たけとんぼ 平松稜大・きむらさとしに影響を与えたアルバム5選
1stアルバム『たけとんぼ』のリリースを果たした、二人組フォークロック・バンドたけとんぼ。本記事では平松稜大(Gt / Vo)ときむらさとし(Dr / Vo)にミュージシャンとして影響を受けたアルバムを5作選んでもらい、コメントしてもらいました。インタビューとあわせてお楽しみください。
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平松稜大に影響を与えたアルバム5選
『チューリップⅠ 心の旅 青春の影』 チューリップ(1993年)
僕の音楽の原体験。すべてはここから。
小3、4の頃、テレビCMかなにかでたまたま流れていた“心の旅”が妙に気に入った僕は母に「この曲いいね」みたいなことを言ったら「あるよ」と言って、渡してくれたのがこれ。かつてチューリップファンだったという。どうやら90年代に作られたベストらしいが、なぜか調べてもこのベストだけはなかなか出てこない。CDだけど、擦り切れるほど聴いた。
チューリップでベスト盤といえば1973年の『TULIP BEST 心の旅』だが、普通にそっち聴けばいいような気もする。“僕のお嫁さん”入ってるし。
『TULIP BEST 心の旅』(1973年)
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『KILLER STREET』 サザンオールスターズ(2005年)
「チューリップ好きならこれも好きなんじゃない」と言って母が聴かせてくれたのがサザンだった。ベスト盤『海のYeah!!』(1998年)はもちろん家にあってよく聴いていたが、自分の意思で聴くようになったのが小5のときリリースされたこの2枚組アルバム。
“君こそスターだ”、“神の島遥か国”などのいわゆるヒット曲も多く収録されてはいるが、たとえば人気曲“彩〜Aja〜”のタイトルにみられるように、桑田さん本人が愛してきた60〜70年代の洋楽のオマージュやエッセンスが多分に盛り込まれている(「彩」はスティーリー・ダンのアルバム『彩(Aja)』(1977年)から)。
たまたま我が家にあったのが初回限定盤で、冊子に桑田さん本人による全曲解説がついていた。そこでスライ&ザ・ファミリー・ストーンであるとか、CSN&Yのような60〜70年代の洋楽ミュージシャンの名を知り、近所の楽器店やBOOKOFFに通っては聴きあさったものだ。
このアルバムなくしてはいまの僕の音楽はないと断言できるアルバム。
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『GREATEST HITS』 Neil Young(2005年)
そうして洋楽にのめりこんでゆくきっかけになったのがニール・ヤング。このベスト、山野楽器で買ったんですが、1曲目が“Down By The River”なんですよ。クレージーホースといっしょにやってるやつ。やばくないですか。そのチョイス。しっかりしびれまして。エレキの音もジャコジャコしてて、歪み(ひずみ)もディストーションみたいな均一なものじゃないし、ギターソロにいたっては最初の4小節全部「ミ」ですよ。
その頃にはもうギターを始めていて、ギターソロなんて意味わかんない、弾けるわけないじゃんと思っていたのだけれど「もしかしたらいけんじゃない」と思わせてくれた(もちろんそんなことはないんだけど、そう思わせてくれたことが大事)。
ベストのいいところは、オリジナルアルバムを順番に聴いていくと聴けないシングルのみの曲とか、厳密にはその人名義じゃないけど一応入っている曲とかが聴けることですね。“Ohio”も有名曲ですが、元々のシングル盤かCSN&Yのベスト、もしくはこれでしか聴けない。はず。
“Heart of Gold(孤独の旅路)”はもちろん、他名義で出したいい曲もけっこう入っていて、ニール・ヤング入門のみならずフォークロック入門、なんなら洋楽入門にもいいのかも。
『Homecoming』 America(1972年)
世界でいちばん好きなバンド、と聞かれると僕はアメリカですと答える。
アメリカっていう名前のグループがあったんです、70年代に。と付け足す。
ちなみにデビューしたのはイギリスなんです、と場合によって追加し、混乱を招く。
でも文句なしに最高のグループだこれは。
ロンドンに駐留するアメリカ空軍の息子たち3人で結成。1972年に“A Horse With No Name(名前のない馬)”で大ヒットを飛ばし、その成功をうけてアメリカはロサンゼルスで録音することとなって発表されたのがこのアルバム。まさに「ホームカミング」なわけだ。
アメリカの最大の魅力はそのアコースティックなサウンドにある。素朴ではあるのだがそのコードワーク、それに重なる三声のコーラスがどこか荒涼とした砂漠のようにかわいている。置き去りにした故郷を思わせるような翳り、哀愁がある。
ヒット曲“Ventura Highway”を作曲したデューイ・バネルは“名前のない馬”同様、非常にシンプルなコードとブリッジミュートをきかせたストロークで唯一無二の世界観を構築する。
永遠の青年のようなジェリー・ベックリーはポップセンスが卓越なるもので“Only in Your Heart”ではビートルズ後期を思わせるピアノでリズムを刻み、アメリカ自体を大衆音楽たらしめている。その後のアルバム『Hearts』(1975年)では“Sister Golden Hair(金色の髪の少女)”で全米1位を獲得している。
ダン・ピークのやさしさは“Don’t Cross The River(河を渡るな)”でも言葉の伝わらない僕等にも語りかけてくれるようだ。“California Revisited”ではそのギタリストとしての魅力もいかんなく発揮されている。(“河を渡るな”は当時あまりにも影響をうけすぎてちょっとどうなの、というくらい酷似した曲を作ったことがある。それをモデファイして今回のアルバムに入れた。だいたいおわかりでしょう)
バンドとしての目標、イメージはつねにこれ。
いっつまでもすきよ。
