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刺激中毒なインディーミュージックギークヘ捧ぐ、狂気の一夜『pandagolff 4th album “IT’S NOT FOOD!!” Release party』

MUSIC 2023.10.30 Written By ivy

2023年10月17日(火)、神田〈Polaris〉にてpandagolffの最新アルバム『IT’S NOT FOOD!!』のリリースパーティーが行われた。自らの音楽を「インダストリアルポストパンク」を標榜し、東京を拠点に活動してきた彼ら。6月7日にリリースされた『IT’S NOT FOOD』は、硬質でパンキッシュなミニマルサウンドと生々しいまでの躍動感あるグルーヴが融合した強烈な仕上がりだった。


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その唯一無二の音楽性は国内に留まらずエッジが効いた音楽を求めるリスナーの耳に届いており、この日のオーディエンスも半数以上が外国人のファンで占められていた。

 

共演に名を連ねたのは、Daisy JaineとKhaki。音楽的なアプローチはそれぞれ大きく異なりながら、既存の音楽の枠組みにハマらず独自路線を行くスタンスが通じ合っている3組だ。

 

果たして、音源で残したインパクトは、生のパフォーマンスではどのような形でリスナーの元に届けられるのか。会場には、開演を待ちながら刺激を求めるリスナーの抑えきれない高揚感が充満していた。

渦巻くサイケデリアと回るミラーボール。Daisy Jaineの危険な香り

色鮮やかなアイスクリームを下から火で熱して、瞬く間にドロドロに融けやがてマグマのようにどす黒い姿になる。その様をスロー再生しているような、甘く不穏な極彩色のロックンロールで異形の夜は幕を開けた。

 

2023年、『FUJI ROCK FESTIVAL』の「ROOKIE A GO-GO」にも出演した、兵庫県出身3人組サイケデリックバンドDaisy Jaine。60年代風の柄のセットアップに身を包み、ビットローファーを履いてセクシーに決め、気だるげに手を振って登場したフロントマンのRio(Vo / Gt)は、音を鳴らす前から風格充分、往年のロックスターのようだ。いざライブが始まると、その深みのある音楽性とスリリングなショーマンシップで、グリッターなヴィジュアルに負けず劣らずの強烈なインパクトを見せつけた。

まず、楽曲の振り幅がかなり広い。冒頭からべったり甘く、ノスタルジーなメロディラインが官能的な“Dessert Meets Forest”や、ドリームポップとも通じる流麗な浮遊感が印象的な“Into The Light”で一気にきらびやかで妖しい異世界へとオーディエンスを連れ去る。かと思えばマッドチェスター風のダンサナブルなレイヴロック“Under The Sun”でフロアを揺らし、早くも場内は心地よい眩暈に包まれた。ハスキーで鼻にかかった、少年っぽさを残すRioの歌声と、肉厚なグルーヴ、きらびやかなアナログシンセが合わさるゴージャスなサウンド。決して奇をてらったスタイルではないのにありきたりにならないのは、年代やジャンルにとらわれず様々な音楽の要素を己のスタイルに昇華していく雑食性によるところが大きい。そうした中でも、どこかドロッとした重たいテクスチャーはDaisy Jaineが鳴らすすべての曲に一貫していて、どんなアレンジにも“後味”は共通していることが印象的だ。

この日のライブでは、なんといってもラスト2曲の流れを特筆したい。70年代ディスコミュージックのようなファンク“Banksia”で華やかに彩ったその後、オーディエンスも温まり切っているところで、壮大なスケールと複雑な曲展開でスペーシーな世界観が爆発する“Mirage”でステージを締めくくる。ドレスアップしたレッドカーペット、ミラーボールのフロアを自らの手でこの世ではないどこかへと塗り替えてしまう。これまでパンドラの箱を叩き壊して秘めていたものを解放したかのような爆発力が強烈なインパクトを残した。

 

60年代サイケデリックロックのリバイバルには決して収まらない、唯一無二の個性が歪に輝くDaisy Jaine。彼らは今日出演したほかの2バンドとも、そして恐らくほかのどんなバンドとも異質な存在であり続ける。この奇妙な違和感を抱えつつも魅了されていく感覚が心地よく感じたとき、既に彼らの虜になっているのかもしれない。

掴めない輪郭と焼き付く存在感、Khakiというバンドの持つ色

見る角度によって色形が変わるように、おぼろげながらも、明確に存在感がある。掴みどころのなさがかえって頭から離れなくなる。東京を拠点に活動する5人組、Khakiを無理やりにでも端的に表現するならそういうバンドだ。

 

バンド名一つとっても、「Khaki(カーキ)」はまさにそういう色だと思う。ただ一言カーキといわれたら、くすんだグリーンのような色を想像するけれど、どちらかというとブラウンに近いカーキもあれば、グレーっぽいカーキもある。どんな色をイメージするかは相当な個人差があれど、ぼんやりとカーキというニュアンスが共有されている。

