INTERVIEW

音楽のすそ野を広げる、影の歌の送り手 - 〈NEWFOLK〉主宰 須藤朋寿インタビュー

特集『文化の床』の企画「#JAPANESE NEWEST FOLK」では、着実に従来のイメージを跳ね返すような変革が起こっている日本のフォークの現在を追う。今回、日本における新世代のフォークを考えることを企画した時に、どうしても話を聴いておきたい人物が、A&R※の須藤朋寿だった。

 

MUSIC 2020.12.23 Written By 峯 大貴

台風クラブ、ラッキーオールドサン、家主、田中ヤコブ、工藤将也……須藤の手掛けるアーティストの楽曲には、心情・熱量そのものが時に泥臭く、時にたっぷりの哀愁を滲ませながら表現されており、フォークの原型こそとどめてはいなくとも、いずれもどこかしらにフォークの陰影が見えるようなラインナップなのだ。

 

そんな須藤が昨年から自身の屋号として名乗るようになったのが〈NEWFOLK〉。なんて潔くてキレのいい屋号なのだろう。つまり彼の手がける音楽の中にも「新しいフォーク」というテーマが内在しているのではないだろうか。そう考えると、よりこの名前に込めた想いと、そこに至るまでの彼のバックグラウンドを深く聴きたくなった。

 

もちろん彼はプレイヤーではなく裏方である。しかしA&Rとしての作品作りだけではなく、アンテナでもレポートを掲載したライブイベント『うたのゆくえ』も主催しながら、いかにして現代に古今東西の「歌」を継承していくか、常に敬意を払いながら主体的に考えてきた人なのだ。アーティストととことん向き合いながら確実に人々の心を動かす作品を生み出してきた影の歌の送り手、須藤との会話をお届けしよう。

※A&R:Artists and Repertoireの略。アーティストの発掘や育成、楽曲の制作などを担当する職務だが、その関わり方は多岐に渡る。

ショップバイヤーからもっとアーティストに近い位置のA&Rへ

──

元々須藤さんはタワーレコード渋谷店のバイヤーだったんですよね。そこから今のA&Rの仕事に就く経緯から伺いたいのですが。

須藤

タワーレコードには2008年に19歳でアルバイトから入社して、2014年までの20代前半を捧げました。主に日本のインディーズやJ-POPのバイヤーを担当していましたが、次から次に並べる作品は変わっていくし、当然取り扱うものも自分の感性にフィットするものとしないものとがある。自分の中でバランスを取りながら、仕入れや売り場作りをしていました。

 

いい思い出もたくさんあって自分の中でエポックなのは、ayU tokiO のカセットテープ『NEW TELEPORTATION Ⅰ』(2012年)、『NEW TELEPORTATION Ⅱ』(2013年)を100本以上仕入れて全部売り切ったこと。その後リリースされたミニアルバム『恋する団地』(2014年)も特別な思い出がある作品です。2010年前後はいわゆる”東京インディー”と言われた ミツメ や 森は生きている なんかが出てきた時期でもあり、大森靖子さんが1stアルバム『魔法が使えないなら死にたい』(2013年)をリリースして注目を浴びたり、自分がいまも大好きなアーティストたちがたくさん頭角を現してきて、その作品をお客さんに届けることが出来たのは楽しかったです。

──

タワーレコードの中でも総本山の渋谷店で、すごく順風満帆に仕事をされていたんですね。

須藤

彼らの作品を相応の規模感で展開させることができた一方で、自分はブリッジさん(Bridge Inc.)やメタカンパニーさんなんかが流通されていた、自主レーベルや小規模レーベルからひっそりとリリースされていた作品たちにもたくさん感銘を受けて。自主や小さな規模感で活動していると予算の関係であったり、時間を割くことが出来なかったりで十分な宣伝ができないことも多いんです。そういう作品の中にも素晴らしいものがたくさんあるから、いろんな人に届けたかった。でも売り場や試聴機の数は限られているし、仕入れにも予算がある。ギリギリのところでやれることはやってきたつもりだけど、バイヤーとして悔いが残ることもたくさんありました。例えば、20枚仕入れて3枚しか売れなかったけど、50枚仕入れてもっと大きく展開出来ていたら30枚以上は売れていたかも……とか。そういう思いがずっと塵積になっていきました。

──

一店舗のバイヤーとしては、かなり作品に寄り添った考えを持っていると感じましたが、どういうモチベーションで働いていましたか?

