INTERVIEW

【Playgrounds Vol.2】「買い付けをしない古着屋」〈シャオ・そなちね〉が足を止めた人にとって「ただ居ていい場所」であるために

群馬県の前橋市にある古着屋〈シャオ・そなちね〉は、古くから親しまれてきた商店街『弁天通り商店街』の一角にある。夕方からオープンするサイケデリックで異国情緒漂うこのお店は、現在は客足が減り、シャッター街の様相を呈するこの場所で一際異彩を放つ存在だ。オーナーはなんと現役の大学生。所謂「普通の古着屋」とも明らかに違う妖しげな雰囲気のお店だが、オーナーと同世代や更に年下の10代~20代前半の若者たちが集まり、何やら楽し気に談笑している光景がよく見られるという。空間の「主」であるオーナーの颯(カザム)さんとパートナーのLoy(ロイ)さんにお話を聞くうちに見えてきたのは、居場所を探し求めている、何か面白いことをやりたいけれど相応しい場所がない、そんな人たちにとって、これ以上なく居心地のいい空間のあり方だった。

OTHER 2023.08.02 Written By ivy

若い世代はあらゆる音楽や、映画などのカルチャーをオンラインで手軽に享受するのが当たり前となった。その一方で、パンデミックや、実質賃金の低下など社会環境の変化でリアルな場でカルチャーを体験するハードルが上がっていると感じる。
しかし、次世代の表現者にとって、感性を磨く、地域に根付いたリアルな「遊び場」は大切な場所だったはず。

 

それは誰にも話すことができなかった好きなこと、興味があることを思う存分表現する場所であり、そして、普段身を置く学校や会社では見つからなかった仲間や、出会ったことのない見識や価値観をもった大人に出会う可能性を秘めていたからだ。この2点の役割を果たす場が、今の時代においても重要であることに変わりないはずだ。

 

そこで、本連載では、「今の時代における良い遊び場とはどういったものか?」ということや、「どのようにその場が生まれ、育まれていったのか?」ということを、当事者たちの証言から解き明かす。こうした「面白い兆しが見える場所」を取材し、紹介していくことで今、同時代で起きている様々な動きをつなぎつつ、それぞれの地域差に注目しながらこれからの時代、どのようなカルチャーが育まれていくのか、そのヒントを得たい。

生活感漂う非日常空間

古着屋〈シャオ・そなちね〉は、前橋市の中心部、『弁天通り商店街』にある。店主、颯さんがこの地に店を出したのは2022年の11月。隣の高崎市出身で、現在も県内の大学に通う彼は、パートナーであるLoyさんと共に店に立つ。

 

颯さんは、艶やかな色味のレース地のノースリーブを着て、肩まで伸ばした黒髪を無造作に束ねていた。ブリーチしたウルフヘアのLoyさんは、ダークグレーのストライプ柄、ベストとパンツのセットアップ。既存のファッションのどのジャンルにあてはめてもあまりしっくりこない。どこの街にいても意外だし、逆にどこの街にいてもしっくりきてしまう、そんな佇まいだ。

 

閑散とした古い商店街、かつて金物屋だった木造二階建ての民家をDIYで改装した。土間に古着や古道具が所狭しと陳列され、壁にはLoyさんの作品やポスターが飾られ、壁が見えない。天井を見たら仏教画をモチーフにしたと思われるラグがかけられていたり、木彫りのゾウが鎮座していたり、通りと店内では明らかに空気が違う、文化圏の境界が存在しているような印象を受ける。

「ちっちゃい頃からカンフー映画がめちゃくちゃ好きなんですよ。ブルース・リーとかジャッキー・チェンとか。ああいう映画に出てくるようなアジアの雑多な街並みに憧れがあって」

 

颯さんが棚からカンフー映画のビデオを手に取り見せてくれた。正直、映画に出てくるようなアジアの街並みが好きで再現した空間や店はそれほど珍しい訳ではない。ただ、中でも雑多さ、生活感のような言語化しづらい要素をここまで忠実に落とし込める人はなかなかいないと感じた。

