INTERVIEW

年鑑 石指拓朗 2021-武蔵野散歩編

MUSIC 2021.12.27 Written By 峯 大貴

シンガー・ソングライター石指拓朗を追った、ANTENNAの年の瀬を飾るインタビュー『年鑑 石指拓朗』。「石指にはまな板の鯉となってもらい、よかった年もよくなかった年も、率直にドキュメントしていく」というコンセプト、2018年から続くこと4年目の今年も無事完成いたしました。

 

2021年は昨年開始のポッドキャスト番組『RADIO BORDER』は継続しつつ、〈ROCK CAFE LOFT〉での趣向を変えた配信イベントの開催や、敬愛する双葉双一とのシリーズ・ライブ『全日本フォークスカウトキャラバン』を始動などの取り組みはあったものの、『ナイトサークル』(2019年)以来の音源リリースは叶わなかったことが、本人としてはやりきれない一年だった様子。

 

そこで今回は石指の生活圏内である、武蔵野・西東京市エリアの思い入れある場所を散策しながら、カジュアルなスタイルでインタビューを行なうことにした。街ブラ番組さながらの一日だったが、会話の端々から伺うに、フォーク・ロックを基調としていた過去3作のアルバムからはみ出す瞬間はもう目の前な気もしている。

 

写真:服部健太郎

インスピレーションを探していた一年

──

武蔵野中央公園に着きました。“さあ出といで”のMVで見たことある風景ですね。

石指

そうそう。田中ヤコブくんと撮影したあのMVはここと、東伏見稲荷神社、そして今日も最後に行こうと思っている東伏見公園で撮影しました。この公園は八幡町と緑町をちょうど跨いでいて、『緑町』(1stアルバム / 2015年)のころはもうずっとここで曲づくりをしていました。

──

思い入れのある場所なんですね。さて今年の振り返りですが、2021年は石指さんにとっていかがでしたか?

石指

2020年より徐々にライブができるようになれたのはよかったんですけど……基本的には落ち込んでいましたね。やりたいことのアイデアはあるし、ずっと取り組んではいるけど、形にするまで推進することができなかった自分の駄目さにこたえた一年でした。今年ずっと心の支えにしていた星新一の言葉があるんですよ。(読み上げる)

無から有を生み出すインスピレーションなど、
そうつごうよく簡単にわいてくるわけがない。
メモの山をひっかきまわし、腕組みして歩きまわり、溜息をつき、
無為に過ぎてゆく時間を気にし、焼き直しの誘惑と戦い、
思いつきをいくつかメモし、そのいずれにも不満を感じ、
コーヒーを飲み、自己の才能がつきたらしいと絶望し、
目薬をさし、石けんで手を洗い、またメモを読みかえす。
けっして気力をゆるめてはならない

 

『創作の経路』星新一

石指

この言葉にとても励まされて。ずっとなにかインスピレーションを探して作っては今ひとつだなぁ……みたいなことを繰り返して、「自分ってなにもねぇなー」と確認して落ち込んでいる状態でした。これまで2年おきにアルバムを出してきたのに、『ナイトサークル』(3rdアルバム / 2019年)からもあっという間に2年経ってしまいました。

──

これまでも創作で落ち込んだ時期はあったんですか?

石指

それで言えばずっと同じように苦しかったのかもしれません。ただアルバムをつくっている時はハイになっているから、3枚目まではずっと気力で持ちこたえてきた気がします。普段『ジェーン・スー 生活は踊る』(TBSラジオ)をよく聴くんですけど、スーさんがお悩み相談に対して「自分に期待しているから落ち込むんだよ」とよくおっしゃっていて、本当にその通りだと思う。でも「自分はこんなもんなんだよ」と受け止めようとすると、それはそれで落ち込んじゃうというか。まだ自分に期待したいんですよ。

──

確か『緑町』から『ナイトサークル』まで、3作は絶対に出すということを目標にしていたと常々話していましたよね。

石指

はい。ソロで弾き語りを始めた時に自主レーベルでアルバム3作はどんなことがあってもやり遂げようと決めていました。それができたら次の何かが見えてくるだろう。もし気力とか心の底から出てくるパワーみたいなものがなくなったら、すっと辞めようとも思っていた。

