
性と愛の初期衝動『性純』、加藤町子はどう生きる?
シンガーソングライターの加藤町子が1stアルバム『性純』を2026年5月27日にCDのみでリリースした。DJぷりぷりのレーベル《浅草橋天才算数塾》から、柴田聡子の1stアルバム『しばたさとこ島』(2012年)以来、14年ぶりにリリースする音楽作品だ。その壮絶な歌の世界の背景と、それを生み出す加藤のパーソナルについて、話を聴いた。
2022年にANTENNAでインタビューを掲載した“音楽のアーキビスト”金野篤から、電話がかかってきて来たのは2月のこと。「最近出会った加藤町子って人のすごいアルバムが出来たから、ちょっと聴いてほしい」という旨と、メールで15曲の音源ファイルが送られてきた。不穏なカシオトーンの音色と「本番いきまーす、すみません」と謝罪から始まる。生音の成分も多いシャリシャリと心無く歪むエレキギターと、メロディともならない歌(時折叫び)、歌詞ともならない悲痛な性にまつわる感情放射、そこに寄り添うことはないが、確かに居合わせている獰猛なベースとドラム……ただ圧倒されている内に、いつの間にか記憶をなくしている内にアルバムは終わっていた。そして金野に電話を折り返して伝えた、「確かにやばいっすね……」と。
送られてきた作品情報に書かれていた「デスフォーク」という言葉に思わず膝を打ってしまったが、こんな混沌とした1stアルバム『性純』を生み出した加藤町子とは一体どんな人物なのだろう。本作を制作したレーベル《浅草橋天才算数塾》のオーナーDJぷりぷり(浅草橋洸彦)と共に、音楽の出会いから話を聴いた。
写真:イマムラタイチ
音楽の入口はニューウェイヴ、ゴシックロック
2~3歳の頃に、家の近くのビデオ屋の店員だったお兄さんと仲良くなって、BauhausやKlaus Nomi、The Cure、The Jesus and Mary Chainとかを教えてくれたんです。その人には「将来バンドのボーカルとかやってそう」とも言われて、The Cranberriesも教えてもらったんですが、ドロレス・オリオーダンが女性じゃないですか。あんな風に歌ってみたいなってその時から思っていましたね。
1990年生まれの加藤だが、原体験として出てくるアーティストは80~90年代のニューウェイヴ、ポスト・パンク、ゴシック・ロックのバンドが多く、あまりに早熟だ。高校進学して以降は本格的に楽器に触れていく。
高校1年の頃に椎名林檎さんとか銀杏BOYZみたいな音楽をしたいと思ったんです。峯田(和伸)さんって、自分のダメな部分やスケベなこともよく言うじゃないですか。インタビューを読んでいて「私って変じゃないんだ。こういうことを私もやりたいかも」って思えたのが嬉しくて、本格的にギターを弾き始めました。
バンドというかユニットを始めたのは大学に入ってから。アベノミクスって名前で男の子がギターを弾いて、私が曲を作って歌う。ドラムとベースも入って4人編成になった時期もあって、その時はゆめであいましょうの宮嶋隆輔さんがギター。社会風刺とかを歌いながら、Holeみたいな感じを目指していました。
ここでもコートニー・ラブが率いた、NirvanaやThe Smashing Pumpkinsと並ぶグランジ・バンドのHoleの名前が挙がるところに独自の嗜好形成がうかがえる。その後はソロでギター弾き語りのスタイルに転換。中野、高円寺、阿佐ヶ谷を中心にライブ活動を行う。その中で出会った大森靖子は加藤にとって憧れの人物だと言う。
大森靖子ちゃんは、高円寺の無力無善寺に出ていた時に仲良くなりました。ある時、私が毎日頑張ってるご褒美に「峯田さんとラーメン食べに行かない?」って誘ってくれて。その時に峯田さんから「社会風刺もいいけど、ちゃんと自分の気持ちを曲にした方がいいよ」って言われたんです。
むき出しの性の歌と、それでも息づくフェミニズムとケアの精神
