
インドネシア、バンドゥンを拠点に活動するインディーロックバンド、BeltigsがデビューEP『Preserved Feelings』を2024年12月13日にリリースした。UK / USのインディーロックをバランスよく咀嚼しつつ、内省的で包み込むような柔らかさと温かみを持つメロディーセンスが独創的で秀逸だ。情感豊かで人間臭いヴォーカルとミステリアスな響きを持つコーラスの対比が一層その世界観に奥行きを持たせている。
詩的なリリックと繊細なメロディーが光るインドネシア発インディーロック
穏やかで繊細なコーラスワークと温かみのあるメロディが強く印象に残りながら、メランコリック。聴き終わった後も耳の中に残響が鳴っているような、余韻がある。2024年12月13日にリリースされたインドネシア、バンドゥンを拠点に活動するインディーロックバンド、BeltigsのデビューEP『Preserved Feelings』。その1曲目、“Akigawa”はそんな彼らの魅力が詰まった秀逸なオープニングトラックだ。
重厚なギターのアンサンブルとフィードバックがかかったノイジーでローファイなサウンドはシューゲイザー寄りだが、それにしてはテクスチャーが柔らかく包み込むような印象を受ける。誤解を恐れずにいえば、「マイルドさ」とも言い換えられるだろう。リスナーがどんな精神状態で彼らの音楽を聴いたとしても受け止めてくれるような、穏やかさと力強さがある。
情景描写を多用しながら、直接的な感情表現を用いずに心の揺らぎを丁寧に描き出す英語詞を通して、その世界観が色鮮やかにリスナーの脳裏で描き出されていく。抽象的でありながら決してポーカーフェイスではない。奥ゆかしくも表情豊かな歌だ。
“そびえ⽴つ⽊の下の⼩道 川のほとりに見るせせらぎ 濡れた地⾯が美しい坂道 迷いは消え去っていった”
“広がる空の下 踏みしめるたび地面に溶けていく 虹を見上げたら それはあまりに鮮やかだった”
優しくもどこか人間臭い歌い口と、女性の声とも子どもの声ともつかない幻想的でアノニマスなコーラスが呼応し、曲名にある通り清澄な川の水面を連想させる。
他の収録曲を聴き進めるうちに、実はその音楽的バックグラウンドはかなり広いことが伺い知れた。軽快なサーフポップに乗せてドリーミーでノスタルジックなメロディが胸を揺さぶる“Miles Apart”や打って変わって寒々しく物悲しいウェットさが初期The Cureを思わせる“Pelican cove”など、80年代以降のUK / USインディーロックをバランスよく咀嚼したレパートリーはいずれも安定したクオリティに仕上がっている。そうした中でも決して散漫にならず、どこかで見たようなありきたりさも感じさせない。それは、どんな味付けの曲であろうとBeltigsが持つ“色”が揺るがないものであることの現われと言えるだろう。
東南アジアで最も人口が多い国、インドネシアのインディーミュージックシーンが持つポテンシャルと質の高さに期待を持たせてくれる作品だ。
ここ数年、アジアのインディーミュージックが日本でもスポットライトを浴びるようになって久しい。毎年12月に東京渋谷で開催されている『BiKN Shibuya』や1月沖縄で開催される『Music Lane Festival』など日本でもアジア諸国のアーティストを集めたショーケース型のイベントが行われるようになってきた。そうした中でも、インドネシアのアーティストがラインナップされることは非常に少なく、まだまだインドネシアの音楽シーンに対する日本のリスナーの認知度や関心はそれほど高くない。
バンドゥン出身でインドネシアのインディーロックシーンを代表するバンドの一つ、Pure Saturday。
以前ANTENNAでは、インドネシア料理と各国のインディーミュージックレコードを扱うカフェ〈SUB STORE〉を取り上げている。同国の首都ジャカルタ出身で、ミュージシャンとして活動していたこともある店主のインタビューから90年代~00年代初頭頃のインドネシア音楽シーンを掘り下げる内容だ。その中でもBeltingsが拠点を置くバンドゥンは「インドネシアの音楽やカルチャーの発信地」として語られていた。ジャワ島西部の山間部に位置し、254万人が暮らすインドネシア第3の都市。アーティストやインディーレーベル、ローカルブランドが数多く根付き、商業の中心であるジャカルタとは一線を画した独自のカルチャーを形成しているという。まだ日本のリスナーが知らないアーティストがバンドゥンのローカルシーンで数多く活動しているはずだ。今後、何らかの形でBeltigsのステージを日本で目にする機会があることを楽しみにしたい。
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Preserved Feelings
アーティスト:Beltigs
発売:2024年12月13日
フォーマット:デジタル
収録曲
1. Akigawa
2. Breaking Chains Of Shadows
3. Pelican Cove
4. Falling in Spring
5. Miles Apart
Beltigs
インドネシア、バンドゥン出身のインディーロックバンド。共通のたまり場で集まっていたDomon (Vo / Gt)、Ferdy Destrian (Gt)、Brez (Ba)で結成。様々な時代のポップミュージックを咀嚼しつつもマイナーコードを多用したメランコリックで美麗なメロディーラインに乗せた楽曲群は唯一無二の存在感を放つ。
Instagram:@beltigs
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後ろ向きな音楽、胡散臭いメガネ、あまり役に立たない文章を愛でています。旅の目的地は、何もないけれど何かが起こりそうな場所。
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