INTERVIEW

扇町para-dice

MUSIC 2020.07.27 Written By マーガレット 安井

大阪の北区にある天神橋筋商店街。日本一長い商店街とされるこの場所に多くのバンドマンに愛されるライブハウス、〈扇町para-dice〉がある。1998年に誕生した〈扇町DICE〉を現在のオーナーである瀧井さんが引き継ぎ、〈扇町para-dice〉へ名称が変わったのが2009年のこと。雑居ビルの地下1階にあり、キャパシティは50名ほど。壁にはアヴァンギャルドなペインティングが施され、たばこの匂いとアンダーグラウンドな雰囲気の、「Theライブハウス」といった空間だ。

 

ライブハウスと聞いて誰もがイメージするような場所で、8ottoを初めとして、モーモールルギャバン、空きっ腹に酒、ナードマグネット、ASAYAKE 01など多くの大阪を拠点にするバンドマンがこの場所を愛している。最近では新型コロナウイルスの影響により休業した同店を救うため、多くのミュージシャンが集まり店舗継続のためチャリティーソング『Do they know it’s para-dice?』をリリースしたのも記憶に新しい。

なぜこのライブハウスはこうもバンドマンに愛されるのか。インタビューで見えてきたのはスタッフ全員がこのライブハウスの出身者であり、同じ土俵に立つものとして、どうすれば出演するバンドがより良くなるかを真剣に考えある時には忖度なく叱咤激励をし、ある時には誰よりも「良かった」と称える姿であった。だからこそ出演者とスタッフにフラットな関係ができあがり一緒になって〈扇町para-dice〉というたまり場を作りあげた。今回はライブハウスのオーナーでありPAの瀧井豊治さん、そしてブッキングマネージャーの香山鉄兵さんに〈扇町para-dice〉についてお話を伺った。

扇町para-dice

住所

〒530-0041

大阪市北区天神橋4-7-30 B1

お問い合わせ

Tel / Fax:06-6357-4681

E-mail:paradice.osaka@gmail.com

担当 ヤスイ、カヤマ

HP

http://para-dice.net/index.html

Twitter

https://twitter.com/paradice_info

〈扇町para-dice〉はシビアに音作りをしないと音楽として成り立たたない

──

なぜ〈扇町DICE〉から、〈扇町para-dice〉と名称を変えたのでしょうか。

瀧井豊治(以下、瀧井)

2009年に〈扇町DICE〉のオーナーが運営を辞めると言ったんです。その時、僕はPAとして働いていて「このライブハウスは演者やお客さんから愛されている」という実感がありました。そんなハコをなくすのはもったいないと思い「僕が引き継ぎます」と言って、オーナーになったんです。

 

ただ前のオーナーから「DICEという名前は思い入れがあるので、別の名称で運営して欲しい」と言われて、新しい店名を考えたのですが、良いアイデアが思い浮かばなかった。ある日、お店の引き継ぎのため不動産屋さんに契約したついでに、店名の相談をしたところ「パラダイスでよくないですか」と言われて。最初は「イマイチ」と思っていたんですが、契約が終わりに従業員たちとお酒を飲んでいた時に「あのパラダイスって、意外と良いんじゃない」という話になったんです。

 

ただその時にパラダイスの綴りをどうするかと話になり、そこでPA機材のパラレル回線の「para=並行の」という意味にヒントを得て、並行世界のDICE、〈扇町para-dice〉という店名になりました。

瀧井豊治(PA / オーナー)
──

瀧井さんはどのような経緯で〈扇町DICE〉でスタッフとして働かれるようになったのですか。

瀧井

僕はジャカランタンというバンドをやっていますが、活動をするなかで音響1つで音楽が良くも悪くもなることに興味があって。それでツテを頼って、2001年ごろから〈京都METRO〉で PA を始めました。その後〈扇町DICE〉にバンドとして出演していた時に「 PA が足りていないから、手伝ってくれるか?」と店長の森下徹さん※に言われてこのライブハウスで PA をスタートさせたんです。その当時は僕のほかにも8ottoの前之園マサキがPAとして働いていました。

※森下徹:The FILM、FILM ACO.FLAMEでギターやベースを担当。扇町para-dice退職後、谷町九丁目で〈大阪LiveBar OneDrop(2020年2月に閉店)〉を経営していた。