加藤の楽曲には生々しいなんて言葉には到底収まらない、油断すると卒倒してしまいそうになるほどの性にまつわる愛情・衝動・絶望・トラウマが刻み込まれている。“親愛なるAに告ぐ”は冒頭の音楽の原体験となった男性から幼少期に受けたいたずらが、“お兄ちゃん、やめて”は実の兄から受けた暴行が、また前の彼氏への愛情と恨みが描かれた歌も多い。
ポップでちゃんと音楽の体を成した曲が出来ると嬉しいです。“寝る前に一服”とか“お兄ちゃんやめて”みたいな、ただコードをかき鳴らして、ガーって叫んでいる曲が今回多いんですけど、演奏していても聴いていても楽しくない。だから、あんまりもう書きたくなくて。“ラブドールのあの子”はいいと思いますが、もうちょっと上手くやれるようになりたいし、“水子供養”とか“ダナエの絵画”みたいな曲を増やしたい。
自分の作りたい音楽の理想像を聴くと、椎名林檎“本能”、浅川マキ“あなたなしで”、戸川純が書いたヤプーズ“ヒステリア”を挙げてくれた。確かにスタイルとしてはこれらや前述の銀杏BOYZや大森靖子、そして三上寛、友川カズキ、後藤まりこなどの系譜に位置づけること自体は簡単だ。しかし加藤の身に起きたあまりに残酷で暴力的な出来事の数々は、音楽のみならず、人格や生き方そのものに大きく影を落としている。
両親からも思想的影響は受けながらも、衝突は絶えなかったという。“ロリータコンプレックス”には「母親から教わったのは あざとさとフェミニズム それと大嫌いな欲望の街高円寺」、“お兄ちゃん、やめて”には「母親にバレた時 本当に救いが無くなった」という一節も登場する。
父は昔、成田闘争に参加していたような人で、母もフェミニスト系のバンドでパーカッションをやっていました。だから母のフェミニズムの考えにはかなり影響を受けていて、大学でもジェンダー・スタディーズ・プログラムを履修しました。
母にはかなり躾を厳しくされていたんですけど、存在としては妹みたい。ずっと躁鬱がひどかったので看病したり、ヤングケアラーでした。今は薬がちゃんと効いて、穏やかになってきたんですけど、昔のことはあんまり覚えてない。私にしてきたひどいことも忘れていますが、のびのびと生きてくれていいなと思います。
そんな中でも今まで音楽を続けてこれた理由を尋ねると「幼稚園のころから両親や兄のことで辛い思いをした時は、でたらめな歌を歌って、なんとか自分を鼓舞してました。だから歌うのは呼吸するのと一緒」と言う。
加藤の口から出てくる話は壮絶なエピソードも多いが、起きた出来事を恨みはすれど、その人自身を憎むような言葉は一切出てこない。歌では生と死、怒りと悲しみ、愛情と憎悪、ピュアと不純が同居しているのと同じように、自身の助けを求めながらも常に他者に対するケアの精神が加藤には息づいている。
ひどいことをされたままだと、自分の価値がだんだん小さくなって行く気がして。私に攻撃した人やひどいことを言う人もいたけど、パニック障害の発作を起こしているような状態なので、その人のことだって、誰も傷つけず穏やかに生きていけるように、サポートできるならしたい。兄みたいな無責任な生き方をしたくないんです。今、精神障害を持つ方の共同生活を援助する施設でバイトをしていて。服薬指導とかご飯作ったり、みなさんのお話を聞いたり、日々の様子を記録したりしていて。
だって……病気って辛いじゃないですか。私も精神の病をいくつも抱えています。その辛さを知っている人同士はせめて支え合って、少しでも良い方に行けばいいねって本気で思う。将来的には、デアデビみたいにちょっとしんどい思いをしたり、病気になっちゃった人たちも気軽に憩える場所とか作ってみたい。
まごうことなき初期衝動、ファーストアルバム『性純』
デアデビとは高円寺で不定期にオープンしている洋服屋。バンド「我々」も率いているコマツが店主の、ゆるく溜まり場となっているカルチャースポットである。このコマツとの出会いが本作『性純』の制作のきっかけとなる。