──

だからその次の目標を新たに立てるのは単純に難しいし、時間もかかってしまうのは自然だと思いますよ。

石指

あぁ……だからコロナは関係なく、どのみちこの2年は難しかったのかもしれませんね。3枚作っても思ったより何も変わってないし、まだやる気がある。

──

はっぴいえんどは3作で解散、岡林信康(『わたしを断罪せよ』『見るまえに跳べ』『俺ら いちぬけた』)も高田渡(『ごあいさつ』『系図』『石』)も3枚で一区切りとなる。THE BLUE HEATSだって3作目の『TRAIN-TRAIN』でメルダック時代が終わるし、誰しもが岐路に立たされるタイミングなのではないかと。

石指

確かに。この節目を乗り越えて、一つずつ形にしていかないといけないということですね。

──

そういうフェーズに来ているということに加えて、石指さんは目標や完成イメージの解像度をかなり明確にしてから動き出したい性格なのではないでしょうか?

石指

「いいじゃん!いっちゃえ!」でとりあえず走り出すってことが苦手なんですよ。焼きそばをつくろうとして、家にもやしだけがない時もわざわざ買いに行くタイプ。もやしくらいなくたってできるのにいちいち引っ掛かってしまうんですよね。自意識が追いつく前に動き出したいです。来年は自意識からの逃走で。

──

ちなみにそのやりたいイメージってなんですか?

石指

セイント・ヴィンセント(St. Vincent)とか、スティーブ・レイシー(Steve Lacy)みたいな、ギタリストとして確固たる個性がありつつ多面的に変化していくイメージですね。アルバム3作は一人フォーク・オーケストラのスタイルで作ったものだったので、次は違うことをやりたいと考えています。

まだまだ歌いたいことが出てくるはず

石指のこれまでを振り返りながら、1stアルバムのタイトルにも冠した武蔵野市・緑町を歩いてゆくと、彼の歌はこの街と共にあることが身をもって伝わってくる。

 

「風が遊ぶ公園で 一人でベンチにかけて リップクリームを塗って しまって 今度はタバコを出して」“秋の風”

 

「商店街を自転車で 通り抜けるところです 誰か飛び出してきたら危ないので あくまでゆっくりゆっくりと」“商店街を自転車で”

 

「武蔵野 我が心の故郷よ 青梅街道を吹き抜ける風」“武蔵野”

武蔵野地域にはかつて吉祥寺のライブハウス〈BLUES HALL/武蔵野火薬庫 ぐゎらん堂〉を中心に高田渡、シバ、友部正人らが集い、武蔵野タンポポ団が結成されるなど、フォークにゆかりが深いエリアだ。住む前から憧れはあったのかと聞くと「全くなかった」という。しかし「初めてきた時からなんだか懐かしい感じがしたし、何年住んでも全く飽きない」と言うこの街の風景は、彼が描き出す心象風景そのものなのだろう。

──

住んでいるのはずっとこのエリアなんですか?

石指

21歳の時に上京してから武蔵野市内で4カ所に住んで、今は少し違うところになりましたけど、遠からずのエリアに住んでいますね。最初は家賃が安ければどこでもよかったんです。だから新井薬師とか高円寺も探したけど、たまたま最初に住んだのが三鷹駅の近くで、そこから愛着が沸いて居着いている。あ、あそこがその3番目の家!隣が今トランクルームになっちゃっているんですけど、当時銭湯だったんですよ。よく入りに行ってたからなくなっちゃったのが寂しくって。

──

へー!ここには何年くらい住んでいたんですか?

石指

ここで『緑町』の宅録もしていたから、2014~2016年の2年くらいですかね。小学校1年生からの幼馴染とやっていたバンドのTHEWATTERをちょうど辞めるくらいの時期でもあります。今サブスクでも『ANOTHER SIDE THEWATTER』(2016年)っていうアルバムが聴けるんですけど、これは自分がベースを弾いていた在籍時の作品。

──

確かもう一つ、ギターとして入っていたバンドもありましたよね?今も石指拓朗バンドセットで活動を共にしている藤田愛さん(Dr)と一緒にやっていた。

石指

うずらですね。ボーカルのあんりが作る曲がめちゃくちゃ好きだったんですよ。だから元いたギターの方が抜けるタイミングで自分が加入して、THEWATTERと同時期にやっていた期間もありました。2011年に1枚だけ『万華鏡の世界』というアルバムが出ているんですが、作った直後に他のメンバーが抜けて。二人でやっていたんですが、しばらくして自分も抜けました。あんりはいい音楽をたくさん教えてくれたし、いい曲を書く才人でした。今は少し音楽シーンから離れてしまっていますが。

──

長らく活動を続ける中で音楽を辞めていく人も、たくさん見てきたのではないでしょうか?

