
陽動作戦、開始。─R-1王者 友田オレが影の相方 清水遊(brooks)と企てる、新アートフォームとしての音楽
『R-1グランプリ2025』王者のピン芸人・友田オレが、音楽活動を本格始動。5月13日(水)に1stアルバム『陽動』をリリースした。その実質は、普段から友田のネタ楽曲の制作を担当するロックバンドbrooksの清水遊との音楽プロジェクトである。その目論見と本作に滲む不詳感や曖昧さについて探った。
端正な顔立ちと、表情一つ変えない所作、ハッキリとした発音に、プレーンな声。それらが織りなす張り詰めた空気の中、意図もしない角度から発せられるオチによって思わず笑ってしまう。友田オレのネタは、R-1で優勝した“ないないなないなない音頭”も、“辛い食べ物節”も、とてもきれいな緊張と緩和で構成されている。またその「緊張」を醸成する手つきがフレッシュかつとても音楽的だ。オチさえ抜いてしまえば、普通に「いい曲」として聴けてしまうじゃないかと。その点で言えば、タブレット純やマキタスポーツのような、音楽に対する確かな批評性と知識持った芸人の系譜に新世代として連ねることも出来るだろう。
彼が音楽ナタリーのインタビューで語っていた米米CLUBや、音楽遍歴を紹介するYouTube動画であげていたアーティストの数々を見ると、年代もジャンルも関係なく広く音楽に親しんでいたことがわかる。加えてそのネタで使われる楽曲は保育園からの幼馴染であり、現在はバンドbrooksのギタリストとして活動する清水遊が全面バックアップ。友田はキャリア初期から、ネタの大枠を司る楽曲部分を、いかに音楽として聴かせるかにこだわって来た人なのだ。
だからこの二人で音楽プロジェクトを始動するという話も全く違和感がなかった。清水がより楽曲制作の主導権を握り、友田が作詞と演者に徹するという役割分担が少し変わるだけ。事実この『陽動』を聴くと、手ごたえをはかるように全曲サウンドの方向性が異なっている。しかし友田の感情が読みとれない不詳のロートーンな歌が全編を貫いている、ネタ要素一切なしのポップアルバムだ。
この友田と清水がタッグを組むことが前提の音楽プロジェクトのあり方は、過去の芸人を見渡しても異端である。向き合い方の近いところで言えば、藤井隆?古坂大魔王(ピコ太郎)?いや、もはや比較しても仕方ないだろう。2001年生まれであるこの二人なりの音楽の向き合い方について、じっくり話を聴いた。
写真:小田切優人
何者でもないころから共に音楽をやってきた
今回、音楽プロジェクトを本格的に始動されましたが、すでに2022年11年に配信でリリースした“散歩の時代”を皮切りに数曲発表されています。当時はまだ大学在学中ですよね?
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そうですね。芸人としても事務所に所属してプロデビューしたのとほぼ同時期です。でも「どっちもやるぞ!」と意気込んだわけではなく、本当にたまたまで。
“散歩の時代”はただ僕は曲作りが趣味だったので、その出口として彼(友田)に詞を付けて、歌ってもらっただけ。元々その前から「ネタに使う曲を作ってほしい」と言われてやっていたので、その一貫として僕からはお笑いじゃないけど曲を作ったときは手伝ってよみたいな。
お笑いと並行して幅を見せてやろうという思惑もなかったから、この曲と今回のアルバムにも新たなアレンジで入っている“ごらんね”(2023年8月)は、ただ曲を作ってみようという純粋な気持ちが表れています。福岡にいた高校時代から一緒にコピーバンドをやっていた延長でしかない。
お二人は保育園からの幼馴染なんですよね。高校ではどんな曲をコピーしていたんですか?
ただ全員がやりたい曲を持ち寄ってたのでバラバラです。Eagles、David Bowie、Pixies、Paramore、神聖かまってちゃん、星野源……あとちょっとだけオリジナルもどきみたいな曲もやってました。
通っていた高校は軽音楽部がなかったんですよ。バンドをやるような文化的な土壌もあんまりなかった地域だったから、逆にやってやろうという変な熱量がありました。
そこから高校を卒業して、お二人とも福岡から上京されるわけですよね。以降の関係性はどうだったんですか?