コマツさんには本当にお世話になっていて、「君の曲を聞くと頭の中をぐるぐる駆け巡るから、ちゃんとCDを作った方がいいんじゃないか」ってずっと言ってくれていました。去年コマツさんに誘われてライブをしたんですけど、そこでDJぷりぷりさんや金野篤さんとも知り合います。
そのライブとは2025年10月23日に〈日ノ出町 試聴室 その3〉で行われた『復活!コマツの部屋〜YOKOHAMA編〜』。コマツが高円寺の名レコード屋〈円盤〉(閉店時は〈黒猫〉。2024年に営業終了)で長らく開催していたイベントの復活編だ。ゲストは冒頭にも登場した《MY BEST!》や《SUPER FUJI DISCS》などのレーベル活動を行っている金野篤。そこのオープニングアクトとして加藤がライブを行った。
このイベントに居合わせていたのがDJぷりぷり。現在は浅草橋でカルチャースペース〈天才百貨点〉を運営しながら、様々なクリエイターやイベントをサポートしてきた人物だ。加藤の歌に触発されたぷりぷりは、自身のレーベル《浅草橋天才算数塾》でのCD制作に名乗りを挙げた。自身が手掛ける音楽作品は柴田聡子の1stアルバム『しばたさとこ島』(2012年)以来、14年ぶりとのことだ。
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柴田さんの時も周りに熱烈に応援している人がいて「これは世に出さないと」って思わせる何かが渦巻いていたんです。加藤さんもコマツさんが手厚くサポートしていて、実際〈日の出町 試聴室〉でのライブで放っていた空気、会場との化学反応を体感した時、久しぶりに同じ感情が沸いてきた。彼女が歌っているこのむき出しの言葉は、今まで触れたことがないし、絶対響く人がいるはずだって思いました。
参加メンバーは、バンド・カブトムシを始め多数の映画・芸術音楽作品を手掛けている作曲家の藤井登生(Ba)、曽我部恵一BANDや空気公団、近年は沢田研二の活動をサポートしているオータコージ(Dr)、そして金野篤も未経験ながらカシオトーンとバイオリンで参加している。
ドラムは強烈な人を迎えたくて。金野さんに相談したら、NON BANDのライブを観てすばらしいと思ったというオータさんを誘いました。カブトムシの藤井くんは2024年に東京藝術大学の音楽分野で取手市長賞を取りまして。その記念演奏会を観に行った時の、かなりアグレッシブでやばいパフォーマンスを僕がずっと覚えていて。壮絶でクレイジーな試みにも乗ってくれそうな人を考えたときに真っ先に思い浮かびました。金野さんは「俺も参加したい」って言ったんですよね(笑)
コマツさんもアドバイザーに入ってもらっています。私が一番体調が悪い時も支えてくれたし、今繋がってる方で一番信頼を置けるので。だから安心してレコーディングできました。
参加メンバーには歌詞と音源を送ったのみで、レコーディングはぶっつけ本番の即興演奏。エンジニアとミックス・マスタリングは『しばたさとこ島』と同じく、君島結が手掛けている。彼が営む〈ツバメスタジオ〉に集まり、たった一日で全15曲を録音し切ったそう。それぞれの音がアンサンブルになることすら放棄し、ざらつきどろついたアンダーグラウンドから、生の感覚を求めて一心不乱に突き進んでいるサウンドだ。
君島さんが作業してる部屋で加藤さんが弾き語りをして、その音を別のブースにいるオータさん、藤井くん、金野さんが聴きながら演奏してもらいました。僕は加藤さんのいる部屋にいたんですけど、こっちにはバンドの演奏は全く聴こえてない。特殊な録音の仕方だったと思いますが、加藤さんが一番自分の演奏に集中できるやり方を君島さんが考えてくれて、とてもうまくいきました。
