INTERVIEW

変わりゆくアメ村で何ができる? Pangea・吉條壽記と愛はズボーン・儀間建太が『EXPO』で照らし出す街の文化

ひとつのライブハウスが15周年に仕掛ける、大規模ライブサーキット。そう聞くと華やかな祝祭を思い浮かべる人がほとんどだろう。しかし『Pangea EXPO』は、アメ村という街で、世代を超えて受け継がれてきたカルチャーの先に立ち現れたものだった。変わりゆくホームグラウンドで、仕掛け人たちはなぜ「万博」を掲げたのか。

MUSIC 2026.06.08 Written By 山瀬龍一

来る2026年6月13日(土)に『Pangea EXPO』が開幕する。大阪・アメリカ村の14会場で、87組のミュージシャンが出演。フェスやサーキットイベントが群雄割拠する現在においても、ひとつのライブハウス、ひとりの掛け声でこの数の表現者が集うというのは、稀有なことだろう。

 

その発起人こそ、15周年を迎える〈Live House Pangea〉の代表・吉條壽記である。その隣には、バンド・愛はズボーンのボーカル・ギターであり、Pangea系列のクラフトビールショップ〈iiie〉をプロデュースする儀間建太がいる。吉條が『Pangea EXPO』を仕掛け、それに並走するように儀間はアートプロジェクトやゴミ拾い活動を展開する。音楽シーンの外縁にいる人々まで巻き込んだ営みの集合体は、いちライブハウスの周年イベントを超え、街を挙げた祭りの様相を呈している。

儀間建太、吉條壽記

開催を目前に控え、企画の経緯や意図について聞いていると、いちライブハウスの単なる周年イベントではなく、人やハコのつながりが織りなしてきた、連綿たる歴史のマイルストーンのように見えてきた。

 

またレーベル《TOUGH&GUY RECORDS》のオーナーと所属アーティストという深い関係でもありながら、ときに対照的な言葉を放つふたり。それぞれの自分史の一部を紐解きつつ、リアルな問題意識を深掘りするインタビューは、アメ村という街が持つ磁場について再考するひとときとなった。

 

撮影:佐伯慎亮

偶然が重なり、アメ村に引き寄せられたふたり

──

〈Pangea〉のオープンは2011年ですよね。そもそも始めたきっかけと、アメ村を選んだ理由を教えてください。

吉條

「RAZORS EDGE」としてバンド活動をしているのですが、全国のライブハウスを回るうちに「自分がやるなら、こういう風にしたい」という想像が溜まっていって、場所を持つことを具体的に考えるようになりました。最初は梅田で場所を探してたんです。でも、許可を出してくれるビルがなかなか見つからず。ミナミまでエリアを広げたときに今の場所が見つかって、立地や広さがすごく良かった。正直、最初アメ村は怖いと思っていたんですけど、機能優先で選んだという感じです。ちょうど将来について考えていた時期でした。

──

怖い印象もあったアメ村で15年も続いたのは、何が大きかったのでしょう?

吉條

当時からアメ村には、ライブハウス同士が競合というより、協力し合う雰囲気があったのが大きいですね。サーキットイベントにも慣れてるし。新参者やったけど、先輩のライブハウスの人たちがいろいろ教えてくれたり、すごく入りやすかった。結果的にアメ村に店を出せてよかったなと思います。

──

それはアメ村特有のもの?

吉條

全国的に見ても、大阪はそういうノリがあると思いますね。特にアメ村は協力し合う空気が強いかな。

──

儀間さんがアメ村に関わり始めたのは、いつごろですか?

儀間

愛はズボーンの活動が始まったのが2011年、19歳のとき。当時の勤め先を辞めて、アメ村でバイトを始めたんです。

吉條

ちょうど〈Pangea〉がオープンした年やった。

儀間

はい。「どうせなら、常に何かが起きてるところにおった方がおもろいやろな」と思って。立体駐車場で働き始めたんですけど、水商売の人や飲み屋の人、地元では見かけないような変な格好をしてる人も身近にいて、あるときは「ボアダムスが行くから駐車場開けといて!」って言われたり。なんじゃこの街、って毎日思っていましたね。

──

音楽活動の拠点も働く場所もアメ村ですが、そこまでこの街にのめり込む魅力はどこにありましたか?