須藤

自分の琴線に触れた音楽の裾野を外に向かって広げていきたい、というのがいつも念頭にあって。時流に乗った素晴らしい音楽もあるけど、目立たないところに実はこんな素晴らしい音楽がたくさんありますよ、という提案をしたかった。それが自分の考えるバイヤーとしての1つの使命でありモチベーションでもあったんですけど、歯痒い思いをすることも多くなってきて。だったらもっとアーティストに近い位置で作品を作り、世に出す段階から関わっていきたいと思ったことがA&Rを志すにいたった経緯です。

──

この時期のバイヤーの経験が、今に活きていると感じることはありますか?Twitterの投稿を拝見していると、店舗への感謝の気持ちも伺えますが。

須藤

そりゃもうお店には愛憎入り混じるといいますか……(笑)。感謝はずっとしていて、このフィジカルが売れないと言われる時代で、場所や時間、予算を割いて、作品を展開してくれるありがたさったらないです。店舗やSNSで店員さんが自分の視点で熱量込めてポップの文章を書いてくれているのを見ると、感動しちゃいます。

 

今に活きていることで言うと、仕入れをしていたので、そこからプレスする数の読み方には当時の経験則を参考にしています。あとは細かいアイデアの部分ですね。例えば、CDの背中部分の文字は多少なりとも大きく、太く書かないと棚差しされると見えにくいぞ、とか(笑)。お店に並ぶことを想定したデザインの視点や、お店が求めていることもある程度理解しているというのは今に役立っていることだと思います。あとはもちろん、当時出会ったたくさんの作品が知識として貯えられてることですかね。

アーティストと一緒に作品を作っているという気持ちを強く持つことを学んだ

──

そこからどういう経緯でA&Rになったのでしょうか?

須藤

バイヤーとしてもやもやしている時に、自分の師匠的な存在である中井(寛樹)さんに声をかけていただいて、彼のレーベル〈kiti〉を手伝うことになり、その母体である流通会社のアート・ユニオンに転職したのが2015年です。

──

アート・ユニオンを選んだ決め手はありましたか?

須藤

タワーレコードにいた当時から、〈kiti〉で出している多くの作品に感銘を受けていて。特に、平賀さち枝さんと mmm(ミーマイモー)さんの存在は自分にとって特別だったし、麓健一さんやoono yuukiさんなど、素晴らしいアーティストの作品を出していて。かつ、アート・ユニオンが流通を担当していたレーベルの作品群が自分にとって刺激的なものも多かったこともあります。

──

一音楽ファンとして思い入れのある会社に飛び込むことができたんですね。

須藤

そうですね。アート・ユニオンでは〈HEADZ〉や〈FLAU〉、自身でレコード屋(FLAKE RECORDS)もやられている〈FLAKE SOUNDS〉やアートスペース・七針主宰の〈鳥獣虫魚〉など、ジャンルレスに個性的で、筋の通ったレーベルの作品をたくさん流通させてもらっていたので、そこから学ぶことも多くて。そして中井さんと、〈PLANCHA〉というレーベルをやっている国井(央志)さんという二人の先輩たちの背中を見ながら「A&Rって何ぞや?」というのを学びました。この頃にまだ大学生だったラッキーオールドサンにも出会って、今につながる出会いが多くありましたね。

──

お二人のA&Rからは、どんなことを学びましたか?

