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NEKOSOGI
NEKOSOGI
MUSIC 2022.02.14 Written By 峯 大貴

発進!ローホーが組閣したスーパーバンド

スパニッシュ・ギターをスラム奏法でパーカッシブにシバきながら、ライムしていく「自己完結型一人楽団」として、活動してきたローホー(RowHooMan)。1stアルバム『Garage Pops』(2016年)でその独自スタイルを提示し、続く2ndアルバム『ASIA MEDIA』(2018年)はギター一本で日本はもちろんアジア各国に飛び込み、ライブして回った経験が強く反映された作品だった。いつも酒を片手にニカーッと笑いかけてくる人並外れた人懐っこさと、ラッパー、スケーター、パンクス、タトゥー彫師などなど、あらゆるストリート・カルチャーに携わる仲間たちをフラットに巻き込んでいく天性の資質。そこに自分の居場所と社会をしたたかに相対化していく視点も徐々に加わってきたのが、2年前までの旅路だ。

 

そんな彼が2020年2月1日、高円寺のライブハウス〈Live Music JIROKICHI〉の45周年を祝うライブ・イベント期間のトップバッターを任され、特別編成のバンドを仕込んだ。メンバーは金子巧(Key / Cro-magnon)、EIJI(Ba / Dachambo)、三根星太郎(Gt / INUSHIKI)、佐久麻誠一(Dr / digda)といずれも彼より10年近くキャリアのある、腕利きのバンドマンたち。コロナが続く現在では想像もできないような観客がパンパンに入った状況で、フロアの後方に陣取っていた筆者からはバンドの姿が全く見えないくらい。会場全体が揺れ動くほどの熱狂を起こしていたことを強く記憶している。

この時はまだバンド名すらない一夜限りのパーティーだったが、確かな手ごたえを得て本格的に始動。初ライブから2年を経て、5人組バンドNEKOSOGIとしての初音源が完成した。今までの「一人で全部演奏する」という独自の型をここでは投げ捨てたローホーが、嬉々として神輿に担がれている。そのことによって極めてリアルでロマンチックな音楽を表現するシンガー・ソングライ“マ”ーとしての才覚が際立った作品だ。

 

それが顕著に感じられるのは『ASIA MEDIA』にも収録されていた“Dry fruits”のバンド再録。「お前酔ってもいいぜ」という名文句から始まるラブソングだが、金子のシンセフレーズがサウンドの核を担うことで、煌びやかな夜をメロウに彩るドライビング・ミュージックに進化を遂げている。またローホーがとことんラップに徹したジャズ・ファンク・チューン“神の視点”、余白たっぷりな演奏をバックにそぼそぼと歌い上げるロック・バラッド“月の虹”、1メロディで突っ走っていくバンクロック“暴走族”などアプローチは多彩。「ロックもレゲエもヒップホップでも意思が一つならみな同胞」と常々言ってきたローホーの思考を、5人で微分していったような9曲が揃っている。

一方彼の思考が率直なリリックに表れているのは初期のベック(Beck)をとことん粗暴にしたような荒々しいオルタナティブ・サウンドの“RESIDENTS”。「次の時代とか言われてもな 俺社会と前からディスタンス」「俺も三十過ぎたら歴史も知識も 殆どもう興味はないな」と皮肉めいた言葉が並ぶ。しかし決して現実から目を背けているわけでもないし、何かを背負って代表する(REPRESENT)わけでも、為政者に成り代わって主張する(PRESIDENT)わけでも、反抗を目的とする(RESISTANCE)わけでもない。ここでの主張は社会や既存のシステムに踊らされることからの全力逃亡であり、自分と隣近所の仲間との居場所を意地でも創造していこうとする、偉大なる住民(RESIDENTS)宣言なのだ。

 

実際にアルバム制作にあたってはクラウドファンディングを実施。249人もの支援者が集まったが、目標の一つとして掲げていた絶対に密にならない場所と環境での野外ライブ『舟で行く無人島フェス』の開催は変わりゆく状況の中で2回も延期となった。今も開催に向け、自治体を含めた関係各所を奔走しているようだが、彼の自由を求めて場所を作る姿勢は常に一貫している。

またここまでのバンドの歩みやレコーディングの模様はCOCALEROのサポートを得て、ドキュメンタリー映像として公開されている。自らの音楽ライフを盛り上げるためにゃ、ずっと猫の手さえも借りたがっているローホーが、NEKOSOGIという掌の上で踊り狂い、乗りこなし、操縦していく過程が刻み込まれた痛快な本作。その頼もしい手は彼の母体として、国会議事堂に向けて中指を立てたり、「もう一杯酒飲もうや!」と親指を立てたり、大きく振って仲間を呼び寄せたり、自由自在に可動し手ごたえをつかみ始めている。ローホーの表現を大きく拡張させる、巨大招き猫型ロボットみたいなスーパーバンド、ついに発進!


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NEKOSOGI

 

発売:2021年1月4日(火)

フォーマット:CD / デジタル

価格:¥3,000(税込)

 

収録曲

1, N.K.J.
2, 神の視点
3, カリーノ
4, FREESTYLE skit
5, Block Party
6, RESIDENTS
7, Dry fruits
8, 月の虹
9, 暴走族

 

販売:https://nekosogi.theshop.jp/items/56788769

Twitter:https://twitter.com/RowHooMan

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