先人たちのエッセンスを今へと引き継ぐ、昭和98年のロックンロール
2023年にこんなにも骨太なロックンロールを聴かせてくれるバンドがいるとは。京都の四人組バンドThe Slumbersの 1st アルバム『黄金のまどろみ』はそんなことを感じさせてくれる。
メンバー全員がまだ20代ながら、彼らのサウンドは「いぶし銀」という言葉がよく似合う。本作の1曲目を飾る“ロマンス”ではうねりを起こすようなタフなギターリフと、佐々木智則(Vo / Gt)のこぶしを効かせたしゃがれた歌声に耳を奪われる。さらに“スペシャル”ではLenny Kravitz(レニー・クラヴィッツ)の“自由への疾走”を思い起こすような、濃厚で躍動感あふれるグルーヴを聴かせる。また“さらば、憧れ”ではかまやつひろしの“我が良き友よ”を感じさせるかのような郷愁誘うメロディに乗せて、自らの強い信念を歌にする。
奥田民生、吉田拓郎、井上陽水といったアーティストから影響を受けたと公言していることからもわかるように、同バンドは日本のフォークロックを軸にしている。そこに海外のロックンロール、R&B、ブルースといったジャンルも加えて、渋く腰のすえた音楽を作り出しているのだ。同時に、Lenny Kravitzのようなグルーヴ、かまやつひろしを思い起こすメロディ、さらに“嗚呼、素晴らしきこの世界”では「時は流れて未だ僕も傘がない」「今日も都会では人が死ぬのかい」と井上陽水の“傘がない”をオマージュをするなど、自分たちの敬愛するミュージシャンを隠すことなく自己開示する姿勢は渋谷系的なアプローチでもあり面白い。
The Slumbersが今の時代にこのような音楽を鳴らす理由とは何か。彼らの音楽の参照点を挙げることは日本のフォークロックや、アメリカのR&Bやブルースを通ってきた人間ならさほど難しくないだろう。だが重要なのは、そういった音楽たちを一直線につなげ、自分たちの音楽やコンセプトを2020年代に昇華させている点だ。それは、新しいと言わざるをえない。
日本のフォークロックが好きなバンドはたくさんいる。だが彼らのように意図を明確にし、昭和のフォークやロックンロールの持っていた、濃厚さや、いぶし銀な感じを今へ引き継いでいるバンドはかなり少ない。先人たちが作り上げたロックのエッセンスを今へとつなげる音楽、そういう意味では『黄金のまどろみ』は昭和98年に生まれた、最高のロックンロールではないだろうか。
黄金のまどろみ
アーティスト:The Slumbers
仕様:デジタル
発売:2023年6月7日
配信リンク:https://linkco.re/hSdeNA11?lang=ja
収録曲
1.ロマンス
2.レトロカー
3.スペシャル
4.さらば、憧れ
5.真夏のおとぎ話
6.さすらいの旅人
7.嗚呼、素晴らしきこの世界
The Slumbers
佐々木 智則 (Vo / Gt)
中田 京悟 (Gt / Cho)
上西 響 (Ba / Cho)
五十川 想真 (Dr / Cho)
2020年2月 : 佐々木、中田、他2名により結成。
2020年5月 : 五十川が加入。
2020年8月18日 : 1st EP『大演奏旅行』リリース
2020年11月 : 上西の加入により現在のThe Slumbersに至る。
2021年3月17日: 1st シングル『嗚呼、素晴らしきこの世界』リリース
2022年1月17日 : 2nd シングル『レトロカー』リリース
2023年1月17日 : 1st アルバム『黄金のまどろみ』より“真夏のおとぎ話”先行リリース
2023年6月7日 : 1st アルバム『黄金のまどろみ』リリース
X(旧twitter) :https://twitter.com/The_Slumbers
Instagram :https://www.instagram.com/the_slumbers_official/
YouTube Channel : https://www.youtube.com/@theslumbers
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関西インディーズの水先案内人。音楽ライターとして関西のインディーズバンドを中心にレビューやインタビュー、コラムを書いたりしてます。
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