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模写を通じて味わう現代の歌詞-第6回 お題:睡眠船 “関係のラプソディー”

音楽をより深く楽しむために、歌詞を模写している人がいます(私、ANTENNAメンバー飯澤です)。「歌詞は曲を通して聴くもの」であることが前提ですが、模写を通してどのような体験を味わっているのでしょうか?音楽の聴き方をおもわず振り返りたくなる、勉強とは違った模写の楽しみ方をみなさんにお届けする連載、第6回目です!

MUSIC 2026.05.06 Written By 飯澤絹子

今回模写する曲:睡眠船 “関係のラプソディー”

今回のお題は、睡眠船が2026年6月24日リリースの1stアルバム“ベランダ紀行”からの先行シングルとして2026年3月5日にリリースされた“関係のラプソディー”。

 

睡眠船は、たすく(Vo / Gt)、伊村邑一朗(Ba)、岸本篤志(Dr)からなる、東京を中心に活動する3ピースバンド。掴んでは消えるような捉えどころのない日本語詞、そして絶妙なバランス感覚で躍動する三位一体のアンサンブルが魅力。2022年に都内で結成し、ライブ活動や音源制作など勢力的に行っている。

 

歌詞を見なくても、初めて試聴したときから伝わってくるほどの切なさ。それでいて嫌味がなく、ただその場に存在しているような曲。引き込まれて歌詞の世界を探索すると、身体感覚の描写とメロディーが感情を届けているように感じました。そして、曲から今までの自分にはなかった人間関係の楽しみ方を教えてもらいました。

 

アイキャッチデザイン:おっぺけりょう子

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曲の佇まいにしてやられる

新年度を迎えて早1ヶ月。「出会いと別れの春」なんていう言い方をするが、パートナーと別れるのは春が最適だと聞いたことがある。春はあたたかいから傷心しづらいのだそう。身体が冷えると精神的に不安定になりやすいものではあるので、寒い時期に別れるよりは負担が少なさそうだ。

 

今回は東京を中心に活動しているバンド「睡眠船」の“関係のラプソディー”。曲名を一目見て、論理的な感じもするし、情緒的でもありそうな言葉のバランスに惹かれた。選曲者である、担当編集の峯さんからいただいた「今のところ今年出た曲の中で、一番歌詞にグッときた曲」のコメント、バンド名の「睡眠船」、優しくて不安定でちょっぴり寒いジャケットのビジュアルが強烈に頭に残ったまま、曲を聴き始めた。

カウントからイントロが軽快にはじまり、歌に入ると楽器の音が少なくなる。ハイトーンなこともあって、ボーカルにスポットライトが照らされ、紡ぎ出す詞と音に吸い寄せられる。

 

Bメロでベースとドラムの音が増えると、ほっとしている自分に気がついた。それまでボーカルが孤独に吐露している様子を察して、息を呑んで注目してしまっていたのかもしれない。例の如く、私は歌詞を目視しないと完璧に把握できないのだが、切なくて割り切れないメロディにそそられる。

 

全体的に爽やかなこともあって、淡い青空に、風船を手放してしまった気持ちになる。不意に糸が手からすり抜けてしまって、ゆっくりふわふわ小さくなっていく姿を見上げている感覚だ。

 

分析的な聴き方になりすぎていて野暮だが、最後まで聴いていないのに、ついつい何度も巻き戻して聴き直してしまう。サビの切なさに、どうしても心をくすぐられてしまうのだ。「私の前でそんな表情見せちゃう?」と言わんばかりのメロディ。歌詞が把握できないと言いながら、わかるところだけでもサビを口ずさんでしまう。

 

歌詞を知りたいと前のめりになった私は、机を拭いて、紙とペンを持ってくる。魅惑的すぎて、いつも以上にドキドキする。歌詞の量を確認して、紙の端から、小さめの文字で模写していった。

繰り返している言葉がある曲ほど、サビを比較できるように配列して書きたいので、模写の前に、まず歌詞の量を確認する。今回はA4用紙に、びっしり歌詞が埋め尽くされた。

パートナーとの関係性と過ごした時間を音楽に例える

曲の主人公は、パートナーが自分の元からいなくなってしまったことを、受け入れられていない様子。薬(眠剤か頭痛薬かなにか?)を飲んで、頭が朦朧としている。これでよかったのかなと思う自分もいるし、人と会って話すことで、認識し切れていない事情が少しずつ繋がって納得できるかもしれない。一方で、パートナーと過ごしたときのことを忘れたくない気持ちがあるのも事実で、揺れ動いている。当時二人の関係性は不揃いで、ラプソディーのように、ころころ変わっていっていた。今ではそれを「いいじゃない」と肯定している。思い出を何度も反芻し、夢心地で空想にふけっているけれど、認識がはっきりした今だからこそ、また相手と話したい。以前のような関係性にはなれないことはわかった上で、まだ話したいことがある。

