REVIEW
Superior
Lillies And Remains
MUSIC 2023.07.20 Written By ivy

孤高のバンドが9年の歳月を経て到達した深み

今から13年前。眠れずにTVをつけて、今は無きフジテレビの深夜音楽番組『FACTORY』で彼らの演奏を偶然目にしたことがある。全編英語詞、無駄のない引き締まったサウンドとローテンションな低声ヴォーカル。リーマンショック下の画一されたJ-POPしか知らなかった12歳の筆者にとって、脳幹に電気が流れたような衝撃だった。

 

2010年代前半、京都から彗星の如く現れた、Lillies And Remains。日本人離れした硬質でスタイリッシュなポストパンクを鳴らし、日本のインディーミュージックにおいて特異な存在感を放ってきた。そんな彼らが実に9年ぶりとなるアルバム『Superior』をリリースした。

 

彼らが登場したときのセンセーショナルで鋭い輝きは、今でも全く色褪せない。冷徹なKent(Vo / Gt)の歌声と金属的なギターの音色、しなやかに動き回るリズム隊、そして耽美な香り。彼らが影響を受けたJoy DivisionやBauhausといった80年代のゴシック系ポストパンク / ニューウェイヴの系譜にありながら、その文脈を知らない人にも訴えかける強烈な破壊力を持っていた。

 

さて、待望の新譜である本アルバムは、これまでのサウンドとは少しばかり趣向が異なり、打ち込みやノスタルジーなアナログシンセの音が前面に出たニューウェイヴ色が強い。そしてKentのヴォーカルも、いつになく人間臭く、表情豊かな響きを持っている。初期の感情を噛み殺したような、ハードボイルドでパンキッシュなスタイルからは意外に思える。

先行シングルとしてリリースされたきらびやかなシンセポップ、“Neon Lights”から、この世界観はある程度想像することができた。ただアルバムでは、そこから更に奥行きのあるアプローチを仕掛けている。朝霧のように爽やかでありながら物憂げな湿り気を帯びたシューゲイザー調の“Focus On Your Breath”や叙情的なギターが疾走する“Passive”など、今まで彼らがやりそうでやらなかった楽曲も目立つ。

 

こうした新たな試みの中で、Kentが持ち前のクールで野太い歌声はそのままに、儚さや憂い、脆さといったナイーヴな側面を見せてくれていることに特筆したい。決して人目を憚らずに泣き叫ぶような爆発ではない。The SmithのMorrisseyやThe CureのRobert Smithがそうであったように、内側に秘めた憂鬱や不安が隠しきれずに出てしまったような、後ろ向きで繊細な感情表現だ。

 

実はこうしたアプローチへの挑戦は、Lillies And Remainsの初期からKentの構想の中にあったと思われる。というのも、彼らの最初の音源である6曲入りEP『Morarist S.S.』(2008年)の頃から、その片鱗が垣間見えるからだ。冒頭で述べたようなタイトで硬質なポストパンクを鳴らし、攻撃的な楽曲が並んでいたこの作品。そんな中、5曲目に入っている“Alone Again Or”は明らかに毛色が違う。60年代のサイケデリックフォークロックバンドLOVEのカバーであり、原曲のメランコリックな空気を残しつつ、ビターで不穏なサーフロックに仕上げている。ポストパンクやニューウェイヴから影響を受けてきた彼らには、少し意外なチョイスにも思えるこのカバー。攻撃的な曲の切れ味を存分に見せつけた上で、脆さ・儚さをセンチメンタルに表現する曲を当時から手札に忍ばせていたことがわかる。当時の音源を聴く限り、サウンドは金属的なギターが前面に出たパンキッシュなもので、Kentの歌い方も荒々しく冷淡で他の楽曲に近い。ただ、間奏の流麗なアルペジオや哀愁たっぷりのコーラスワーク等のアレンジには、自らのルーツを追究することに傾倒するだけではない姿勢が示されている。今思えば、この時点で本作への種が撒かれていたのかもしれない。

Lillies And Remainsが音源の発表を行っていなかったここ数年の間、KentはTwitterで頻繁に国内外のインディーミュージックの楽曲をシェアしていた。チルウェイヴやベッドルームポップ等のムーブメントも、ダンスミュージックやブラックミュージックとインディーロックが接近する様も、1リスナーとしての彼が見聞きしていたことは想像に難くない。また、初期の活動を共にしたメンバーは既にバンドを離れ、編成も4人組から2人体制へと変化。こうしたバンドに起きた環境の変化やシーンに起きた変化をも創作の糧とすることで、完成した作品がこの『Superior』という訳だ。

 

既に骨肉化された自らの手法を、研ぎ澄まし、核だけを残して新たな表現へと挑む。これまでに積み重ねたものがあるからこそ、一朝一夕にはいかないはずだ。だからこそ、本アルバムは9年の歳月を経て、ようやくたどり着いた表現が余すところなく堪能できる至高の1枚といえる。

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Superior

アーティスト:Lillies And Remains
発売:2023年7月12日
価格:¥3,080(税込)
フォーマット:CD/デジタル

 

収録曲

1. Superior
2. Muted
3. Neon Lights
4. Everyone Goes Away In The End
5. Focus On Your Breath
6. Spinning Away
7. Greatest View
8. Falling
9. Pass Me By
10. Passive
11. New Life

Lillies And Remains

京都出身。2007年に本格的な活動を開始。しばらくは4人編成で活動していたがメンバーチェンジを経てKent(Vo / Gt)とKazuya(Gt)の2人体制に。これまでにフルアルバムとEPをそれぞれ3本リリースしている。そして、2023年7月12日リリースした『Superior』が実に9年ぶりとなるフルアルバムとなった。

 

HP:lilliesandremains.net

Instagram:instagram.com/lillies_official
Twitter : twitter.com/l_and_r

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