須藤

メンバーの一人というとおこがましいですが、一緒に作品を作っているという気持ちを強く持つことと、アーティストの人となり、趣味嗜好、作品の狙いも全部汲み取ろうとする向き合い方ですかね。いまの仕事をする上での基盤みたいなものは、全てお二人から学びました。

──

須藤さんが初めてご自身で手掛けられた作品はなんですか?

須藤

Boyish の『Strings』です。元々は The Pains of Being Pure at Heart や Wild Nothing みたいなインディーポップ系のサウンドが軸にあったバンドでしたけど、この3作目のアルバムのデモ音源が岩澤(圭樹)くん(Gt / Vo)から送られてきて。今まで感じ得なかったソフトロックやレアグルーヴ的な要素を取り込んだ音源を聴いて、そのいかにも“ネオアコ”的な佇まいとサウンドの変遷にグッときて一緒に作ろうと。

 

でも〈kiti〉とは少し違う系統の音楽だと思ったので、アート・ユニオンの中で自分のレーベル〈bouquet〉を立ち上げました。岩澤くんはリスナーとしても信頼できる男で、たくさんの音楽を聴いて自分のサウンドに消化しているし、オリジナルメンバーが彼だけになった今でもマイペースに、誠実に活動を続けている。自分にとっても思い入れのある作品です。

台風クラブとの衝撃の出会い

──

その後、2017年に現在のMastard Recordsに移り、そこでリリースした初作品が台風クラブの『初期の台風クラブ』ですね。彼らの存在を全国に知らしめるきっかけとなったアルバムですが、京都のバンドである彼らとはどこで出会ったのでしょうか?

須藤

彼らの音楽に出会ったのは2015年の末です。お世話になっている吉祥寺の〈ココナッツディスク〉に年末の挨拶のため伺ったら、彼らの3曲入りの自主制作CD-R『ずる休み』が店内に流れていて度肝を抜かれました。「いま流れているこれ、なんですか?」と店長の矢島(和義)さんに聞いたら、「京都からさっき送られてきた音源で取り扱おうと思ってる」と仰っていたので、「自分も欲しいです!」と早速買って。

──

偶然の出会いなんですね!

須藤

聴いた瞬間、大げさですけど“自分のための音楽”だと思ったんです。その後も繰り返し聴いて、年が明けて大阪の南堀江〈knave〉であった彼らのライブを夜行バスに乗って見に行ったんです。お客さんはまだ少なかったけどライブもすごくよくって、メンバーのみんなに「アルバムを作るのであれば、ぜひお手伝いさせてください」と直談判をして連絡先を渡しました。

──

そこまでの熱量を持ってアーティストに向き合ったのは初めてですか?

須藤

初めてです。この人たちのためなら、なんでもしたいと思いました。

──

そこまで思わせる台風クラブの魅力はどこにあったのでしょう?

須藤

全部よかったんです。『ずる休み』の蝋引きされた紙に石塚(淳、歌とギター)がデザインしたタイポグラフィが載っていて、いなたい3人の写真がプリントされている、その見た目も最高で。サウンドもまさしく3ピースという感じで、オーバーダブも最低限。でもアレンジはいわゆるロックだけではなくて渋谷系と言われていた音楽のように、ソフトロックやソウルとかも好きなんだろうなと感じさせる深みや豊かさがあって、何よりポップで。

 

あとはやっぱり歌詞ですね。諦めとか、変わってしまったものに向けられた視点が琴線にグッと触れて。かつてあったはずの景色や空気、さらに言うと気持ちや思いって日々変わるし、時になくなっていくじゃないですか。石塚の書く歌詞はそういうものに向けられた気持ちを丁寧にすくい取ってくれている気がするんですよね。

「FOLK」という言葉そのものが持っている意味を大切にしたかった

──

2019年からは屋号として〈NEWFOLK〉を名乗るようにもなりましたが、どういう意味合いがありますか?