 

曲と歌詞にも登場する「ラプソディー」。音楽用語で、日本語では「狂詩曲」とされる。Queenの“ボヘミアン・ラプソディ”でもお馴染みだが、この曲が、ドラマティックかつ自由な展開で、曲調が何度も変わっていくように「常識にとらわれずに、曲の雰囲気が自由にころころ変わる曲」と言った意味のようだ。

 

“関係のラプソディー”に話を戻すと、サビ部分では二人の関係性を音(ハーモニー)、時間の経過に応じて関係性や雰囲気がころころ変化していくことを曲(ラプソディー)と捉えている。きっと実際のシチュエーションではみずみずしい感情のやりとりがあったんだろう。ただでさえメロディが、聴き手の心をビビッドに掴むほど切なく、二人の日々を思わせるのに、歌詞でも、主人公とパートナーがどのような日々を送ったのかをイメージできてしまう。

 

ラプソディーの意味を知らなかったとしても、柔らかいのに刺激がある語感から、感じ取れるものがありそうだ。

逆説的な技巧で、聴き手の中から感情を生み出す

ひとしきり模写をし終えて感じたことは、こんなに身体感覚が表出された失恋ソングってあるんだということ。

 

パートナーが自分の元から消えてしまったこと。現実に向き合おうとしていること。思い出が消えそうな気がしていること。忘れたくないから思い出してみること。でも忘れそうなこと……。これらについて、ほとんど身体がどのように動いているかだけで描かれている。一聴して「切ない」と感じたが、模写した歌詞をよく読んでみると、直接的に感情を表す言葉は「歌ったら もう 気楽だねって 言いかけて」の1箇所しかないのだ。つまり身体感覚とメロディが、感情を豊かに伝えてくれている。

 

身体心理学では、身の回りの出来事に対して身体が反応することで情動が生まれ、それを脳が認識することでも、人が感情を自覚するとされている。そのため、身体感覚を伝えられたら、感情は想起できるはずだ。

 

また、人は他者の動作を見たとき、自分もその動作をしたかのように反応する脳の神経細胞を持っている。人は言葉を聞いた時にその情景をイメージし、脳内で再現しているため、動作を見ているのと同じ状態になる。音でも然り。表現を読み取って理解するというよりも、聴いたことで自分の内側から湧いてきたものを味わう体験になる。

 

私が文章やバイオリンで目指しているのも、実はその体験である。言葉や音楽を見ていると思っていたら、いつの間にか自分の深いところに落ちている。自分だけでは触れられなかった感覚や感情にたどり着く。整体でいうところの、感情の炙り出しである。自分が忘れていることも、身体は記憶している。身体が溜めている感情を抜くとき、再度その感情を味わうプロセスを経る。

 

“関係のラプソディ”というタイトルなのに、この曲そのものはラプソディではない。穏やかに展開するからこそ、関係のラプソディっぷりが強調される。情緒的な曲なのに、身体表現で感情を表す。その技巧が、私もそういう領域まで表現できる者でありたいという願望を呼び起こし、痺れた。

今年はいろんなところで桜を目にしたように思う。世の中が気温と桜の変化とともに、新年度の模様に変わっていくのを眺めるのが楽しい。写真は出張先の群馬。この日は、自然や神社から気付きを沢山いただいて感無量でした。

これまでの「模写を通じて味わう現代の歌詞」

 

この連載について

「歌詞の模写をするのが趣味です」と人に伝えると、だいたい「歌詞?」と聞き返されます。好きな曲を自分の身体に染み込ませたいと思い余って始めた模写ですが、多くは技術を体得したり、観察力を育成するなど学習や練習のためにする行為だと知って驚きました。まずは曲を聴いて音を楽しみ、歌詞を読んで味わったら、再び曲を流しながら歌詞を追って歌ったりする。そこからさらに私は歌詞の意味をあれこれ想像しながら模写をして、曲に乗った感情を追いかけていくのが好きなんです。

 

そうすることで初めてその音楽の作者の感性が垣間見え、深いところで繋がれた気になれたり、自分の身体に取り込まれて、肥やしになっているように感じます。

 

他者がいろんなことを感じながら生きている様子に希望を感じる私にとって、音楽からどこまで何を感じとることができるのだろう?そもそもこの曲を表現した人は何を思って紡ぎ出しているの?この連載は、「何の役にも立たない趣味」と自嘲しながら模写を続けてきた私自身に、何らかの役割や意味合いを見出してみようとする挑戦の記録でもあります。

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