INTERVIEW

自分の言葉を持つ人の歌が、心に入ってくる - 浮(BUOY) インタビュー

特集『文化の床』の企画「#JAPANESE NEWEST FOLK」では、着実に従来のイメージを跳ね返すような変革が起こっている日本のフォークの現在を追った。

 

そぼそぼと、呟く言葉がプカプカ浮かび、漂着先が歌だった……。
米山ミサによるソロ・プロジェクト・浮(BUOY=ぶい)を見ていると思わずそう評したくなる不思議な佇まいが魅力だ。その歌は日常と地続きではあるが、生活臭は不思議と希薄。どこかの異国に伝わるトラディショナルな雰囲気を醸しなら歌う彼女は路傍の巫女のようである。

MUSIC 2020.12.15 Written By 峯 大貴

筆者がその存在を知ったのは、今のガットギター弾き語りのスタイルで活動開始してまだ間もない2018年頃。田中ヤコブやクララズ、たけとんぼ、杉本周太(Shuta Negi)といったシンガー・ソングライターたちと交じって、弾き語りイベントで歌っていたのを見た。この界隈を「新世代のフォーク」なんて安易に一まとめにするつもりは決してないし、彼女自身のルーツやスタイルにおいてもフォークへの意識はあまりないようだ。しかしアルバム『三度見る』(2019年)にはアレンジで田中ヤコブが参加し、演奏にはSaboten Neon Houseのメンバーなどの仲間たちが参加している。また浮もクララズの“アメリカン”にコーラスで参加するなど、歌を介して人と連帯している様や、金延幸子や寺尾紗穂、青葉市子に通じる声。そして生活から生まれる自己表現としてギターを持って歌っている佇まいには、期せずして現代のフォークの在り方に流れ着いているという見方も出来るだろう。

 

折坂悠太が今年4月にラジオで彼女の楽曲“街”を選曲したり、HOTEL DONUTSによるシングル“温光 feat. Shingo Suzuki” にpavilion xool、QNらと共に参加、そして押井守と森本晃司がKENWOOD Smart Headsetsとコラボした短編アニメーション作品『CONNECTED…』に楽曲“風は流れて”が使われるなど、その歌の魅力は徐々に波紋を広げつつある。以前3か月ほど滞在していた石垣島で生まれた曲だという配信シングル“つきひ”を11月3日に発表したばかりの浮・米山ミサに、自身の歌の目指す場所について語ってもらった。

 

撮影場所協力:高円寺 Live Music JIROKICHI

Gateballers濱野夏椰からの言葉で踏みとどまった歌の道

──

一人で歌い始めたのは2018年と伺いました。

米山ミサ(以下、米山)

はい、2年半ほど前です。茅ヶ崎出身なんですけど、もともと浮(BUOY)は地元の友達や先輩と組んだバンドでした。鎌倉の長谷に<浮>というカフェがあるんですけど、そこにみんな通っていたので、バンドを始めるにあたって許可をもらって名乗るようになりました。私は当時ギターも持っていなくてボーカル専業。

──

バンド時代の浮はどんな音楽でしたか?

米山

昭和歌謡っぽいものでした。ギターのメンバーが曲を書いていたので、その人の趣味が強かったです。私はスピッツみたいなバンドがやりたかったんですけど(笑)。でもその人が「ミサちゃんの声は沖縄民謡とかフォークが合うんじゃない?」と当時から言ってくれて。今、自分がそういう音楽をやっているので、予言みたいに見抜かれていたんですね。

──

そこから一人になっていくのは?

米山

みんな社会人だし、単純にだんだんバンドで活動することが難しくなって。私もレストランで働いていたし、ずっと料理がやっていたかった。集中力が全て音楽にいかないまま続けることに違和感が出てきて、「やめましょう!」と。

──

バンドが解散することになったと。

米山

はい。最後のライブを下北沢の<GARAGE>でやったんですけど、偶然Gateballersの(濱野)夏椰くんが来ていたんです。楽屋でいらないCDをフリマみたいに売ってた(笑)。それでライブも見てくれたみたいで、終わった後に「歌、やめない方がいいよ」と話しかけてくれたんです。だからまたバンドをやるのはもう大変だけど、形を変えて歌は続けた方が楽しいなと思って一人でやるようになりました。そこから夏椰くんと仲良くなったし、その言葉がなかったら私は今音楽をやってないです。

──

ではソロになるにあたって、どういう音楽をやろうとしました?

