INTERVIEW

町のみんなと共生しながら独自性を紡ぐ。支配人なきシアター、元町映画館が考える固定観念の崩し方

2010年、映画をこよなく愛する数人の出資によって生まれた神戸の〈元町映画館〉。この場所はオープンしてから10年以上が経った今でも、ボランティアを含め、多くの人が関わりながら「私」ではなく「みんな」の映画館として上映を続けている。

MOVIE 2023.08.09 Written By マーガレット 安井

神戸・元町にある元町商店街。その一画に〈元町映画館〉がある。この場所ができてからそろそろ13年目になろうとしているが、『映画チア部』や『元町プロダクション』といった組織の創設や、同商店街内にある〈まち活拠点まちラボ〉でのスピンオフ企画や監督と観客が映画について同じ目線で話を交わす『元町映画館オープンダイアローグ』など映画をさらに楽しむための、さまざまな取り組みを行っている。また運営面では2023年からは支配人制度を撤廃。現在は4人のスタッフがそれぞれの役割を持ち、業務を行っている。

 

今回、ANTENNAでは元支配人であり、現在は企画・広報などを担当する高橋未来さんと番組編成を行う石田涼さんに、同映画館の「斬新さ」がどのように生まれているのか話を聞いた。そこにあったのは「私」や「営利」にとらわれないミニシアターのひらき方と、スタッフ全員がシネフィルではないからこそやれるというしなやかなスタンスだった。だからこそ〈元町映画館〉は映画業界の固定観念を壊すことがたやすいのかもしれない。取材後、そんなことを思わずにはいられなかった。

役割が変化した映画チア部の今

L⇒R 高橋未来さん、石田涼さん

〈元町映画館〉といえば、さまざまな取り組みを行っている映画館であるが、なかでも関西のミニシアターの魅力を伝えるべく結成された、学生による学生のための映画宣伝隊『映画チア部』は同映画館を代表するものといってもいいだろう。もともと2015年に学生の映画鑑賞料金を500円にする『え~がな500』をスタートさせることとなり、その宣伝目的のため映画チア部が結成されたのが活動のはじまりだ。

高橋 未来(以下、高橋)

私が青春時代を過ごしていた90年代と比べると、今は若い世代が一向にミニシアターに来ない。学生の入場料を1000円にするなど、来てもらえるようにいろいろ工夫もしたんですが、それでもなかなか集客にはつながらなくて。他の劇場に聞いても「全然、学生が来ない」という話も聞いていたし、私たちが若い人を呼ぼうと努力しても、そもそもその声が届いていない感じがありました。

 

ある時、「学生が学生に向けて映画の宣伝をした方が、響くのではないか?」と会議でアイデアが出てきて。それで、Twitterで「映画の宣伝に興味のある学生さんはいますか?」というツイートを投稿して、「いいね」を推してくれた学生にDMを送ったんです。実はスタッフである石田がそうして声をかけた一人で、映画チア部の一期生なんです。

石田 涼(以下、石田

俳優さんや映画監督と仲良くなりたかったんで、とりあえず「いいね」を押したら「宣伝隊を結成するための説明会をするので、よかったら来てください」みたいなメールが届いたんです。一期生は映画を応援する展示物を作ったり、舞台挨拶の司会進行、あとは監督個人から「取材してください」という依頼を受けてインタビュー記事を作ったり、そんなことをやっていました。

そうした活動から徐々に成長し、現在映画チア部は、自主運営の団体となって〈シネ・ヌーヴォ〉を拠点とした大阪支部、〈出町座〉を拠点とした京都支部など他の関西圏の映画館にも波及、その存在感を増している。それぞれ、世代や拠点によって取り組みは形を変えていくというが、近年、神戸本部の映画チア部は自らが企画した上映会『チアシアター』や短編映画『KOBE OF THE DEAD』の制作などに力をいれてきた。しかしまだまだ、若い世代のお客さんを引っ張ってこれているという実感は薄いという。どちらかといえば、映画チア部はミニシアターに来ている上の世代から「学生が頑張っている」という評価を受けることが多い。だが高橋さんはそうした現状にも希望を感じているようだ。