バンドをやっていたメンバーはバラバラですね。僕は福岡で浪人したので、一年遅れて上京したんですが、もう彼はお笑いサークル(早稲田大学お笑い工房LUDO)に入っていました。だから僕は音楽を一緒にやれる人を探そうと思って音楽サークルに入り、その周辺で出会ったメンバーで、2024年にbrooksを始めたんです。でも彼ともちょこちょこ遊んでましたよ。
大学になっても関係性は続いていたので、歌ネタをやるための曲も自然と清水にお願い出来たんだと思う。
お笑いとは違う、音楽への憧れ
なるほど。そして友田さんは『R-1グランプリ2025』で優勝されますが、その時披露されたネタ『風間和彦』に扮して、6月に『辛い食べ物節』で歌手デビューされます。
あれは自分主導というより、純烈の酒井一圭さんが仕掛け人となって持ち掛けていたいて出すことが出来ました。そんな振り切ったことをやっていいんだと思わせてくれたので、酒井さんにはとても感謝しています。
だから音楽と言っても、ネタの延長とした音楽活動をされていくのかなと思っていたです。友近さんが演じる水谷千重子さんのような。でもこの音楽プロジェクトはお笑いの文脈とは全く別にあるものですよね。
はい。お笑いと音楽、それぞれの良さを融合して、どちらのファンからも評価されるコンテンツって、本当に難しい気がしていて。水谷千恵子さんもお笑いに軸足がありながら、音楽のフィールドに出ていっているのがすごい。だからバズった歌ネタをただ音源化するだけでは、今はもうあんまり面白くない気がします。風間和彦も65歳の演歌歌手という設定に、純烈さんの紹介で演歌の強い日本クラウンさんからのデビューという要素も乗っかって、いい形で出せた。
なるほど、ではお笑いとは別のものとして音楽をやりたかったんですね。
そうなんです。R-1優勝して色んなことができるようになったタイミングだったので、1年以内には始めたかった。清水のやっているbrooksはもちろん、音楽のライブもよく観に行くんですが、やっぱりあの体験や感動に勝るものはない。アートフォームとしての憧れがあります。
お笑いと比べて、音楽で得た感覚はやはり大きく違うものですか?
お笑いって理解することで楽しめるものだけど、音楽は何も考えなくても気持ちが動かされる。あとお笑いのネタは、みなさんに面白いと思ってもらえるものを作るのが重要で、自分の考えを表現する場所ではない。でも音楽だったら自分の感情を込められるのが素晴らしいと思います。違いは色々ありますが、音楽をやりたい動機としてはあくまで清水の作る曲に歌詞を付けて歌うってことが楽しいから、これをもっとやりたいってだけかもしれないです。
独自の余韻が漂う『陽動』
実際にこのアルバムを聴いて、いわゆる「芸人さんによる歌手デビュー」とは違う、新たな表現に向き合う気概を感じました。そのふり幅と聴き心地で一番近い感覚を持ったのは藤井隆さんの1stアルバム『ロミオ道行』(2002年)です。
藤井さんの音楽活動はもちろん知っていましたが、その作品は聴いてなかったのでチェックします。でもそう言っていただけるのは嬉しい。
お二人の中ではどういう作品を作ろうとされましたか?
これまでは二人だけのDIYでやっていた遊びの延長だったけど、今回は周りのサポート受けて作ることができる。だからとにかくまず1曲1曲を責任持って完成させることで精一杯でした。
R-1の優勝賞金も資金にできたしね。
清水さんはどのように曲作りを進めるのですか?
今回はまず聴いた後にどういう気持ちになるか、想像するところから始めた曲が多いですね。その感情から連想される音やリズムから曲の骨格を作っていく。その後に、彼の声の質や音域を意識しながら、メロディを乗せていくという手順です。
もちろん曲によってその感情は違いますが、今回は全体的に喜怒哀楽がはっきりとしていない、心が微妙に揺れ動いているようなものが多い。
簡単に言うとエモい。
いや、エモいとも違って。分かりやすい感情ではなく、大丈夫なフリして実は……みたいな、なんか余韻が残る感じ。全然語彙が足りないんですが。
確かにその話は二人でしていたので、歌詞もそこを意識しています。
特定のメッセージやストーリーがあるというより、何かが漂っているような歌詞を書いてくれたので、かなり狙い通りでした。
サウンドとしては打ち込みが基調ですが、“タミーエイク”でのアフロビートの導入や、“花はどんどん”はど真ん中のシティポップをやっていたり、かなり幅広い。アレンジや音選びではどんなことを意識しましたか?
