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沖縄出身の4人組バンド、aieumが初となるEP『sangatsu』を2024年3月20日にリリースした。ポストロックを軸としながらトリップホップやダブ、シューゲイザーなど様々な音楽の要素を感じさせるジャンルレスな音楽性で、聴く者を圧倒する仕上がりだ。同郷のバンドHOMEのSei(Vo)を迎えた“Pause and Pursue”を筆頭に一筋縄ではいかない展開の楽曲が並んでいる。

MUSIC 2024.04.24 Written By ivy

絶えず姿形を変え動き続ける、その音の正体は果たして

混沌としていて、スリリング。暗闇で背筋に何かが触れたような薄気味悪さ、本能に働きかける不穏さ。

 

そんなキーワードが沖縄出身の4人組インストゥルメンタルバンド、aieumによる1st EP『sangatsu』を聴いて浮かび上がった。それは、未知なるものに対しての好奇心と不安を掻き立てられるような、底が見えない音だ。

 

音楽的な特徴を一言であらわすことが非常に難しい。敢えて言えば、ポストロックを下地にしつつ、トリップホップやダブ、シューゲイザーなどが混在するカテゴライズ不能なサウンド。5曲という絞り込まれた曲数の中でもその複雑に絡み合う濃密で有機的なグルーヴがリスナーを翻弄し、気がつく頃には音の渦へと巻き込まれている。

 

複雑なリズムを刻みながらも繊細な旋律がみるみるうちに表情を変えるインスト曲“amber”で幕を開け、その後も姿形を留めることなく躍動する音像は、異形の生命体、若しくは一種の超常現象といっていい。数秒後にはどんな音が鳴っているのか、皆目見当もつかない展開に気をとられ、あっという間に聴き入ってしまう。

同郷のバンド、HOMEからSei(Vo)をフィーチャリングした2曲目“Pause and Pursue”は“amber”の流れを汲みつつもより荘厳で深遠な印象のスローナンバー。しっとりとしたテクスチャと生々しく繊細な情感、そしてひんやりとした温度感を持つSeiの特徴的な歌声が完全に彼らの音の構成要素として存在していることに驚かされる。

 

そうかと思えば疾走感と寂寥感が交互に入れ替わるメランコリックなポストロック“koike”、沖縄のラップクルーqanagramを迎えたトリップ感あふれるダークなミクスチャー“ucaq”へと繋がっていく。そして、最後を締めくくる“ucaq”のリミックスはよりダブの要素が強まり、トリップ感を増幅させる仕上がりだ。

 

これだけ振り幅の大きい楽曲が5曲並んだら、まるで違うバンドの曲が並ぶような、木に竹を継いだような印象になってしまいそうなものだが、そうはならない。PortisheadやTrickyといった90年代UKのブリストルサウンドを思わせる、得体のしれないダークでアブストラクトな空気が全体を支配しながらも、決して単調にならず、息つく暇もないほどに動的な曲展開で畳みかける。その妖しさは、EPの最後まで輪郭を掴み取らせてくれず、とうとう全貌を顕わにしないまま終えた。

 

初のEPということもあり、まだ公になっている情報が少ないaieum。ひりひりとした後味を噛みしめながら、もう一度最初から再生してしまう。聴き込むほどに底の見えなさだけが伝わってきて、より深く奥底を覗き込みたくなる。その深みを本能のままに身を委ねて体感して欲しい。

 

HOME然り、このaieum然り、沖縄という土壌が生む音楽や同地を拠点に活動するバンドからは、他の地域のどんな音楽をもってしても言い表せない独自性が垣間見える。隣接した大都市がなく、地元を拠点に活動を続けるバンドも多い、極めてローカルな環境でありながら、歴史的にも地理的にも最も“海外に近い国内”であることも間違いない。沖縄からここ数年で登場した新たなアーティストたちがどういった音楽体験を経て出会い、刺激を与え合っているのか非常に興味をそそられている。


配信リンク:friendship.lnk.to/sangatsu

sangatsu

 

アーティスト:aieum

仕様:デジタル

発売:2024年3月20日

 

収録曲

1.amber
2.Pause and Pursue(feat.sei)
3.koike
4.ucaq
5.ucaq(REMIX)

aieum

沖縄を拠点に活動する4人組バンド。ポストロックを軸にヒップホップやダブ、エレクトロニカ等を通過したジャンルレスなサウンドを身上とする。2024年2月28日、同郷のHOMEからSei(Vo)を迎えたシングル“Pause and Pursue”を、同曲を含むEP『sangatsu』を3月20日にリリースした。

 

Instagram:@aieum_info

X(旧Twitter):@aieum_info

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