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『かぐや姫・今日』 かぐや姫(1978年)
「和製フォーク」っていう言葉が好きじゃない。
厳密に言えば、和製フォークそのものは好きなのだが「あー君はフォークだもんね」みたいな。ロックより地味な、しっとりしたやつね。みたいな。「まあ俺達はロックやってるけど、いいよね、フォークもね」みたいな。まあ事実そのイメージは間違ってはいなくて、マイナー調のコードで暗い、貧しい歌を歌う印象は73〜76年ごろのフォーク、詳しくいえば「アコースティックギターを持って歌っている人たちの音楽」にありがちなモチーフであったとは思う。
けれども本来彼らが目指していた音楽自体は必ずしもそこにはなくて、たとえばアメリカン・ポップスであったり、フォーク、ブルース、カントリーロックであったりもしたわけで。70年代中期にもなるとその録音技術の発達によってより原音に忠実な、かつ洗練されたサウンドが醸成されてゆき、それに比例して歌詞の世界観なども色が変わってくる。ニューミュージック化、洋楽化とでもいうのだろうか。「和製フォーク」「四畳半」の代表格であったグループが、一度の解散を経て3年ぶりに生み出したアルバムはこんなだった。
1曲目“遥かなる想い”から抜群の歌心と、8曲目“幸福のメニュー”のようなユーモアセンスで変わらずグループを引っ張ってゆく南こうせつ。
75年に猫の大久保一久と「風」を組み、年を追うごとにAOR化を推し進めた伊勢正三は“きらいなはずだった冬に”や“湘南 夏”でいかんなくその自己を確立している。
解散後パンダフル・ハウスを結成し、その素朴さと人懐っこさに新たな風を吹き入れた山田パンダは“赤い花束”や名曲“おはようおやすみ日曜日”でそのキャラクターの健在をアピール。
3人それぞれのカラーがばっちりと収められ、それまでのかぐや姫を代表する名盤たちにもひけをとらないほど、このアルバムはすばらしい。いまの若い世代における日本の70年代といえばティンパン、ユーミン、達郎あたりかもしれないが、当時売れていたグループのあなたが知らない曲たちはこんなにすばらしい。
お洒落さも強さも優しさも、きっと誰もが持っていたはずなんだ。
是非、聴いてみてください。こういうの。
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きむらさとしに影響を与えたアルバム5選
『風街ろまん』 はっぴいえんど(1971年)
父親がURCを始めとする日本のフォークが好きで、特にはっぴいえんどは毎週(下手をすれば毎日)家で流れていました。5歳の頃の僕は“はいからはくち”が大好きで、保育園で歌っていたのを今でもよく覚えています。
松本隆さんの叩く、あのまとわりつくようなねばっこいドラミングは、僕のプレイスタイルに刻まれているように思えます。かと思えば“風をあつめて”のように、クセはあるけどお利口さんでさっぱりとしたドラムも叩くあたりもやっぱり好き。やはりはっぴいえんどから逃れることはできないと実感しました。
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『Houses of the Holy(聖なる館)』 Led Zeppelin(1973年)
ツェッペリンのアルバムはどれも統一感がありつつそれぞれのカラーが出ていますが、このアルバムはそれまでI~IVとしてきたナンバリングから外れてタイトルが付いているというのが印象的でした。中でも収録されている“D’yer Mak’er”がダントツで好きで、レゲエをやろうとしているのに、ボンゾの爆音ドラムフィルから始まるのにいつも笑ってしまいます。
それだけでなく、“The Rain Song”のような繊細で美しい曲もあり、“The Song Remains the Same”や“The Crunge”などいつものツェッペリンの荒々しさも楽しめて、お得パックみたいな感じしません!?
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『マイ・ネーム・イズ・ロマンス』 毛皮のマリーズ(2007年)
毛皮のマリーズは、僕がバンドを始めようと決意するきっかけになったバンドです。初めて聴いたのは“Mary Lou”(2010年)でしたが、まだインディー感ががっつりあるこの時期のアルバムが大好きです。
志磨遼平さんの独特の歌詞と、ただのオマージュに止まらないアレンジ、パンクもロックもポップも全部乗せ!作詞作曲においては、マリーズからの影響が滲み出ているのかもしれません。
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『THE BLUE HEARTS』 THE BLUE HEARTS(1987年)
マリーズに並んで、僕のソングライティングに大きく影響を与えているアーティストです。率直な歌詞、簡単なコード進行、まっすぐなアレンジは今もなお人の心を震わせます。特にギタリストのマーシー(真島昌利)作詞の曲では、悲しみと怒りの具合がパンクとフォークの親和性を感じさせます。
『Wild Tales』 Graham Nash(1974年)
これは2017年に知り合いの家でレコードを聴かせてもらって好きになったアルバムです。当時たけとんぼに入りたてで、アコギやフォークにおけるドラミングというものを模索している時期に出会いました。歌やアコギを活かせるドラムというものを、このアルバムで意識するようになりました。
ドラマーはJohn Barbata。The Turtlesも好きで聴いていたので、それも相まって今もずっと聴いているアルバムの一つです。
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写真:春
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WRITER
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
過去執筆履歴はnoteにまとめております。
min.kochi@gmail.com