 

「私はエスニックテイストというか、民族テイストが好きなんで、そういうものが多いと思います。民族のものって、世の中でいう『キラキラ』したものとか、着飾っている要素はなくて、それぞれの生活に密接に関わって大切にされてきたものじゃないですか。だから、生活や人それぞれの価値観で形や色も少しずつ違っている。そういう歪さがすごく素敵だなって思うんです」

 

Loyさんが付け加えてくれた。よく見ると、きらびやかに作り込まれたものではなくて、あくまで生活雑貨の延長にあるようなものが目立つ。生活空間にあるものの組み合わせは、そこで暮らしている人以外にとっては文脈のわからないものであることが多い。たとえば、「おばあちゃんの家」。なぜこの道具がそこにあるのか見当もつかなかったり、一見役に立たなそうなものが大切そうに置いていてあったり。そして、それらにはそこに暮らす人にとって大抵相応の意味がある。ただごちゃごちゃしているのとは違う、人の息遣いを感じる「雑多さ」。それは、その空間にいる人にとっては居心地よく、愛おしい空間になる。

この店も、普段からこの場所で生活しているのではないかと思うくらい、2人がくつろいでいる様子が印象的だった。この日は、たまたま知り合いが持ってきてくれたという玉ねぎを店の中に吊るしていた。これすらもインテリアの一部のように思えてしまうし、一瞬突っ込んでいいものか迷ってしまう。

 

「元々、ここは生活道具を扱う商店街だったんですよ。観光地じゃなくて。銭湯が近くにあって、住んでる人が通りがかるんです。なんていうか……古くも新しくもなくて、中途半端ですよね(笑)。通る人の暮らしが見られて、意外な人とのかかわりもあって、結構、面白い場所だなって思います。個人的には気に入ってますね」

 

ほどなく、近隣に住んでいるという高齢の男性が犬を連れて通りがかった。犬は店の2人にもよく懐いているようで、楽し気に談笑する。地域に住む人、そして何よりも颯さんとLoyさん2人の生活のすぐそばに、この店があることが見えてきた。

まだ20代前半である彼らがこの場所へ自ら店を構えたのには、どういった背景があったのだろう。

遊び場を創りたかった

「基本的に大きい一歩目をやろうって言いだすのは自分ですね。で、本当にやってみたいなと思ったら実現するし、やってみてそんなにだなと思ったらそのままポシャります。大学入ってからずっとそんな感じです」

 

店を始めることを最初に決断したのは、颯さんだった。

 

「同世代の子たちでいろいろできる場を作りたいっていう思いが強くて。自分は他所のコミュニティへ遊びに行って、何か面白いことをやっている人を見たら、そういう場を作りたい、っていう思いが先行しちゃうんですよね。一番最初は『森、道、市場』へ行ったのがきっかけかもしれないです」

 

愛知県で行われる大型野外フェス『森、道、市場』へある朝突然、Loyさんから「遊びに行こう」と誘われたという。

 

「『これ絶対に行くべきだから、行こう。今日は学校休んで』って言われて(笑)。当時はまだあまり音楽も知らなかったんですけど、行ってみたらそれはもう、衝撃で。あの空間を自分で作りたいなあって思ったんです」

 

『森、道、市場』は、音楽・ライブを主役に据えた他のフェスとは少々テイストが異なる。豪華なアーティストたちによるライブもメインコンテンツの一つではあるが、主役は飲食やアート展示、物販など、様々な出展者たち。まさに、「大人の文化祭」と呼ぶに相応しいイベントだ。その中には、颯さん自身と大きく年の離れていないクリエイター、アーティストたちによるポップアップも多かった。それは、時間を持て余し、一見「自由」なはずが(颯さん曰く)「みんなが漠然と就職という同じ出口へ向かって歩いている」学生生活に退屈していた彼にとって大きな刺激だった。普段の生活で触れないような珍しいモノやコトが一堂に会し、ヒトとヒトとの交流や楽しい時間を生み出している光景を目の当たりにして、居ても立ってもいられなくなったという。好きなことを思い切りやって、他の人を動かしている。そういう人が集まってくる。それが形になる場があることが当時の彼にとって目からうろこだった。