須藤

もちろん所謂フォーク・ソング的な音楽にも自分自身、感銘を受けてはいます。ただ、そういった音楽ジャンルとしての「フォーク」と言うより、親しみやすさと強度があって周囲や次の世代に伝承されていくもの。そしてその担い手となる市井の人々を指す「FOLK」という言葉そのものが持っている意味を大切にしたかったというのが大きくあって。そこに「NEW」をつけたのは、フォークという言葉についているイメージを更新、払拭したかったから。どうしても日本では古き良き昭和的なもの、四畳半でしみったれているイメージや学生運動的なイメージも残っているから、逆の意味の言葉、ある種否定するような言葉をつけたかったんです。

 

あとはやっぱり歌が好きだから。自分が思うフォークの主役は歌なんです。だから、新しい伝承歌となりえる普遍的なメロディ、そして歌心にもう一度フォーカスを当てて、フォークという言葉を自分なりに更新しようという想いはありました。

──

そんな〈NEWFOLK〉で手がけようと思うアーティストは、どこで判断されているのでしょうか?

須藤

全てに言えるのは自分の琴線に触れるかどうかです。メロディがよくて、歌心があるものが大前提ですね。だから、サウンドの真新しさやメッセージ性、歌のスキルであったり、時代性やトレンド的なものに合ってるかどうかみたいな、これっていう一つの要素で判断はしていなくて。

 

その上でどの作品に対してもたくさんの人に届けたい、そして売りたいという想いはあるので、その視点でも判断はしています。ただ、短いタームでは考えていなくて。例えばSuper VHSは、モンド・ミュージックやブラジル音楽、更にはニューエイジ的な要素がブギーやシンセポップなどの80年代的なサウンドに溶け込んだ、メロディアスではあるけれどややニッチな音楽性かなと自覚はしていて。でも、入岡(佑樹)くんのセンスと歌心が掛け合わさると本当に日本でしか生まれ得ない情緒を持った音楽になるんです。それはいま目立たないものかもしれないけど、これから先も永く聴き継がれていくような作品だと信じてもいて。リリースするにあたって、そんな長いタームでも考えるようにはしています。

──

では琴線に触れるアーティストと出会うためにはどうしていますか?

須藤

SNSとかを駆使して情報収集しつつ、SoundCloudやBandcampはすごくチェックしているし、気になったらライブにも足を運んで、なるべくいろんな方の演奏を見るようにしています。あとは知り合いから紹介してもらったり、最近ではありがたいことに自分から連絡してきてくれる人も多くて。でも出会い方は本当にアーティストごとにさまざまですね。ラッキーオールドサンは〈kiti〉からの付き合いですし、UlulUはSoundCloudで “三分間だけ愛されたい” と”日曜日の彼女” を聴いたことがきっかけで、イビツだけど他のバンドにはない自分たちなりのロックやポップスの正解を持っている気がしたので声を掛けました。あと、工藤(将也)くんは台風クラブと同じように年末のココ吉で偶然出会いましたね。

 

──

そういう偶然の出会いもありますが、〈NEWFOLK〉の中からも枝葉が広がってきましたよね。ラッキーオールドサンのサポート・ギタリストだった田中ヤコブさん(家主)が最たるものですが、彼の存在は〈NEWFOLK〉の道筋を作る重要なキーパーソンじゃないですか?

須藤

ずっとラッキーを手伝ってくれていたので、ヤコブくんとは長い付き合いですしね。彼のソロや家主の音源は出会った当初から聴かせてもらっていて、素晴らしいなと思っていたもののヤコブくんは当時サラリーマンをしていたし、いかんせんライブもやっていないで実態が分からず(笑)。だけど、家主が2019年春の『第二回 うたのゆくえ』出演に合わせて自主制作のEPを作ってきてくれて。その内容が身震いするほど素晴らしくて「よかったらアルバムを作らない?」と声をかけて出来たのが『生活の礎』(2019年)でした。

