大阪に連綿と根付くブルース、フォーク、ロックの遺伝子を今に受け継ぐ3人の北摂青年愚連隊は、確実にライブハウスの観客の心をものにしてしまうライブ・バンドへと成長を遂げている。上野エルキュール鉄平(Dr)とタミハル(Gt)が、弾き語りで活動していたショーウエムラ(Vo / Ba)をフロントマンとして誘い込む形で2016年に結成したアフターアワーズ。彼らが登場した衝撃については、結成以前からそれぞれ有志スタッフとして関わっていた野外コンサート・祝春一番に初出演したステージも通して、2017年のデモ音源『2nd demo』発売時に、ki-ftでレビューも掲載した。
そこから約2年の活動をまず追っておこう。祝春一番には3年連続出演。今年2019年にはショーウエムラがソロの弾き語りでも出演するなど、本イベントの最若手枠としてポジションを確立している。その一方で心斎橋Pangea、南堀江SOCORE FACTORY、京都nanoを中心に同世代のバンドたちと横並びになってライブ本数を増やし、自らのロックンロールを研ぎ澄ましていくことにも注力。その結果HOLIDAY! RECORDSの主催イベントや、今年に至っては『MINAMI WHEEL 2019』(台風のため中止)や愛はズボーン主催の『アメ村天国2019』などのフェスにもラインナップされ、ライブハウス・シーンの一角として存在感を発揮している。
そんな歩みの中での変化でいえば、2018年に鉄平とタミハルがサポートとして兼務していたポップバンド・YMBを抜けてアフターアワーズに専念をすることを決意。アンテナでもリリース・インタビューを掲載したYMBのアルバム『CITY』(2019年)では内2曲で在籍時の演奏を聴くことができる。中でもラストを飾る“人生は”は、タミハルのワウとカッティングが入り混じるギターリフが骨格を成しつつ、メンバー4人全員で「人生はトントン拍子」とユニゾンする点や、yoshinao miyamoto(Vo / Gt)が「新しいスタイルでさあ今をくぐり抜けようか」と歌うさまは、YMBがこれからそれぞれの道で次のステップへと進んでいく宣言のようにも感じられた。
一方でショーウエムラは、結成当初からショートスケールのベースをサムピックで弾いていくというスタイルだった。それはアコースティックギター弾き語りからのコンバートにより、手に馴染むことを重視していたからだといえる。しかしついに増幅するバンドの熱量と馬力に対応するために、通常のジャズベース・タイプに切り替えるようになったのだ。
『2nd demo』以来となる音源となった2作『ヘラヘラep』、『ガタガタep』はいずれも新曲2曲に過去のデモ音源収録の新録verが収められた3曲入り。彼らの掲げる「転んでないのに泥だらけ」のまま駆け抜けたライブ活動の中で磨き上げた楽曲を、フットワーク軽く収めていったという印象を受ける。会場の観客に何度だって「私が、アフターアワーズです」(上岡龍太郎風)と自己紹介していくような2枚だ。
2作とも冒頭曲では彼らなりのロックンロールの美学を突き付けている。“ミュージック”ではつんのめったビートに乗せてショーが「僕らの歌は転がっていく」とどんどん言葉をまくし立てていく。相対して、オアシス“Supersonic”を思わせる重苦しさ漂う音像の“キラーチューン”は、最後に「僕らは輝くまで漂ってる」と呟いて幕を閉じる。いずれも志半ばなりの血気盛んな勢いが感じられるが、懸命に自身を鼓舞する憎めなさが背中合わせになっているのが彼ららしさとも言える。そんなしがない愛らしさが前面に出ているミドル・チューンも両作に収録。“凡才ライダー”は「グレート・エスケープ」、「マックイーン」が歌詞に出てくるように映画『大脱走』へのオマージュも垣間見えるものの、描かれるのはそれを観ながらビールを飲んでいるバンドマンの自分なのだ。一方“シャッフル”も哀愁と希望に満ちたショーの歌が冴えるロック・バラード。電車と踏切の環境音が入ったアクセントと「過ぎ去ったなら いちいち色褪せんなよ」の名文句にはグッと心が掴まれる。
そして新録として生まれ変わった“ジョージのテーマ”と“バイバイ”。特に後者はライブでも極めつけに披露されることの多い代表曲だが、冒頭のサビが中盤全く出てこず、ラストに4回連続で繰り返されるという、実に奇妙な構成を持っている。そこに違和感を受けないのは、パートの間に執拗に入るタミハルのソリッドなギターソロと疾走感、そして聴く者の期待を煽ってシンガロングを巻き起こすサビの爆発力によるものだろう。言わばTHE BLUE HEARTS“情熱の薔薇”のサビに通じるカタルシス。合わせて今回の新録では宮腰理によるキーボードが加わっており、THE BLUE HEARTS~THE HIGH-LOWSにおける白井幹夫のような役割を担っているという点も面白い。
ハードボイルドにもアンチヒーローにもなれない凡才のロックンロール。それが今ライブハウスから徐々に波紋が広がっている胎動が痛快だ。アフターアワーズ、もっと関西をかき回せ。そして全国に向け、今こそ突き抜けるよーな音楽を。
ヘラヘラep
収録曲
1.ミュージック
2.凡才ライダー
3.バイバイ(新録)
価格:1,000円(税込)
ガタガタep
収録曲
1.キラーチューン
2.ジョージのテーマ(新録)
3.シャッフル
価格:1,000円(税込)
取り扱い店舗
【店頭販売】
タワーレコード 梅田マルビル店
関大前TH HALL
【ネット販売】
HOLIDAY!RECORDS
SABOTEN MUSIC
THISTIME RECORDS(ドメス)
Webサイト:https://afterhours3.amebaownd.com/
Twitter:https://twitter.com/_after_hours_3
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
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