REVIEW
album
いちやなぎ
MUSIC 2021.03.24 Written By 峯 大貴

濃厚な声をバンド・アンサンブルが彩る、旅路の始まりのような一品

京都の若きシンガーソングライターいちやなぎは声の人なのだ。その吐息交じりの歌唱法や声色を、Jónsi(ヨンシー)やJeff Buckley(ジェフ・バックリー)、手嶌葵、折坂悠太などと相対化して語ることも出来るだろうが、それも野暮だと思ってしまうほどにはミュータントで。なんとか言葉にするなら、まったり湯船に浸かりながらリラックス状態で漏れ出る鼻歌みたいな日常感と、どこか遠い世界に連れていかれる白昼夢みたいな陶酔状態。この両面を併せ持った声の佇まいは心地よくて、未だ得体の知れない余白を残している。

 

前作『naked.』(2018年)は弾き語り録音で、どちらかと言えば前者の日常感に重心が置かれた作品だった。久々のまとまった音源である本EP『album』はその対比のように後者にフォーカスしたアルバムと言えるだろう。5曲全てがバンド録音、京都に根差した仲間を迎えている。Jin Nakaokaのマンドリンと、きょろ(フライデイフライデー)のトランペットの存在が際立つアンサンブルで、曲ごとに異なったジャンルのアレンジにざぶんと飛び込んでみるような仕上がりなのだ。

 

その印象はM1 “magic hour”の冒頭から入ってくるきょろと松尾湧佑(Dr / SUKIDARAKE MAFIA)によるドゥーワップ調のコーラスや、M2 “日々の栞”で一度曲が終わった後に短編アニメのエンディングのごとく再度飛び出てくる仕掛けなど、オールディーズな意匠を取り入れたアプローチが象徴するところ。またM3 “うららのら”ではきょろがほぼダブルボーカルの存在を担い、カントリー風味のフォーク・ソングM5 “憧れの地へ”ではコラボ参加した2人組、たけとんぼのいなたい個性を全面に打ち出している。まるで自らの楽曲は素材として、共同作業を経て景色が変わることを本作の一義にしたような、風通しのよさが感じられるのだ。

その一方で相対的に存在感が後ろに下がる箇所もあるいちやなぎの声だが、決して埋もれず彼の真の太さを示すことにつながっているのも特筆すべき点。中でもミディアム・バラードM4 “ミルキーサンシャイン”のハスキーな低音からファルセットに移行するボーカリゼーションの美しさったら。声の響きに思わずふわりとろけてしまうようなハイライトもしっかり収められている。

 

『naked.』のジャケットは室内に目玉焼きのイラストだったが、本作で描かれたのは空に浮かぶオムライス。素材そのままから、幾通りもの調理工程を経て外の世界に飛び出していかんとするスタンスを思わず投影してしまった。彼の濃厚な声にどんなベールをまとわせるかを模索していく、旅路の始まりのような一品。

album

 

 

アーティスト:いちやなぎ

仕様:CD / デジタル

発売:2021年3月19日

価格:¥1,320(税込)

 

収録曲

1.magic hour

2.日々の栞

3.うららのら

4.ミルキーサンシャイン

5.憧れの地へ

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