INTERVIEW

時代の変革が生んだ「愛」と「憂い」の音楽、ナードマグネット須田亮太が語る『透明になったあなたへ』

MUSIC 2019.06.18 Written By マーガレット 安井

『スパイダーマン:スパイダーバース』『グリーンブック』『ボヘミアン・ラプソディ』ここ最近で話題になった映画を挙げたが、そのどれもが人種差別、LGBTといったテーマを扱い “多様性がいかに重要か” が丁寧に描かれていた。しかし、未だTwitterでは配慮のない言葉と過剰な批判がタイム・ラインに流れ、テレビのワイドショーではコメンテーターの良識を欠いた発言が放送されている。ポップカルチャーが多様性を描く中で、いまだ溢れる差別や偏見。そんな状況を憂い、真っ向から戦おうとするバンドがいる。パワー・ポップ大阪代表こと、ナードマグネットである。

 

ナードマグネットとえばWeezerを敬愛し、情けない恋愛ソングを歌ってきた大阪のインディーズバンドだ。2016年には1stフル・アルバム『CRAZY,STUPID,LOVE』を活動10年目でリリースしたことでも話題になったが、次年のミニアルバム『MISS YOU』以降、ソングライターである須田亮太(Gt / Vo)は様々なポップカルチャーを吸収し、新しいスタイルへと方向転換。結果的に2ndフル・アルバム『透明になったあなたへ』は情けない恋愛要素は少なく、Weezerの元ネタも一切封じ、同調圧力、LGBT、抑圧からの逃避といったテーマが軸として据えられた作品となった。

 

しかしその制作過程の裏では、ポップカルチャーに対する “愛” と、届けたい層に届かない “憂い” のジレンマに苛まれたと須田亮太は語る。今回アンテナでは『透明になったあなたへ』のリリースに合わせ、ナードマグネット須田亮太にインタビューを実施。最新アルバムに隠された思いや、敬愛するポップカルチャーへの愛と憂いについて余すことなく語ってくれた。時代が変わる今だから生まれた『透明になったあなたへ』。このインタビューがナードマグネットの今を理解するためのテキストになれば幸いだ。

簡単な図式のスクール・カ―ストを歌ったところで、本当に問題を抱えている人には届かないだろうと

──

最新作『透明になったあなたへ』を語るうえで “新しい方向性” というのがキーワードになると思います。ぴあ関西版WEBのインタビューでは「『MISS YOU』くらいで、自分の中で一旦一区切りがついたかな」と語っていましたが、なぜ区切りがついたと思ったのですか。

須田

それまでの “情けない恋愛ソング” みたいな流れは『MISS YOU』までで、いっぱい作ったなと。そんな時に『MISS YOU』のツアーが始まる直前に、luteとのコラボの話が出たんですが、レーベル(THIS TIME Records)から「書き下しでお願い」と言われて出来たのが “アップサイドダウン(M02)” だったんです。

 

“アップサイドダウン” は今までのパワー・ポップ路線ではなく、ポップ・パンクを意識したものだったんですが、メチャクチャ評判が良かった。その時に「ポップ・パンクに寄せた感じもいいかも」と思いました。今までのような恋愛要素も強くないですし、「ナードマグネットの新しい形が見えてきた」と感じて、アルバムの構想時には「今までとは違う、新しい方向で行こう」と決めました。

──

以前、Superfriendsの塩原さんとの対談のなかで、「試行錯誤の後にようやく今のナードマグネットにたどり着いた」、と話をされていたじゃないですか。 “情けない恋愛ソング” はナードマグネットの象徴だと感じている方は多いと思います。

須田

自分の経験を織り交ぜた “情けない恋愛ソング” の路線を突き詰めた方が、体感的には「簡単に共感を得れるかも」と思ったし、自分の周りのシーン的でもそういう失恋ソングを売りにするムードが何となくあるなと感じていました。それである日、僕の友達と今みたいな話をしていたら「あ、わかる。ビジネス引きずりみたいなやつね」と言われて。その時「何となく感じていたもの、それだわ!」と思わず頷いたんですね。僕は昔から天邪鬼な所があり、そういうビジネス引きずりに対して、なんか抗いたくなったんです。

 

それに『MISS YOU』のツアーをしていた時期に会社を辞めて、半年くらい無職になったんですが、その時に家でNetflixや映画ばかり見てたんです。そこで思ったのがポップカルチャーには青春物というジャンルがあって、今も昔も人気だけど、時代によって変化していると感じたんです。

──

変化しているとは?

須田

例えば『スパイダーマン』もサム・ライミ版では典型的なスクール・カーストで描いているのに、ジョン・ワッツ版だとピーター・パーカーは超優秀だし、いけすかない奴や学園イチのマドンナも全員クイズ部みたいな部活だったりするんですよね。

僕らナードマグネットというバンド名だけあって、スクール・カースト的な文脈で語られることが多いのですが、それが一昔前の、言ってみれば「イケてるあいつら」VS「イケてない俺たち」みたいな二項対立で語られていて。でも、ポップカルチャーが描くスクール・カーストが変化しるのに、「今さら二項対立で語れるような簡単な図式のスクール・カ―ストを歌ったところで本当に問題を抱えている人には届かないだろう」と思ったんです。

──

須田さんが感じている“問題の抱えている人”はどのような人を指すのでしょうか?

