 三者三様の作家性が融合した、帝国喫茶の青春
REVIEW
糞八『らくご』 – 後ろ向きな私に寄り添う、あるがままを認める音楽
REPORT
マーガレット安井の見たナノボロ2022 day2
INTERVIEW
おとぼけビ〜バ〜 × 奥羽自慢 - 日本酒の固定観念を崩す男が生み出した純米大吟醸『おとぼけビ〜バ〜…
INTERVIEW
僕の音楽から誰かのための音楽へ – YMBが語る最新作『Tender』とバンドとしての成…
INTERVIEW
失意の底から「最高の人生にしようぜ」と言えるまで – ナードマグネット須田亮太インタビュー
REVIEW
Noranekoguts『wander packs』シリーズ – 向き合うことで拡張していく音楽
REVIEW
真舟とわ『ルルルのその先』 – 曖昧の先にある、誰かとのつながり
REVIEW
ナードマグネット/Subway Daydream『Re:ACTION』 – 青春と青春が交わった交差…
REVIEW
AIRCRAFT『MAGNOLIA』 – 何者でもなれる可能性を体現した、青春の音楽
REVIEW
Nagakumo – EXPO
REVIEW
水平線 – stove
INTERVIEW
(夜と)SAMPOの生き様。理想と挫折から生まれた『はだかの世界』
INTERVIEW
自然体と無意識が生み出した、表出する音楽 – 猫戦インタビュー
REVIEW
藤山拓 – girl
REPORT
マーガレット安井が見たボロフェスタ2021Day4 – 2021.11.5
INTERVIEW
地球から2ミリ浮いてる人たちが語る、点を見つめ直してできた私たちの形
REVIEW
西村中毒バンド – ハローイッツミー
INTERVIEW
移民ラッパー Moment Joon の愚直な肖像 – 絶望でも言葉の力を信じ続ける理由
INTERVIEW
「逃れられない」をいかに楽しむか – 京都ドーナッツクラブ野村雅夫が考える翻訳
COLUMN
“水星”が更新される日~ニュータウンの音楽~|テーマで読み解く現代の歌詞
INTERVIEW
批評誌『痙攣』が伝える「ないものを探す」という批評の在り方
REVIEW
Nagakumo – PLAN e.p.
SPOT
HOOK UP RECORDS
COLUMN
『永遠のなつやすみ』からの卒業 - バレーボウイズ解散によせて
REVIEW
EGO-WRAPPIN’ – 満ち汐のロマンス
REVIEW
ローザ・ルクセンブルグ – ぷりぷり
REVIEW
(夜と)SAMPO – 夜と散歩
REVIEW
羅針盤 – らご
REVIEW
竹村延和 – こどもと魔法
COLUMN
Dig!Dug!Asia! Vol.4 イ・ラン
SPOT
ライブバー ファンダンゴ
SPOT
扇町para-dice
SPOT
寺田町Fireloop
REVIEW
MASS OF THE FERMENTING DREGS – You / うたを歌えば
REVIEW
FALL ASLEEP 全曲レビュー
REVIEW
ニーハオ!!!! – FOUR!!!!
INTERVIEW
ネガティブが生んだポジティブなマインド – ゆ~すほすてるが語る僕らの音楽
REVIEW
大槻美奈 – BIRD
REVIEW
YMB-ラララ
REPORT
京音 -KYOTO- vol.13 ライブレポート
SPOT
鑪ら場
INTERVIEW
感情という名の歌。鈴木実貴子ズが歌う、あなたに向けられていない音楽
SPOT
□□□ん家(ダレカンチ)
INTERVIEW
こだわりと他者性を遊泳するバンド - ペペッターズ『KUCD』リリースインタビュー
REPORT
ネクスト・ステージに向かうための集大成 Easycome初のワンマンライブでみせた圧倒的なホーム感
INTERVIEW
更なる深みを目指してーザ・リラクシンズ『morning call from THE RELAXINʼ…
INTERVIEW
忖度されたハッピーエンドより変わらぬ絶望。葉山久瑠実が出す空白の結論
REPORT
マーガレット安井が見たボロフェスタ2019 3日目
REPORT
マーガレット安井が見たボロフェスタ2019 2日目
REPORT
集大成という名のスタートライン-ナードマグネット主催フェス『ULTRA SOULMATE 2019』…
INTERVIEW
僕のEasycomeから、僕らのEasycomeへ – 無理をせず、楽しみ作った最新アル…
INTERVIEW
永遠の夏休みの終わりと始まり – バレーボウイズが語る自身の成長と自主企画『ブルーハワイ…
INTERVIEW
時代の変革が生んだ「愛」と「憂い」の音楽、ナードマグネット須田亮太が語る『透明になったあなたへ』
INTERVIEW
your choiceコーナー仕掛け人に聴く、今だからこそ出来る面白いこと~タワーレコード梅田大阪マ…
REPORT
マーガレット安井が見た第2回うたのゆくえ
INTERVIEW
やるなら、より面白い方へ。おとぼけビ~バ~が語る、いままでの私たちと、そこから始まるシーズン2。
REVIEW
花柄ランタン『まっくらくらね、とってもきれいね。』
REVIEW
ペペッターズ『materia=material』
INTERVIEW
捻くれたポップネスと気の抜けたマッドネスが生み出した珠玉のポップソング。YMBが語る、僕らの音楽。
INTERVIEW
挫折と葛藤の中で生まれた、愛と開き直りの音楽 - Superfriends塩原×ナードマグネット須田…
REVIEW
Homecomings – WHALE LIVING
REPORT
【マーガレット安井の見たボロフェスタ2018 / Day1】ナードマグネット / King gnu …
INTERVIEW
私たちがバンドを続ける理由。シゼンカイノオキテが語る、15年間と今について。
REVIEW
Easycome – お天気でした
REVIEW
相米慎二 – 台風クラブ
COLUMN
脚本の妙から先へと向かう傑作 今こそ『カメラを止めるな!』を観なければならない理由
REVIEW
CAMERA TALK – FLIPPER’S GUITAR
REVIEW
Guppy – Charly Bliss
REVIEW
Down To Earth Soundtrack (SNOOP DOGG「Gin and juice…

LATEST POSTS

REVIEW
FALL ASLEEP#3 全曲レビュー

関西発のイベント・レーベル〈NEVER SLEEP〉から、2022年3月22日にコンピレーション・カ…

REVIEW
台風クラブ『アルバム第二集』 - 逃避から対峙へ、孤独と絶望を抱えながらも前進するロックンロール

逃避から対峙へ、孤独と絶望を抱えながらも前進するロックンロール …

COLUMN
【2023年3月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…

REVIEW
周辺住民『祝福を見上げて』 – 自分の心模様を映してくれる、弾き語り作品集

寒い日の夜、仕事終わり。疲れた頭をぶら下げて駅からの帰り道に思い浮かべるのは、週末に過ごした好きな人…

COLUMN
【2023年2月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「大阪のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シーンを追…