INTERVIEW

野良アーティストたちの都心の根城。〈青山二階〉の家主・Shinya Ogiwaraが自分の居場所をちょっとだけひらくわけ【Playgrounds】

東京・表参道にある非公開のスペース〈青山二階〉は、野良アーティストたちの根城になっている。居住空間、アトリエ、スタジオを兼ねた溜まり場で、イラストレーターShinya Ogiwara個人によって運営されている。そこは、「作品を作るだけじゃ、誰も見てくれない」という表現者の悩みへ、自ら導き出したアンサーとも言える空間だった。

OTHER 2026.05.13 Written By ivy

その根城はちょっとだけ、開かれている

東京都港区南青山。そこは、街自体が巨大なショーケースだ。アパレルブランドの旗艦店、大型ギャラリー、企業の本社ビルやショールームが並び、「見せる」ことを前提に街が作られている。交通の便もよく、有名アーティストのポップアップやブランドのレセプションが毎週のように開催され、モデルやスタイリスト、マスコミ関係者が日常的に街を歩いている。筆者が働くアパレル企業のオフィスも南青山に位置するが、取引先の展示会やスタジオでの撮影、他ブランドのイベントなど、仕事にまつわることは大抵、南青山で事足りてしまう。ファッションやアートに携わる者にとって「アウトプットの場」が共通認識と言っていい。

 

そんな南青山の中心にある表参道駅から徒歩3分、メインストリートの青山通りから横に入った路地に、クリエイターやアーティスト、何かしらの表現を志す若者が集まる空間がある。ギリギリ平成一桁生まれの筆者から見てもほぼ間違いなく親より高齢な木造家屋の二階、その名も〈青山二階〉。この場所を敢えてジャンルで括るなら、“根城”。使い方は出入りする人によって全く違う。スタジオでもあり、アトリエでもあり、休憩場所でもあれば、“友だちの家”でもある。

 

路地に入って、民家と民家の隙間にある勝手口からでないと入れない。明かりもなく、夜に到着するとうっかり赤の他人の家と間違えて扉を開けてしまわないかと不安になる。きしむ階段を上がった先のそこは、まるで『20世紀少年(浦沢直樹)』に出てきた秘密基地。なぜかラーメン屋の暖簾がかかり、DIYで拵えたと思わしきテーブルやバーカウンターが目に入る。それは、子どもたちが空き地や廃屋で自分たちだけの遊び場を作っているような感覚に近い。再開発が急速に進んだ2000年代の都内で生まれ育った筆者にとっては、「自分の根城を持つこと」は一種の“夢”。それが大人になっても叶うということにロマンを感じずにはいられない。

現在の“家主”は、イラストレーターのShinya Ogiwaraさん。自身が好むスケートカルチャーやヒップホップに影響を受けたポップでカラフルな画風と、メッセージ性・ストーリー性の強い作品が特徴だ。多くの場合、作品のインスピレーションは本人の実体験や周囲の人との会話が元になっている。代表作『Choose Life』では、友人が仕事と恋愛のはざまで悩んだ体験談に着想を得たという。

実は、筆者とShinyaさんは、友人としてかれこれ5年ほどの付き合いがある。以前この連載でも取り上げた〈Goofy Coffee Club〉でShinyaさんが展示・在廊をしている時に知り合った。当時、彼が筆者の地元・神田の隣町にあたる日本橋馬喰町のゲストハウス〈CITAN〉をマンスリープランで借りており、同い年ということもあって意気投合。それ以来、ライブやイベントへ誘い合ったり、お互いの旅行先で合流したり、ポッドキャストを二人で始めたり、プライベートな時間をシェアする間柄だ。

出会った当初から会社員として生計を立てる傍ら、アーティスト活動も精力的に行ってきた。飲食店の壁面ペインティングを手掛けたり、地方や海外の大規模な展示に参加したり、海外アーティストのMVに作品が登場したり。そんな彼にとって、〈青山二階〉は単なるアトリエでも仮住まいでもない。まさに根城。厳密に用途が決まっているわけでもなく、何かをする上で最適化された環境ではない。ただ、いつもそこにいることができて、誰かがやってくる。

 

「ここでしか会わないメンバーが多いかな。元々友だちだったわけではないし、出入りする場所が変わると関わる人も変わるから。例えば、地元の小金井にあるパークでスケートをしていた時、一緒に滑っていた子たちは、ここには来ないし、前ゲストハウスで一緒に生活していた子もたまに会うくらい。ここで新しく知り合って、この拠点があるから会うかな」