米山

ギターも全然弾けないし、歌も大してうまくない。こういう音楽がしたいというより、できることをやっていこうと思っていましたね。シンプルで素朴だけど自分を出せていけたらいい。

──

では具体的に影響を受けた音楽や、目指している存在はあります?

米山

寺尾紗穂さんが歌い始めたころから今もずっと憧れの存在です。世の中に溢れている音楽はメッセージが強すぎて、その曲を受け取る側の存在や、考える余白がないと思うことがあります。でも寺尾さんの音楽は、例えば「大事な人が死にました」ということに対して、悲しく捉えるだけではなく、でも前向きに捉えるでもなく、そのことをただ伝えて、何かを感じさせてくれる歌の力、言葉の力がある気がしていて。そういう音楽に感動するし、私もこんなことがしたいなぁと思います。

──

確かに寺尾さんの最新アルバムの表題曲“北へ向かう”はお父さん(寺尾次郎)の死について歌っていますが、個人的な物語なのに、聴いている人の想いも寄せられる普遍的な表現ですよね。

米山

『北へ向かう』……ほんと素晴らしいアルバムですよね。ライブも行けるものは全部行っているし、物販でご本人から買って、自分のCDもお渡しするほど好きです。

──

でもミサさんが手に取った楽器はピアノではなくてギターだったんですね。

米山

いつか寺尾さんと一緒のイベントに出て、もし共演できるという日が来た時にピアノ同士だと合わせられないと思って。違うやり方にしようとギターにしました(笑)。

「いいことも悪いこともあったけど、今はいい風吹いているな」みたいなことを歌いたい

──

ではミサさんはどういうことを歌いたい?

米山

私はすごく落ち込みやすくて、色んなことを考えてしまう。でもしばらく経って落ち込みきって、不安が通り過ぎると、気持ちのふり幅がなくなってフラットになる瞬間があるんです。そしたら全てのことが客観的に見られるようになるというか。

 

だから辛い時に浮かんだ言葉よりも、「いいことも悪いこともあったけど、今はいい風吹いているな」とか、「今日も明日も明後日も生きていきます」みたいなことを私は歌いたい。自分で書いた歌詞を見返して救われることがあって。この時大丈夫だったなと自分が安心できるし、大丈夫なんだよと周りにも伝えたい。

──

自分が安心するというのがいい視点ですね。

米山

落ち込むと余裕がなくなって、普段の考え方を忘れちゃうじゃないですか。だからなんだかんだ繰り返しているだけなんだなと思っていたいんですよね。

──

そういう曲や歌詞が浮かぶのはどういう時ですか?

米山

感情が最大限に振り切った後ですね。「すごくうれしい!」とか「もう、どうしようもない!」となって、それが落ち着いてきた時に、ポッと気持ちが楽になるような言葉が出てくる。

──

それがよく表れていると思う曲って…。

米山

わかりやすいのだと、最近やっている“薄暮は時を”という曲ですね。去年石垣島に行っていた時に、本当に何もできなかった日があって。一緒にいた亀十も飲みに行っちゃうし、どうしようもないなぁと思っていたら、実際に思ったわけじゃないのに、なぜか「こんな時は何かをしよう」という言葉が出てきたんです。だからそれを曲にして歌っていたら、だんだん楽になっていきました。

石垣島の滞在で生まれた歌たち

──

なるほど。石垣島にはどれくらい滞在されていたんでしたっけ?