石指

ここに住んでいたくらいのころはまだ「音楽を続ける」みたいな意識がなくて、その言葉に対してアンチだった部分もありますね。続くのは結果であって、燃えることができなくなったら辞めるのは自然だろうと思っていた。でも今は辞めていった人の方が多くなって、続けることの大事さも少しは考えるようになりました。

 

特に弾き語りだと基本は一人で動くじゃないですか。一人はやっぱりめげる時があるんですよ。ライブするためのいろんな手配とか連絡周りとか、細々した作業は多いですからね。その中でも割と一人できちっとやれちゃう人と、面倒を見てくれるスタッフ的役割の人が必要なタイプがいると思っていて。僕はどちらかというと全部自分でやりたくなってしまう人間だけど、伴走してくれたり、鼓舞してくれる存在がいるといいなと思います。

──

一人でできる身軽さと孤独は一長一短ですよね。その中で石指さんは、なぜ続けてこれたんだと思います?

石指

なんでだろう……。楽器ができる、曲が作れる、歌が歌えることなんて、たいそうなものじゃなくて、そもそも自分の歌なんて独り言と変わらないと思っているところがあって。例えばあの前から歩いてくるおばあさんがすれ違う時に、もしかしたら独り言を言ってるかもしれないじゃないですか。それみたいなものです。

 

でもライブをやったら誰かしら観に来てくれるとか、アルバムを出したら聴いてくれる人がいるとか、それのみです。どんな些細なことにさえ励まされるんです。それを持ち前の自意識で何倍にも膨らまします。そういう細やかな実感が断続的にあったからというのが大きいのかもしれません。あとは当たり前のことを言いますけど、めっちゃ音楽好きなんですよ。まだやりたいことがたくさんある。

──

それが一番大事ですよね。音楽に対する熱量が燃え続けている。

石指

そう。まだ出し切れてない。早川義夫さんがエッセイで「歌いたいことが出てくるまで自分は歌手じゃない」みたいなことを書いていたんですが、まだまだ歌いたいことが出てくるはずだと。

いい風、吹いてる?

緑町から伏見通りを北に向かって歩き、西東京市に入る。夕暮れ時に訪れたのは東伏見公園だ。適度な勾配を登り、小高い丘を登った先には長い滑り台がある。石指は時折ここに来て、すぐ隣の線路を走る西武新宿線の黄色い車両や、スマイルトレイン(30000系)を眺めているそうだ。

石指

大好きな場所で『ナイトサークル』に入っている曲の歌詞はほとんどここを歩きながら考えていました。だからジャケットもここの線路をまたぐ橋の上で撮ったんです。

──

歩きながらつくっているからなのか、石指さんの曲の歌詞には「風」が登場する曲が多いですよね。“秋の風”、“朝”、『ナイトサークル』だと“武蔵野”……。

石指

確かに頻出しています。風って、今この公園を吹き抜けているものでもあるんですけど、人から出ている波動や空気を総称して「風」と呼んでいるところもあります。オーラのある人っていい風が吹いている気がしません?

──

人の周りに渦巻いている「風」ってありますよね。立川談志も「落語とは江戸の風が吹く中で演じられる一人芸」という旨の言葉も残しています。

石指

あとこれも早川義夫さんが言っていた言葉で。いいものとかいい人にはなんか風が吹いていたり、懐かしさを感じたりするんです。

いい音はなつかしい。どこかで聴いたことがあるような気がする。それは、絵でも文章でもそうだ。ステキな人に出会った時もそうだ。しかしどこかで聴いたのではない。どこかで見たのでも、触れたのでもない。かつてどこかで会ったのでもない。会いたかった人なのだ。求めていたものなのだ。表したかったものなのだ。ずうっと心の中にしまってあったものなのだ。

 

早川義夫『たましいの場所』

──

この言葉って石指さんの音楽の在り方をすごく言い表している気がします。「80年前だって、2100年だって、いつの時代にも自分みたいな歌を歌っているやつはいると思う」ってよく言っているじゃないですか。古臭いという意味ではなく、いいものとしての「なつかしさ」を追求している歌い手なんだと思う。

石指

恐れ多いですよ。でもこの言葉を初めて見た時に、水のように心の隅々までスーッ沁み入ってきたんです。自分がこれまでに出会ってきた人や物や出来事が心の中にずうっとしまってあったものだとしたら、これからも希望が持てそうな気がする、すごく優しい言葉ですよね。

──

ちなみに先ほどから出てきている、早川義夫さんには影響を受けているんですか?

