
模写を通じて味わう現代の歌詞-第7回 お題:butaji “点灯”
音楽をより深く楽しむために、歌詞を模写している人がいます(私、ANTENNAメンバー飯澤です)。「歌詞は曲を通して聴くもの」であることが前提ですが、模写を通してどのような体験を味わっているのでしょうか?音楽の聴き方をおもわず振り返りたくなる、勉強とは違った模写の楽しみ方をみなさんにお届けする連載、第7回目です!
今回模写する曲:butaji “点灯”
今回のお題は、butajiが2026年3月4日に5年ぶりにリリースした4thアルバム“thoughts of you”に収録されている“点灯”。本曲はbutajiが書き下ろし、2022年7月21日に三浦透子が配信リリース、テレビ朝日系ドラマ『六本木クラス』の挿入歌として使用された。
butajiはSSWの藤原幹のソロユニット。幼少期からクラシック音楽に影響を受けて作曲を始める。作詞、作曲、アレンジも行う。
穏やかにパワーを与えてくれる曲だなと感じました。歌詞を読み込んでみると、人との関わりで起こる普遍的なダイナミズムが描かれていました。人生においてしんどいと感じてしまう出来事は、ただの「しんどいもの」として扱ってしまいがち。人はより強い刺激に引っ張られて印象を決めてしまうから。「でも、あなたが出会ったのは、本当にそれだけだった?」。しんどさに押しつぶされて未来に希望がないように感じられるとき、どうしても見えづらくなってしまうものがあることを実感させてもらいました。
アイキャッチデザイン:おっぺけりょう子
Apple Musicはこちら
詳しくは知らないけれど、知っているし懐かしい曲
この連載の編集担当をしている峯さんと出会って「こんなに感性の豊かさをフル活用している人っているんだ……!」と衝撃が走った。私は、周囲の人から感性が豊かだと評価されながらも、いざ仕事になると「そういうのは求めてない」と言われる場面が多かった。そのため、感性を働かせてはいけない、とコントロールしようとする。でも、どうやったって発動してしまっているらしく、何度指摘されても、何度求められている役割を担おうと心掛けたところで、直らない。
持っているものを否定して、持っていないスキルを伸ばして仕事をするのは骨が折れる。今まで歓迎されてこなかったスキルを活かしてお金を稼ぐだなんて「そんなのできないよ」と思う自分と、拭えなさを抱えて、いかに活用するかの舵取りに心血を注いでいる昨今。今までとは違う価値観で行動していかざるをえない状況は、自分が待ちに待っていたものではあるが、緊張する時間である。
楽ではない日々に、毎月恒例、峯さんからのお題が届く。「これから先の人生しんどいときのお守りになるような大大大名曲だと思います。」の言葉と一緒に受け取ったのがbutajiの“点灯”だった。あの峯さんが「人生でしんどいときのお守りになる」って言うんだから、本当にそうなんだろうな。「これから先の」とは、どんなしんどさに効くイメージを持っていらっしゃるのだろう。2022年に見ていたドラマの主題歌のセルフカバーなので、聴いたことがあるはず。そのときは重さを感じる曲だった印象だけれど、今聴いたらどう感じるんだろう。
軽やかなストリングスから楽曲は始まる。ピアノとドラムというシンプルな構成が、すぐ側にいてくれているようで心地良い。2番から、ドラマ主題歌で歌っていた三浦がコーラスに入る。なぜか、「知ってる!」と言いたくなる懐かしさを感じた。ガラケーで夜な夜なラジオを聴いていた高校時代を思い出した。大学のサークルでアカペラをやっていたからか、2人のハーモニーに歌いたい気持ちが掻き立てられる。誰かと一緒に一つの歌を紡ぎ出すことの醍醐味を思い出して、「そうそうこれこれ!」と気持ちが掻き立てられながら、音の重なりを楽しむ。
材料は同じでも、味付けと盛り付けが違う