儀間

そのあと〈アメ村社員食堂〉というお店で働かせてもらったんですけど、そこでの経験が大きいです。先輩たちが弟みたいに可愛がってくれたんです。二十歳そこそこの若造の話を、一人のアーティストとして同じ目線で聞いてくれた。「年齢とかファッションとか関係ない、おもろいかどうかや」と。それでこの街を本当に好きになりました。

目の前にバトンが回ってきた

──

近いタイミングでアメ村にやってきたおふたりですが、どのようにして出会ったのですか?

吉條

〈Pangea〉の1周年イベントです。うちのスタッフが「最近このバンドが好きなんです」って、愛はズボーンのCDを持って来てくれて。聴いたら良かったのでブッキングしたという流れ。曲名が変やったし、ライブを観たらやっぱり変で(笑)。曲が終わりそうで終わらへん感じとかが、めちゃくちゃ面白かったんです。

儀間

ステージ上ではふざけてるように見えるけど、僕たちは至って真面目。このスタイルはその頃から今まで変わってないですね。だんだん〈Pangea〉に出させてもらうことが増えて、吉條さんにCDを一緒に出そうとお誘いを受けたんです。僕はバンドを始めたばかりで、CDを作るのがどれくらいすごいことなのかよくわかってなかったけど、吉條さんのレーベル(TOUGH&GUY RECORDS)に入って、関係が深まっていきました。

──

出会ってすぐに距離が縮まったんですね。儀間さんがプロデュースしている〈iiie〉も吉條さんが運営されているお店です。関わるようになった経緯は?

儀間

いま〈iiie〉をやっている場所には、もともと〈digmeout ART & DINER〉がありました。アートを展示してる空間で食事が楽しめるお店だったんですけど、そこがなくなって「居場所がなくなった」というアーティストや街の人がたくさんいたんです。かたや、僕は仲間と運営してた〈ORANGE PARK〉というシェアアトリエをたたもうと思っていた時期でした。そんなタイミングで、吉條さんから電話がかかってきて……。

吉條

ディグミーの跡地でやってた店が閉店したらしいぞ、って。内見に誘いました。

儀間

中に入ると、記憶の中のディグミーがそのまま残っていて、いろいろ思い出してドキドキしましたね。吉條さんは、内見に行った足でそのまま不動産屋さんに行って、ハンコ押して即決していました。そのスピード感がホンマにクレイジーやと思ったし、そのとき「あ、俺この船に乗んねや」と直感しました。これは自分の目の前に回ってきたバトンなんやって。

──

バトン?

儀間

その前から、〈digmeout〉のマネージャーだった古谷高治さんにもお世話になってたんです。フルさんは若いころからアメ村で遊んでて、昔はみんなの弟分。今では「カルチャー番長」という異名を持つぐらい、街のハブ的な役割を担ってくれていて。僕もアートや音楽など、ジャンルを問わずたくさんのことを教えてもらいました。みんな何か相談があればフルさんのところに駆け込む、落語でいうところの「甚兵衛はん」(※)さんみたいな存在です。そんなフルさんが仕切ってた場所が閉まり、吉條さんを通じて、目の前にそのバトンが回って来た。素直に運命的なものも感じましたし、「しっかり受け取って、次の世代につなぐぞ」という使命感も感じました。音楽活動をしながら、この街の人間としてアメ村を耕していこうと決めたのは、その時です。

※じんべはん。落語のあらゆる噺に出てくる登場人物。人が良く、物知りなキャラクターとして描かれる。

──

吉條さんは、初めから新しいお店を任せようと思って、儀間さんを誘ったのですか?

吉條

そうですね。ずっと自分が現場を見るわけにもいかないので、任せられる人は誰か考えていました。儀間ちゃんはあの場所と縁があったし、僕がそこで店を出すことにも乗り気だった。付き合いも長くなって、信頼できると思ったので、プロデューサーに任命しました。

──

儀間さんも驚いたという決断の早さは、ご自身としては何から来ていると思いますか?

吉條

まずは「面白そう」という感覚がベースですね。あと、自分がそこで何かすることで喜ばれるかどうか。その二つが揃えば、できるだけ早く踏み出した方がいいと思っています。経営するライブハウスや飲食店を増やして行った※のは、そういう出会いがアメ村で重なったからですね。

※吉條はPangea、iiieに加えて、新世界もつ鍋屋 西心斎橋店(2014年オープン)や、Live House ANIMA(2019年オープン)のオーナーでもある。

タイムテーブル見たら、これは自分の集大成やなと

──

アメ村では多数のサーキットイベントが開催されていますが、『Pangea EXPO』は吉條さんの呼び掛けに応える形で出演者が集まった点が特別だと感じます。どのような意図で企画されたのでしょうか?