 

前述の〈Goofy Coffee Club〉が両国に移転する前は、毎週のようにそこで集合して偶然会った誰かと遊びに出かけるような日々を送っていた。〈Goofy Coffee Club〉も、スケートパークも、ゲストハウスも、場の使い方としては、〈青山二階〉と近い。待ち合わせがいらない、集合場所としての根城。違うのは、Shinyaさん自身がオーナーであり、常に場に身を置く側ということだ。自らの手で持つくらい、彼の生活において根城は欠かせないものになっている。

 

それにしても、都心で駅から3分の好立地、およそ一般的な不動産物件紹介サイトに入居者募集が出ていたとは思えない古い物件。どのようにしてこの場所へ行きついたのか。

 

「元々は、友だちの紹介だね。〈Goofy Coffee Club〉のオーナーの友だち。音楽をやっている子で、本業は不動産仲介をしていて。最初に紹介されたときは別の人たちが先にいたから、借主の名義も違った。その人が出る時、僕が借主を引き継いで、今はずっと僕がここにいる状態。あとは他のメンバーが、好きなときに出入りできるようにしてるね」

 

〈青山二階〉のメンバーは、家主と契約し、利用料を払うことでスマートキーが支給され、いつでも出入りできる。リモートワークをする人もいれば、ちょっとした休憩場所として使う人、Shinyaさんのように制作作業に使う人もいる。

 

「最低限のルールを契約者に共有はしていて、それ以外の人も出入りしてる。誰かと会いに来たり、みんなで集まる日に来てくれたり。契約者と違って特定の目的がないと来ないから限定的だけどね。まあでも、たぶん僕が一番友達を連れてきているはず(笑)」

 

傍から見れば、彼にとって〈青山二階〉はそこまで必要に迫られた場所ではないように思える。まず、住居としてであれば、ここより静かで、快適な環境は他にいくらでもあるだろう。東京生まれ東京育ちである彼は、実家から本業のオフィスへ通勤できる。事実、〈青山二階〉へ出入りした当初は住居は実家に置いたまま、「泊まれるアトリエ」として使っていた。加えて、イラストという表現手段は、自宅での作業も可能だ。写真家が暗室を必要としたり、ミュージシャンが防音設備を必要としたり、彫刻家がある程度の広さを必要としたり。他ジャンルに比べて設備上の必要性も小さい。大規模なライブペインティングや野外展示向けの制作は、多くの場合、一定期間制作の場を与えられるし、逆に〈青山二階〉でそうした作業を行うのは難しい。

 

そうした点を踏まえても、「根城」という表現がしっくりくる。寝泊りできるが、それを目的とはしていない。様々なことをする場として機能しているが、決して何かをする上でベストな環境が整えられているわけではない。前提としての用途は曖昧なまま。ある意味、不要不急な余白に名前を付けたような場所だ。

 

東京都心に突如出現したこの場所は、果たしてどのような目的のもとに人が集まり、維持されているのだろうか。

人の出入りが、用を生む

建物の3階部分が制作スペース。本業の作業も作品の制作もここで行うという。

Shinyaさんが〈青山二階〉へ拠点を移す前、横浜市内のコワーキングスペース〈PILE〉に入居していた。2年前、コンペでの入選をきっかけに期間限定で制作拠点を置けることになったという。

 

何気ない対話、他ジャンルのアーティストの見慣れない制作工程、日々人が入れ替わり出入りする環境……そうした常に刺激が与えられる環境は彼が求める空間だった。ただし、そこはあくまで外部組織が用意した場所であり、滞在できる期限が決まっている。それに比べ、自らが借主となった〈青山二階〉は、すべてが自分次第。設備も、運用ルールも、家主が決めるしかない。その意味では、Shinyaさん自身が思い描いた理想の空間になっているのか。

 

「実は理想像ってそこまでないんだよね。まあ、僕が立ち上げた訳じゃないからさ(笑)。こういう場所が欲しい、って意識していたというよりも、自然とそういう(人の出入りがある)場所を選んでいたのかもしれない」

 

当初から描いていた完成形があるわけではない。決まっていたのは、寝泊りできる、作業ができる、人が出入りできるといった最低限の機能だけ。それは、ユニットやレーベルのような互いに共通のアウトプットをすることが前提ではない。同時に、アーティストインレジデンスのように外部から表現者をサポートする意図がある場合とも異なる。