それぞれの曲に対して10~20曲ほどのリファレンスがあって、プレイリストにしながら考えていきました。例えば“海月”であれば、MonoNeon“Invisible”のシャッフルビートの感じがよくって。キックが表立った推進力のあるグルーヴを目指したり。
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清水からは自分でハミングを入れた状態のデモが送られてきて、歌詞を付けるんですが、“海月”はメロディとリズムの組み合わせもちょっと歪な感じがするから、どこを軸にすればいいか一番悩んだ曲です。
友田は清水の実験台
友田さんは先ほど「音楽は自分の感情を込められる」と仰いましたが、歌詞を見ると直接的に考えやメッセージを示すような表現はあまりないですよね。どういう情景を描きたいのでしょうか?
うわぁ、言い表すのが難しいですね……。現状の肯定や、少しばかりの未来への期待感がベースにはある。でもお笑いをやっているので、反骨心も少しばかり持ち合わせていて、その整理できない自己矛盾を矛盾したまま書いているから、結果的に微妙なニュアンスになるのかな?
直接的な言い回しは少ないですが、彼の書く歌詞の主人公は周りから何を言われても、自分をブラさず突き進むようなマインドを感じます。そういう意味で“ごらんね”とか“サボテンは見ている”には反骨心を感じる。
自分もまだ24年しか生きていないので、人生の大きな決断って、大学受験と芸人になることくらい。一番悩んだその二つ時期に、寄り添ってくれた歌の存在に近づきたい気持ちはありますね。
例えばどういう曲ですか?
直接的に慰められたり励ますようなものではなくて、井上陽水さんの曲って何について歌っているのかわかんないけど、気持ちいいじゃないですか。そういう歪なものに救われた感覚は今も残っていて、影響を受けていると思います。
“花はどんどん”での「穀潰し」や、“ごらんね”に出てくる「社員食堂」みたいに、心地よく聴いていたら突如違和感を残す言葉選びも面白くって。そこって友田さんの歌ネタにも共通する部分だと思うのですが、それぞれ使う思考回路や意識の置きどころは違いますか?
ネタは大枠からの細かいディティールを考えていく作業ですけど、歌詞はサウンドやメロディも含めた全体像を踏まえて作るので、視点が全然違いますね。“タミーエイク”の2番とか、徒然なるまま書いていったら、いつの間にか完成形に仕上がっていたという場合もあるのが面白い。「こういうのもあり」と思える表現の自由さや、懐の深さを楽しんでいます。
あとやっぱり友田さんの歌声がこのバラエティに富んだ8曲に、統一感を与えている。非常に抑制された歌い方をされていますよね。
歌に関しては、この歌詞も踏まえて感情の起伏をなるべく押さえるように意識しました。これもまた初期の井上陽水さんのような、発音がきれいで、不詳な感じはするのに何か強く訴えかけてくるような歌い方ができればいいなと。
『風間和彦』ではやったんですけど、ローなトーンで歌うってあんまりお笑いには向いてないんですよね……それで付き通せているのはタブレット純さんくらいでしょうか。だからこの声色で思う存分歌えるのは単純に楽しいです。
彼は低い声が通るしかっこいいので、今回は声を張らない低めの音域の曲が多くなりました。でも学生時代、よくカラオケに行ってた時は、ばりばりJ-POPの高い声を張り上げるような曲も歌っていたので、実はどっちもいけるんですよ。
では今後の作品では友田さんのまた違う歌のスタイルも出てくるかもしれませんね。
そうですね。このプロジェクトに関しては、清水のやりたい音楽を一緒に目指すのが最優先。僕を実験台として好き放題にしてもらった結果、今までにない部分を引き出してもらえたら、お互いにとっていい方向に転がっていけばいいなと思います。
曖昧さを残しつつ、本気で取り組む二人のプロジェクトが「友田オレ」
リリース時のコメントで友田さんは「普段やっているお笑いと通ずるところがあるかもしれません」と仰っていましたが、どういう部分が重なりますか?
