花柄ランタンをはじめてライヴを観たのは、いまから3年前。ステージに上がった、ギターを1本持った男の子と可愛らしい女の子。見た目から、ハンバート・ハンバートやラッキーオールドサンといった「こじんまりとしながらも、微笑ましい音楽を奏でる男女デュオではないか」と思った。しかしライヴが始まるとまるでミュージカル・スターかと思わせる、ぷきの力強く華やかな歌声。そしてそれをしっかり支える、村上真平のギターとコーラス。時折、鍵盤ハーモニカや波の効果音を作り出す道具など、さまざまなアイテムも飛び出してきて、今までの男女デュオには無かった「おもちゃ箱をひっくりかえたような感覚」を覚えて大変感動した。
後にインタビューで村上が「頭の中の音楽イメージを最小限で簡潔に伝える手段として花柄ランタンがあり、弾き語りの枠には入れてほしくない」といった趣旨を語っており、その弾き語りの枠から飛びだす思想こそ、おもちゃ箱をひっくりかえたような賑やかなライヴや音楽づくりに繋がっているように感じる。しかし前作の4thアルバム『まともな愛のま、まほうの愛のま。』で花柄ランタンは自分たちのやり方やスタイルに変化を求めた。例えば手売りであったアルバムを全国流通したり、2人編成の楽曲から“キャラバン”や“やわらかパンクス”のようなバンド編成の楽曲や、楽器すら使用せずに都会の環境音をバックに歌う“ナイトフライト”のようなナンバーがあったり、今までにはないヴァリエーションで間口を広げたポップな方向にスタイルチェンジした。
それは以前ライヴMCで「本当はアルバム買ってくれる人の顔と名前を一致させたい気持ちはあるが、僕らも一歩前に進みたいと思い全国流通にした」と語っていた村上の発言からも意図的にスタイルチェンジをしたことは明らかであろう。そして5枚目のアルバムとなる本作『まっくらくらね、とってもきれいね。』では、更なる変化を求める作品となっている。
花柄ランタンは基本的に、楽曲作りは村上真平1人で行っているが、本作に収録されている“JABO”ではぷきが、“それでイン・da・湯”は花柄ランタン名義の共作。そして去年の2月に京都にあるサウナの梅湯で開催されたnidone.worksと花柄ランタンとの音楽劇『おやすみランタン!』のテーマ曲として作られた“タイムマシーン”は、nidone.worksの渡辺たくみとの共作であったりと、本作は村上主導の楽曲制作から、変化を求めている。また“がんばれ紅組まけるな白組”では『Crooked Rain,Crooked Rain』以降のペイヴメントに通じるような、ポップで音数が少ないオルタナティブ・サウンドが展開されたり、“POOL,BLUE,POOL.ではぷき、村上真平、それぞれにラップ的に歌っている部分があったり、と今までのアルバムではやってこなかった様々な音楽へ挑戦している。
このように変化点だけを挙げるとこのアルバムが「色んなことに挑戦して、ごった煮感が強まった作品」だと印象を強めてしまうかもしれない。しかし、花柄ランタンというデュオは、そもそも男女2人で弾き語りの枠組みに囚われない曲作りに挑戦していたこと。2ndアルバム『またねっきり来ん、あの春の日よ。』では空想の街である「永遠の森町」での出来事を描き、コンセプチュアルな作品作りに挑戦していたこと。そこから考えると「いまだから変わろう」としているのではなく、昔から「常に変わろうとしている」デュオではないか、ということに気がつく。その変化は常に「他者から見ての面白さ」を追求しているからであり、そういう意味ではポップに寄り添うデュオだと言ってもいいだろう。今年、花柄ランタンは拠点を京都から東京へ移したのだが、それも固執をせず変わり続けるからこそできる決断ではないだろうか。花柄ランタンはこれからもポップであり続けるために変化していく。
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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