高橋

ミニシアターがすごく好きで、この文化を存続させたいという学生が、毎年途切れずに映画チア部に入部し、部活動が存続していることこそミニシアター業界にとっては希望なのかなと思っています。それにチア部の卒業生の中には、石田みたいに関西の映画興行界で働いている人もいて、バトンをつなげているという点では私にとっての希望ですね。ただ、映画チア部がどんどん飛躍するようなことをやろうとしているのに、私たちが忙しくてそのサポートを十分にできていないという悩みもあります。

「私」ではなく「みんな」の映画館だからこその支配人廃止

『映画チア部』という斬新な取り組みを行った〈元町映画館〉。そんな同映画館は今年、運営においても斬新な取り組みを行った。「支配人を廃止」したのだ。支配人は各映画館に必ず一人はいるのが通例で、主な業務には「配給会社とのやり取り」「予算管理」「番組表の決定」「スタッフの管理」などがある。元町映画館は、その業務を他部署が引き継ぐことで営業している。実は、この出来事は映画業界に驚きをもって受け止められた。なぜなら、小売店でいえば、お店の顔となる店長を廃止するようなものだからだ。

 

それまでは高橋さんが支配人を務めていたが、病気になったことがきっかけで、当所は支配人を石田さんにバトンタッチしようと考えていたという。自分のようにキャリアを重ねてしまった人間ではなく、今の時代を俊敏にキャッチし、フラットな目線で物事を見られる人に変わりたいという考えから声をかけた。しかし石田さんからは「(番組編成は)やってみようかな、でも支配人は嫌ですよ」との回答が返ってきた。

高橋

私の中で支配人と番組編成という役職はくっついていたので「どうしようかな」と思い、代表理事に相談をしたんです。そしたら「それなら支配人をやめたらいいんちゃう?」と言われて。それで経営メンバーである一般社団法人の社員たちと会議した際にこの話をしたら「いいんやない」となり、今年から支配人を廃止し営業しています。

支配人を撤廃して半年近く経過するが、〈元町映画館〉は問題なく営業を続けている。もともと同映画館ではスタッフそれぞれに人事、経理などの役割が定められているので、仕事内容を振り分けるだけでトップがいなくても各々が仕事を全うすることで運営ができる仕組みができていた。現在、高橋さんは書類や物品の発注管理、企画・広報を担当しており、石田さんは番組編成を担当。新しく編成を担当することになった石田さんは現状についてこう語る。

石田

私はもともと〈元町映画館〉のお客さんだったから、私の思い描く〈元町映画館〉のラインアップは高橋が編成してたもの。なので、それをそのままやっている感じです。だから意識的には今までの編成とは全く変えてない。しばしば好きなサメ映画を入れる以外は(笑)

ミニシアターは基本的に付き合いのある配給会社がいくつかあり、配給された映画を順番に出していくだけでも年間のラインアップは7〜8割は埋まる。そうした背景もあり、実は編成が変わっても大きな変化は起こりにくいが、高橋さんは積極的に映画祭に足を運び、「今」の情報を集めてくる石田さんに期待をしているという。

 

「支配人を廃止」をした〈元町映画館〉であるが、高橋さんの話を聞いているとそもそも同映画館にとっては、支配人制度が必ずしも必要でもなかったということに気がつかされる。その理由は元町映画館は「私の映画館」ではなく「みんなの映画館」という意識が強い場所という点にあった。

高橋

そもそもこの映画館ができたきっかけは一人の映画マニアの医者、堀忠が「映画館を作りたい」という思いで、この場所を見つけたことです。そこから自分一人では映画館は作れないからと映画好きの仲間を集めて、みんなでお金を出しあい機材を購入し、映画館がオープンできる状態にしたんです。でもお金を出した人たちは普段別の仕事をしている人たちばかりだから、現場で働ける人を探した末に私たちやボランティアが集まり運営がスタートした。だからそもそも〈元町映画館〉は「私が作った」という人がいなくて、「みんなで作った場所」という意識が強いんです。