吉條

結構前から構想はあったのですが、「実際にやるのは、絶対しんどいやろな」と思ってて。大規模なサーキットイベントって、普通は複数のブッカーが分担して組んでいくものですよね。でも『Pangea EXPO』は、僕が普段から付き合いのある人だけで組み立てたいと思ってた。だから、どれくらいの組数をブッキングできるのかとか、成功するかどうかとか、漠然としていました。でも、裁判のことを考えたり、アメ村が変わっていくのを見ていると、「やっときゃよかった」って後悔しそうやなと。

──

裁判って……?

儀間

〈Pangea〉はいま、ビルオーナーから立ち退きを求められていて係争中で。アメ村では、家賃の高騰やビルの建て替えが相次いでいるので、カルチャーに関わる場所や個人のお店がどんどんなくなっているんです。

──

その危機感が「今やるべき」と駆り立てたんですね。出演者は87組と大所帯ですが、ブッキングの基準はあったのでしょうか?

吉條

一番は、挨拶ができる間柄ということ。自分を中心に置いて、つながっている人たちを集めると、自然に〈Pangea〉っぽくなる。タイムテーブルを作っていくと、すごくうまく収まった感覚があって、それが正解だったと思いました。EXPO(万博)っぽくいうなら、各会場がシーンごとのパビリオンみたいになってて。〈SUNHALL〉はパンク、〈BIGCAT〉は総合エンターテインメント、という感じ。

儀間

「パンゲア大陸」からインスピレーションを受けて〈Live House Pangea〉が生まれた、という伏線がここで回収されてる感じがしますよね。散り散りになった大陸、つまりジャンル的なくくりも、実は根っこではつながっている。

吉條

最終版のタイムテーブルを見てると、「なんかこれ、自分の集大成やな」と思ったんよ。15年間、自分の色を強く出してきたものを、一旦出し切る形になってるなって。『Pangea EXPO』が終わったら、僕は自然と次のフェーズに移っていきそうな気がしています。

──

『Pangea EXPO』には音楽以外の要素も編み込まれていますよね。このうち、アートプロジェクトに取り組む理由は何ですか?

吉條

非日常のお祭りムードを、ビジュアルの仕掛けでアメ村に落とし込みたいと思ったんです。来場者のリストバンドや服、街角の装飾を見て、偶然歩いていた人にも「今日は何かイベントをやっているんだな」と感じてほしい。『Pangea ART EXPO』と銘打って、10人のアーティストに参加してもらっています。

儀間

一番大きな制作物は、2m四方のバックフラッグ。会場ごとに異なるデザインのフラッグを、ステージに掲げます。参加してくれたアーティストのみなさんには「パンゲア」をテーマに作品を描いてもらいました。その中で描くモチーフについては、各アーティストにお任せしています。活動してるシーンが違ったとしても、EXPOで再び集結する。それぞれのシーンや文化が原始的なところでつながっていると、分かち合えるイベントになったらいいなと思っています。のぼりとか、屋外の仕掛けも作りたいですね。

吉條

そうやね。『ART EXPO』は去年、大阪・関西万博に行ったときに感じた高揚感から思いついた企画でもある。アートやデザインの遊び心が、会場のあちこちに散りばめられてて、歩いてるだけでも楽しかった。だからこそ、万博の会場装飾などで活躍された(クリエイティブディレクターの)引地耕太さんにオファーしたんです。

儀間

僕は、万博がきっかけでアメ村のプレーヤー代表として発言する機会が増えたので、万博で得たものを街に結び付けたいと思っていました。引地さんには最初はデザインをお願いするつもりだったけど、店の事情やアメ村のことを話しているうちに「ふたりがやろうとしているのは、いちイベントじゃなくて、”街の文化をどう残していくか”というテーマを持ったプロジェクトじゃないですか?」と逆に提案されて。最終的に引地さんをプロデューサーとして迎え、アート全体を統括してもらうことになりました。