石指

影響というよりは反響ですかね。あの人から発される言葉の全てが僕の心をノックして、響くんですよ。

最後は思わず鼻歌出ちゃう

──

さて陽が落ちて寒くなってきましたし、そろそろ切り上げますか。

石指

OK!最後にもう1カ所寄っていかない?今年の8月にできたばかりのレコード屋さんなんですけど、店主が昔お世話になったPAさんで。いつの間にか地元に帰ってしまって、ずっと会えていなかったんです。でもいつの間にか東京に戻ってきて、そこをオープンしたことを偶然にネットで知りました。だからお祝いに缶ビール持って伺ったら、めちゃめちゃ昔話に花が咲いたんです。そこからよく行っていて、自分にとって西東京エリアのホットスポット大賞2021です。


最後に訪れたのは西東京市富士町に位置する自転車屋〈狸サイクル〉。しかし2階には多目的スペース、路面には飲食店&BARの〈狸市〉があるなど、複合的な市場のようであり、秘密基地のようでもあるスポットだ。その一角に今年8月オープンしたのが石指と縁のある場所〈ECHO RECORDS〉である。石指曰く店主は「アンダーグラウンドの生き字引」だそうだ。

ここで石指には気になるレコードを探してもらった。かまやつひろし野坂昭如。タイトルに一目惚れをしていた荒木一郎『君に捧げるほろ苦いブルース』(1975年)。「怠惰な若者の行き場のない気持ちが、めちゃめちゃ熱く歌われている」と言って手に取った古井戸の『古井戸の世界』(1972年)といった思い入れのある名盤たち。カレン・ダルトン(Karen Dalton)ドノヴァン(Donovan)そして店主に「ブラジルの都はるみ」とおすすめされたエリス・レジーナ(Elis Regina)などをチョイスしてくれた。

──

そういえば石指さんが影響を受けたギタリストって誰なんですか?

石指

フェイバリットはチェット・アトキンス(Chet Atkins)マール・トラヴィス(Merle Travis)ですかね。どっちもブルースとカントリーのギタリストで、マールはチェットの師匠的な存在。あとはサイモン&ガーファンクルボブ・ディラン……弾きまくるようなギタリストも好きですが、その人っぽいな~っていうニュアンスがある人が好きなのかもしれません。

──

いわゆるギターに風が吹いている人ですね(笑)

石指

そうそう。たとえばアコースティック・ギターってすこし身体に密着させてみるだけで、身体も使って鳴るんですよ。そうするだけでサウンドの出し方は変えられる。だから弾き語りがうまいと言っても、生音でもうまい人と、マイクやPAを通すやり方が得意な人って結構分かれると思っていて。自分はギターと一緒にその人自体が鳴っているような人が好きですかね。

──

生音だと歌とギターの食い合わせや音量のバランスも如実に表れますもんね。

石指

なにを良しとするかは個人によりますが、一般的に言われている良いギターの理由って大体、倍音の質と量なんですよね。例えばいいギターの王様みたいなMartinのD-45とかはもう倍音のバケモノみたいにずっと残響音がファーって鳴っているんです。手が出ないのもありますけど自分には上品過ぎて、少し野暮ったいくらいのギターが自分には合っていますかね。楽器から学ぶことってたくさんあると思います。


そして石指はその場にあったガット・ギターを見つけ、弾き心地を試しては次第に鼻歌となり、そして歌い始めた。気まぐれな生歌ライブは日常茶飯事。その場の空気と一緒に鳴り響く疾風勁草。こうなってしまえば本日の密着インタビューは終了だ。薪ストーブを囲みながら、彼の歌を聴いて、夜は更けていった。4年目となる年鑑企画。最初こそ嘆き節を放ちながらも、心のふるさとの力も借りて今後の意欲を焚きつける機会となったのではないだろうか。

石指拓朗

 

 

1986年生まれ鳥取県出身。自身の音楽レーベル〈REAL LIFE LAB〉より、これまでに3枚のフルアルバムをリリースしており、どれもがロングランヒットを記録している。卓越したギターテクニック、伸びやかな歌声、愛嬌のあるキャラクターで人気を博している。

 

https://lit.link/ishizashitakuro

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