REVIEW
ちゃちな夢中をくぐるのさ
ズカイ
MUSIC 2022.09.29 Written By マーガレット 安井

まず16曲入りという点がいい。キレイにまとめるよりも、言いたいことをすべて言うその姿勢は、ズカイの集大成として出された1stフルアルバム『ちゃちな夢中をくぐるのさ』にふさわしい。先日の〈ナノボロ2022〉に出演した際に、まんくも(Vo / Gt)が「人生をかけて作った」とMCで語っていたが、それも頷ける作品だ。先に結論を言おう。本作は「夢とか希望を信じないあまのじゃくが歌う応援歌」である。

 

まず、ズカイというバンドがどのような変遷をたどったかをざっと説明する。元々、4人組の時代はフォーキーなインディ・ロック、Real Estate(リアル・エステイト)やParquet Courts(パーケイ・コーツ)の初期のようなサウンドメイクであったものが、メンバーチェンジを経て5人組+シンセサイザーのサポートを加えた6人体制になって以降、よりシンセポップやドリームポップといったジャンルへ志向が移った。本作でも”ナデ・ナデジェラシー”でみられるシンセサイザーが印象的な80sポップス風な味付けや、“ムーンライト”でのモジュレーション系のエフェクターを使ったギターとまんくもの優しい歌声が見せるドリーミーなサウンドスケープは、今の彼らを特徴づけている。その一方で“卒アル”では、それまでのズカイにはないラウドでメロディアスな音像も披露している。

それらをズカイの音楽たらしめているのが、まんくもの歌である。彼は希望や夢を歌わない。M1“反省モードおしまい”では〈今の僕はホント嫌い 人のせいにして欲しがり坊や〉とネガティブな自意識を吐き出し、〈優しく問いかけるのが優しさと言うならば 君の言う優しさ 僕で言えば悲しさ〉や〈今を見つめなきゃねって簡単に出来たなら ニコニコしてマイホーム建てただろう〉というように、あまのじゃくでありながら、同時に理想の人生を歩めていない人間の肖像を描いている。人によっては「理想の人生を歩めていない」というとネガティブな印象を受けるかもしれない。だが最初にも書いたが本作は応援歌である。なぜならまんくもが言いたいメッセージは「今日を生きて」なのだから。

 

あまのじゃくな自分に対して言及する一方で、死を連想する言葉も印象的に登場する。M4“ぽーいっ!”では〈人身事故で 遅れ出てます〉やM6“K.K.T( けいけんち )”では〈でも料理長は酒タバコで死にかけた〉のようにだ。またM14″気に留めないで”ではストレスからくる不眠症で悩まれているような描写も出てくる。そんな人間に対してまんくもはある時は〈気に留めないで〉と励まし、ある時は〈パッパラパーは難しい でも死ぬよりはマシさ〉のように自殺するくらいなら逃げろと歌う。

そしてラストの“涼しい顔”で〈明日は見ないで 今日生きて〉と歌う。元々この曲は2nd EP『夢ばかり見すぎて』に収録されていたナンバーだが、当時の歌詞は〈明日また会えたらね〉であった。つまり本作では「今日を生きて」という部分が足されているのだ。素直でない故か、〈今日を生きるとかごまかして ボツになるようなメロディ ららら〉と後に歌詞が出てはくるが、それならば歌詞としてこのメッセージを新たに付け加える意味がないし、なにしろこの曲は没にならずにこうやって私たちの耳へと届いている。

正直、「今日を生きて」というメッセージを歌うバンドや、アーティストなんて山ほどいる。だが、ズカイが「今日を生きて」というメッセージを打ち出すのは特別だ。なぜならそれまでまんくもは自分のことを歌にし、作品は自身のモノローグであった。現状・未来への絶望、社会への妬み・嫉み、またはそのような現状から鼓舞するというもの。本作でもその名残があり、〈止まるのはナシな気がする〉(“夜行バス”)や〈あいつらと違って僕ら深く考えこんじゃうもんね〉(“ムーンライト”)といった歌詞に散見される。そしてこれらの歌詞に共通するのは主語が「僕」である。しかし「今日を生きて」の例を挙げた“涼しい顔”や”気に留めないで”は、「僕」ではなく「君」に向けられている。そういう点から考えると、本作は今までの自身を歌うズカイを見せつつ、他者に対して目を向けたズカイの姿も見せた、まさに集大成的なアルバムなのだ。