“点灯”の模写をし始めて、この歌の性別の問わなさに気付いた。登場するのは「わたし」と「あなた」。恋人や夫婦とも、友人、ビジネスパートナーとも読み取れる。butajiの音源ではメインを男性のbutajiが、コーラスを女性の三浦が担当しており、「違いも愛してみたい」とあるので恋人・夫婦を連想しやすいが、そうとは限らない。
1番では「眠れなくて 一人で過ごす時間に 浮かんだ報われない気持ちを 抱えたまま 生きてきた」わたしが「宛もなく ぬかるむ足下で 果てしなく見えた景色が あなたに出会って変わった そんな奇跡を起こした人」「違いも愛してみたい あなたとの」とあり、もどかしい自分の状態に光を与えてくれた「あなた」との関係性が紡ぎ出され、深まりはじめている。
2番では「優しさ 正しさがわからなくて 素直になれない時も 何十回思い巡らせて あなたを見ていると 答えが出る」などと、時間を共にしているからこそできる成熟に想いを馳せながら、「傷跡を隠さない あなたは美しい 心に点る灯を 大切にしたい 未来を照らすから」のように、引き続き一緒に成熟していくことを誓っている。
模写した歌詞を見ながら、butajiの“点灯”と、2022年にリリースされた三浦透子が歌う“点灯”を聴き比べてみる。楽器の編成、イントロ、歌い方が違うので全体的に雰囲気も違うし、歌詞も2カ所違っていて、曲は同じだが味付けも盛り付けも違った。
Apple Musicはこちら
Butajiの“点灯”は、歌い方から、過去を振り返って歌っている印象を受けた。1番の「わたし」が報われない気持ちを抱えて生きてきて、果てしなく見えた景色があなたに出会って変わったところについて、報われない気持ちを強く表現してもいい場面ではあるが、絶対的な光や希望があると確信して歌っている感じがして、悲壮感がない。わくわくする高揚感さえ感じてしまう。コーラスに三浦透子を迎えた2番は、共にいるから成熟でき、お互いに同じことを思い合って、この先もずっと共に歩んでいこうとしているのを感じる。2人で1つなのだと感じるハーモニーなのだ。
三浦の“点灯”は、Butajiの歌い方とは異なり、今の自分の感情を俯瞰し、その瞬間を味わって歌っている印象を受けた。曲を通して一人称で表現されている。1番では、「あなた」によって光を見つけて、2番では人としての強さが生まれて、お互いに支え合い愛し合いながら「あなた」と一緒に酸いも甘いも超えていくことを心に決めている、と感じた。
「わたし」と「あなた」の関係性だからこそ得られる豊かさ
自分自身を変えるために、状況や環境を変化させたいと思うことは誰しもある。挑戦として捉えられ、周囲の人に応援されることも多いだろう。一方で、現状より良くなることも悪くなることもあるのが「変化」である。
良くしようと取り組んでも、渦中は悪くなる状態が先に見えてしまうことがあって、変化を選ぶことの負荷は小さくない。でも、変化をさせようと普段と異なる行動を取れれば、往々にして人との出会いがある。闇に感じてしまう現実に光を見つけるには、いくつか方法があるように思うが、この歌詞にあるように、出会った人の力をお借りして、光を見つけていくのも一つである。
この歌の「わたし」と「あなた」は、頼り頼られ、一人の人としてベストな立ち振る舞いを更新し続けている。強さを増し、希望を持って一緒に未来に進んでいく。
この歌が切り取る「今この瞬間」は、「あなた」が「わたし」に多くをもたらしていることが示唆される。筆者は、誰かからの恩恵を受け取ることに恐縮してしまいがちだ。しかし、自分一人では希望を見出せなくても、なんとかして未来を切り拓こうとしている「わたし」であるから「あなた」と出会えたと歌詞を読んでいると思うことができた。