あくまで大衆に目掛けてやっていることではあるけど、わかる人にはわかるニッチでマニアックな部分も持ち合わせていたい。その魂胆が見え隠れしている微妙なスタンスは、どちらも共通している気がします。
また別のインタビューでは「お笑いとして楽しみにしている方は近くで見てほしいですけど、そうじゃない方も遠くからなんとなく楽しめるようにしたい」とも仰っていて。お笑いと音楽、別のアートフォームをまたいで、友田オレという人の楽しみ方のグラデーションを設けている姿勢を感じました。
それはめちゃくちゃありますね。特にお笑いだとコンビでの表現って、漫才やコントと紐づいてしまいがちじゃないですか。でも自分はピンだから、どんな動き方をしても違和感が少ない。それこそ仰っていただいた藤井隆さんのように、自由さがある中でどう遊ぶかは常々考えています。
清水さんとしてはこのプロジェクトはどう展開していこうと考えていますか?
彼は今、芸人としても勝負どころだと思うし、こっちはタイミングを見ながら続けて行ければと思います。いずれライブもできればいいですね。
友田さんの単独ライブに、ネタと歌どっちもあるようなものが出来たら面白そうですよね。
それができたら最高ではありますが、同じ名義であれど違うことをやっているので、お客さんが期待しているものも違う。だからなかなか難しくて、まずはそれぞれでやってみるのがいいのかなと思います。
そういえば清水さんと一緒にやることがほぼ前提にある、このプロジェクトの名義も「友田オレ」なんですね。
そこも迷いました。ユニット名をつけたり色んなアイデアは出たんですが。
結局どっちも“友田オレ”でやる方が、曖昧さが残ってていいという結論になりました。今更なんですが、最近『進撃の巨人』にハマって。“ユミル”ってキャラクターが出てくるんですけど、別人として“始祖ユミル”というキャラクターもいるんです。違う人を指すのにあえて同じ名前にしている、感覚がかっこいいなって。そこに触発されたわけじゃないけど、お笑いと音楽は別なのに名前は同じであるというわかりにくさを、諫山創さんと共有している気がしてちょっと感動しました。
あと『陽動』というアルバムタイトルも特に曲名や歌詞にも出てこないし、その意図が気になります。
「太陽の動き」みたいな自然のモチーフもあるし、相手を誤認させてるような行動をとる「陽動作戦」っていう言葉もある。これも複数の要素がある曖昧な言葉がいいなと思ってつけました。
今日のお話しは、曖昧なものやわかりにくさを許容したり、そのまま表すことが大きなテーマになりましたね。
いいように言っているだけで、本音としてはあんまりよくわかってないままやっている部分も多いと思います。
その背景としては、僕らの世代(2001年生まれ)ってあんまり説教されてこなかった気がしていて。親や先生からも正解を押し付けられずに、自由にさせてくれた。好きだからやっていることには違いないんですけど、整合性もないままやって来れてしまったというか。
例えば「なぜ芸人が音楽をやるのか?」という問いも「どっちかにしなければならない」という感覚がないから成立しない。その一方でこのスタイルで勝負するという確信はないから、曖昧さはどこかに残っているみたいな。でもそこが作品の良さとして昇華されているのがすばらしい。
このアルバムが出来たときにお笑いも音楽もそんなに興味がない先輩に、ドライブしながら聴いてもらったんですよ。そしたら「よくわかんないけど、なんかお前っぽくてめっちゃいい」って言ってくれて。その感想も曖昧ですが、とても嬉しかったんですよね。
でもこれが発表されたらお笑いファンと音楽ファン、どちらの目線も厳しくなるとも思う。両方本気でやりたいので、今以上に頑張りたいと思います。
陽動

アーティスト:友田オレ
仕様:デジタル
発売:2026年5月13日
配信リンク:https://friendship.lnk.to/Yodo_tomodaore
収録曲
1.Mountain Refresh
2.タミーエイク
3.花はどんどん
4.ビリケン
5.サボテンは⾒ている
6.⾝を粉/MIWOKO feat.ku-ten
7.海⽉
8.ごらんね
作詞:友田オレ
作曲・編曲:清水遊(brooks)
※「身を粉/MIWOKO feat.ku-ten」のみ編曲:ku-ten
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- 副編集長
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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ANTENNAに在籍しつつミュージックマガジン、Mikikiなどにも寄稿。
過去執筆履歴はnoteにまとめております。
min.kochi@gmail.com