 

「あとは、タイミングですね。ポップアップで市内のマルシェに出店したら、ちょうどめちゃくちゃいい物件が安く借りられるタイミングで……。今しかないぞ、って思って1カ月後には店出してました(笑)」

「場を作りたい」という点において、実は颯さんと同じかそれ以上にLoyさんにも強い想いがある。

 

「入院中に出会った子たちのことがすごく強く印象に残っているんです。そういう子たちが無条件に受け入れられる場所を作ってあげたいなっていうのが今でも一番大きいです」

 

Loyさんは、うつと摂食障害を患っていた時期がある。精神科病院へ長期入院している間、彼女と同じ摂食障害に悩む他の患者との交流があった。多くはLoyさんよりも更に若い、小中学生の子どもたち。食べたくても食べられない、学校へ行きたくても行けない、長らく外の世界へ出ていない、そういった「当たり前」と思っていた自由すらままならない。彼らの「何一つ楽しみが見いだせない」気持ちや、環境へ馴染めない生きづらさを知り、それが彼女自身の生活と紙一重であることを自ら入院したことで身をもって体験した。

 

「人を幸せにすることって、ずっと寄り添っていなければできないし、すごく難しい。でも、『ただ居ていい場所』を創ることはできるかな、って思ったんです。そこに来ることで、外の世界を知ったり、何かを始めたりするきっかけになれたら」

 

こう思うようになった背景には、Loyさんにとっても、病から立ち直り、外の世界へ踏み出すきっかけとなる存在がいたことにも触れておきたい。

 

「颯が一緒にいて、謎の安心感があるんですよね。もちろん本当によくないこととか、心配させるようなことは止めてくれると思うんですけど、基本的には私を尊重して肯定してくれるんです。何をしていても、『いいね』って言ってくれて。彼といる限り、私は自由でいられるな、って」

 

Loyさんがこの場所で店を始める決心において何よりも重要であったのは、パートナーである颯さんと一緒に始める、ということだったのかもしれない。

 

この時点でもわかるように、2人は「服屋がやりたい」という動機で古着屋を始めた訳ではない。実現したいことにはそれぞれの思いがありつつも、それが実現できるための空間が欲しいという点が共通している。とはいえ、それでも敢えて古着屋という形態となったのはどういったきっかけがあったのだろうか。

買い付けをしない「お下がり」だけの古着屋

〈シャオ・そなちね〉には、他の古着屋ではなかなか見かけない特徴がある。それは、買い付けを行っていないということだ。そして、買い取りも行っていない。店に並ぶ商品はすべて、誰かから譲り受けたもの。「お下がり」のみでラインナップが構成されている。店の品物を眺めながら、颯さんは開店を決心した当時を振り返る。

 

「自分たちが影響を受けたのは、長野の〈トライアングル〉。そこは、買い付けをしないで、『お下がり』だけで古着屋をやっていたんです。自分たちで何か面白いことをやりたいってずっと思っていたけど、お金がないし、これならお金をかけずに自分にもできるなって思いました。服も好きだったし、コレだ!って」

 

Loyさんについて行く形で、ある時訪れた長野県長野市。そこでは、颯さんと同世代、大学生の仲間たちで営む古着屋〈トライアングル〉があった。彼らは自分たちのイベントを行っていて、音楽やフード、古着や雑貨、様々な要素が同居し、それぞれが好きなことを思い切りやっている場所だった。

 