 

私も9年、支配人をやったけれども、「私の映画館」だと見られることが多くて、それに抵抗感があった。だからこそ〈元町映画館〉では支配人とその他スタッフという関係性ではなく、スタッフが担当を持って、それぞれの責任のもと仕事をやるようにしていたんです。そういうこともあって支配人を廃止はしたけど、スムーズに引き継ぎは行えています。

アイデア出しの根源は自分たちがシネフィルではないから

〈元町映画館〉のオープンは2010年。思えば、ミニシアターが街から少しずつ姿を消しはじめていた時期でもある。そういう現状を目の当たりにしてきたからか、みんなで寄ってたかって面白い場所を作り上げようとする意識が強いと感じる。その他のユニークな取り組みでいえば、冒頭で紹介した映画チア部の他にも、『蟻の兵隊』(2006年)『先祖になる」(2013年)などの映画監督・池谷薫とタッグを組みできた一般の人がドキュメンタリーを作るプロダクション『元町プロダクション』を開設などがあげられる。

 

またイベントでは無声映画にピアノの生演奏を付けて楽しむ『SILENT FILM LIVE』や、ジャン=リュック・ゴダールの作品上映中にゴダール研究の第一人者である堀潤之が実況解説をする『ゴダール実況上映』など、さまざまなことを行ってきた。だが高橋さんも、石田さんもまだまだやりたいことはたくさんあると語る。

石田

なかなか他のことで手が回らず、実現しなかった企画の方が多い。映画館運営がうまく機能しているかどうかはさておき、自分たちがやりたいことを一番にしてイベントは行っています

高橋

最近だと『元町映画館オープンダイアローグ』という企画をやっていますが、それはゲストに来てもらってトークをしてもお客さんが話を聞くだけになるのがもったいないと感じたからなんです。でも、そうしたイベントの終演後のサイン会で、監督に長い質問や、感想を言っているお客さんを見かけることもありました。それを見て、みんな映画の感想を自分一人のものにするのではなく、誰かに話したいし、話をしながら自分の考えを深めたいのではと気づいたんです。それで私が石田と自分たちが観た映画について、お喋りをした時に「そうだみんなでお喋りをする場を作ればいい」と思ったんです。

高橋

そもそも私たちの映画館にはシネフィルがいないんですよ。私も全然映画マニアじゃない。だから映画の力を信じきれてないところがあるんです。「いい作品だから、人は来るはず」みたいな信用ができず、あの手この手でなんとか映画のことを知ってもらおうとしているんですね。それにミニシアターが次から次と閉館していった時期にできた映画館だからこそ、何かをしないといけないという想いも強い。

 

あといろいろ企画を行うことで、映画館への入り口を作りたい。私はシネフィルではないけど、私たちが今上映している映画が世の中には必要だし、自分を成長させてくれるという想いはある。ただミニシアターの映画が今「無駄なもの」として切り捨てられようとしていることを実感もしていて。そういう意味でもじっと待つのではなく、入口はいろいろと増やしておきたいですね。

〈元町映画館〉は「こうじゃないと、いけない」というこだわりが少ないのかもしれない。だからこそ映画館に風を通すようなイベントを次々と行えるし、新しい運営方法を行っても柔軟に対応できたように感じる。同時に主体が「私」ではなく「みんな」であるがゆえ、一人だけの価値観で動くのではなく、全体の価値観で運営ができている。時代は常に変化していく。だからこそ固定観念を捨て、環境の変化に合わせて運営することは重要だ。「みんなの映画館」である〈元町映画館〉の取り組みを見ていると、今あるべきミニシアターの姿を体現しているように感じた。

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