オータさんと藤井さんのリズム隊から始まる“愛に汚れて”だけは、演奏を聴きながらやったんですけど、その時ぷりぷりさんが「軍艦マーチ(軍艦行進曲)みたい」って言ったんです。この曲は戸川純(ヤプーズ)“赤い戦車”とか、銀杏BOYZ『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』みたいなイメージがあったので、ちょっと違った形だけど伝わっててよかった。
配信やMVの公開もなく、本作を味わうにはCDを手に取るしかない。このフィジカルへのこだわりには金野の精神も感じ取れた。加藤町子の歌と叫びは、性と音楽への執着をこれでもかとむき出しにして放たれている。自分が少しでも健やかに生きるために。そして辛い時でも幼少時から自分を支えてきた音楽に対する、出来る限りの誠実さを示すために。
彼女はインタビュー中、数度「自分はまだまだ力不足」と発言した。それは『性純』に収められている自分の姿が粗削りであることと、本当に音楽で表現したいことや成し遂げたいことはこのアプローチの先にあることを、自覚しているようにも思えた。あまりに強力かつ異色、しでもこれこそ「初期衝動」だと言える本作が完成した加藤に、今後のビジョンを最後に聴いた。
前の彼氏と仲直りしたいのと、大森靖子ちゃんとまた共演したい……ですかね。靖子ちゃんはおしゃれでかわいくて、頭が良くて経験豊富なお姉ちゃんみたいな存在。私が愚痴やネガティブなことをいっぱい喋っていた時に、「美味しいカレー、食べたいね」って言ってくれて。私が「へっ」て返したら「そういうことばかり言ってると、本当に嫌なことばかり起こるよ。カレー食べたいとか、このお洋服可愛いとか、そういうことを言ってこ」って。その言葉を大事にしながら、細々でいいから音楽は続けていきたいんです。
性純

アーティスト:加藤町子
仕様:CD
発売:2026年5月27日
価格:¥2,750(税込)
収録曲
1. 天使だった頃
2. 君はファウスト
3. 明日仕事休みます
4. ラブドールのあの子
5. 魔法少女で居させて
6. 青黒
7. 寝る前に一服
8. お兄ちゃん、やめて
9. 親愛なるAに告ぐ
10. お前は女の肉便器
11. 愛に汚れて
12. ロリータコンプレックス
13. 水子供養
14. ダナエの絵画
15. ツガイ
加藤町子『性純』発売記念お祝い会
| 日時 | 2026年6月21日(日) |
|---|---|
| 会場 | 天才百貨点 |
| 出演 | 加藤町子ほか 料理:パウロ野中 / 天才百貨点 |
| 料金 | ¥1,000(割りもの・ソフトドリンク飲み放題・軽食付き) |
| CD販売 | 加藤町子『性純』 |
| 注意事項 | さまざまな方が安心して交流できる、節度ある飲み会の場にしたいと考えています。皆さまが何かしらのお持ち帰りができる、良い時間になりますよう、ご協力をお願いいたします。 |
浅草橋天才算数塾レーベル主催 加藤町子『性純』発売記念レコ発神奈川編
Day1
| 日時 | 2026年8月21日(金) |
|---|---|
| 会場 | 横浜 日ノ出町 試聴室 その3 |
| 出演 | 加藤町子 / 豊田道倫 |
| 料金 | 前売り ¥1,000 / 当日 ¥1,500 |
| 予約 | メール予約 |
Day2
| 日時 | 2026年8月22日(土) |
|---|---|
| 会場 | |
| 出演 | 加藤町子 / 豊田道倫 |
| 料金 | 前売り ¥1,000 / 当日 ¥2,000 |
| 予約 | メール予約 |
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1991年生まれ。大阪北摂出身、東京高円寺→世田谷線に引っ越しました。
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