1曲目はMVが公開されている“The Girl”。もわあっとした靄のような質感を持つ飄々とした歌声と乾いたギターで始まる、彼らの中ではかなりシンプルかつキャッチーな曲だ。同じメロディとリズムを反復しつつ、進行するうち奥に秘めていた感情が次第に増幅されていくような「何かがヘンだけど何とは言えない」むず痒い感覚を覚える。

結論からいえば、ライブを通してこの感覚が続き、最後までその輪郭を掴めないまま終わった。フォークやガレージロック、フリージャズまで、様々な音楽を縦横無尽に鳴らしていくが、意外なほど散漫な印象にはならない。Khakiがどんな音楽をやっているバンドかといわれて、これほど説明に困ることはないが、一度でも彼らのライブを目にした人ならきっとどんなバンドなのかニュアンスは共有できるはず、そんな確信はある。

フォーキーなイントロからピアノやギターがかき乱し、転調を繰り返す“Kajiura”が後半のハイライト。音源で聴いていると誰がどんなことをやってこのカオスが生まれているのか、想像もつかないが、順番に加わっていくジャムセッションのような演奏を目の当たりにして少しだけその姿を伺い知ることができた。

 

ただ、結局のところ生のライブを見てもその全体像は捉えきれない。聴き手に楽曲が持つニュアンスを想像させ、人によって受け取り方や感じ方が違う、同じ人が同じ曲を聴いてもその時々で絶妙に違うものになる。だからこそ聴けば聴くほど深みにはまっていくのだろうし、何度もライブに足を運びたくなるのだろう。

強靭で獰猛な音の怪物、pandagolffの宴は続く

「乾杯!Cheers!」

 

machiko(Vo / Gt)が音頭を取り、乾杯で幕を開けたpandagolffのステージ。リリースパーティーということもあり、いつも以上に楽し気な空気が充満していたことは間違いない。とはいえ、『IT’S NOT FOOD!!』にあった緊張感は全く損なわれることなく、むしろ音源以上に生々しく敏捷で獰猛なグルーヴ感をもって会場を飲み込んでいったあたりはさすがだった。

ミニマルなサウンドの中でシュールな歌詞がこだまする“ハンバーグレモン”、パンキッシュで攻撃的な“ZETTON”と『IT’S NOT FOOD!!』の収録曲を続けて披露し、ライブはスタートした。タイトで金属的なドラムと筋肉質で弾力的なベースラインが生み出す暴力的なグルーヴと、ノイジーなギターに負けないくらいヒステリックな響きを持つヴォーカルが初っ端から暴れまわり、満員のフロアも呼応するように踊り狂う。

 

その後もファンク寄りの強靭なベースラインがうねる“Additional Lemon”、2022年のアルバム『Sweetie sweets medecine』からミニマルなディスコパンク“Dance & あ”といったダンサナブルな曲が披露され、ボルテージが上がっていった。

 

こうした「踊れる」曲だけでなく、ミニマルサウンドでシュールな世界観を味わうスローな曲も含めた緩急にこそ醍醐味がある。必要最低限の編成でありながらオーディエンスを飽きさせない、バンドとしての底力をこれでもかというほどに見せつけてきた。

そして、ライブと音源で曲に対してのテンションが全く異なっているのも特筆したい。まるでDJのように、曲そのものの世界観というよりはその日の空間、その瞬間を楽しんでいる。pandagolffの歌詞は言葉遊びを多用しており、字面通りに読み取ったらニュアンスは伝わらず、解釈も聴き手によって変わるようなシュールな表現が多い。だからこそ、単純な喜怒哀楽を謳ったものと異なり、その日の空間に合わせて曲の表情を自在に変えることができる。

 

音源ですでに聴いている曲にも関わらず、最後まで新鮮な気持ちで演奏に身を任せていられたのは、きっとそんな彼らならではの特性がこの日いかんなく発揮された何よりもの証拠だろう。

刺激が鳴る場所は、東京の片隅に

音楽が好きであればあるほど、衝撃を受けるという体験は少なくなりがちだ。どうしたって知っている音楽が増えるほど、新しい曲を聴いたときでさえ過去の体験と結びつけてしまうからだ。ライブに足しげく通うほど、そのアーティストの曲に対する新鮮さが失われてしまうかもしれないし、リスナーとして成熟するほど、細かいディティールに意識をとられて初期衝動的な体験から次第に遠ざかっていくのかもしれない。

 

この日〈Polaris〉で繰り広げられたこのパーティーは、そういった音楽ファンにとっても、脳に電流が走るような強烈な刺激を与えうるものだった。どのバンドも一筋縄にはいかないし、一方で聴き手を置き去りにするような難解さばかりが目立つわけでもない。

 

「なんだこれは」と聴き手が驚く。いつの間にか釘付けになっていて、しまいには踊っている。耳に脳裏に焼き付いて、帰りの電車でも特定のフレーズやリズムが鳴り続ける。そんな夜になったはずだ。

撮影:林 哲郎

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