米山

ちょうど去年の冬に3か月間ほど。なんか東京に疲れていて。“街”も渋谷を歩いていた時の違和感を歌っているんですけど。

──

「この街はゆれてる」と(笑)。

米山

はい(笑)。私はずっと関東で暮らしてきたけど、どこかのタイミングでリセットしたかったんでしょうね。亀十のお父さんが石垣出身で、空き家になっているところがあるということで、「仕事も一度やめて行っちゃえ!」と衝動的に決めて行きました。

──

もう石垣に拠点を移したのかもとも思ってましたよ。シンガー・ソングライターの亀十の存在も、ミサさんと共演していることで知りました。彼も沖縄の人?

米山

一旦満足したので帰ってきました。彼自身は東京生まれです。でも4年くらい石垣に住んでいたこともあったらしい。だから向こうに友達もいるし、ライブも出来る場所も教えてくれて。石垣での暮らしは大好きだったけど、東京でやることがまだあると思って帰ってきました。いつか家族ができたら住んでみたいな。

──

石垣島では何をしていました?

米山

とにかく時間に余裕がありました。最初にオリオンビールを2ケース買って、ほぼ毎日友達と飲んでた。でも家が大きかったのでずっと掃除していたり、沖縄の人は行事を大切にしていて、ちょうど年末年始だったこともあって成人式や忘年会に参加させてもらったり。だから制作に打ち込んだり、観光しにいったのではなく、本当に向こうで生活してたという感じです。

 

でもその中で“とげぬき”、“つきひ”のデモを録音したし、“薄暮は時を”とかまだ出していない曲も出来ました。今までとちょっと違う曲ができた感覚もあります。

──

コーラスのリヴァーブがかった音質や、歌声のファルセットの入れ方などに変化を感じました。

米山

“とげぬき”、“つきひ”のデモは録音もGarageBandを使って自分がやったんです。サウンドとしては声を重ねることにハマって“つきひ”でやってみました。自分のやりたい音がわかってきた感じ。

 

──

“つきひ”でやりたい音のイメージは具体的にどんなものでした?

米山

昔から合唱曲に感動することが多くて。伴奏と声だけでシンプルなんだけど、それがハーモニーになって広がりがあるところが好き。そういう良さを際立たせようとしました。

──

石垣島での生活から受けた刺激は“つきひ”のどういうところに反映されていますか?

米山

これまでの東京の友達と離れて、石垣島の友達と出会って。人には“太陽の人”と“月の人”がいるんだなぁと思ったんです。沖縄の人ってみんな太陽みたいな明るさがあって。それは東京の人が暗いわけではなくて、放っている光のタイプが違うんだなぁと思いました。その月と太陽のことを歌にしたのが“つきひ”。石垣島で一気に関わる人が増えて、「みんなありがとう」と思って作った曲。

自然と流れ着いた「浮」という歌世界

──

なるほど。“とげぬき”や“つきひ”のメロディや節回しには少し沖縄民謡を感じました。以前からライブでは“安里屋ユンタ”のカバーもされていますし、まさにバンドのギターの方が「沖縄民謡とかフォークが合うんじゃない?」と仰ってたミサさんに合ったスタイルにどんどん近づいている。

米山

民謡とフォークは出会えて良かったと思える音楽です。ただ今でも詳しくないし、狙って取り入れたわけでもないので、すごいリンクだと思います。高田渡さんとかのフォークも弾き語りを始めるまで触れたことがなくって、あんまり知らない。

──

でも自然とフォークのようなスタイルに流れ着いているのが面白いですね。あと「浮」という名前も馴染みのお店から取ったとのことですが、浮ついた気持ちを捉えたり、白昼夢のような歌世界を体現している気がするんですよね。

米山

それは自分も思っています。宙に浮いていて、地に足つけないで浮いている感じ。

──

“とげぬき”や“つきひ”、どちらの詞にも「浮」という言葉が入っているし。

米山

ほんとだ!無意識に自分に染みついているのかも(笑)。

──

あと琴線にグッとくる美しい声や歌い方もすごく魅力的。歌唱の部分ではどんなことを意識しています?

米山

変に歌い方を決めないでまっすぐ気持ちを声に乗せるだけ。作らないようにしようと思っています。鳥の鳴き声、川の流れ、そういう暮らしの中で聞こえる音を聞くのが、音楽のルーツだから。そういう風に歌おうと思っています。

 

あとやっぱり寺尾さんとか折坂(悠太)さんとか、声が楽器の人じゃないですか。そういう歌を歌いたい気持ちもあります。

──

声が楽器の人!いい表現ですね。寺尾さんや折坂さんの歌の魅力はどこにあると思います?