 

初期の名曲“ビックウェーブはまだ来ない”で、その存在を知ったが、あれから6年。『ちゃちな夢中をくぐるのさ』は、バンドとして何段階も成長した姿だけでなく、未来への展望をも見せてくれた。「人生をかけて作った」その言葉に偽りなしの作品だ。

 

ちゃちな夢中をくぐるのさ

 

アーティスト:ズカイ

仕様:CD / デジタル

リリース:2022年9月28日(水)

価格:¥2,750(税込)

 

収録曲

01.反省モードおしまい

02.屋根がない校舎の夢

03.ムーンライト

04.ぽーいっ!

05.夜行バス

06.K.K.T(けいけんち)

07.卒アル

08.ある別れ話(boy side)

09.目鼻口とエアリーショート

10.次回予告

11.MEMORY CARD

12.ナデナデ・ジェラシー

13.ラジオメール

14.気に留めないで

15.酸素

16.涼しい顔

ズカイ

 

ズカイは2019年末より現在の編成となり活動を本格化。コロナ禍でも精力的にリリースを続け「目鼻口とエアリーショート」「気に留めないで」はサブスクで一躍彼らの名前を広めた。昨年秋には自主制作ミニアルバム『たくさん願い溢れて』をリリース。ツアーを経てクリスマスには羊文学『1999』のカバーをサプライズ配信。羊文学メンバーを含め国内外大きな反響を得る。THISTIME RECORDSへの所属を発表し、バンド史上初のアナログ7インチ『酸素/気に留めないで』リリース。加藤マニを監督にむかえ撮影された表題曲「酸素」のMVはまもなく10万回再生を達成、各サブスクサイトともに過去最高の再生数を記録すると、活動拠点である大阪を中心に徐々にアンセム化していった。

