
Bialystocksが日本武道館公演で示した地続きの最果て、偉大なる通過点
甫木元空(Vo)と菊池剛(Key)によるバンド Bialystocksが、2026年7月15日に〈日本武道館〉で単独公演を行った。先週末7月25日は『FUJI ROCK FESTIVAL』に初出演し、〈GREEN STAGE〉を沸かせたばかり。その直前の開催となった本公演は先行受付でチケットは予定枚数に達し、追加販売された注釈付指定席もソールドアウト。約1万人が見届けたキャリア最大の単独公演について、1st EP『Tide Pool』(2022年)からライターとして取材を続けてきた副編集長・峯大貴が綴る。
Bialystocksは“ポップ・ミュージック永久機関”である
時刻は終演した20時50分。日本武道館から九段下駅に向かいながら、感無量といった様子の観客たちを眺めながら、それまで呆然としていた筆者の頭の中にようやくこの日の所感が浮かんできた。私は今、Bialystocksの「地続きの最果て」を目の当たりにしたんだなと……。
「地続き」。それは甫木元が度々インタビューで口にしてきた言葉だ。
2019年に結成、2021年にインディーズ1stアルバム『ビアリストックス』を発表し、甫木元と菊池の二人体制になって以降のBialystocksは何かのゴールや目標を目指すことはなく、ただいい楽曲をつくってリリースし、ただいいアレンジや演出を施してライブをしてきた。ずっと地続き。バンドとしての物語や、アルバムごとのコンセプトはない。メンバー自身のキャラクターもあまり介在しないし、ライブでは告知以外一切MCを挟まない。その姿勢はまるでリスナーや観客にも、ただただ目の前の音楽に没頭し、堪能することが至極の贅沢であることを伝えているかのようでもある。
そんな彼らのキャリアを一言で表すならば、とにかく創作に向き合ってきた“ポップ・ミュージック永久機関”。また別稿では「Bialystocksは一蓮托生の運命共同体的な〈バンド〉よりも、甫木元と菊池による〈アートフォーム〉と表す方がフィットする」とも評した。そんなスタイルがじわじわと聴衆の心をつかみ、日本武道館公演までたどり着いた。筆者としても感慨がないと言えば嘘になる。
でもそんなBialystocksだ。この記念すべき日本武道館すら地続きであり、到達点にも節目にもしないのだろう。それは本公演のメインビジュアルを見たときから確信していた。『BIALYSTOCKS NIPPON BUDOKAN』というロゴに、ありもののモノクロ写真から甫木元と菊池の顔だけ切り抜いて貼り付けたような、実に簡素なレイアウト。まるで「感慨を持ち込むのはご自由に。我々はただ日本武道館という会場に最適な演奏をご用意してお待ちしています」と言わんばかりだ。
当日会場入りすると、ステージ後方の注釈付き指定席まで満員で埋め尽くされた約1万人の観客。この光景を一瞬たりとも見逃してはならないという緊張感が、ほどよく張り詰めた独特の空気だ。定刻から10分ほど過ぎた18時40分、一気に照明が落ちた。Bialystocksの武道館公演が、始まる。
本編21曲に渡るノンストップ・ストイック・ショー
オーバーチュアとしてビックバンドの演奏が流れる。彼らの楽曲を織り交ぜてアレンジされてたSEだ。その中の“灯台”のパートが終わり、曲調がガラッと変わったタイミングでステージから向かって左側から甫木元が、右側から菊池が入場。客席内を通過しながらステージまで練り歩いた。しかし大歓声に愛想よく応えることも、二人が交差するタイミングで互いが一瞥を交わすこともない。演出は己の振る舞いではなく、音楽そのものに付与されるべきものという美学と、甫木元と菊池というルーツや資質の違う「ねじれの位置」にいる二人の関係性を示しているように感じた。
とはいえいつになく華やかな登場だ。でもこの日だけの大々的な仕掛けはここまで。一たび“Upon You”から演奏がスタートすれば、本編21曲をノンストップで演奏し続けるストイック・ショーだ。2段のステージに並ぶのは二人に加えて、朝田拓馬(Gt)、越智俊介(Ba)、小山田和正(Dr)というここ数年のほぼレギュラーメンバーに、市原ひかり(Tp)、オオノリュータロー(Background Vocals)という7人編成。菊池はキーボードを甫木元の立ち位置側とサポート陣がいる後ろ側に2台設置し、ほぼ正面を向くことはなく、演奏とアンサンブルの指揮に撤するセッティングなのも特徴的だ。
Bialystocksのライブの特徴は、ツアーごとに菊池が主体となって楽曲のアレンジをゼロから再構築し、その公演のセットリストが一続きの作品のように披露していくところ。この日は幾分オリジナルのアレンジに、改めて敬意を表することに主眼が置かれているように思えた。最新曲の“一瞬”ではフュージョン色を加え、市原のトランペットを鮮やかに際立たせたり、“頬杖”では穏やかなリズムを活かしつつ、テンポでアグレッシブに緩急をつける、といった具合に。一方でブルージーな“憧れの人生”では菊池のピアノを主体として静かに聴かせながらも、アウトロで朝田のギターがエクスペリメンタルに火を噴くプログレッシブな展開。そこからアッパーな“灯台”になだれ込む美しさよ。この高揚感を掻き立てる、曲から曲へのつなぎ目の見事さが、彼らのライブ一番の魅力だとすら思っている。
一方で中盤の“Thank you”では全編にデジタル・クワイアのエフェクトを加えながらゴスペル調に大きく様変わりし、会場の温度を穏やかに整える。そこに続く“あいもかわらず”では甫木元のアコ-スティックギター弾き語りに始まり、最終的には全員がアコギで演奏に加わる。まるで映画『サウンド・オブ・ミュージック』を観ているような、優雅で牧歌的な光景だ。