──

当日は儀間さんが取り組んできたゴミ拾いパレード『AMEMURA Re:SAIK∞』(アメ村リサイコー)とも連動されますよね。

AMEMURA Re:SAIK∞ 提供
AMEMURA Re:SAIK∞ 提供
儀間

はい。アメ村の店主さんや有志を募って、月2回のペースでやってるゴミ拾いで、「ゴミパ」と呼んでいます。街の美化が目的ではなくて、練り歩きながらお店を紹介したり抜け道を教えたりする、ツアーガイドみたいな感じです(笑)。僕自身、ゴミ拾いしながら街の変化に気づけるし、知らないお店やスポットも発見できてる。でも、ホテルやチェーン店が増えてきてるのも実感していて、無味乾燥な街になっていくのは嫌だなぁと思っています。『Pangea EXPO』当日は15時からゴミパを行うので、お祭りらしくたくさんの人に参加してもらいたいと思っています。

──

裁判の件は、このイベントとどう関わっていますか?『Pangea EXPO』では、アメ村の現状について語り合うトークセッション(※)も予定されていますよね。

儀間

はい。トークには、引地さんや弁護士の亀石倫子さんにも参加してもらう予定です。亀石さんは、梅田の老舗クラブ〈NOON〉が風営法で摘発された事件で、弁護団の一員として無罪判決を導いた人です。

吉條

裁判は実際かなり大変なんですけど、「立ち退きを求める加害者と、求められている被害者」みたいな対立構造にはしたくない。仮に今後立ち退きが成立しても、それは時代の流れやと考えています。ただ、ひとつの事例として当事者が発信することには、意義があるかなと。もし〈Pangea〉と同じような状況に立たされて、一人で抱え込んでいる人がいたら勇気を与えたい。「こうやって戦う選択肢もある」と、少しでも参考になればいいですね。来場してくれるお客さんにも知ってもらえたらと思っています。

※16:20〜16:40に〈心斎橋BIGSTEP〉大階段で開催予定。

「アメ村のため」って言うと嘘臭い

──

アメ村という街に対して今、どのような思いを抱いていますか?

吉條

もちろんここで商売してるので感謝していますし、より良くなってほしい思いはあるんですけど、自分が「アメ村のために」とか言うと、嘘臭いなって思っちゃうんですよね。ここでやることになったのも、たまたまやし。一生ここに根を張る覚悟まではない。だからこそ儀間ちゃんみたいに「僕がこの世代の、この街の代表です」と胸張って言える人を応援したい。

──

その言葉を、儀間さんはどう聞きますか?

儀間

吉條さんらしいし、本心やと思います。いろんなバンドマンに与えているものがたくさんあるのに、「次の世代に種を植えてる」とかは全く思っていない。自分が本当におもろいと思うものをやるために、周りのおもろい人を巻き込む。それをずっと、15年間続けてきたという事実こそが、この人の誠実さを裏付けてると思ってます。

──

『Pangea EXPO』に来た人には、何を持ち帰ってほしいですか。

儀間

「自分にもこういうやり方ができるんや」って、一人でも思って帰ってほしい。絵を描いて街のどこかに出したいとか、バンドをやってステージに立ちたいとか。おもろそうやからやってみる、っていうチャレンジ精神に火をつけたい。「おもろいかどうか」で先輩たちにフックアップしてもらった分、そういう火種を見逃したくはないです。

吉條

例えば一組のバンドを目的に来た人が、「ライブハウスってこんなにあるんや」とか、「アメ村ってこういう状況に置かれてるんや」とか、何か新しいことに触れるきっかけになればいいかな。僕らが楽しいと思う音楽やアートに触れて、ポジティブな満足感を持って帰ってもらえたら。僕はあくまでライブハウスの人間やから。

Pangea EXPO 2026

日時

2026年6月13日(土)
open 11:00 / start 12:00

会場

大阪・アメリカ村14会場(BIGCAT、Pangea、SUNHALLほか)

出演

愛はズボーン / 岡崎体育 / クリトリック・リス / GOOD4NOTHING / 四星球 / dustbox / HAWAIIAN6 / LOSTAGE / モーモールルギャバン ほか全87組

料金

一般 ¥6,500 / 学割 ¥4,500 / 小学生以下入場無料(但し保護者同伴に限る)
※別途1ドリンク ¥700

チケット

チケットぴあ
e+

詳細

https://livepangea.com/live/pangea-expo-2026

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