「これかっこいいな、っていうところに結構影響を受けて行動を起こしちゃうんです。他人がやってないことやってる人に一番かっこよさを感じますね。大学に行っていると、みんな同じレールに乗って、同じ価値観の中に生きているように感じるんです。もちろん、それも一つの人生かもしれないけど、自分にはそれが面白いと思えなくて、そこに流されて生きていくことができなくて。そうやって生きてきたから、自分なりにやりたいことがはっきりしていて、それを実現に向けて動いている人がかっこいいと思うんですよ」

 

颯さんが「かっこいい」と思う人たちが集まる空間がそこにあった。

 

「そうは言いつつも、その頃は学校行く以外、自分も特に何もしていなかったんですよね。そういう自分にとって、余計輝いて見えて」

 

颯さんが感銘を受けたそのコミュニティは、Loyさんにとっても、心を動かされるものだったようだ。

 

「そこにいた人たちはすごく優しくて、余所者の私たちを無条件に受け入れてくれたんです」

 

やりたいことを思い切りやれる同世代が集まるそのコミュニティは、同じように「新しく場を作りたい」という2人の思いに対しても真摯に向き合ってくれた。彼らを仲間として迎え入れ、以降、交流が続いていった。同世代の仲間が見つかったことは、颯さんにとってやりたかったことの実現に向けて、非常に大きかった。

 

「それこそ、古着屋やりたい同世代って、結構多いんですよ。でも、みんなやり方がわからない。始めるとしたら、上の世代の人たちがやっているイベントに出してもらうのがきっかけみたいな。でも、一番楽しいのって同世代で集まって始めてみることだと思うんで、そのきっかけになれたらいいと思ってます。たとえば、古着に限らず音楽もそうで、自分らより下の歳の子でDJしている子もいたりするけれど、上の世代の真似をしている状態の子が多くて、それは自分たちで新しいことを始めているわけではないと思うんです。だから、自分ら世代から見るお手本とか、本当に自分らが求めているような場所を見せてくれるような場がまだないんです」

 

良くも悪くも、先人のやり方を踏襲することは、店や場を創るうえでは効率的なことは間違いない。ただ、彼らのゴールは「古着屋としてお金を稼ぐこと」ではなく、近い世代の好きなものを他人と共有したり、近い感性を持つ人同士が交流できる居場所でありたい、ということだ。だからこそ、これまでにあったスタイルではなく、シンパシーを持ち得る同世代間で試行錯誤したスタイルを共有し合う必要がある。

 

今はもう〈トライアングル〉は店舗での営業を行っていないが、彼らのスタイルを受け継ぐことで、自ら理想の「場」を創ることが実現へと大きく動いたのは間違いない。

こうして、古着屋として始めてみたはいいものの、「お下がり」だからこそ、手に入るものを予測することは不可能。颯さんやLoyさんにも自らの店でありながらどんな商品が来るかをコントロールすることはできない。そうした中で、どんな服を店頭へ並べているのか。

 

「やっぱり、あまり見ないもの。パッと見、珍しい物。他で見ないような物。一見なんてことないシャツなのに、何故かボタンがめちゃくちゃいっぱいついてるやつとか(笑)。持ち込んでくれたモノを広げて、思わず笑っちゃうようなものは、『なんかいいな』って思いますね」

 

そう言いながら、颯さんは店の奥へと招き入れる。Loyさんもお気に入りを引っ張り出してきて見せてくれた。

 

「これとか、意味わかんないですからね。切り替えの絵柄なんですけど、全然それぞれの世界観が噛み合ってなくて、何故か襟もとに車のイラストがあるんです(笑)」

確かに、少なくとも『ZOZOTOWN』ではどう間違っても見かけなさそうな、強烈なデザインだ。今度は颯さんの番。

 

「さっき話に出た、ボタンがめちゃくちゃついてるやつです。しかも、なぜか等間隔にボタンだ3つずつ付いているという……」

 

