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ご当地ソングからはみ出る方言詞|テーマで読み解く現代の歌詞

特集『言葉の力』の企画「#テーマで読み解く現代の歌詞」。サブスクリプションでのリスニング・ライフが主流となる中で、歌詞を見ながら音楽を聴くことが以前と比べて少なくなった気がする。逆に気になった楽曲を調べて歌詞を見ることは増えた。つまり「歌詞を味わう」ことがより能動的な行為になってきているのかもしれない。ならばいっそ、その能動性にフォーカスして、歌詞を軸にして現代の音楽を紐解いてみようじゃないか。

 

本企画では8人のライターがそれぞれ現代のポップ・ミュージックの歌詞を捉えるためのテーマを上げ、それを象徴している4曲と共に解説してもらった。

MUSIC 2021.05.20 Written By 峯 大貴

日本のポップ・ミュージックにおける方言を紐解くなんて、大きいテーマを選んでしまった。たしかに現在はYouTubeで“香水”(瑛人)や“うっせぇわ”(Ado)などの楽曲が「方言で歌ってみた」とのカバー動画で様々な〇〇弁verの替え歌がアップされており、「方言で歌うこと」自体が何度目かのトレンドを迎えているのかもしれない。しかしその使われ方の多くは、歌い手自身がその土地の出身であることの明示や、楽曲が持つコンセプトとしてその土地を主題としていたり、郷愁を演出することを目的としたような、限定的な役割に集約されているのもまた確かである。

 

しかし1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』が2020年の日本のポップ・ミュージックを代表する作品の一つとなった藤井風はそこから堂々とはみ出してみせた。最初にスポットが当たった“何なんw”(2019年)を始め、故郷・岡山弁が入り混じる歌詞にも注目が集まっているが、地域色として岡山を掲げるようなテーマはまるで聴きとれない。彼の楽曲での「方言の役割」は言わば標準語よりも音符に乗りやすく、心地よいグルーヴを生むために発動するツールとして使われている。また自分が普段話している言葉を歌に乗せるという率直でシンプルな方法は、逆説的に標準語だけに縛られていない言語感覚として、人懐っこくも極めてフレッシュな発想なのだ。

 

またもう一人の2020年の顔である瑛人の歌詞にも〈もういいべ〉(“ハッピーになれよ”)、〈後ろ足をずっと蹴っぽってくるのは〉(“ピース オブ ケーク”)など、無意識かもしれないが自分のメロディに合う言葉として横浜の言葉がナチュラルに表出している。もちろん吉田拓郎が「男と女の出会い、愛、別れをストレートに表現する一つの手段」として広島弁を用いた“唇をかみしめて”(1982年)など、「方言の役割」がご当地ソング的なものの外に置かれた楽曲は過去の事例としてなかったわけではない。しかし藤井風の台頭により、方言が歌詞表現における豊かな金脈として、2020年代にトライアルがぐっと進むのではないかと密かに期待している。

藤井風 “へでもねーよ”(2020年)

『HELP EVER HURT NEVER』リリース後に発表されたシングル曲。Aメロでは映画『孤狼の血』(こちらは呉弁だが)の如くまくしたてるような岡山弁の応酬で、繰り返される「おどれ(=お前、貴様)」と「踊れ」の同音異義語も獰猛かつキャッチーだ。その後、流麗なBメロに突入すると一変して方言は鳴りを潜める対比も技巧的。方言にテンションの緩急というまた新たな役割を持たせている点がフレッシュだ。

MIZ “パレード”(2020年)

MONO NO AWAREの玉置周啓と加藤成順の2人によるアコースティック・ユニット。収録アルバム『Ninh Binh Brother’s Homestay』の中でも唯一、彼らの出身である八丈島の方言で歌われている。一聴どこの言葉かもわからぬほどで、「祭り」など聴きとれる僅かな単語から、〈ヤンヤンヤヤーン〉のコーラスと共に想像を巡らせていくエキゾチックな聴き心地がたまらない。本曲の詞についてインタビューでは「音が気持ちよくて、意味もギリギリわかる言葉」「響きがちょっとフランス語っぽい」と語っており、楽曲に対してどういう響きを求めるかという思索から、故郷の方言が用いられている。

千紗子と純太 “めっちゃⅡ”(2019年)

MTG(CASIOトルコ温泉)と、BIOMAN(neco眠る)によるユニット。〈千紗子と純太に任しとき!〉(“千紗子と純太”)にも象徴されるが、MTG=千紗子の慈しみを孕んだ声でピンポイントに出てくる大阪弁の根拠なき全知全能っぷりったら。本曲ではエクスペリメンタルでクールなトラックとノスタルジックなメロディに対して、サビで〈いつでも仲良い人一緒にいるならめっちゃいいやん〉〈それでも大事な人会えなくなることめっちゃあるやん〉と綴られる。脚韻のリズムの良さに加えて、深い肯定と共感、おせっかいなまでの寄り添いと、言葉のニュアンスが豊かに広がってくる。

中村佳穂 “FoolFor日記” (2018年)

名作『AINOU』収録曲であり、ライブでは“アイアム主人公”と共に、その場の空気との距離を見ながら構築していく可変的な楽曲だ。梅田で終電を逃したカップルを見て作ったとのことだが、童謡のようなゆったりしたメロディに乗せて序盤に関西弁が入り混じる。お喋りをしていて、次第に歌との見境がなくなっていくような。いや、お喋りにメロディが引き寄せられるような構成だ。後半から歌に芯が備わっていく質感も踏まえて、歌から零れ落ちる余白のために、方言が用いられたと捉えられるだろう。

「#テーマで読み解く現代の歌詞」の記事に登場する楽曲プレイリスト

 

 

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