REVIEW
C
イハラカンタロウ
MUSIC 2020.04.08 Written By 峯 大貴

【REVIEW】:イハラカンタロウ『C』

北風の回廊(コリドー)にたたずむカンタロウ、青くも先人への思慕にあふれたソング・ブックが今年ついにやってきた。

 

東京拠点のシンガーソングライター・イハラカンタロウ。2016年頃よりギター弾き語りから活動を始め、バンドセット“イハラカンタロウ楽団”に発展させながらライブハウスを中心に歌ってきた。本作は初の正式音源となる1stアルバムだ。収録された全8曲はイハラが愛好し、研究してきた、ソウル・ミュージックへの憧憬が注がれている。(そのリファレンスは以下の特集企画、本人が選定・解説した【3×3DISCS】をぜひ読んでいただきたい)

冒頭“gypsy”はbjonsの渡瀬賢吾(Gt)、いーはとーゔから菊地芳将(Ba)と簗島瞬(Key)、そしてAmberstoneやAutisで活動する小島光季(Dr)といった現代のオールディーズ・ソングへのリスペクト溢れる演奏陣を迎えている。イントロから放たれる健やかなグルーヴったら。またイハラのボーカルは声域が特段に広いというわけではないが、シルキーなずぶとさと色気を醸す。シャウトせずとも突き抜けるようなソウル・フィーリンと力強さには、山崎まさよしや浜崎貴司(FLYING KIDS)を思わせるではないか。続く“僕のミニー”はMinnie Riperton(ミニー・リパートン)への敬愛について歌われており、「思い出のレーン」(=“Memory Lane”)というワードも歌詞に登場する。山下達郎の“街物語”を思わせる程よくハネるファンク・ビートに加えて、大石晴子・ぎがもえかというフィメイル・シンガー2人によるコーラスや、サックスソロなど本作の中でも随一にキャッチーできらびやかだ。

 

以降も、全ての演奏をイハラが担っているスローバラード“グッド・バイ グッド・デイズ”や、生活感にあふれた詞には弾き語り時代の残り香を感じるシュガーベイブ・ライクな“湯舟”。一転現代のネオ・ソウルとの同時代性を感じるビートと遊び心を爆発させたボイス・エフェクトが楽しい“mont-age”など、楽曲ごとに様々なトライアルがなされている。シティ・ポップやレア・グルーヴの再評価・再解釈という小難しさは一切感じない。リスペクトを捧げている音楽たちを自分のフィルターを通して放つことへの屈託のない喜びに溢れているのが魅力である。

 

作詞・作曲はもちろん、アレンジ・ミックス・マスタリングまでイハラ自身が手掛けており、2018年から一年半の歳月をかけて完成した本作。手探りで学び、調べながら進めたというイバラの道だ。その心血が注がれた探求心には山下達郎が1986年当時、デジタル・レコーディングの導入と格闘しながら作られた『POCKET MUSIC』と重ね合わせて「ポップス職人」と呼ぶにはいささか尚早か。活動開始から本作完成までの『ADD SOME MUSIC TO“MY”DAY』と言うべきイハラの音楽道。じっくり醸成された初期“周到”な作品だ。

峯 大貴

特集企画 【3×3 DISCS】:イハラカンタロウが語る『C』を中心とした9枚のアルバム

1枚のアルバムを中心に、影響を受けてきた・もしくは与えたアルバムを周りに並べることで、そのアルバムが内包する音楽の体系的な理解を目指す企画【3×3 DISCS】。今回はイハラカンタロウ本人に『C』のバックグラウンドにあたるアルバム8作品を選定、解説していただきました。

 

これまでの【3×3 DISCS】の企画詳細はこちらをご確認ください。

Leroy Hutson - Closer to the Source (1978年)
Curtis Mayfield - Something to Believe in (1980年)
Norman Connors - Take It to the Limit (1980年)
大貫妙子 - MIGNONNE (1978年)
イハラカンタロウ - C (2020年)
シュガー・ベイブ - SONGS (1975年)
Bill LaBounty - Bill LaBounty (1982年)
Zac Apollo - Loveset (2018年)
Ginger Root - Mahjong Room (2018年)

『C』イハラカンタロウ

 

 

2020年4月8日(水)リリース
フォーマット:ダウンロード配信 / ストリミーング配信
レーベル:KITAKAZE records
カタログNo.:KTKZ-0001
価格:ダウンロード 
各曲 ¥200
アルバム ¥1,500

 

【曲目】
1. gypsy 
2. 僕とミニー
3. グッド・バイ グッド・デイズ
4. 湯舟
5. pause (interlude)
6. rhapsody
7. 月とフープ
8. mont-age

 

【ゲストミュージシャン】
M-1 『gypsy』
渡瀬賢吾(Guitar)from  bjons
菊地芳将(Bass)from いーはとーゔ
簗島瞬(Piano, Electric Piano)from いーはとーゔ

 

M-2『僕とミニー』
大石晴子(chorus)
ぎがもえか(chorus)

 

M-8『mont-age』
木谷直人(Bass)from Autis,futures,Hamabe
Koji Fujiki(Synthesizers Programming)from Lo-Fi Club, 秘密のミーニーズ

 

M-2,4,6,7
フカザワネコゼ(Keys)
柴田僚斗(Guitar)
なるおかゆうま(Bass)
小島光季(Drums)

 

【アルバム特設ページ】
https://tmblr.co/ZNZyDhXyOD6DSu00

プロフィール:イハラカンタロウ

 

 

1992年7月9日生まれ。埼玉県川越市出身。

2016年よりアコースティックギターでの弾き語りを中心とした音楽活動をはじめる。ソロ名義の他”イハラカンタロウ楽団”名義のバンド編成でもライブを行っている。自身が多大な影響を受けた「オールディーズ・バット・グッディーズ」なポップスに倣い、これから先も、いつになっても聴ける楽曲づくりを理念としている。

 

Webサイト:https://cantaro-ihara.tumblr.com/

Twitter:@cantaro_ihara

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