松本のバンド、コスモス鉄道の『あしたのメ』(2020年)も同じような流れでリリースに至っていて。おいら(金沢里花子 Vo/Gt)ちゃんは元々、ラッキーの長野ツアーにも出演してくれた金魚注意報というバンドをやっていて、そのバンドが凄く好きだったんですが活動を終了してしまったんです。そんな折に、彼女が新しいバンドを組んだらしいと知って。UlulUやラッキーのツアーで松本に行った際に出演してもらったんですが、ライブも楽曲もこれまた最高だったんです。その後自分から声をかけて、一緒に作らせてもらいました。

──

コスモス鉄道のアドバイザーにもヤコブさんが入っていたり、そういう須藤さんの琴線に触れたものという軸で集まって連携が生まれているのが面白いと思っています。

須藤

コス鉄に関しては、彼女たちの音楽をヤコブくんも気に入ってくれていたし、彼にはプロデュースだったりアレンジャーだったり、そういったことも出来る才能があると思っていたのでお願いしてみたという感じです。他にも、ヤコブくんと台風クラブの石塚に交流が生まれたり、工藤将也バンドのベースをラッキーオールドサンのサポートもやっている渡辺(健太)が手伝ってくれていたり。自然に助け合って高め合っていけるような場になれていれば嬉しいですけどね。

音楽のすそ野を広げたい人の次なる展望

──

〈NEWFOLK〉でリリースするアーティストの作品には須藤さんがどういう役割をどこまで担っているのでしょうか?A&Rという職種自体、いろんな関わり方や仕事のスタイルがありますよね。

須藤

確かにA&Rってよくわからない立場ですよね(笑)。宅録を除いてほとんどの場合、プリプロやレコーディングからミックス・マスタリングまで立ち会うし、作品のテーマ性を踏まえてエンジニアやスタジオの発注、アートワークやMVのアイディアも考えるようなディレクション業務もやるし、宣伝業務も自分でやる。レコ発ライブの日程・会場確保、フライヤー作成みたいなライブ制作業務、ライブオファーを受けたり、ギャラの交渉をしたり、ツアー先の宿の手配、交通手段の確保みたいなマネジメントもやりつつ、納品書や請求書を書いたり、レコードの組み立てやグッズの封入作業、ライブ会場では物販に立ったり、運転したり、雑務もやる……。結果的に何でも屋みたいになっちゃった感じですね(笑)。

──

アーティストに音楽に集中してもらうためならなんでもやるという姿勢が、A&Rとしての須藤さんのこだわりなんでしょうかね?

須藤

どうなんでしょう(笑)。こだわりというほどでもないですけど……。そうした方が自分は楽しいですし、アーティストも負担が減るし、いいアイデアが生まれたり、いい作品が作れたり、いい演奏ができるんじゃないかなって。でも極論、自分たちの方向性を決めたり、スケジュール調整するのはもちろん、大抵のことなんてアーティスト自身で出来るじゃないですか。インディーで活動している人たちから、そういうマネジメント部分だけを手伝ってお金をいただくことに自分は納得がいかなくって。だったら、手伝えることは出し惜しみせずに手伝おうという気持ちで向き合っていこうという感じでしょうか。自分は雑務担当のメンバーみたいな立ち位置で。それを何バンドもかけもちしているという感覚ですが(笑)。

──

そういう自分の手の届く範囲内でやるというのも大事にされているように感じられます。

須藤

そうかもしれませんね。さすがに関わるアーティストも増えてきて、体力的にしんどい時はありますが(笑)。でも例えば、携わってきたアーティストがもっと大きな規模で活動したいとなった場合、別の人たちに手伝ってもらうことが最善であればそれでいいだろうとも思っています。〈NEWFOLK〉の屋号は僕の謹製で、アーティストとがっぷり四つで向き合っている証。だから今もスタッフを増やすみたいなことは考えていないですし。

──

極端な話でいうと「武道館でやりたい!」「海外ツアーやりたい!」と思うアーティストが今後出てくるかもしれない。そこに対して一緒に昇り詰めていきたいという思いとかはないのですか?

