REVIEW
MAGNOLIA
AIRCRAFT
MUSIC 2022.04.11 Written By マーガレット 安井

何者でもなれる可能性を体現した、青春の音楽

大学生の頃の話。僕は地元大阪を離れ、宮崎の大学へ入学した。一人暮らしをするアパートから慣れないスーツ姿で大学に行き、入学式へ出席。「仲良くなれるのかな……」と思いながら隣に座った子に話しかけ、式が終わった後はサークル勧誘のチラシをたくさんもらい、「オリエンテーションの会場はどこだっけ」と道に迷い、右往左往する僕。土地勘のない場所での初めての大学生活。そして初めての一人暮らし。大学から帰って、スーパーで買った半額値引きシールが貼られたお惣菜とごはんを一人で食べながら、「これから僕はどうなるんだろう」という不安と、それとは逆に「これから僕は何者になれるのかな」という期待を抱いたことを今でも覚えている。そこから僕は友達にも、サークルの先輩にも恵まれて充実した生活を送ることができた。僕にとって、あの大学時代は確実に青春と呼べるものであった。

 

大学を卒業してから10年以上が経過した。いくつもの将来の可能性を妄想し、宮崎で不安と期待を抱いていた青年は、三十代半ばとなり中間管理職と呼ばれるポストに就いていた。理不尽なことで怒られることが増え、成績や立場を考えて話すようになった。もちろんこの仕事を辞めたいと思うこともあったのだが、最終的にはこの仕事が好きだし、自分にはこの仕事しかないと思い、今に至っている。「何者にでもなれる」と感じた僕の青春は、今では遠い記憶の隅に追いやられていた。でもある日、僕にあの頃の記憶をよみがえらせてくれた作品があった。AIRCRAFTの最新EP作品『MAGNOLIA』だ。

AIRCRAFTは2021年に大阪で結成された、4人組オルタナティブガレージポップバンドである。グランジ、ポップ・パンク、パワーポップ、シューゲイズ、それらをすべて飲み込み、吐き出されたポップながら軽快なロックサウンド。そして石川翔理(Vo / Gt)と田中優衣(Vo / Ba)の男女2人が織りなすツインボーカルが特徴的なバンドだ。特に田中の歌声はしなやかで可愛らしく伸びのあるものから、強くストレートなものまで多彩に変化し、楽曲をカラフルに染め上げる。

 

そんな AIRCRAFT だが、その歌詞は「青春を生きる私たち」をストレートに描いている。それは言い換えれば「これからの不安を抱えながらも、何者かになれる可能性が開けていた、そんな時期の私たちの歌」といったところか。だが AIRCRAFT は卒業、友、桜のような青春を感じさせるような、わかりやすいモチーフをちりばめたりはしない。例えば“orange色とalumi缶”では少年時代のキラキラした自分たちを回想しながら、あの頃の思い描いた大人に自分はなれているのかと歌い、“Magnolia”では誰かの決めつけた価値観には乗らず、私は私として今を生きていきたいという思いを力強く歌う。つまりAIRCRAFTは青春時代を思い起こす記号ではなく、自分たちが抱いている欲求や葛藤を素直にリスナーへ提示することで「青春を生きる私たち」を歌にしている。

 

ではなぜ AIRCRAFT は素直に歌として表現できているのか?もちろん AIRCRAFT 自身が「何者かになれる可能性が開かれた状態」というのはあるかもしれないが、もう一つあるとすれば、自分たちの作るものに自信があるのではないか。若いころは自分を良く見せたいと思いカッコをつけたりすることもあるが、それは自分自身の自信のなさの表れだったりもする。ところが AIRCRAFT は“strship”のなかで〈眠れない日がもしあるのならば こんな曲がさ 過去も未来も照らしたらいいね〉と自身の曲に対して歌詞にしている。自分の曲について誰かの支えになれればと言葉にできる、それはつまり自分たちの作る音楽に対して迷いがなく素晴らしいものを作れているという表れなのではないだろうか。

 

僕はそんな AIRCRAFT の音楽に、懐かしさだけでなく、なにか特別な感情が湧いた。人生の中で本当にわずか数年しかなかった何者にでもなれると感じていた時代。でも、そんな開かれた可能性の中からひとつずつ可能性にお別れを告げて今に至っている。その中には才能がないと感じてあきらめたもの、努力が続けられなかったもの、などさまざまな要因がある。「人生とは小さなさよならの積み重ねだ」、Tennessee Williams(テネシー・ウィリアムズ)の戯曲『Long Good Bye』でのセリフだが、そんなさよならを積み重ねた結果が、僕の今である。だからこそ何者にでもなれる可能性をもっているAIRCRAFTの音楽を聴くと、かつてあった可能性たち、そして選ばれた今の人生を思い起こし、愛しさを感じてしまうのだ。そういう意味では、本作は単なるノスタルジーを感じる作品ではなく、青春の本質を体現した音楽なのかもしれない。

 

その他の配信サイトのリンク

https://friendship.lnk.to/MAGNOLIA

MAGNOLIA

 

発売:2022年2月2日

フォーマット:CD

価格:¥1,500(税込)

 

収録曲

1.キネマトグラフ

2.starship

3.IKIISOGI

4.Magnolia

5.orange色とalumi缶

 

購入サイト

Holiday! Records:https://holiday2014.thebase.in/items/57970498

The Domestic:https://ttosdomestic.thebase.in/items/58654471

AIRCRAFT

 

2021年結成。石川翔理(Vo/Gt)田中優衣(Vo/Ba)尾形颯馬(Gt)松川文哉(Dr)の4人編成で、大阪を中心に活動しているオルタナティブガレージポップバンド。

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