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Sugar House
Sugar House
MUSIC 2024.03.11 Written By ivy

寒空の下、まっすぐに前を向く音が鳴る

真冬の朝、布団から這い出したとき、爪先から滲みてくるような寒さに目が覚める。最初はつらいけれど、見上げた空と肌に触れた空気は、やけに澄んでいるように感じられた。

 

そんな感触を覚えながら、彼らのバンド名が記された1stアルバム『Sugar House』を聴いていた。

 

全体的な印象としては、削ぎ落とされたタイトなギターロックサウンドに無機質なアナログシンセが乗るスタイルだ。それでいて、どこか湿り気があるエモーショナルでナイーヴなメロディが歌い上げられ、UKポストパンク、特にNew Orderと通じる要素が見受けられる。

 

オープニングのインストに続く2曲目“25”はパンキッシュに疾走し、瑞々しい躍動感に満ちたキャッチーな一曲。シングルカットされていない新曲で、この一曲がアルバム全体をどのような作品にしていくのか、意思表明だと受け取れた。

 

その後は、シングル曲が中心に並んでいた。ザラついたローファイなサウンドがヒリヒリと鳴り響く“Shadows”や打って変わってグルーヴィーなベースラインがうねる“Move”、ミドルテンポに機械的なドラムが刻まれていく“Just Wanna Live It Up”と続く。多彩なアプローチを仕掛けつつ、自身が受けたインスピレーションを隠すわけでも、ただなぞるだけでもなく、バンドの音へ昇華していく様をアルバム通して見せてくれる。

エモーショナルで少し憂いを帯びたメロディは底抜けに明るいわけでもないが、爽やかで澄んでいる。下でも後ろでもなく前を向いている凛とした佇まい。曲を聴いた後、脳裏に残る後味は、ひんやりとしていて陰がありつつも、夜明け前の暗闇に光が差し込んでくるような力強さだ。

 

ここで、Sugar Houseを唯一無二の存在としてたらしめているのは歌であることも特筆したい。澄んでいる、繊細で中性的な声は日本のバンドからの影響も感じる。ビブラートと抑揚が効いたKobayashi Ren(Vo / Gt)の歌い方は、彼らが影響を受けたを公言するCaptured Tracksら海外のどのバンドにも似つかず、表現者としてあくまで「自身の声」で歌い上げていることが伺える。インディーロックやUS、UKのオルタナティブロックからインスピレーションを受けつつ、それらの型には決してハマらないアティテュードの表出だ。

 

筆者の意見として、2010年代は「個人の時代」だと思う。音楽を聴く上でマスメディアの影響力が著しく低下し始めた時代であり、YouTubeやデータ配信、ストリーミングサービス等で選択された音楽を個人で楽しむことが当たり前になった時代でもある。特に職場や学校でシェアする仲間と出会う可能性が低いインディーロックにおいて、よりこうした「個」の要素が強い。インディーロックという音楽をやるうえで、その作品に大きく影響するのは、それがアーティストにとって何を求めて出会った音楽か、目的にインプットされた音楽であるかということだ。

 

Sugar Houseに関していえば、彼ら3人がそれぞれ音楽とどのような形で触れ、どのような感情をもって向き合ってきたのか。それこそが楽曲、ライブ、アルバムに至るまで、バンドの作品を通して表現される。初のアルバム、『Sugar House』で浮かび上がった、音、歌声、冷たい質感と繊細さ、力強さ、凛と前を向く姿に、その要素が詰まっているといえる。

 

記念すべき1stアルバムにセルフタイトルを冠したことからもわかる通り、バンドの全貌を露わにしたといっていいSugar House。音楽が寄り添うものでも、逃避をするものでもなく、目の前の現実と向き合い、前を向くための音楽として彼らの音楽は鳴っている。3人それぞれがこれまで、自分なりの形で真摯に、時に痛いほど切実に音楽と向き合ってきた時間がこうして彼らの音として存在している。その音楽はこれからどこへ向かっていくのか、澄み渡った空の先が既に彼らには見えているのかもしれない。


配信リンク:bfan.link/sugar-house-1

Sugar House

 

アーティスト:Sugar House

仕様:デジタル

発売:2024年1月17日

 

収録曲

1. Intro +
2. 25
3. I WANT IT
4. The Fog
5. Shadows
6. Move
7. So Bad
8. Just Wanna Live It Up
9. Part of life
10. Ⅱ(Continuation)

Sugar House

 

2019年結成。東京を拠点に活動する3人組インディーロックバンド。メンバーは、Ren Kobayashi(Gt / Vo) 、Yusuke Aoki(Ba)、Ryosuke Makiyama(Dr)。80年代のポストパンクやシューゲイザー、2010年代のUSオルタナティブロックといった新旧のインディーミュージックを咀嚼したサウンドが特徴。

 

Instagram:@sugarhousetheband
X(旧Twitter):@sugarhouse_band

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