須藤

そういう一蓮托生で成り上がろうというのも素敵だと思いますし、もちろん台風クラブや家主に「いつか武道館でライブしてほしい!」とは思わなくもないですよ。でも自分のエゴは持ち込まないというか。「やるからには一緒に武道館目指そうぜ!」みたいなのは僕が押し付けがましく言うことじゃないんです。もちろんアーティストから「一緒に頑張ろうぜ!」と言ってもらえたらうれしいし、よろこんでその目標に向けて努力しますけど。目標や大事にしたいことはアーティストそれぞれ違うと思うので、それぞれの想いやこだわりを何よりも尊重するっていうことが大切なんじゃないかなと。

 

でも極端にドライな言い方をしますけど、 もし今一緒にやっているアーティストたちが〈NEWFOLK〉を離れても、僕はまた夢中になれるアーティストを見つければいい。もちろん、どのアーティストとも末長く一緒にやっていきたいですよ(笑)。だけど、これから先も自分自身が夢中になれるアーティストとの出会いは積極的に求めていきたいし、そのきっかけを見つけ出すのもA&Rの嗅覚であり生命線だと思います。それが出来なくなったらこの仕事の引き際かなとも思っていますし。

──

〈NEWFOLK〉は今後どんなレーベルになっていくのでしょうか?目標などはあります?

須藤

全くないです。レーベルというより、ただ僕が責任をもって作りましたよというラベルであり、カクバリズムさんやSecond Royalさんみたいなずっと先を走っているインディーレーベルに肩を並べようとも思っていません。同じラベルが貼ってあることで、例えば台風クラブを聴いていた人が家主にも出会えて、気に入ってもらえたらいいなとは思いますけど。

──

では須藤さんご自身の今後の目標としてはいかがでしょうか?

須藤

良くも悪くも一人であることの限界が見えてきた気はしていて。自分の中で琴線に触れたものを、自分自身も納得いく形で世に送り出すという部分では、形になり始めた。今は世に出したものの裾野をどう広げていけるのかという部分で壁にぶち当たっていて、その壁を越えることですかね。最近だとヤコブくんの『おさきにどうぞ』も、こんなにいい曲とエモーションがぎっしり詰まった素晴らしいアルバムは他にないぞ!と大きな手応えがあるものの、届けられていない人たちがまだまだいるなと思っていて、今もちょっと落ち込んでいます。落ち込んでる暇なんかないんですけど(笑)。力不足を痛感しますね。

──

手の届く範囲で丁寧に深くやるというのがスタイルでしたけど、それでは限界があるというのが、なんともアンビバレントな気持ちですね……。

須藤

そういう意味では、タワレコで働いている時からずっと欲張りなんだと思います(笑)。でも欲張らずに「こんなもんだよね」と現状で満足してしまったら終わりなので。

 

だからここまで話を聞いてもらいましたが、〈NEWFOLK〉自体も近い将来なくなっているかもしれない(笑)。屋号や肩書きみたいなものは正直、二の次ですからね。

──

須藤さんご自身のステップアップを図る時期なのかもしれないですね。

須藤

はい、まだまだ努力しないといけませんね。極端な話、レーベルなんて必要ないかもしれないし。自分で音源をサブスクリプションサービスで配信して、プレスリリースを各所に送って、頑張ればMVも作れるし、企画してライブもできる。だから僕らみたいな裏方がアーティストと組む意味や、そのことで提供できることの意味や価値基準は年々シビアになっていると思います。そんな中でも一緒にやろうと思ってもらえるか、そのためには何が必要か、どうすれば良いかはずっと考えています。


2018年以降、〈NEWFOLK〉〈Mastard Records〉からリリースされた作品の中からピックアップしたガイドはこちらから

〈NEWFOLK〉作品ガイド

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