WRITER

RECENT POST

INTERVIEW
全員が「ヤバい」と思える音楽に向かって – 愛はズボーンが語る、理想とパーソナルがにじみ…
REVIEW
THE HAMIDA SHE’S『純情讃歌』 – 京都の新星が放つ、荒々しい…
REVIEW
大槻美奈『LAND』-愛で自身の問いに終止符を打つ、集大成としての『LAND』
INTERVIEW
今はまだ夢の途中 – AIRCRAFTが語る『MY FLIGHT』までの轍
COLUMN
編集部員が選ぶ2023年ベスト記事
REVIEW
Qoodow『水槽から』 – 「複雑さ」すらも味にする、やりたいを貫くオルタナティヴな作…
REVIEW
The Slumbers『黄金のまどろみ』 – 先人たちのエッセンスを今へと引き継ぐ、昭…
COLUMN
サステナブルな理想を追い求めるバンド – (夜と)SAMPOが会社員でありながらバンドを…
REPORT
ボロフェスタ2023 Day2(11/4)- タコツボを壊して坩堝へ。ボロフェスタが創造するカオス
REPORT
ボロフェスタ2023 Day1(11/3) – 蓄積で形成される狂気と奇跡の音楽祭
INTERVIEW
物語が生み出すブッキング – 夜の本気ダンス×『ボロフェスタ』主宰・土龍が語る音楽フェス…
INTERVIEW
自発性とカオスが育む祭 – 22年続く音楽フェス『ボロフェスタ』の独自性とは?
REVIEW
てら『太陽は昼寝』 – 人間の内面を描く、陽だまりのような初バンド編成アルバム
REPORT
ナノボロ2023 Day2(8/27)‐ コロナからの呪縛から解放され、あるべき姿に戻ったナノボロ…
REVIEW
鈴木実貴子ズ『ファッキンミュージック』- 自分ではなく、好きになってくれたあなたに向けられた音楽
REVIEW
オートコード『京都』 – “東京”に対する敬愛が生んだ25年目のオマージュ
INTERVIEW
Nagakumoがポップスを作る理由 – 実験精神を貫き、大衆性にこだわった最新作『JU…
INTERVIEW
町のみんなと共生しながら独自性を紡ぐ。支配人なきシアター、元町映画館が考える固定観念の崩し方
INTERVIEW
つながりと問題のなかで灯を守り続ける – シネ・ヌーヴォの2023年
INTERVIEW
壁を壊して、枠組みを広げる映画館 – あなたの身近なテーマパーク〈塚口サンサン劇場〉とは…
REVIEW
ここで生きてるず“彗星ミサイル” – 愚直ながらも、手法を変えて人生を肯定し続けるバンド…
REPORT
坩堝ではなく、共生する園苑(そのその) – 『KOBE SONO SONO’23』ライブ…
INTERVIEW
僕らがフリージアンになるまで – リスペクトと遠回りの末に生まれたバンドの軌跡
REVIEW
パンクを手放し、自己をさらけ出すことで手にした 成長の証 – ムノーノモーゼス『ハイパー…
REPORT
感情が技術を上回る日 – 『“ステエションズ ” 2nd Album “ST-2” Re…
REVIEW
oOo『New Jeans』- 陰と陽が織りなすイノセントなセカイ
REVIEW
ステエションズ『ST‐2』 - 千変万化でありながら、それを感じさせない強靭なポップネス
REVIEW
揺らぎ『Here I Stand』- 型にはまらない姿勢を貫く、どこにも属さない揺らぎの一作目
REVIEW
くつした『コズミックディスク』 - 変わらずに歌い続けた空想の世界
REVIEW
台風クラブ『アルバム第二集』 - 逃避から対峙へ、孤独と絶望を抱えながらも前進するロックンロール
INTERVIEW
経験の蓄積から生まれた理想郷 ー ASR RECORDS 野津知宏の半生と〈D×Q〉のこれから
REPORT
ボロフェスタ2022 Day3(11/5)-積み重ねが具現化した、“生き様”という名のライブ
REVIEW
ベルマインツ『風を頼りに』- 成長を形に変える、新しい起点としての1枚
REVIEW
帝国喫茶『帝国喫茶』 – 三者三様の作家性が融合した、帝国喫茶の青春
REVIEW
糞八『らくご』 – 後ろ向きな私に寄り添う、あるがままを認める音楽
REPORT
マーガレット安井の見たナノボロ2022 day2
INTERVIEW
おとぼけビ〜バ〜 × 奥羽自慢 - 日本酒の固定観念を崩す男が生み出した純米大吟醸『おとぼけビ〜バ〜…
INTERVIEW
僕の音楽から誰かのための音楽へ – YMBが語る最新作『Tender』とバンドとしての成…
INTERVIEW
失意の底から「最高の人生にしようぜ」と言えるまで – ナードマグネット須田亮太インタビュー
REVIEW
Noranekoguts『wander packs』シリーズ – 向き合うことで拡張していく音楽
REVIEW
真舟とわ『ルルルのその先』 – 曖昧の先にある、誰かとのつながり
REVIEW
ナードマグネット/Subway Daydream『Re:ACTION』 – 青春と青春が交わった交差…
REVIEW
AIRCRAFT『MAGNOLIA』 – 何者でもなれる可能性を体現した、青春の音楽
REVIEW
Nagakumo – EXPO
REVIEW
水平線 – stove
INTERVIEW
(夜と)SAMPOの生き様。理想と挫折から生まれた『はだかの世界』
INTERVIEW
自然体と無意識が生み出した、表出する音楽 – 猫戦インタビュー
REVIEW
藤山拓 – girl
REPORT
マーガレット安井が見たボロフェスタ2021Day4 – 2021.11.5
INTERVIEW
地球から2ミリ浮いてる人たちが語る、点を見つめ直してできた私たちの形
REVIEW
西村中毒バンド – ハローイッツミー
INTERVIEW
移民ラッパー Moment Joon の愚直な肖像 – 絶望でも言葉の力を信じ続ける理由
INTERVIEW