わかりやすい定番だったり、他所の古着屋でも人気のアイテムとか、そういうものは一切出てこない。むしろ、ちょっと野暮ったい、見る人によっては「ダサい」で片づけられてしまいそうなものたちがほとんど。「人がやらないこと」をやりたいと語ってくれた颯さんらしいけれど、ただ珍しいものを並べたというだけではなくて、どこかにこの店らしい「色」が出ているようにも見える。陳列するものを選ぶ2人の嗜好やセンスが反映されていることはもちろんのこと、この店のスタンスや2人の佇まいに惹かれて店へ足を運ぶ人たちが持ってくるからこそ共通する雰囲気があるのかもしれない。

店を始めた当初は、両親や親戚、友人など、身近な人から不要な服を譲り受け、在庫をかき集めたという。その時点からすでに、2人を取り巻く交友関係や周囲の人の嗜好、人との関わり方が店に反映されていたといっていい。

 

では、現在の〈シャオ・そなちね〉を構成する品々はどこから来たのだろう。

 

「今は直接自分へ連絡してきてくれた人とか、たまにたくさん持ち込んでくれる人がいたりとか。あと、とある古道具屋のオーナーさんと繋がってて、連絡くれるんですよね。そこは不動産の会社がやってるお店で、空き家に残ったものを古道具として売るお店なんですけど、服を譲ってくれて。あとは、〈満龍寺〉っていうお寺があって、(仕事として)空き家を片付けるときに、自分ら『っぽい』やつをとっといてくれてるんです」

 

まさか、寺から仕入れる古着屋があるとは……。

 

「ある時、〈トライアングル〉が〈満龍寺〉でポップアップをやっていたんです。DJやダンサーをしている兄弟が継いでるお寺なんですけど、内装がもうサイケ全開で……(笑)。こんな場所、日本にあるんだなあと。特に住職の弟の会さんと仲良くなって、今でもよくしてもらってます」

 

〈トライアングル〉も〈満龍寺〉も、物理的には離れているが、互いが持つマインドや活動に惹かれ合い、共鳴することで生まれたコミュニティの中にある仲間だった。〈シャオ・そなちね〉の商品は金銭を介さず、こうした内面的なつながりを経て彼らの手元に渡ってきている。だからこそ、本人たちがコントロールできる要素が少ない「お下がり」であっても、その「らしさ」を魅力として感じられるコンテンツになっていることがわかる。

居場所であること

「刺さる人とそうじゃない人はだいぶはっきり分かれる印象です。アメカジとか、ワークとか、王道の古着を目的に入ってきた人からすれば何もない店に思えるみたいで」

 

王道を外れたものを置いているからこそ、人を選ぶことは間違いない。颯さんもそれは自覚しているようだ。店へ集まる人は、きっとそんな他にはない、被らない店の在り方に惹かれているだろうし、何よりもこの店を創る「お下がり」の提供者でもある。果たして、どんな人が〈シャオ・そなちね〉を訪れるのだろうか。

 

「最近多いのは、服飾(の学校)にこれから行く学生さんですかね。高校生の常連さんがいるんですけど、その女の子はめちゃくちゃうちの店のこと好きで遊びにきてくれてて。その子はこれから服飾に行くみたいです。あとはまあ、数も少ないし、常連とかではないんですけど東京でちょっと変わった古着屋とかを好んでいる人とかがふらっと来たときに『何これ、めっちゃ安いんだけど!』って入ってくれることもありますね」

 

真っ先に名を挙げたのは、10代から20代前半の若いお客さんだった。それにLoyさんが思い出したように付け加えた。

 

「一昨日だったかな、制服着たまんまの高校生の女の子が2人、ふらっと入ってきて。なんかちょくちょく外から覗きに来てくれてたんですよね。ここに座って話してたんだけど。今の高校生って音楽何聴いてるんだろうと思って、聞いてみたら意外とマニアックで(笑)。サイケな、GEZANに近い、どぎついやつ。なんてバンドだっけ……そうだ、八十八か所巡礼!そんな話をしてたらのど乾いたって言うから、2リットルくらいのジュースがあったから冗談半分で『一本全部飲んじゃっていいよ』っていったら、本当に2人で飲み切ったんですよ(笑)。で、お菓子も出して。三人で世間話して」