──

ここではじめてPAをした時の感触はどうでしたか。

瀧井

スピーカーの表現力とハコの大きさがいい形で合致していて、自分の鳴らしたい音が作りやすいハコだと思いました。<扇町DICE>のときから使っている Turbo-Sound / TMS4というスピーカーは90年代初頭なら、これを持っていることが PA 業界におけるステータスといわれるくらいの名機で、高音から低音までばっちりと鳴ります。特にアコースティックのような楽器本来の響きと演者の歌を楽しむライブでは、音の良さが顕著に現れますね。

香山鉄平(以下、香山)

僕はDICE時代に出演者として出入りしていましたが、他のライブハウスよりもシビアに音を作らないと音楽が成り立たたなかった。そのため「こんなはずじゃなかった」、「なんで、ここで演奏するといつもスベるんだろう」と言うバンドマンは多かったですね。

香山鉄平(ブッキングマネージャー)
瀧井

当時は演奏者の息づかいなどの細かいディティールまで表現できないハコもありました。だから、演奏技術がいまいちでも勢いで演奏すれば上手く聴こえてしまうバンドもいたんです。でもこのハコは程よく残響が少なくなるから、細かいところまできちんと音作りを気にしないと、気持ちの良い音楽にはならないです。

ライブが終わっても出演者とお客さんは、終電がなくなるまで居続けてしまう

──

僕もよくライブハウスへ行くのですが、〈扇町para-dice〉は演者がお客さんとして足を運ぶことがが多いハコだと思います。

香山

そうですね。実はここに出ている出演者が、この付近に引っ越してくることもあって。

──

え?そうなんですか。

瀧井

本当ですね。ここに出演してから、この辺に住みだしたという人が多いです。

香山

まあ天満が住みやすい地域、ということもありますし、ここに来て終電を逃すんやったら歩いて帰れる距離に引っ越した方がいいんじゃない、というのもあるかもしれないですね(笑)

瀧井

ライブが終わっても出演者とお客さんがなかなか帰らないんです。なんなら仕事でライブは見れなかったけど飲みにだけは来る人もいるし、他のライブハウスの打ち上げをここですることもありました。

──

完全にバンドマンたちのたまり場ですね。

香山

そうですね。行ったら誰かいるし、構ってくれる、というのはあります。

瀧井

もう少し大きいサイズのライブハウスなら、客が帰らないとさまざまな弊害が出てくると思います。掃除が滞って、次の日の営業が全くできないとか。そういう意味ではキャパシティが50人程度の小さなハコだからこそ、終演後にお客さんがたまっても大丈夫な部分があるのかもしれないです。それに人も大きな要因じゃないかな。僕はお客さんと演者が集まって笑顔で飲んだりする雰囲気をつぶすのも悪いと思って、ライブが終わっても開けてていいかなと思っていますが、オーナーが変わればキッチリと営業時間を重視して終了するかもしれない。

──

なるほど。今までの話からもバンドマンからこのハコが愛されているというのがわかります。たぶんその愛は先日のクラウドファンディングで「目標金額150万を半日経たずに、集めた」という形で現れていましたね。

瀧井

正確にいえば3時間で集まりました(笑)。そもそも4月は11年目の周年イベントの期間で、月中は全てイベントで埋まっていました。しかしコロナが拡大し、良い形では周年イベントを開催できない状態になってきた。それでスタッフ全員と相談をして、営業休止に踏み切りました。ただ11周年用のTシャツを作っていたので、それをネットで販売しようと思ったら、お客さんから「Tシャツをネット販売するんやったら、クラウドファンディングをした方がいい」と強く言われて。

 

本来クラウドファンディングは未来に行われるプロジェクトの先行投資の意味合いが強いです。だけど僕たちがやろうとしているのはドネーション、つまり休業期間中の維持費の資金調達がメインになっていきます。もちろん支援していただけるのはありがたいですが、「私たちのライブハウスの維持費を自分たちだけでなく、お客様にも負担させてしまっていいのか?」いうことはすごく悩みましたね。しかしこれもお客様の要望ということもあり、実施に踏み切りました。