 

「直接制作のインスピレーションを受けたり、共同制作の場というテンションではないかも。もちろん、結果としてつながっている部分はあると思うけど、基本的にはそれぞれまったく違うことをやってる」

 

この根城に集う仲間たちは、あくまで個人の制作や作業に没頭する。だから、基本的に活動は個々で、スペースの契約者や周辺の人だけでまとまったアウトプットを出すことは多くない。例外としては、2025年4月に同じく青山にある〈Annnex Aoyama〉で合同展示を行っている。人材系の大手事業会社であるパソナグループ傘下の株式会社Pasona art nowが持つスペースにて5日間ほどの会期で行われ、映像やペインディング、音楽など様々なジャンルの作品が結集された。

〈Annnex Aoyama〉で行われた展示『高級街のノラ犬たち』のポスター。

「あれは、僕が散歩してた時にパソナビルにギャラリーがあるなって気づいて。覗いていたらスタッフさんに話しかけられたんだよね。『お近くなんですか?』って聞かれたから『すぐそこにアトリエがあって』みたいな話になって……。最初は、それがきっかけ。実は、みんながみんな乗り気だったわけじゃないんだよね。何かを一緒にやろうっていうのは、個人的にやってみたかったことを僕が言い出してやってみたところが大きいかも」

 

言い出しっぺになりながらも、その言葉は、どこか遠慮がち。それでも、Shinyaさん個人の名前ではなく〈青山二階〉という名前を出して外部接続の場を作ったのは、他でもないShinyaさん自身の意思に基づく行動だ。

 

きっかけは偶然の成り行きながらも、Shinyaさんが求めていた人の出入りがあり、異なる属性や生業を持つ人が共存する環境を作る上で、かなり有効な選択だ。本業でもプライベートでも関わりがない大手企業と一つのイベントを手掛けることで、〈青山二階〉というスペースに関わる人の幅や数は大きく広がりを見せたという。また、現在のメンバーと個人的な付き合いがない人にとってもふらりと立ち寄り、場合によっては新たな契約者として加わる可能性もある。

 

他にも、Shinyaさん自身が友人を積極的にパーティーを開催したり、個人的に友人を招いたりしているのも、現在の〈青山二階〉を形作る上で重要な要素だろう。

 

収益面で狙いがあってのことではなく、空間への出入りや交流を活発にしたかったがゆえに、ごく自然に起こしていた行動。それは、役割としてあてがわれたコミュニケーターとしての動きではなく、自らの心地いい環境を作るための必要なプロセスを踏んでいる。彼のこうした主体的な取り組み一つ一つが今の〈青山二階〉を形作る大きな要素を占めているのは言うまでもない。

誰かを振り向かせるために

〈青山二階〉は、営利目的の場ではない。収益を生むわけではないスペースを仕事と別で運営する以上、家主一人への負担が相当大きいのではないか。

「うん。それで言うと、やっぱりストレスはあるよ(笑)。実は、(2025年の)12月くらいまで『この形をやめよう』と思っていたから」

 

家賃やハウスルールといった細々とした運営の雑務に加え、フラットな場だからこそ境界の線引きにも苦慮しているという。

 

「パートナーと話してここは普通に僕らの家として借りて、他のメンバーは更新をしない形にしようかって思ってた。それなら今まで通り、友だちを呼びたい時に呼べるし。寂しい時に友だちを呼んでっていう感じで。今みたいに突然人が来ることはなくなって、誰かと関わる時間を選択できるわけじゃん」

 

求めていた環境と、それを実現したうえで感じるストレス。その間で折り合いをつける選択としては合理的に思える。では、現在もそのままの運営を続けているのは、どういった心境の変化があったのか。

Shinyaさんのパートナー、通称・ヤカちゃん。

「きっかけは、パートナーだね。彼女も写真を撮っているんだけど、僕も彼女もアーティストって、やっぱり人との関わりから作品や存在そのものに気づいてもらえないと、展示以外だと誰にも見てもらえない現実があって。それを踏まえた上で、外部との関わりが起きる可能性を減らしてしまうのは勿体ないんじゃないかなって言ってくれて」

 