「あなた」は過去に「わたし」ではない人と、頼り頼られる関係を経験したことがあったのかもしれない。その時に誰かから受け取った恩恵を「わたし」に巡らせているのかもしれない。そしてちょっとしたバランス一つで、「あなた」が「わたし」から恩恵を受け取る立場になることがあるのかもしれない。実はすでに「わたし」も「あなたに」何かをもたらしていて、恩恵が巡っているのかもしれない。だから、今受け取っている恩恵はありがたく預かればいい。
そう思うと、たまに悲観的になりながらも人生の舵取りに心血を注ぎ、出会った人に頼る人がいる私の関係性は、豊かなことなのではないかと思えた。この状態だからこそ出会えた人がいて、頼り頼られ恩を巡らせられる。光がないと思っていたところから、光の認識を遮っていたものたちが薄らいでいく。光の存在をほのかに認識できるようになり、手探りでそちらの方向に行けるようになる。
私の場合は、「あなた」が、患者としても同様の手法を取り扱う整体師の師としてもお世話になっている鍼師なこともあり、身体と心を整えながら、現実がどんどん変わっていった。それは1人では成し得ないもので、愛おしくかけがえのないプロセスであり、自らの強さを育むものである。ありがたいご縁に恵まれたこと、他者にサポートいただけることにただただ感謝であり、身体を整える影響の大きさを痛感する。
感情の揺れ動きはあるかもしれないが、一連のプロセスは人生の彩りを鮮やかにし、満足度を高める。人生単位で見ると、豊かな出来事だと感じる。渦中は近視眼的になって、闇ばかりを感じてしまうこともあるが、光や光になり得るものは存在する。それを認識できてきただろうか。意図的に見つけようとしないと、見落としやすいように思う。
峯さんが言っていた「これから先の人生しんどいときのお守りになるような大大大名曲」。私にとっては「これから先の」ではなく「今まさに」ではあるものの、「点だけを見つめるとただのしんどいことでしかないけれど、将来の自分にとってどのような出来事かは現時点でわからないし、希望に変わっていくものもそこにないわけではなくて、しんどいことも豊かなことでしょう?」と語りかけてくれる曲との出会いは、確かにお守りになった。何があっても豊かである、というお守り。
これまでの「模写を通じて味わう現代の歌詞」
- 第1回 お題:mei ehara “悲しい運転手”
- 第2回 お題:ゴリラ祭ーズ “めくるめく師走”
- 第3回 お題:有田咲花 “隠居しないか、僕とでもいいのなら。”
- 第4回 お題:Mei Semones “Kurayami”
- 第5回 お題:タデクイ “舟”
この連載について
「歌詞の模写をするのが趣味です」と人に伝えると、だいたい「歌詞?」と聞き返されます。好きな曲を自分の身体に染み込ませたいと思い余って始めた模写ですが、多くは技術を体得したり、観察力を育成するなど学習や練習のためにする行為だと知って驚きました。まずは曲を聴いて音を楽しみ、歌詞を読んで味わったら、再び曲を流しながら歌詞を追って歌ったりする。そこからさらに私は歌詞の意味をあれこれ想像しながら模写をして、曲に乗った感情を追いかけていくのが好きなんです。
そうすることで初めてその音楽の作者の感性が垣間見え、深いところで繋がれた気になれたり、自分の身体に取り込まれて、肥やしになっているように感じます。
他者がいろんなことを感じながら生きている様子に希望を感じる私にとって、音楽からどこまで何を感じとることができるのだろう?そもそもこの曲を表現した人は何を思って紡ぎ出しているの?この連載は、「何の役にも立たない趣味」と自嘲しながら模写を続けてきた私自身に、何らかの役割や意味合いを見出してみようとする挑戦の記録でもあります。
You May Also Like
WRITER

- ライター
-
東京出身・在住。身体と音と言葉に夢中なまま大人になりました。感覚の言語化にこだわりがあります。
OTHER POSTS
普段は「空ルート」という整体と、AIの対話体験開発をしています。趣味は音楽活動やご飯イベントの開催です。