香山

本当は最終日までに集まればと思っていたのですが、自分たちでもここまで早く集まるとは思ってなかったですね。

瀧井

お金で愛情を計るのはよくないのですが、この結果を見て「絶対、この場所をつぶしてはいけない」と逆にプレッシャーを感じていますよ(笑)。

香山

僕たちは支援してくれた人のリストを見れるんですが、〈扇町DICE〉時代から今まで、出演してくれたバンドマンたちの名前が並んでいて感動しました。結婚して子供ができてなかなか出れなくなった方や、さまざまな事情で遠方に行ってしまった方。そんな方々が支援してくれて「みんな覚えてくれたんやな、気にしてくれたんだな」と思い、すごく嬉しかったですね。

〈扇町para-dice〉はバンドマンたちの部室

──

なぜ〈扇町para-dice〉がここまでバンドマンに愛されるのか。それを考えた時に「スタッフ全員が〈扇町DICE〉出身のバンドマンで構成されている」ということがヒントになる気がしました。

瀧井

そうですね。僕も香山も、スタッフの安井淳も、あとPAスタッフとして時々入っている松本昂大郎も全員、この場所で演者として出ている人間ですからね。だから演者の目線に立って意見が言えると思います。音響のこととか、ブッキングとか、ライブのこととか。

香山

ブッキングに関しては僕が色んなバンドを見た上で「まだ対バンしたことないけど、このアーティストをぶつけたら、お互いに刺激を受け合うだろうな」ということを第一に考えて組んでいます。仲のいい出演者同士が組むよう、数合わせ的に組むようなやり方をやってもバンド同士の今後の広がりはないと思うので。あとライブ終わりのミーティングで演者には、良かった所、悪かった所、を伝えています。

 

スタッフも、このライブハウスの演者であり、このハコで演奏することに関しては誰よりも熟知しています。だから演奏が良くなかったのに、「良かったよ」と嘘をついても演者にはバレてしまう。ライブハウスのスタッフが嘘をつかずに同じ目線で物事を言えることは重要ですね。僕もDICE時代に出演した時には叱咤激励され、「あのおっさんら、絶対ギャフンと言わせたろ」と思いながら、ずっとライブしていましたから(笑)。

──

なぜそこまで「正直」であり続けるのでしょうか。

香山

正直に向き合わないと、今度は自分が痛い目にあうからです。例えば面白くないライブをしたバンドへ適当にお茶を濁して「良かったんちゃう」と言い続けてブッキングをしても、ノルマ代などで今後も多少のお金は入ってきます。だけどそこには何も生まれない。さらにそのぬるま湯に浸かってしまうと、自分のバンドがライブした時に良くないライブをしても「良かったね」の言葉に甘んじてしまうようになる。全員がその厳しい立場になってやらないと、関係がズブズブになり、このライブハウスが丸ごと沈むと思います。

──

同じ土俵に立つからこそ演者としての立場も分かり、忖度なく思いやりを持って接することができる。演者も同じ土俵に立ったもの同士だから意見を受け入れやすい。だからこそ上下関係が生まれずフラットで、演者とスタッフに良好な関係性ができるというわけですね。

瀧井

そういう信頼性もあってか、お客さんもバンドマンが多いのかもしれないですね。このライブハウスのお客さんは面白いことも、面白くないことにも、正直にリアクションをとってくれます。スタッフも観客も嘘がない。それは演者との関係性がフラットであるからこそ出来ることだし、みんなが楽しめるライブを作ろうとしているのかなと思います。

 

ちなみにここは場所の立地や空間の雰囲気からアンダーグラウンドで入るのに躊躇するライブハウスの印象を持たれる方も多いと思います。ただその逆もあると思うんです。外界から切り離された空間。ここに来れば演者、スタッフ、観客、の三者で楽しい一夜を作り出し、ライブが終われば気のおけないバンド仲間がいて、誰かが構ってくれる。なんだろう友達の部屋というか……。

──

「ライブハウスで育った」という共通の経験を持つもの同士が、狭いハコのなかで一緒に楽しんだり、時に飲みながらワイワイ騒ぐ。〈扇町para-dice〉という場所は「部室」という言葉がぴったりな気がしますね。

香山

そうですね、部室ですね。いろんなバックボーンは持つけど、「〈扇町para-dice〉で育った」という共通の経験をもつもの同士が人目をはばからず、いろんなことを喋れる場所はここ以外にはないですし、それが〈扇町para-dice〉の他のライブハウスにはない特徴なのかなと思います。

 

もちろん店の雰囲気などから、最初はお店をあまり楽しめないっていう人もいるかもしれません。ただ一度中に入ってしまえば、快適な場所に変わるとは思います。

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