単なる居住空間ではない。ギャラリーのように完全に開かれた外向きの場でもない。だからこそ、会話のきっかけになる。他に似た例が少ないからこそ、人が興味を持つ。他ジャンルのアーティストはもちろん、大手のキュレーターやストリートカルチャーメディアのメンバーといったアウトプットのとっかかりとなるような人との交流も生まれている。誰もがアクセスできるわけではないが、交通の便はよく、特定の人にとっては出入りのハードルが低い。価値観やカルチャーに共通項を持ったコミュニティが形成されているコミュニティがあるからこそ、そことの相性次第で、全くの初対面でも心理的な距離が近くなる。Shinyaさんと求めている空間は一緒であれど、一度運営したからこそそのメリットを違った観点から認識しているパートナーの存在が大きかった。

ここで、Shinyaさんは思い出したかのように、共有スペースの天井に大きく飾られている絵『HITCHHIKE』について、話してくれた。

 

「この絵がまさに、『もっと色々な人に作品を見てもらわなきゃ』と思って描いたんだ。『見てくれよ』ってボードを掲げているまだ無名のアーティストがいっぱいいて、その先には、車があって。『車に乗せて、この先に連れてって欲しい』とみんな思ってる。でも、街の看板や広告には、もう既に有名になったアーティストがいて、車に乗ってる人は、有名なアーティストに意識が向いているんだ。野良のアーティストたちは、どうにか車に乗っている人を振り向かせないと、存在に気づいてすらもらえないっていう」

 

「野良のアーティスト」は、Shinyaさん自身の現状であり、南青山の街頭スクリーンやハイブランドのショーウィンドウで展示されている有名アーティストの存在が対比されているのだろう。

 

「絵を描いているとき、大学時代ヒッチハイクした経験とすごい繋がって。ヒッチハイクも自分から次ここに行かせてくださいっていう意思表示をしないと、次の街へ行けない。それって、ただ作品をつくって待っているだけじゃ誰も見てくれないっていうのと、似ているんだよ。ヒッチハイクした時さ、2人でしたんだけど、もう1人の子が、すごい積極的に自分から話しかけるタイプで、おれは割と引いちゃうタイプ。東京から福岡まで辿り着けたのは、相方のお陰なんだよなぁ、と」

たしかに、Shinyaさんは本来、そこまで初対面の人へ積極的に話しかけるタイプではない。一方で、スケーター仲間や他のコミュニティで知り合った交友関係が広いことからもわかるように、共通の話題を持つ相手との距離の縮め方は非常に自然だ。絵という表現手段を見つけてから、より多くの相手と共通のテーマを持てるようになったと言えるかもしれない。だからこそ、制作環境において不特定多数の他者と日常的に交流する場が持つ意義は、彼にとって非常に大きい。

 

冒頭で触れたとおり、青山は交通のハブで、アウトプットの街。そして、Shinyaさんの作品の世界観で言えば、多くの人がヒッチハイクをする場所だ。だから、この街が生活導線に組み込まれている人が一定数いる。アーティスト、会社員、エンジニア、クリエイター、ミュージシャン……。共通項がないかもしれない赤の他人と結びつく、最初のとっかかりを立地が担ってくれているといっても過言ではないだろう。本来どちらかと言うと個人主義な彼にとっても、ここでは外部との接続が自然に起こる。

 

クローズドとオープンの中間が今の〈青山二階〉だ。そんな場だからこそのメリットと、それをアーティスト本人として享受し続けるために残すべき要素。それを自ら運営していくうえでの実体験を伴って成立していることが、〈青山二階〉を継続していくための条件と言えるのかもしれない。

見せない場所と、見せる自分

相応のストレスを抱えながらも、うまく付き合いつつ、場を継続していく。そこには、本人なりの付き合い方をうまく見つけるほかない。そして、ストレスの許容範囲は人によって大きく異なる。

 

「僕は正直、自他境界がそこまで厳密じゃない方だとは思う。実家にもずっと弟がいたし、ゲストハウスに住んでいた時は共同生活みたいな感じだったからね。で、今ここで抱えているストレスをフラットに相談できる相手が今いる状態だから、なんやかんやできているんだと思う」

 

彼の場合、許容できる境界線。そこで踏みとどまることで、〈青山二階〉が存続している。そこには、責任を一人で背負いきらない範囲で、分散する形がパートナーの存在あってこそ成り立っている。もう一つ、大切になるのは何をやって何をやらないかの取捨選択だ。

 

