REVIEW
HOME EP
HOME
MUSIC 2024.01.08 Written By ivy

低温多湿な沖縄産・世界基準のポップミュージック

メランコリックなほどに湿り気を帯びていながら、冷たい金属的な質感を感じる。HOMEの楽曲を一言で表すならそんな感じ。「沖縄出身バンド」という枕詞で頭に浮かぶステレオタイプをいい意味で裏切ってくれる音楽だ。

 

HOMEは、2020年に結成されたsei.(Vo)、o-png(PC) 、shun(Gt)による3人組バンド。2023年は8月2日に1stシングル“Lucy”を、その後も“常時”、“Maybe I should die with you”と立て続けに音源を送り出す、怒涛の活動ペースだった。そして12月13日、初のEP『HOME EP』をリリース。1年の最後を締めくくる、シーンへの名刺代わりとなる1枚だ。

 

収録全5曲のうち3曲が先行シングルで、セルフタイトル。このことからもわかる通り、コンセプトを軸に練り上げるというよりは、ライブを凝縮しバンドとしての姿形を聴く者にイメージさせること、体感させることに重きを置いている。

 

まず特筆したいのはsei.のフロントマンとしての圧倒的な存在感だ。アンニュイで、ローテンションでありながら、ダンサナブルな曲調の中で畳みかけてくるパワーも兼ね備えている。ステージでは丸刈りで強面な風貌と歌声のギャップやパフォーマンスも相まって見るものに強烈なインパクトを残す。改めて音源で聴くと、その存在感は純粋にヴォーカリストとしての才覚によるところが大きいことを再認識する。

そのsei.の伸びがある高い声質が、澄んだギターの音色や80s風の機械的な音と調和し、華やかでありながらどこかノスタルジーな味わいを残している。あえて引き合いに出すとすればFuture IslandsやWild Nothing、Neon Indianなどが浮かぶ。2010年代から現在のインディーミュージックシーンを彩ってきたシンセポップ、チルウェイヴに通じるサウンドだ。

 

疾走感あるオープニングナンバー“Lucy”、ドラムマシンの無機質に刻みつけるリズムと物憂げな歌メロやシュールな世界観が80sポストパンクを思わせる“常時”、打って変わってチルでダウンテンポな“lululu”。いずれも振り幅を持ちつつ、HOMEが鳴らす唯一無二のサウンドを堪能できる。

この1枚をきっかけに大型フェスや対バンイベントに出演する彼らのライブに初見のリスナーも足を運ぶだろう。それだけの説得力がある作品なのは間違いない。曲を知っているかいないかに関係なく、ここに挙げたようなバンドの持つ温度感や世界観はリスナーの感性に突き刺さるはずだからだ。今のHOMEが持つ音を受け止めたうえで、今後どういった活動を展開していくのか、楽しみにしたい。

HOME EP

 

アーティスト:HOME

仕様:デジタル

発売:2023年12月13日

 

収録曲

1. Lucy
2. 常時
3. 愛のうた

4. Maybe I should die with you

5. lululu

 

配信はこちら

HOME

 

2020年結成、沖縄在住のsei.(Vo)、o-png(PC) 、shun(Gt)による3人組。現行のインディーミュージックやブラックミュージックともリンクしたサウンドでありながらどこか歌謡曲を思わせる普遍的なポップさが特徴。DYGLや鋭児との共演も話題となった。

 

