先日、〈MINAMI WHEEL〉というサーキットイベントでベルマインツを観た。小柳大介（Vo / Gt）が新型コロナウィルス陽性判定のため、盆丸一生（Vo / Gt）と前田祥吾（Ba）そしてサポート二人を加えた変則的な編成でのライブではあったが、そのライブがとにかくよかった。もちろん小柳不在の物足りなさはあったが、充実したサウンドや、どんな楽曲であっても安定して演奏できる技術。そしてライブに対して強い気迫が感じられ、私が最初に彼らのライブを観たころよりも断然に進化を感じさせるものであった。それからほどなくしてリリースされたのが最新ミニ・アルバム『風を頼りに』。本作を聴き、ライブだけではなく作品としてもベルマインツの成長を感じた。
全８曲入りの本作は1stアルバム『MOUNTAIN』（2021）に比べると、80年代のシティポップやネオソウル、ディスコミュージックなどに傾倒した作りになっている。例えば冒頭のイントロから The Emotions（エモーションズ） の“Best Of My Love”のイントロ部を感じさせる“笑ってほしいよ”や、フュージョンがもつ軽やかでドライブ感のあるサウンドが特徴的な“街のテーマ”。さらにはトラックメイカーであるSUKISHA（数奇者）が編曲にかかわった“Foolish – with SUKISHA”は J Dilla（J・ディラ）を思い起こすような濃厚な密室感のあるビートと盆丸の爽やかさと色気が同居する歌声が魅力的な楽曲だ。
そして本作には Laura day romance の井上花月（Vo）、鈴木迅（G）と共作し、ドラムに石若駿が参加した“風のゆく先 – with 鈴木迅, 井上花月 from Laura day romance”や、前作でもプログラミング・編曲を担当した宮田’レフティ’リョウがベルマインツと共編曲を行う楽曲もあり、豪華メンバーがわきをしっかり固めて、彼らのアルバムをサポートしていることがわかる。しかし本作において重要な箇所はそこではない。
ベルマインツにおいて「豪華メンバーがわきをしっかり固める」というのは前作の『MOUNTAIN』でもそうであった。例えば編曲であると本作にも参加した宮田’レフティ’リョウだけでなく、YOUR SONG IS GOODのサイトウ”JxJx”ジュン、冨田謙も参加していた。ところが今回は編曲だけを担当する外部クリエイターはいない。本作では「共編曲」すなわちベルマインツ自体も編曲を行っているのだ。またサウンドプログラミングに関しても、前作ではベルマインツのメンバーが担当することはなかったが、本作では“ミラーダンス”や“街のテーマ”、“Call”といった楽曲は盆丸が担当している。この点から徐々に自分たちが主導権を握り、楽曲制作を行おうとする姿勢が垣間見えてくる。
また本作においてベルマインツが使用する楽器の選択肢が増えたことも、成長を感じる部分である。前作では盆丸・小柳の両名はほぼエレキギターかまたはアコーステックギターのどちらか1つを使いレコーディングをしていた。だが今回は、各メンバーがエレキギターとアコースティックギターや、エレキギターとアコースティックギターとシンセサイザー、のように１曲に一人が２〜３種類の楽器を使い演奏をしている曲が散見される。なかでも“Call”では12弦アコースティックギターなども使用し、楽曲制作を行っている。
自らが編曲に乗り出し、楽曲に応じて使用する楽器を変化させ手数を増やしていくベルマインツ。この動きをみると、３人だけで楽曲を作っていた時代から、外部クリエイターを起用した楽曲制作、それを経て再び自分たちが主導権を持ち楽曲制作を行っているという意味で、本作はベルマインツの新たなる起点となりうる、彼らの成長過程を捉えた作品なのではないだろうか。次回作はどうなるのか、そろそろセルフプロデュースの作品が出てくるのかも、などと淡い妄想を抱きつつ筆を擱くことにする。
風を頼りに
アーティスト：ベルマインツ
仕様：CD / デジタル
リリース：2022年10月12日（水）※
価格：￥2,300（税込）
※CDリリースは2022年10月28日（金）
収録曲
1.風のゆく先 – with 鈴木迅, 井上花月 from Laura day romance
2.笑ってほしいよ
3.Call
4.摩天楼
5.街のテーマ
6.ミラーダンス
7.ゆえに希望など
8.Foolish – with SUKISHA
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ベルマインツ
(L→R)前田祥吾 (Ba)、盆丸一生(Vo / Gt)、小柳大介(Vo / Gt)
2018年結成の3人組ポップスユニット。神戸・大阪を拠点に活動中。2人のシンガーソングライター、盆丸(Vo/Gt)・小柳(Vo/Gt)のツインボーカルに前田(Ba)のコーラスが加わったハーモニーを武器に、往年のポップス・ロックにリスペクトを感じる懐かしくも新鮮な楽曲が特徴。
Webサイト：https://bellmainz.tumblr.com/
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