「逃れられない」をいかに楽しむか – 京都ドーナッツクラブ野村雅夫が考える翻訳
COLUMN
“水星”が更新される日~ニュータウンの音楽~|テーマで読み解く現代の歌詞
INTERVIEW
批評誌『痙攣』が伝える「ないものを探す」という批評の在り方
REVIEW
Nagakumo – PLAN e.p.
INTERVIEW
HOOK UP RECORDS
COLUMN
『永遠のなつやすみ』からの卒業 - バレーボウイズ解散によせて
REVIEW
EGO-WRAPPIN’ – 満ち汐のロマンス
REVIEW
ローザ・ルクセンブルグ – ぷりぷり
REVIEW
(夜と)SAMPO – 夜と散歩
REVIEW
羅針盤 – らご
REVIEW
竹村延和 – こどもと魔法
COLUMN
Dig!Dug!Asia! Vol.4 イ・ラン
INTERVIEW
Live Bar FANDANGO
INTERVIEW
扇町para-dice
INTERVIEW
寺田町Fireloop
REVIEW
MASS OF THE FERMENTING DREGS – You / うたを歌えば
REVIEW
FALL ASLEEP 全曲レビュー
REVIEW
ニーハオ!!!! – FOUR!!!!
INTERVIEW
ネガティブが生んだポジティブなマインド – ゆ~すほすてるが語る僕らの音楽
REVIEW
大槻美奈 – BIRD
REVIEW
YMB-ラララ
REPORT
京音 -KYOTO- vol.13 ライブレポート
INTERVIEW
感情という名の歌。鈴木実貴子ズが歌う、あなたに向けられていない音楽
INTERVIEW
□□□ん家(ダレカンチ)
INTERVIEW
こだわりと他者性を遊泳するバンド - ペペッターズ『KUCD』リリースインタビュー
REPORT
ネクスト・ステージに向かうための集大成 Easycome初のワンマンライブでみせた圧倒的なホーム感
INTERVIEW
更なる深みを目指してーザ・リラクシンズ『morning call from THE RELAXINʼ…
INTERVIEW
忖度されたハッピーエンドより変わらぬ絶望。葉山久瑠実が出す空白の結論
REPORT
マーガレット安井が見たボロフェスタ2019 3日目
REPORT
マーガレット安井が見たボロフェスタ2019 2日目
REVIEW
ベルマインツ – 透明の花ep
REPORT
集大成という名のスタートライン-ナードマグネット主催フェス『ULTRA SOULMATE 2019』…
INTERVIEW
僕のEasycomeから、僕らのEasycomeへ – 無理をせず、楽しみ作った最新アル…
INTERVIEW
永遠の夏休みの終わりと始まり – バレーボウイズが語る自身の成長と自主企画『ブルーハワイ…
INTERVIEW
時代の変革が生んだ「愛」と「憂い」の音楽、ナードマグネット須田亮太が語る『透明になったあなたへ』
INTERVIEW
your choiceコーナー仕掛け人に聴く、今だからこそ出来る面白いこと~タワーレコード梅田大阪マ…
REPORT
マーガレット安井が見た第2回うたのゆくえ
INTERVIEW
やるなら、より面白い方へ。おとぼけビ~バ~が語る、いままでの私たちと、そこから始まるシーズン2。
REVIEW
花柄ランタン『まっくらくらね、とってもきれいね。』
REVIEW
ペペッターズ『materia=material』
INTERVIEW
捻くれたポップネスと気の抜けたマッドネスが生み出した珠玉のポップソング。YMBが語る、僕らの音楽。
INTERVIEW
挫折と葛藤の中で生まれた、愛と開き直りの音楽 - Superfriends塩原×ナードマグネット須田…
REVIEW
Homecomings – WHALE LIVING
REPORT
【マーガレット安井の見たボロフェスタ2018 / Day1】ナードマグネット / King gnu …
INTERVIEW
私たちがバンドを続ける理由。シゼンカイノオキテが語る、15年間と今について。
REVIEW
Easycome – お天気でした
REVIEW
相米慎二 – 台風クラブ
COLUMN
脚本の妙から先へと向かう傑作 今こそ『カメラを止めるな!』を観なければならない理由
REVIEW
CAMERA TALK – FLIPPER’S GUITAR
REVIEW
Guppy – Charly Bliss
REVIEW
Down To Earth Soundtrack (SNOOP DOGG「Gin and juice…

LATEST POSTS

COLUMN
【2024年4月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「大阪のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シーンを追…

REVIEW
aieum『sangatsu』―絶えず姿形を変え動き続ける、その音の正体は果たして

沖縄出身の4人組バンド、aieumが初となるEP『sangatsu』を2024年3月20日にリリース…

INTERVIEW
新たな名曲がベランダを繋ぎとめた。 新作『Spirit』に至る6年間の紆余曲折を辿る

京都で結成されたバンド、ベランダが3rdアルバム『Spirit』を2024年4月17日にリリースした…

COLUMN
【2024年4月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「東京のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」京都、大阪の音楽シーンを追っ…

COLUMN
【2024年4月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…