Instagram: https://www.instagram.com/home_band_

X(旧Twitter): https://www.x.com/HOME_BAND_

WRITER

RECENT POST

REPORT
地域のライブハウス、フェスはどうやって生き残る?アジア各国での取り組みーTRENDY TAIPEIパ…
REPORT
台北都市型フェス“Jam Jam Asia”はアジア音楽の“今”を見るショーケース―TRENDY T…
REPORT
ANTENNAとTHREEが伝えたい、これが関東インディーミュージックで今一番見せたい4組だ!―Fi…
INTERVIEW
“開かれたローカル”葉山の入り口、ヴィンテージバイヤーが始めたフリーマーケット
INTERVIEW
ロンドン発、驚きと発見に満ちた一杯―Dark Arts Coffee Japan【MAKE OURS…
INTERVIEW
カルチャーを生む対話、きっかけをくれる自転車―Wood Village Cycles【MAKE OU…
REVIEW
GOFISH『GOFISH』 – 独白と連動し、鮮明に躍動する風景
REPORT
Like A Fool Recordsが放つ鋭く、深く突き刺さる、東京インディーズ四つ巴。Kidde…
REVIEW
aieum『sangatsu』―絶えず姿形を変え動き続ける、その音の正体は果たして
INTERVIEW
2024年台湾音楽シーンを揺らす、ローカルフェスとその原動力―『浮現祭 Emerge Fest』主催…
REVIEW
Forbear『8songs』―歪な自己内省の衝突音が、荒々しくもメランコリックに響き渡る
REVIEW
Sugar House『Sugar House』―寒空の下、まっすぐに前を向く音が鳴る
REPORT
パブが育むイーストロンドンのナイトカルチャー、ビール片手にインディーロックで酔う週末を
REVIEW
Maya Bridget『That Girl / White Lies』―無数の音楽体験が持つきらめ…
REPORT
アジアからの未知なる音楽にリスナーは何を求めているのか-BiKN shibuya 2023 クロスレ…
INTERVIEW
高円寺のカフェSUB STOREで触れる、インドネシアの音楽と暮らし
REPORT
研ぎ澄まされた美意識が寄り添うものとは―『Lillies and Remains Japan Tou…
REPORT
刺激中毒なインディーミュージックギークヘ捧ぐ、狂気の一夜『pandagolff 4th album …
REVIEW
J.COLUMBUS & MASS-HOLE『On The Groove, In The …
REPORT
「聴いたことがない曲」に熱狂する、新たな音楽を目撃する場所―『BIRTH vol.9』ライブレポート
INTERVIEW
ちょっと不便な待ち合わせ場所〈Goofy Coffee Club〉から動き出した、東東京のユースカル…
REPORT
突然、平穏な日々に現れた非日常体験としての「オルタナ」 -『Fine, Great 1st EP “…
REPORT
「外向きの自己内省」それは、音楽を通して己を肯定するセラピー-『“Tough Love Therap…
REVIEW
郷愁の歌声が中毒性抜群な、インドネシア産ポストパンク – Bedchamber『Capa…
INTERVIEW
【Playgrounds Vol.2】「買い付けをしない古着屋」〈シャオ・そなちね〉が足を止めた人に…
REVIEW
Lillies And Remains『Superior』- 孤高のバンドが9年の歳月を経て到達した…
REVIEW
SAGOSAID『Tough Love Therapy』- ヒリヒリとじんわりと痛むのは、きっとその…
REVIEW
pandagolff『IT’S NOT FOOD!!』- 言葉も、音も、声も、すべてを噛…
REPORT
国境、ジャンルを超えた、音楽のピュアな熱量が交錯する祝宴 -『Sobs Japan Tour 202…
INTERVIEW
【Playgrounds Vol.1】3代続く老舗スポーツ用品店〈FUJIKURA SPORTS〉が…

LATEST POSTS

REPORT
地域のライブハウス、フェスはどうやって生き残る?アジア各国での取り組みーTRENDY TAIPEIパネルディスカッション

2024年9月9日(日)、台北ミュージックセンターで開催された東・東南アジアのイノベーション×音楽の…

REPORT
台北都市型フェス“Jam Jam Asia”はアジア音楽の“今”を見るショーケース―TRENDY TAIPEI 2024前編

2024年9月8日(土)、9日(日)に都市型音楽イベント『JAM JAM ASIA』が台北ミュージッ…

REVIEW
今度のコンセプトは教祖!?音楽だけに収まりきらないロックンロール・クリエイティビティーゆうやけしはす『ロックンロール教団』

ロックンロールに依存し、ロックンロールに魂を売り、ロックンロールに開眼する。彼の活動を追っていると、…

COLUMN
【2024年9月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…

COLUMN
【2024年9月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「大阪のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シーンを追…