 

学校帰りに偶然〈シャオ・そなちね〉の前を通りがかってから、何か惹かれつつも入って話しかける勇気がわかなかったのだろうことが想像できる。思い切って入ってみたら、やはり話が弾む。学校で会う友人や親とはできない話ができる場所、自分だけが好きだと思っていたものが共有できる場所、新しく好きなものに出会える場所……。それはまさにLoyさんが目指す「無条件に受け入れられる場所」、「外の世界を知ったり、何かを始めたりするきっかけの場所」だ。今後、彼女たちにとって〈シャオ・そなちね〉がそういう空間になるはずだ。

 

こうしたことは、若い世代に限った話ではないようで、本記事の取材中にも時折立ち寄る人がいた。音楽活動をしているという常連客の一人がCDを持ち込んだり、旅行のお土産を広げて颯さんとタバコを吸っていたり。必ずしも古着を買うためだけに寄る場所ではない、というのが一つのキーポイントといえる。

私たちが生活していると多くの場合、「居場所」にはお金がかかる。ただ話しているだけ、ただ通うだけ、そういう場所を見つけ出すのは簡単なことではない。特に、金銭的な余裕がまだない学生や若い表現者にとって「居場所」は更に貴重だ。そうした中で、「居場所」を提供しているという点で、既にこの場所に通う人にとって不可欠な場となっている。

 

「私たちがやりたいのは、おじいちゃんたちが喫茶店で集まってるような状態なんです。音楽好きなおじいちゃんがいたら、ある時突然ギター弾いて音楽聴いて、フラっと集まってフラっと解散するみたいな」

 

各々が好きなものを好きなようにシェアした結果、そこを居心地がよく感じた人が自然に集まってくる。Loyさんの中では、そんなイメージがあるらしい。

 

「高崎に好きなカフェがあるんですけど、そこは音楽イベントもすごく小さな規模でやっていて、ちょうどそのイメージなんです。たとえば、クラブとかフェスだったら、たとえば騒音で警察が来たら関係者が『すみません』みたいな感じでお巡りさんを止めに行くと思うんです。お客さんはそこに関与しない。でも、そこのイベントは警察の人が来たらふざけながら音を小さくしていって、みんなでニヤニヤして警察が行ったらまた騒ぐみたいな(笑)」

 

主催者もお客さんも、そこに壁はなくて、みんなが好きなことをシェアしているから、場に居合わせたみんなが参加者。だからこそ、「ただ居ていい場所」が成り立つ。

 

どこか生活感のある空間、既存のジャンルに当てはまらない古着、何も買わなくてものんびりおしゃべりができる雰囲気。こうした、古着屋が利益を生み出す上ではセオリーから外れているように感じられる〈シャオ・そなちね〉の構成要素は、「居場所」であるためにすべてが必然であることに気づく。

店内を見渡すと、売り物である古着はもちろん、そこで座って話すことを前提に置かれたであろう向かい合わせの椅子や、古い雑誌、CD、不思議な置物など、ただいるだけで楽しめそうなものがたくさん並んでいる。これらもすべて誰かから譲り受けた「お下がり」とのこと。

 

「正直、どこに置いたらいいのかわからなくて一旦ここに置いてるものもあるんですけど(笑)」

 

そう言って、颯さんは店の奥の椅子に腰かけた。

 

「だいたい、ここに座って話していることが多いっすね。あとは通りに面して置いているソファ。店の中にリビングが2つあるんですよ(笑)」

 

まさにリビング。ただ「服を買う場所」だけではない、「ただ居ていい場所」という在り方を体現する言葉だった。

シャオ・そなちね

 

営業時間:17:00〜21:00(土日は13:00~20:00)

定休日:月、火
Instagram:@xiao.sonatine_from_jb

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