米山

その人にしかない歌を持っているというか……。普段から自分の言葉を持っている人なんだろうなと思う。私の周りにいるミュージシャンの友達も、どういうところが好きなんだろなと思ったら、自分の言葉で喋ったり、歌ったりしている。自分を表現する人の歌が心に入ってくるんです。寺尾さんと折坂さんは私にとってその最たるものなんでしょうね。

──

ミサさんは、その時々に共鳴した人たちと一緒に音楽を作ることにも積極的ですし、音楽に人と人との繋がりを求めているような気がします。

米山

確かに友達が欲しくて音楽を続けているところはあります。

──

アルバム『三度見る』に参加している田中ヤコブやSaboten Neon House、最近ユニットゆうれいを一緒に始めた白と枝、そして何度も名前が挙がっている亀十とか、自分の言葉で歌う素敵な仲間たちがミサさんの周りにいる。

米山

クララズさんもすごく素敵。ほかにもレゲエや民族音楽をやっている友達もいるし、ジャンル関係なく自分の言葉や表現を持っているという点でいいと思ってつながっているから、垣根なしに面白い人が周りにいるのかもしれません。

──

周りのミュージシャンで最初に強く共感したのは誰ですか?

米山

やっぱりSaboten Neon Houseですね。一人で初めてのライブを(下北沢)<GARAGE>でしたときに、彼らも初ライブで。その時見たステージに感激して、「絶対仲良くなりたい」と直感が反応したんです。彼らの音楽も歌の中にちゃんと彼ら自身がいる感じがします。「こんな音楽がやりたかったんだよ」と思って、私が書いた曲が“風は流れて”です。

──

夏椰さんに声をかけられたり、Sabotenと出会ったり<GARAGE>はミサさんにとってかなりターニングポイントな場所ですね。“風はながれて”は浮の楽曲で最も軽快なカントリーチューンですし、レコーディングにも伊佐さん(郷平、Vo / Gt)と、青山さん(哲哉、Gt / Banjo)が参加しているから、最初はSaboten Neon Houseの楽曲かと思っていました。

米山

その出会いから彼らに「好きです」と言い続けたら伊佐さんとのユニットでライブをすることが決まって、“風はながれて”を完成させました。だから私の曲ではありますが、彼らがいてこそ完成した曲です。

音楽は生活の主軸ではなく、常に生活に寄り添っているもの

──

まだ一人で歌い始めて2年ほどですが、どういう歌い手になっていきたい?

米山

うーん、歌い続ける人ですかね。将来の夢は幼稚園からずっと変わっていなくて食堂を開くことなんです。音楽は生活の主軸ではなく、常に生活に寄り添っているもの。だからこそ私はずっと歌っていたい。

──

最初は完全に料理の道に行こうとされていましたもんね。今でもそこは変わらずあると。

米山

はい。レストランで働いた経験もあるし、生活の中で食べることが一番好き。でも飲食店はギャラリーにもなるし、時にはライブハウスにもなる。そういう自分の場所を作るというのが私のゴールとして一番しっくりくるかも。

──

そのお店すごく行きたいです(笑)。では最後に次に音楽でやりたいことはありますか?

米山

民族音楽をもっとやってみたい。アフリカにコラという両手でつま弾く弦楽器があって、音色が好きで興味があります。あと大人数のバンドもやってみたい。お祭りが好きだから、わちゃわちゃしたものがやりたい。あとはいい音楽にずっと触れていられるように、自分も成長していきたいです。

浮(BUOY)

 

 

米山ミサのソロ・プロジェクト。

何百通りの風に吹かれながら生活をうたう。

最新作は2020年11月にリリースしたシングル“つきひ”。

 

Webサイト:https://sandmiru.wixsite.com/mysite

Twitter:https://twitter.com/buoy_japan

Instagram:https://www.instagram.com/yoneyama.m/

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