須田

スクール・カーストからも零れ落ちるような人ですね。例えば、周りから一見うまくやれてそうだけど疎外感を抱えていたり、辛い現状から抜け出したくても抜け出せないような人とか。実際にそういう悩み抱えている人と、何人も出会いました。ライヴハウスで楽しそうに喋ってはいるけど、難しい問題を抱えているような人とか。「悩んでいましたが、ナードの曲を聴いて元気が出ました」とTwitterのダイレクト・メールで感想を送ってきた人の悩みが、とても深く重たいものだったり。

 

そういう人を目の当たりにしてきたのと、世界のポップカルチャーを見ていく中で、ステレオタイプなスクール・カーストを描くのではなく、今に寄り添ったもの。「イケてる」「イケてない」から、一歩踏み出したものを描がこうと思い『透明になったあなたへ』を作りました。

アルバムのコンセプトをかためていく中で、“I'm Not Gonna Teach Your Boyfriend How To Dance With You” がハマりました

──

「新しい方向性で行こう」と思ってから、どのような順で曲は作ったんでしょうか?

須田

最初に出来たのが “透明になろう(M05)”  “虹の秘密(M07)” “家出少女と屋上(M09)” の3曲で。この3曲は僕が無職時代に出来たこともあり「無職3部作」と名づけているんですが、出来た段階で「あ、アルバムの骨組みがみえた」と思ったんです。ただ、曲順を考える段階で、「こういう曲も必要だな」と思い足した曲がBlack Kidsの“I’m Not Gonna Teach Your Boyfriend How To Dance With You(M06)”です。

──

パワー・ポップを敬愛するナードマグネットがBlack Kidsをカヴァーするのは意外ですね。

須田

これは曲順が胆になっていて。この曲の次が “虹の秘密” という曲なのですが、サラッと聴いたら今までの僕らっぽいんですよ。でも歌詞を読ん時に疑問を持って欲しいんです。ただ、それだけではあまりにヒントが少ないから「真意をくみ取ってもらう何かが必要だ」と思ったんです。そう考えていた時に「最適な曲があった!」と思い “I’m Not Gonna Teach Your Boyfriend How To Dance With You” を入れました。

──

差し支えなかったら、どういう意図で入れたのか教えていただけないですか。

須田

実は “虹の秘密” は1人称は僕としているんですが、相手の性別をあえて男性か女性かを不明瞭にしたんです。だから「僕が見つめているあの子」が、女の子がなのかもしれないし、男の子なのかもしれない。どっちにも取れるように書いたので、だから「虹」という単語を使いました。

──

「虹」はLGBTの象徴ですからね。そう考えると、Black Kidsの “I’m Not Gonna Teach Your Boyfriend How To Dance With You” も同性愛をテーマにした曲ですね。

須田

そうです。冒頭の「You are the girl that I’ve been dreaming of ever since I was a little gir」は少女である私が理想の女性を見つける、という歌詞ですからね。だから、この曲を入れることで「 “虹の秘密” で歌いたかったことが補強できる」と思ったんです。

──

LGBTという題材を歌詞に入れ込むことは不安ではなかったですか?

須田

新しいことを歌っているので、どう受け止められるかちょっと不安な部分はありました。でもそれと同じくらい色んな人に感想が聞きたいですね。今回のアルバムも多くの人に聴いてもらっていますが、刺さるポイントが人によってバラバラでそれがすごく良かったと思いました。音楽を作る上で、自我が強く出過ぎていてもよくないので。僕らはあくまで他愛もないポップソングの範囲にいたいんです。

──

そのバランス感覚が秀逸だよなと思っています。聴いていて説教臭くないというか。

須田

そうなると、とっつき辛いですよね。頑固おやじみたいに「その楽しみ方は違う」みたいな文句は言いたくないし、自由に楽しんでくれていいと思います。それこそ「え?何で今更Black Kids?」みたいな感じで、楽しんでもいいと思いますし。

──

意図と違う読み解き方をされても良いということですか?

須田

僕は構わないです。もちろん僕の考えで曲は作っていますけど、受け取り方は人それぞれなので。そもそもメンバーにも曲の内容に関してはあまり共有していないんですよ。だからインタビューで曲の意図について話をしたら「もっと言ってよ…」と言われます(笑)。

──

なぜメンバーに共有しないのでしょうか?

須田

曲と歌詞で、僕のソングライターとしてのエゴが出過ぎていますからね。担当パートであるからには、それぞれが解釈して音楽を作成して欲しいし、それがバンドかなと思うので。一人で全部作り上げたら、もうバンドではないですよね。だから曲を作る時は基本的にはコードとメロディと歌詞だけを作り、メンバーに投げて「各々で解釈してね」というスタンスでやっています。

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「そこから踏み込んでくれたらもっと面白いですよ」という堀り代みたいなものは用意したい

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