「結構、あちこちほったらかしなんだよ(笑)。コワーキングスペースも兼ねてる以上、もう少し導線をきれいにしたいし」

設備も、整えられているとは言えない面がある。オフィスデザインのプロがいるわけでもなければ、施工会社がかかわっているわけでもない。基本的に、契約者それぞれが持っているものや偶然手に入ったものを持ち込むか、DIYで作るしかない。

 

〈青山二階〉の全体を見渡すと、不要不急でもShinyaさんにとってあると面白いものは存在するし、一般的にコワーキングスペースでありがちな物でも不要なら導入しない。基本的には家主の裁量だ。その中に、冒頭で触れたようなイベントも存在する。

 

二階の共有スペースに数多く飾られたShinyaさんの作品やスケートボードのデッキを組み合わせて作ったバーカウンターはその象徴ともいえるだろう。カウンターの奥にはキッチンがあり、パーティーの際にはここでドリンクやフードを提供し、普段はコミュニケーションスペースとなっている。

DIYで作られたバーカウンター。パーティーの際にはShinyaさんがここでドリンクを提供する。

「最近はみんなでご飯を一緒に食べてることが多いかな。ただ、あらかじめタイミングを決めて集まるわけじゃなくて、その時、いる人を誘って『ごはん一緒に食べない?』って声かける感じ」

 

あらかじめ予定を決めたり、場を設けたりしないのが彼らしい。パークでスケートをしたり、〈Goofy Coffee Club〉で居合わせた仲間とどこかへ繰り出したり、筆者の場合は京都で偶然泊まっていたゲストハウスが一緒でそのまま遊んだり。それぞれの流れを尊重しながらも、共通のとっかかりがあれば一緒に行動するのが彼の基本的なスタンスだ。〈青山二階〉は、そういうとっかかりを創ってくれる場所として、Shinyaさんに必要な場所だった。

 

今回のインタビューを通して、東京の街に「ただ、居ていい場所」が少ないことを思い出した。公園や道端のベンチなど、公共スペースを意図して設置された場所は見かけるが、有効活用されていないことも多い。これは、無関係な第三者に見られている感覚があるかどうかが大きい。例えば、台湾の都市部ではよく建物の一階部分のアーケード(騎楼、チーロウ)に椅子を出して、お茶をしたり、缶ビールを飲んだりして近所の人同士が談笑している様子を見かける。歩道として解放されているので、何の仕切りもないオープンスペースだが、道行く人は気にも留めない。ふらっと歩いていて、知っている顔がいたから足を止めて話している。

 

誰もがアクセスできる公共の空間よりも、仕事や生活、営みの中である程度の共通項を持つ人だけがアクセスできる“半クローズド”な場の方が居心地がいい。台湾のケースからもわかるように、“半クローズド”は必ずしも人目につかない場所でなくてもいい。社会の不特定多数からは見られない場所でありつつ、共通項を持つ人にとってはアクセスしやすい場所の方が好都合だ。現在の〈青山二階〉は、都内の様々なコミュニティに出入りしてきたShinyaさんなりの“半クローズド”空間として生まれた答えであり、その一形態が根城だったということだ。

 

Shinyaさんいわく、〈青山二階〉は現在の形で少なくともあと二年半は継続していくつもりだという。青山という「見せるための街」に、見せない根城を持つこと。それによって彼は、自らを外に見せること、誰かに伝えることに意識を向け続けることができている。次にこの場所のドアを叩く人がいるかもしれない。誰かが突然訪ねてくるかもしれない。だから彼は、そのドアを閉めないことにしたようだ。誰かに見つけてもらうために。

撮影:keishi sawahira

青山二階

 

東京・青山の古民家。居住者によるイベントや発信はInstagramから。

Instagram:@aoyama2f

 

Shinya Ogiwara

 

日常生活から着想を得た、ポップ且つメッセージ性の強い作品が20代を中心に支持を集める。2019年から創作活動をスタートさせ、わずか1年で渋谷TSUTAYAでのPOPUPを開催。2022年にはアメリカのR&Bシンガー、Pink Sweat$の新曲MVでアートワークを手掛け、2023年に開催されたAce Hotel Kyotoでの個展では、作品の半数以上がSoldoutしている。2024年はLondonのHolly Art Galleryが主催する国際コンペに選出され展示を行う等、活動の幅を広げている。

 

Instagram:@shin._illustration

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