この“あいもかわらず”を筆頭に“頬杖”、“言伝”、“All Too Soon”など、いつになく甫木元がアコギを弾く曲が多かったのも今回の大きな特徴といえる。繊細かつ獰猛なバンドサウンドを乗りこなしながらも、適度に距離をとって歌うアクターとしての振る舞いから、ギター奏者としてしっかり演奏陣の7分の1の役割を担う場面が増えたことは特筆しておきたい。
「何かの終わりでも始まりでもない」
後半に入ると“日々の手触り”では照明がランタンだけになり、甫木元も灯りを手にしながら所在無げかつひた向きに歌う姿は胸を打つ。続く“All Too Soon”、“コーラ・バナナ・ミュージック”と“I Don’t Have a Pen”というロックバンドとしての輝きを放つ、ライブにおけるキラーチューンを3連発する大盤振る舞い。ラストスパートを予期した観客からは、1曲終わるごとに地鳴りのような歓声が上がっていた。そして“夜よ”ではクライマックスを告げるようにアウトロでは長尺のコーラスとセッションを繰り広げ、甫木元の歌唱も最高潮に達する。その中で初作品の収録曲“ごはん”の一節を盛り込んだのは、示し合わせていたのだろうか。泣く泣くセットリストから漏れ、この場所に連れてくることができなかった重要曲の顔だけでものぞかせてあげたいという甫木元の想いを感じ取った。
本編最後は今年発表されたシングルの“Everyday”。Queen“ボヘミアン・ラプソディ”を思わせる、オペラ調の構成で徐々にボルテージが上がっていく。甫木元のハイトーンが最高レベルに達し「サンキュー武道館」と告げた瞬間に金の紙吹雪が会場中に舞う、美しい演出で締めくくった。そしてアンコールでは甫木元からの恒例の告知事項として年内のアルバムリリースとホールツアーの開催を発表し、残る“差し色”と“Nevermore”を披露。しっかり次のアクションにつなげて去っていく、なんて潔くて晴れやかなカーテンコールだろう。
またこの告知の前に甫木元は、唯一自分の言葉として「別に今日が何かの終わりでも始まりでもないんですけど、本当に今まで出会ってきたすべての方々に感謝しています」と語った。冒頭記した「地続き」に通じる、とても彼らしいメッセージだ。実際この日は、サポート加えたメンバーとのアンサンブルの構築、3rdアルバム『Songs for the Cryptids』(2024年)や、今年リリースしたシングル3曲までを加えた現在のレパートリーの中での構成・アレンジと、過去6回に渡ってライブをレポートしてきた中で、どこをとっても最もポップ・ミュージックとしての強度と普遍性に満ちた素晴らしい公演だったと断言できる。
なのにこの日を何かの到達点にもしないということは、まだまだBialystocksが未来の自分に期待をしているということだろう。そのことを信じて、この公演はこれまでの地続きの最果てのように見えたが、やっぱり偉大なる通過点と結論付けたい。
写真:小杉歩・廣田達也
Bialystocks 単独公演 於:日本武道館 セットリスト
01. Upon You
02. 一瞬
03. 聞かせて
04. 頬杖
05. 憧れの人生
06. 灯台
07. 花束
08. Over Now
09. Thank You
10. あいもかわらず
11. 言伝
12. Kids
13. Branches
14. 日々の手触り
15. All Too Soon
16. コーラ・バナナ・ミュージック
17. I Don’t Have a Pen
18. 幸せのまわり道
19. 光のあと
20. 夜よ
21. Everyday
<アンコール>
22. 差し色
23. Nevermore
Bialystocks New Album Tour 2026-2027
日付:2026年12月22日(火)
会場:東京・LINE CUBE SHIBUYA
開場 / 開演:18:00 / 19:00
日付:2026年12月23日(水)
会場:東京・LINE CUBE SHIBUYA
開場 / 開演:17:30 / 18:30
日付:2027年1月23日(土)
会場:愛知・岡谷鋼機名古屋公会堂
開場 / 開演:17:30 / 18:30
日付:2027年2月11日(木・祝)
会場:福岡・福岡市民ホール 大ホール
開場 / 開演:16:30 / 17:30
日付:2027年2月13日(土)
会場:群馬・高崎芸術劇場 大劇場
開場 / 開演:17:30 / 18:30
日付:2027年2月19日(金)
会場:宮城・東京エレクトロンホール宮城 (宮城県民会館)
開場 / 開演:17:30 / 18:30
日付:2027年2月23日(火・祝)
会場:京都・ロームシアター京都
開場 / 開演:17:00 / 18:00
日付:2027年3月28日(日)
会場:大阪・フェスティバルホール
開場 / 開演:17:00 / 18:00
日付:2027年4月4日(日)
会場:神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホール
開場 / 開演:17:00 / 18:00
チケット情報
座席 / 料金:指定席 ¥8,800(税込)
受付URL:https://eplus.jp/bialystocks2026/
『Bialystocks New Album Tour 2026-2027』特設サイト:https://bialystocks.com/tour2627/
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WRITER

- 副編集長
-
1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
過去執筆履歴はnoteにまとめております。
min.kochi@gmail.com